「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2006年12月16日

Thou shalt not killの発展形としてのStop the killing、そして笑いとディストピア。

And the whole earth was of one language, and of one speech.

And it came to pass, as they journeyed from the east, that they found a plain in the land of Shinar; and they dwelt there.

And they said one to another, Go to, let us make brick, and burn them thoroughly. And they had brick for stone, and slime had they for morter.

And they said, Go to, let us build us a city and a tower, whose top may reach unto heaven; and let us make us a name, lest we be scattered abroad upon the face of the whole earth.

And the LORD came down to see the city and the tower, which the children of men builded.

And the LORD said, Behold, the people is one, and they have all one language; and this they begin to do: and now nothing will be restrained from them, which they have imagined to do.

http://www.omniglot.com/babel/english.htm
(※King James Bibleなので、現代英語とはちょっと違います)


Children of Men(日本でのタイトルはあまりにひどいので無視したい)
http://www.imdb.com/title/tt0206634/

エンドロール、キャストがすべて流れ終わったところで、音楽が切り替わる。聞き取れる最後の歌詞はStop the killing now――まさにそれを描いた映画。

同時に「ロンドン」を、「英国」を、「民主主義社会」を、「テロとの戦い」を扱った映画。煉瓦の壁。本物の。

最近流行っている(?)「15秒かそこらのうちにこの写真の一部が変化します。あなたは見つけられますか?」というクイズみたいな、近未来。ロンドンという都市。英国という国家。それの「近未来」。シームレス。

「英国以外はみな破綻してしまった」2027年、もはや人間の生殖能力は失われ、最年少の少年、ディエゴ・リカルドの死。18年4ヶ月と20日、16時間8分。「熱狂的なファン」による刺殺。観客が無意識に思い出す(ものとして制作者が想定している)のはジョン・レノン。(<制作者、楽しそうだな。)

Only Britain soldiers on. おそらくは極端な「愛国心」に支配されている英国。バスの中のモニタにユニオン・ジャック。世界各地の破滅の光景。

テオの職場(エネルギー庁)。向かいの同僚の机にユニオン・ジャック。

ロンドン、おそらくはフリート・ストリート。通りの向こうにクリストファー・レン。相変わらず赤いダブルデッカー。側面に電光掲示板の広告。「犬」関連の宣伝。なぜか「リキシャ」。

金網に守られた電車。左足のひざから下を失った「ダヴィデ」。バタシー発電所。犬。豚。

私がじかに見て知っている2000年のロンドンと、それから1990年代のロンドンとの「断絶」。2000年のロンドンと、映画の2027年との「差異」。

2006年の、flickrの "alt london" groupに映し出されているようなロンドン。Baywhaleの写真。Banksyの「絵画テロ」の痕跡もきっとある。ピンク・フロイド。キング・クリムゾン。ローリング・ストーンズ。ルビー・テューズデイ。マイケル・ケイン。ディープ・パープル。60年代から70年代のアイコン。

住んでいたフラットの中の多国籍っぷり。近所の商店街の多国籍っぷり。ステイしたミドルクラスの家のあった通りの白さ。その通りから一歩出た通りの黒さ。洋服屋の、笑顔のない黒人のおねぇちゃん。ケミストのレジにいたインド系の美少女。てめぇたいがいにしとけと思うほどフレンドリーなトルコ系の八百屋のおにいちゃん。北アフリカ出身の誰か。ジャマイカン。スコットランド人。アイルランド人。ボスニア人。コックニーの商人。キプロス人。バングラデシュ人。ロマ。

見慣れた光景。IRAのテロの後。爆発。ニュース映像。地下鉄サリン事件。

2000年と何も変わらぬようなセント・ジェームズ・パーク。衛兵たちは昔のキットカットのCMのようで、「イギリス人」たちは何も変わらぬ生活を送っている。アドミラル・アーチ。ドッグレース(ウォルサムストウ?)。でもそこらじゅうに警官。でも人々は何も変わりなく。

ルビー・テューズデイ。Yesterday don't matter if its gone. While the sun is bright, or in the darkest night, no one knows. She comes and goes. ... When you change with every new day, still I'm gonna miss you.

「テロリスト」たち。パトリックという名のドレッドヘアの白人の男。類型としてのアナーキスト。UFO。ニューエイジ。1990年には「トラヴェラーズ」と呼ばれていたであろう人々。隠れ住む。

ディストピア。Avoiding Fertility Test is a Crime. という電光掲示板。Homeland Securityという、「現在」は存在していないものが当たり前に存在している英国。「独裁者」がまったく登場しないディストピア。

そのディストピアは、その「近未来」は、「現在」と地続きだ。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/5357470.stm

ほとんど誰も「変化」に気づかないうちに、その「変化」は訪れる。

2001年の、2003年の、2005年のロンドン。Bliarのプラカード。Don't attack Iraqのプラカード。MI5に拷問され、知覚の扉を閉ざした女性フォトジャーナリスト。またたきさえほとんどしない。アンナ・ポリトコフスカヤ。

ガンジャ。ストロベリー・コフ。膨らんだ腹。大天使ガブリエル。

カメラのレンズに飛び散った「血」。

ピカソの『ゲルニカ』。文化大臣。バタシー発電所では豚が飛ぶ。

政府は抗鬱剤と自殺薬は規制していない。それでもガンジャは非合法(すっげーナンセンス!)。テレビ(BCC:笑)は、まるで「現在」と同じように、「テロリストが銃撃戦で死亡」「武装しており危険」を伝える。

あれは、誰だ。

この映画に描かれている「近未来」は、実は「現在」だ。そのことを知っているから、これは可能になった。制作者も、観客も。「政治的なメッセージ」が「胡散臭い」のなら、そんなものは忘れてしまえ。メッセージは、それらしくパッケージして提示してもらうのでなく、日々の普通の生活の中で、自分たちで見つけなければならない。映画の中、「プラカード持ってデモ行進」は遠い昔の話。

長回し。ハンドヘルド・カメラ。マイケル・ウィンターボトム(ウィンターボトムにはCode 46というディストピア系ラブロマンス映画がある)。

銃撃戦。爆発。銃撃戦。爆発。「生命」への敬意。そして銃撃戦。爆発。

銃弾から逃れようと飛び込んだところには先客あり。Oops, sorry! 的ユーモア。

そこらじゅうに猫に犬、果ては羊に鶏。カオスか、ノアの箱舟か。

Uprising、戦闘、軍隊、「レジスタンス」もしくは「テロリスト」。「パレスチナ連帯」みたいな(あるいはパレスチナのデモみたいな)デモ隊と「アッラー・アクバル」の唱和。三色旗。アイルランドのではなくフランスの。(なぜあれがアイルランドではないのか。アイルランドは「記号」とするにはあまりにも生々しいのか。あれは明らかにイースター蜂起だ、バスティーユではなく。Terrible beauty is born.)

駅。Zone 2なのにやたらと「田舎」の駅。武装警官(あるいは軍)と「檻」。収監される「不法移民」たち。

言語。英語を話さないマリカ。犬。意思疎通。壁に描くへたくそな絵。簡単な単語。

Fascist Pig! という合言葉。警棒(ややハイテクなのかな。見た目は今のと変わらない)。

「不法移民」の多くが白人。おそらくロシア、ポーランド、そのあたり。

街角の電光掲示板(ややハイテク)。「不審者は通報を」の呼びかけ。しつこいほどに。

「テロ組織」。「政治目的での利用」。裏切り、殺害、陰謀。「反体制」(<クリシェだが)の「組織」というアイロニー。(これは『麦の穂をゆらす風』とも少しつながっている。つまり、英軍を追い出したあとのアイルランド人たちが、英軍と変わらない「組織」を持ち、「過激派の掃討」に打って出た、というアイロニーと。)

「対テロ掃討作戦」。「鎮圧のための武力行使」。「生命」への敬意などカケラもない状況。唯一銃撃と砲火がやむのは、ありえない生命の奇跡が目の前に現前したときだけ。通り過ぎたらそこはまた銃撃と砲火。そして戦闘機での空爆。

白旗を掲げて「撃つな!」と叫びながら出て行く人たち。浴びせられる銃弾や砲火。これはフィクションの一場面だけれども、現実に起きている。イラクで、パレスチナで。おそらくはダルフールでも。今年の夏はレバノンでもこういうことがあった。スリランカやタイやフィリピンでも起きているかもしれない。ニュースにならないほかのどこかでも。

でも主人公はテイクアウェイのコーヒーを買う。ヒッピーはもやしの炒め物を作る。

主人公は、最終的には、2012年ロンドン・オリンピックのノベルティのフリースのプルオーバーを着ている。洗濯し倒されてロゴも剥げたようなプルオーバーを。

Tomorrow never knows.

なおかつ/だけどShanti, shanti, shantiだったりするんだよね。

V for Vendettaみたいな表面的なクソ映画を作って満足している連中は、VforVの原作者のアラン・ムーアに謝ってからこの映画を正座して見たあと、ロンドンに向かって礼拝すべき。



Childern of Men(邦題:トゥモロー・ワールド<しかしこの邦題、何とも言えないね。聖書からの引用だってことがまったくわからないじゃん。)
http://www.tomorrow-world.com/
http://www.childrenofmen.net/
英語版のサイト(後者)は充実している。日本語版は、いかにもあんまり力入れてませんって感じで残念だ。

※英語版のサイトからは、the Human Projectへのリンクがある。登録しないと中身は見ることができないけど。
http://www.thehumanprojectlives.org/



ものすごいディストピア映画だけれど、「英国のユーモア」を知ってる人には笑える場面がいろいろある。

でも実際の「戦場」ってほんとにああいう、「日常感覚」の場だったりするんだろう。イラクの攻撃された側からのレポートとか、ポリトコフスカヤの本にある「フォルダ」の話とか見て思ったのだけど。それこそサッカーの試合中のピッチで「俺のシャツを引っ張るな、そんなに欲しけりゃあとで交換してやっから」に対して「お前のシャツなんかいらねぇよ、お前のねぇちゃんなら欲しいけど」と言い返す、みたいな「日常感覚」。その中で人がぼこぼこ死んでいく。いや、殺されていく。

あと、音響すごかったんで(遠くの音とかいろいろ)、できれば映画館で見るのがいいと思います。うちのあたりではロードショーは今日までだったようだけど(なので慌てて行ってきた)、銀座シネパトスでは来週まではやってます。

音楽はクリムゾン、パープル、ビートルズのほか、ストーンズのカバーと、あとTest Deptもエンドロールに出てきてた。IMDBでのサントラのリストは下記。
http://www.imdb.com/title/tt0206634/soundtrack

主人公のテオ・ファロン(クライヴ・オーウェン)は全然「ヒーロー」ではないのだけれど(昔は活動家:2027年で「20年前は」という話が出てきているから、ちょうど今くらいにロンドンで反戦デモとかを組織しているような人だ)、同じく「ヒーローではない一般人」をプロットの中心にすえた「パニック・アクション」の形式の映画である『ホテル・ルワンダ』などより、よほど説得力がある。しかし「アクション映画」ならカッコ良く切り抜けるであろう脱出シーンのテオのカッコ悪さには、びっくりした。この監督(アルフォンソ・キュアロン)、おもしろい。

それと、テオの言葉のリアルさ。ベックスヒルに入ったあとで、キーに「彼女は大丈夫だ」と言うシーン、あれは「本当は『大丈夫だ』なんて露ほども思っていないときでもそう言う」という場面として、ものすごくリアルだった。

暑苦しいドラマがないと映画を見た気にならない人には、描写は物足りないかもしれない。くどい説明とかはないので、「この世界ではもはや子供は生まれません」といわれて「はいそうですか」とスルーできないと、ストーリーは納得できないだろう。

エンドロールでチルアウトする時間がありすぎた(エンドロールの音声もかなり入念に組み立てられている)。悪いことではない。

Uprisingという英語の持つロマンティシズムもカギかもしれない。日本語で「蜂起」より強い言葉ってないものだろうか。



ただの個人的感想だけど、この映画は今年見た映画の中で1番か2番だ。(『プルートで朝食を』かこれか、って感じ。)「映画らしい映画」というか、「映画を見た!」という気分。淀川さんの名調子で紹介してもらいたい映画だ、これと『プルート』は。

この映画の「ロンドン」は、マイク・リーの『ネイキッド(Naked)』(1993年)の「ロンドン」と同じくらいに色気のあるロンドンだった。壁がね、ああじゃないと空気が出ないのよ、ってところがもう完璧に自分の感覚と合う。「リアル」というのとはまた違うのだけど、殺菌消毒されていないロンドンの壁。

テオが「フィッシュ」に拉致されるシーン、生々しい。いかにも「予算かけてます」というシーンもすごかったけど(例の「8分間の長回し」の場面とか)、何でもないようなシーンが良かったなぁ。。。と思うのは、たぶんそれが「ロンドン」だからなんだけどね。

あと、前半で、主人公のテオが7:59にベッドから起き出すシーンがあるのだけど、あの建物(テオの自宅)って、トレリック・タワーみたいだよね。70年ごろの「モダンなロンドン」の残りかす。
http://en.wikipedia.org/wiki/Trellick_Tower
http://www.skyscrapernews.com/imagesall.php?ref=1277&idi=Trellick+Tower&self=nse&selfidi=1277TrellickTower_pic1.jpg&no=1

それから、ジャスパーの「禅ミュージック」(実はすげーノイズ)。爆笑シーンなのに、笑い声なし。。。さびしー。(映画館、小さなスクリーンで入りは4分の1くらいだった。)



「原作」というか、映画の元になったのは下記の小説だそうですが、Wikipediaにもloosely based onとあるように、映画と小説とは別モノのようです。
トゥモロー・ワールドトゥモロー・ワールド
P.D. ジェイムズ P.D. James 青木 久惠

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字幕(by 戸田奈津子)は見てませんでした。聞き取れたんで。。。UK語が普通に聞き取れる人なら、字幕いらないと思います。リヴァプール訛りとかも出てきてましたが、物語の進行上重要な言葉は、そんなにきついアクセントのものはなかったと思います。

あ、でも一箇所メモメモ。「あの人ねぇ、honestだよね」という軽妙なやり取りの場面で字幕見てみたら「熱い」に傍点。これはいい!と思いました。



警官のシド(fascict pig)を演じた役者さん、今度はジェイムズ・コノリー(『麦の穂をゆらす風』参照)をやるそうです。監督はAdrian Dunbarという北アイルランドの人。(日本では公開されそうにもないけど。)
http://www.imdb.com/title/tt0488098/

あと、IMDBのgoofsのところの1番目(某セレブ夫妻の「金婚式」の件)、私は映画を見ているときは気づかなかったけど、爆笑です。
http://www.imdb.com/title/tt0206634/goofs
猫が映るたびにポジションが違うのは映画見ながら気づいた(笑いそうになった)。



DVDが2007年3月に出ました。特典映像の解説はスラヴォイ・ジジェクだそうです。
B000KIX9BOトゥモロー・ワールド プレミアム・エディション
クライヴ・オーウェン P.D.ジェイムズ アルフォンソ・キュアロン
ポニーキャニオン 2007-03-21

by G-Tools

※この記事は

2006年12月16日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 01:53 | TrackBack(1) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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映画Children of Menでの "Only Britain Soldiers On" のところの映像クリップを見つけたので貼っておく。
Excerpt: 当方がときどき言及している映画Children of Men(気の抜けた邦題は『トゥモロー・ワールド』)での "Only Britain Soldiers On" のところの映像を..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2016-07-03 22:01

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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