「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2006年11月25日

マイケル・ストーン乱入事件、続報。

1つ前の記事
http://nofrills.seesaa.net/article/28218088.html
と、そのもう1つ前の記事
http://nofrills.seesaa.net/article/28201083.html
に書いたように、セント・アンドリューズ合意で一応「正副ファースト・ミニスター選出期限日」として設定されていた11月24日、予想通りDUPが「シン・フェインが政権担当などありえない」とごにょごにょ言って突っぱね、シン・フェインが「うちは副ファースト・ミニスターとしてマーティン・マクギネスを用意していますが何か?」と述べるなどして、また例の「議論は平行線」かと予想されていた中(ほんとに北アイルランドの政治はある意味1920年の段階で時が止まっている)、議事堂にマイケル・ストーンが武器と爆弾を持って乱入しかけるという予想外の事態が発生した。議会での議論は、始まって20分ほどでストーンの乱入があったので中断。この日はこれでお開きとなった。

肝心の「正副ファーストミニスター」選出の期限に関しては、22日、ウエストミンスターが1998年ベルファスト合意を修正し、期限を延長するということで対応されていた。つまり24日の議会召集では決着しないことは織り込み済み。だからストーンの乱入は政治日程には直接は影響しない。
http://politics.guardian.co.uk/northernirelandassembly/story/0,,1954678,00.html
(この記事、「ブレアとイアン・ペイズリーは気があって、宗教についての本を交換したりしている」とかいう細かい話があるが、ペイズリーは自分で教会作ったくらいのものすごい原理主義者。怖いよね。)

議事堂の警備員(警備会社の人)に取り押さえられたストーンの所持していたピストルとナイフは取り上げられ、ストーンが投げ込んだカバンに入っていたらしい爆発物は、軍の爆弾処理班によって処理された。警察はストーモント一帯の警備を強化している。

マイケル・ストーンについては過去記事参照。70年代から80年代のロイヤリストの殺し屋で600年とか800年とかいうような懲役刑を科せられたテロリスト(殺人6件)だが、ベルファスト合意で保釈となり、その後は画家。1988年にIRAの葬儀を襲撃して3人を殺したことで、ロイヤリストの間では「ヒーロー」扱い。
http://nofrills.seesaa.net/article/26613641.html

以下、乱入の件についての記事を列挙。

ものすごい勢いで記事が出ているので、とてもじゃないが全部は追いきれないのだが。

■アイリッシュ・エギザミナー
http://www.irishexaminer.com/breaking/story.asp?j=202246408&p=zxzz47yy4&n=202247168
ストーモントへの乱入はマイケル・ストーンが個人としてやったものだというUDA(かつてストーンが所属していたテロ組織)の関連団体が声明を出している。
The Ulster Political Research Group, which provides political analysis to the Ulster Defence Association, distanced itself from Stone, describing his actions as petty and irresponsible.

A statement said: "Michael has acted on his own and pushed aside the worries, fears and hopes of our people to steal the limelight for himself."


■ガーディアン
Police defuse 'devices' after loyalist storms NI parliament
5pm update
Deborah Summers, Hélène Mulholland and agencies
Friday November 24, 2006
http://politics.guardian.co.uk/northernirelandassembly/story/0,,1956300,00.html
事実関係の説明、警察の対応、英国政府(NIO)の対応、アイルランド共和国政府の反応、議会についての簡単な事実関係の説明と、アイルランド共和国(バーティ・アハーン)からのコメント。

Loyalist assassin who swore death to the IRA
James Sturcke
Friday November 24, 2006
http://politics.guardian.co.uk/northernirelandassembly/story/0,,1956385,00.html
マイケル・ストーンについて。
Born into a sectarian hotbed in east Belfast, Stone joined the Tartans, an infamous loyalist group, when he was 13.

At 16, he had already joined the Ulster Defence Association and served time in Belfast's Crumlin Road jail for possession of firearms. ...

Stone is known for his political thinking - his cell at the Maze prison was well stocked with Marxist literature - and for a time there was speculation he would attempt to enter Northern Ireland's political arena.

Instead, he turned his attention to art - he had been able to develop his interest in painting while in prison - and, though he still lives in hiding, has become an established artist. ...

「マルクス主義」というのは、ストーンの場合、「労働者階級のプロテスタントたち」についての考え方の部分にありますね。ただこれはストーンに限ったことではなく、北アイルランドのロイヤリストの労働者階級(ミドルクラスではない人たち)の間にはけっこう広くあって、PUPという政党(UVFと関係あり)はマルクス主義が基本。

ただ、ユニオニスト側のマルクス主義に、ナショナリスト側のジェイムズ・コネリーのようなイデオローグがいたか/いるかどうかは、ちょっとわかりません。(調べたことがない。)ユニオニスト側の「外からの脅威から身を守れ」という根本的な考え方は、マルクス主義というより単純な排外主義と親和性が高いんですが。(事実、英国の極右と深くつながっているロイヤリストはいろいろとまあ。)

■テレグラフ
Stormont evacuated amid loyalist protest
By Tom Peterkin, Ireland Correspondent
Last Updated: 8:51pm GMT 24/11/2006
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2006/11/24/ustormont124.xml
The alarming security breach, which was a serious attempt to kill or injure those inside and a painful reminder of the Troubles, was thwarted by the bravery of Stormont's unarmed civilian security staff.

Screaming "no surrender, no sell out Paisley" and "incendiary blast", Stone became trapped in the revolving front door where he was grabbed by a male security guard.

A female colleague managed to get hold of Stone's gun as he threw a smoking rucksack containing the viable explosives into the hall.

The 108 Stormont members including Ian Paisley and Gerry Adams were sitting nearby in the debating chamber.

Pandemonium ensued as the fire alarm was sounded at around 11 am just 20 minutes into the meeting.

Politicians, journalists and staff were evacuated from the building. Outside they saw Stone being wrestled to the ground in front of Stormont by security staff.

文体は「テレグラフ節」ですが、状況が非常にわかりやすい。

あと、例の外壁にスプレー缶で書いた文字については、"Sinn/Fein IRA war criminals" と書きかけて、warで止まってしまったものらしい。
Red graffiti, which appeared to say "Sinn/Fein IRA war criminals" had been daubed on a pillar, another indication that Stone's behaviour was in protest at a proposed political deal between Mr Paisley's Democratic Unionist Party and Mr Adams's Sinn Fein.

ストーンは自著では「イアン・ペイズリーは言葉ばかりで行動がないから嫌いだ」と書いていたのだけれども、そこらへんどうなんだろうな。

あと興味深いのは
Stone was able to take advantage of a security operation that has seen the police presence at Stormont dramatically scaled down as part of the normalisation of Ulster.

There are no longer officers permanently stationed in the grounds, although there are still police patrols.

「正常化のため」って、北アイルランドで政治の中枢の警官の常駐をゼロにするという発想が理解できない。それはやりすぎでしょう。ウエストミンスターだってダウニング・ストリートだって警官は常駐しているんだし。つか、ベルファストの人々が「正常化」を実感できるようにというパフォーマンスだろうけど、ストーモントは・・・ジェリー・アダムズやマーティン・マクギネスなんかはいつ刺されてもおかしくないわけだから。(自前でSPつけてても。)ただまったく警備がなかったとは考えられないので、このテレグラフの記述はwith a pinch of saltかな。(Labourのやることはすべてくさす方向の新聞だから。)

他の記事にない情報としては、この日持っていたピストルが本物なのかレプリカなのかが不明、という点。

■ベルファスト・テレグラフ
Stone bomb chaos
Assembly evacuated as the Milltown killer storms into Stormont with gun
By Noel McAdam at Stormont, Claire Regan, Emily Moulton and Claire McNeilly
24 November 2006
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/story.jsp?story=716038
生々しい状況の描写と、議場内にいたPUPのDavid Irvineのコメント(下記)。(David Irvineは元UVF所属のテロリスト。)
"I've spoken to the woman security officer who wrestled him to the ground and she is very shaken by the incident. She was in no doubt that the man was Michael Stone.

"She obviously needs to be commended for a difficult job well done."

そっか。マイケル・ストーンがトレードマーク的なあの妙な髪形をしていなかた(坊主頭にしていた)ことは、これまたストーリーがありそうな。

ストーンは2005年7月に、レプリカのArmaliteやSA 80を持った写真を、ベル・テレさんに送りつけてきていたそうだ。上記記事にその写真がある。


この「変な写真」の説明は下記。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/story.jsp?story=654602
このときに「この写真はアートプロジェクトです」と言っていたとか。

時期的にも、ひょっとしてSean Kellyの拘束と釈放(2005年7月)でキれたのかもしれない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sean_Kelly_%28IRA_bomber%29

ショーン・ケリーはIRAの爆弾犯。1993年10月、ベルファストのプロテスタント地区、Shankill Roadのフィッシュ&チップス屋の2階にあったUDAの事務所を標的として店内に爆弾を置いてタイマーを作動させたあとで「爆弾だ、逃げろ」と叫びながら脱出する計画だったが、予期せぬ場面で爆弾が爆発。爆弾犯のひとり(ケリーの相棒)と、店内にいた一般市民9人が殺された。死んだのが「兵士」ではなく子供や妊婦や店の親父だったことで、「義憤」を覚えるということはあるだろう。葬儀に手榴弾を投げ込んだマイケル・ストーンがそう感じるというのは、ずいぶん勝手な話だが。

マイケル・ストーンもショーン・ケリーも、どっちもベルファスト合意で釈放された「政治犯(テロリスト)」だ。ストーンの脳内ではまだ「戦争」が継続しているのかもしれない。

ベル・テレさん記事によると、この日は議会開催ということで、一般の見学客もストーモントの建物の中にいた。ストーンが投げ込んだカバンから煙が上がっているのでみな退避したが、もし爆発していたらと考えると、心底ぞっとする。その1回の爆弾攻撃で、また暴力の無限連鎖みたいな状況が現れかねなかった。

今回の襲撃事件で、ストーンは今後一生を刑務所で過ごすことになる可能性がある。彼の釈放には「組織を支持しないこと」、「北アイルランド情勢関連の犯罪やテロ行為に関わらないこと」、「一般の人々に危険を及ぼさないこと」という条件があった。ストーンは今回それを破った。となると釈放は撤回されうる。合意にもそういう規定があったはずだ。

■タイムズ
Michael Stone: a loyalist hero and abstract artist
David Sharrock, Ireland Correspondent of The Times
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2-2469950,00.html
タイムズはときどきこういう記事が出るから、北アイルランド関係ではチェックを怠れない。(でもほとんどチェックしてないけど、私は。)

He was greeted as a hero by loyalists and the jacket which he wore during the Milltown attack was auctioned for £10,000 at a Scottish loyalist club. ...

He has collaborated in the writing of two books about his life - one of the reasons why the Government said earlier this month that it will introduce legislation to prevent criminals from profiting from their crimes.

two books about his lifeとは、Stone Coldという本(ライターが書いている)と、None Shall Divide Usという本(自著)。後者は当ブログの過去記事でもご紹介していますが、政府が今月、犯罪者が犯罪から利益を上げること(記念になるような所持品を売ること、犯罪を綴った本などを出すこと、など)を防ぐ法整備を行なうと述べた、というのは知りませんでした。

(そういう方向での政府の介入には非常に複雑な思いが。。。フォーサイスが『戦争の犬たち』を書いたときのようなことをこれからやる人物が現れたら、どーすんでしょ。あと一般的な「犯罪者の心理を犯罪者が語る」系の書物とか、「汚職で服役していた政治家がその体験を語る講演」とか。)→追記:26日のエントリの下のほうに少し。犯罪そのものを語って利益を上げてはならないが、そうでなければOK、つまり獄中記(ジェフリー・アーチャーとか)はOK、というのが内務省の案。

それから、当ブログの過去記事で触れた、BBCの「和解」特別番組(feat. デズモンド・ツツ大司教)のFacing the Truthについて、タイムズの記事にはこんな記述が。
Last year he took part in Facing the Truth, a BBC series in which victims were brought together with the perpetrators of their suffering. Sylvia Hackett talked with Stone, who was convicted of murdering her husband Dermot, a Catholic delivery man.

Although he previously admitted to the murder, Stone told his victim's widow that he had no direct responsibility, having been withdrawn after planning the attack. At the end of their meeting she forced herself to walk over to Stone and shake his hand.

When he placed a second hand on hers, she recoiled and fled from the room.

ハケット殺害については、ストーンは自著"None Shall Divide Us"の中で詳細に書いていたんですが、he had no direct responsibility, having been withdrawn after planning the attackなんて言っていたんですか。これはもうちょっと調べてみないといけないけど(これまでこういう説明はなかった)、そうだとしたら唖然とするほかはないなあ。





ストーン乱入とは関係なく、Northern Ireland peace processについてですが、上のほうでリンクしたガーディアンの記事:
http://politics.guardian.co.uk/northernirelandassembly/story/0,,1954678,00.html
これの読者コメントで「NickPalmerMP」(ニック・パーマー議員:この名前の議員は実在します。労働党)のNovember 23, 2006 09:17 AMのコメント:
if (still a big if) this all works out it may come to be seen as a possible model for other perennial conflicts. Another key point is that isolating extremists rather than talking to them fails to address the problem: the reason why previous deals failed is that it got moderates on both sides together, but left them exposed to more extreme groups. People who think Paisley and Adams are agreeing too easily don't have anywhere plausible to go.

As a Labour MP I wouldn't try to dismiss John Major's willingness to start the negotiations: it took courage at a time when he was under great pressure for other reasons. Equally I hope that people not usually inclined to credit Tony Blair and Labour for anything will agree that actually bringing this ship into harbour will be, if it works out, a very substantial achievement.

And in a sense the ship is already in - the key point about Northern ireland at the moment is that people have by and large stopped killing each other for political reasons. If a coalition follows, that's wonderful.

労働党がどう考えているかがはっきり書かれている(太字部分)。

※この事件については、新しい情報が出るたびに新たにエントリを追加しています。下の「タグ」のところで「マイケル・ストーン」をクリックしてご確認ください。

※この記事は

2006年11月25日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 07:19 | Comment(1) | TrackBack(0) | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マイケル・ストーン、即時起訴。土曜日に出廷。
Man in court over Stormont breach
Last Updated: Saturday, 25 November 2006, 09:45 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6182996.stm
※開廷したら同じURLに上書きされるかも。

引用:
Loyalist Michael Stone will be charged with five counts of attempted murder, possession of articles for terrorist purposes and possession of explosives.

He will also be charged with possession of an imitation firearm when he appears at Belfast Magistrates' Court.

というわけで、所持していたピストルはレプリカでした。
銃を取り上げられたときにセキュリティの人に
「この銃が本物ならてめぇのドタマ、ブチ抜いてた」
と言ったとかいう話も、どっかで読みました。
脅迫なのか負け惜しみなのか、「兵士」としてのレクチャーなのか
さっぱりわかりませんが。

ストーモントのアセンブリは月曜日に再召集です。
Assembly to reconvene on Monday
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6182614.stm
Posted by nofrills at 2006年11月25日 19:54

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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