2011年9月のあてくしのツイート。
ロイター記事。2ヶ月姿を見せない→死亡説、危篤説→メディアがインタビュー、写真が政府のサイトに掲載。記事の最後のほう、えらく古典的な情報戦…もはや牧歌的といってもよい。 /Rumours of Fidel Castro's deat… htn.to/hu5NL2
— nofrills (@nofrills) September 9, 2011
ツイート末尾のURLは:
Rumours of Fidel Castro's death dispelled by interview
Reuters in Havana
The Guardian, Friday 9 September 2011 08.43 BST
http://www.guardian.co.uk/world/2011/sep/09/rumours-fidel-castro-death-dispelled
これとほぼまったく同じことが、2012年にも起きたんですのよ。もうほとんど「毎年恒例」ですわね!
私が気づいたのはこのころ。(日本時間で19日から20日に日付が変わったころ。)
すごいっしょ。ロイター(AntDeRosa)からTMZまで、Huffington Postからペレス・ヒルトンまで。ニュースなんだか「ゴシップ」なんだかわかりゃしない。
この「騒ぎ」の元になったのが、マイアミ・ヘラルドのこれ。
Fidel Castro suffered a stroke, Venezuelan doctor says hrld.us/T4HHH1
— The Miami Herald (@MiamiHerald) October 19, 2012
この記事、リード文で:
A Naples doctor said former Cuban leader Fidel Castro is near ‘a neurovegetative state’ after suffering a stroke.
……と言っているのですが、本文では:
Former Cuban leader Fidel Castro suffered a cerebral hemorrhage and his state of health is so precarious that he has trouble feeding, speaking and recognizing people, said a Venezuelan physician who assured El Nuevo Herald that he has access to firsthand sources and information.
……という具合で、嚥下や発話に障害があり、人を見ても認識できない状態にあるとしても、それだけでは「瀕死」とは思えないし、情報源の曖昧さというかうさんくささといい、信じるに値しないと思うんですけど、これがなぜか、ペレス・ヒルトンまでツイートするような「みんなが知るべきニュース」としてウェブを駆け巡り、あてくしの元にまで……。
結局このマイアミ・ヘラルドでの「事情を知る医師」の話については、キューバ政府と家族らが否定声明を出すということになったのですが:
Another Day, Another Claim That Castro Is Dead nyti.ms/Vlg8wq
— New York Times World (@nytimesworld) October 20, 2012
このNYT記事より:
Like a tropical storm, rumors about the failing health of Fidel Castro strengthened, swirled, dissipated and left everyone guessing again on Friday, as a doctor in Florida − and a Twitter account falsely linked to the Cuban foreign minister − claimed that Cuba’s retired leader was on his deathbed or dead.
http://www.nytimes.com/2012/10/20/world/americas/another-day-another-claim-that-castro-is-dead.html?smid=tw-nytimesworld&seid=auto&_r=0
ま た あ い つ が 出 て た の か !
→「あいつ」については2012年03月24日のエントリなどご参照のほど。
It was at least the fifth time (or was it 50th?) that Mr. Castro had been sent to the grave by uncorroborated accounts since he left government after a mysterious ailment in 2006.
http://www.nytimes.com/2012/10/20/world/americas/another-day-another-claim-that-castro-is-dead.html?smid=tw-nytimesworld&seid=auto&_r=0
あらまあ、NYTさんも冗談がお好きねぇ> (or was it 50th?)
「2006年に国家のトップの座を退いてから15回(あるいは50回)目」(NYT記事での表現) となる「死亡説」、もしくは「死にそうになってるという報道」の最新のものである、マイアミ・ヘラルドでの「医師の話」は明確に否定されて、こうなってます。
BREAKING: Hotel official tells AP that Fidel Castro has made first public appearance in months.
— The Associated Press (@AP) October 21, 2012
さらに:
BBC News - Cuba's Fidel Castro attacks 'lies' about his health bbc.in/TrAP8N 「瀕死」と報じられたフィデル・カストロ(86、本人)が「デマ乙」、というニュース。何が起きたのかなあ。
— nofrills (@nofrills) October 22, 2012
で、マイアミ・ヘラルドの「医師の話」の記事が出る数日前、まさに「キューバ危機から50年」の真っただ中にこんなこともあったそうです。
Fidel Castro releases written message via #Cuba state media Weds, 1st since June and rumors of ill health. trabajadores.cu/news/20121017/…
— Patrick Oppmann CNN(@CNN_Oppmann) October 18, 2012
このときのメディアの報道の一部。
この「レター」では鎮火しなかったのでしょう、その上にさらにマイアミ・ヘラルドの(あまりにもうさんくさいので信用しがたいような)記事が出て、今日(22日)の「生存証明」が出たのは「だから死んでないし瀕死でもないって言ってるでしょ」という最後の念押し的なものだと思われます:
この経緯をまとめてくれているのが、ガーディアンのジョナサン・ワッツ記者の南米からの報告:
Zombie journalism. Last year in China, followed 'Jiang Zemin is dead' rumour. Now, Cuba and Castro. guardian.co.uk/world/2012/oct…#plusçachange
— jonathanwatts (@jonathanwatts) October 22, 2012
そういえばワッツ記者は昨年、「えざわたみ」さん死亡説が流れたときは、中国でそれを見ていらしたんでした。行くところ行くところに要人死亡説が。(^^;)
Fidel Castro attacks 'imperialist media' for reporting rumours about his health
Jonathan Watts, Latin America correspondent
guardian.co.uk, Monday 22 October 2012 15.37 BST
http://www.guardian.co.uk/world/2012/oct/22/fidel-castro-media-rumours-health
これがもう、読みながら「うさんくせぇ」と言わざるを得ない爆笑記事。NYTもなかなかの爆笑記事でしたが、こちらが上です。
いわく、(瀕死説が出たあとの)先週金曜日のキューバ共産党機関紙を読んでいるフィデル・カストロ、という写真を添えて、「卒中を起こしたなどという報道は『デタラメ nonsense』である。私は頭痛すら起こしていない」と、あてこすりとして「まさに死の苦しみのさなかにあるフィデル・カストロ」というタイトルで高らかに宣言。
(頭痛くらい起こしててもいいと思うんです。「あまり何度も墓場に送られるので、頭が痛いよ、ガハハ」って。)
この週の一連の「死亡説」もしくは「瀕死説」、「危篤説」は、10月7日に行われたベネズエラの大統領選挙で、フィデルのマブダチであるウーゴ・チャベスががっつり勝ったにも関わらず、公的には祝福のメッセージがなかったことから発したようです。また、フィデル・カストロが最後に公の場に姿を見せたのはこの3月、教皇ベネディクト16世のキューバ訪問のとき。発言は、6月に党機関紙の連載コラムを書いたっきり。
(これは、「何かあったから死亡説」というより「何もないから死亡説」ですね。「えざわたみ」さんの死亡説のときと状況が似ています。)
ガーディアンのワッツさんの記事はこの先が可笑しいんです。
Since he handed power to his brother, Raúl, in 2006 citing health reasons, there have been repeated false alarms about Fidel Castro's health. But the speculation hit a new level of intensity last week thanks to social networks, the Cuban diaspora and a doctor who claimed to have inside information.
José Marquina reportedly lives in Spain, practises in Florida and is neither a specialist in oncology nor neurology, but was widely quoted as saying Castro was in a neuro-vegetative state. "He has suffered an embolic stroke and recognises absolutely no one," he told reporters last week.
Marquina – who says he has close connections inside the Venezuelan medical community – gained a huge online following earlier in the year for reports that Chávez's cancer had spread to his liver, which would make it difficult for him to campaign. His comments on both leaders have been carried by the Miami Herald and Spain's rightwing ABC newspaper among others.
つまり、「健康状態」を理由に2006年に引退してから何度も「死亡説」を流されているフィデル・カストロだが、今回はSNSや在外キューバ人(亡命した人たち)や、内部情報を持っていると主張する医師のおかげで、その「噂」の広まり方がハンパなかった、と。
(マイアミ・ヘラルドが「医師」のインタビューを掲載する前に既に「死亡・危篤説」があったことは、上で見たとおりです。)
この「医師」、ホセ・マルキナさんは、報道によるとスペインに住居があり、仕事はフロリダでおこなっていて、専門分野は違うんだけど、カストロの容態について断言している、と。
(そのうちに「世界に先駆けてiPS細胞の臨床応用に成功しました」とか言い出さないでしょうね。)
またこの「医師」、本人曰く、「私はベネズエラの医学界に知り合いがたくさんいる」とかで、チャベスのがんは肝臓に転移していて選挙は厳しいだろうと発言して、ネットで話題となった人物。チャベスについての発言も、カストロと同じように、マイアミ・ヘラルドとスペインの右派ABC新聞などで記事化された……。って、あまりにもわかりやすくうさんくせえwwwww
いずれにせよ、この週の「死亡説」は、家族やキューバ政府が否定し、キューバ国営メディアが「フィデル・カストロから医学校設立50周年のお祝いのメッセージ」を掲載し、ベネズエラの元副大統領が「フィデル・カストロと5時間会談した。大変にお元気だった」と述べて写真を公開し、その会談の場所となったホテル・ナシオナルの従業員がフィデルは元気だったと述べるなどしても、消えなかったとのこと。
なぜかというと、日曜日の地方選挙で投票する姿が報じられなかったから。これについては「導入されたばかりの在宅投票制度を利用して投票した」と説明があったものの、ホテル・ナシオナルで外国の政治家と会談できるんなら投票所に行けばいいんじゃね?というツッコミが入るなどして、多くの人が「やはり死んでいるのでは」と思ったようです。
が、日付のわかる新聞を持った本人の写真と意気軒昂な記事が出たことでようやく噂も終息。
ガーディアンの記事には、この「意気軒昂な記事」の内容も紹介されてます。「国営メディアしかない」と言ってもよいような国を作った当人が「多くの人がマスメディアに騙されている」と述べるなど、いつも通りですね。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/oct/22/fidel-castro-media-rumours-health
なお、「死んでない」どころか「頭痛がどんなもんだったかも覚えていない」と言いきるほど元気な(いや、それは単にもの覚えが……というヤボなつっこみはしないように)フィデルさんの写真を撮影したのは、息子さんだそうです。今回は「アディダスのジャージ」などではなく赤いチェックのシャツに麦わら帽子。杖はついていますが自分の脚で立っています。
http://t.co/2stXTo5x
http://twitpic.com/b6d4gx
http://twitpic.com/b6d4h7
http://twitpic.com/b6d4he
その前にでた写真(ベネズエラの元VPとの会談)では、どう見ても「元気」そうな感じはしないな、という感想を持つ人が多いのではと思いますが。
http://t.co/zrIhmHJD
ところで、フィデル(1926年生まれ)とほぼ同じ年齢のあの方(1925年生まれ)はどうしておられるのでしょう、と思ったあなたは下記クリック。
http://www.isthatcherdeadyet.co.uk/
※この記事は
2012年10月23日
にアップロードしました。
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