「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2012年07月10日

2005年7月7日から7年、あの爆発の少し前に決まった五輪の開催が迫り、自爆者のひとりの妻がケニア・ソマリアで武装活動を行なっているとのニュース。

もうすぐロンドン・オリンピックが始まる。

7月7日。私の見ていた範囲では、Twitterの画面内で2005年7月7日のロンドンのことに言及しているテクストは皆無だった。見ていなかったところではあっただろうと思う。私は孤独に、自分だけのメモリアルを行なう。







2005年7月7日、2012年のオリンピック開催地がロンドンに決定してから数時間後、グレンイーグルズという場所でまさにG8サミットが開催されていた最中に、ロンドン市内の地下鉄とバスで4人の青年が自爆した。死者52人(と自爆者4人)、負傷者およそ700人。
http://en.wikipedia.org/wiki/7_July_2005_London_bombings

自爆した4人は、ごく一般的な服装で大きなリュックをしょって、iPodで音楽を聴きながら電車に乗っているような、「どこにでもいそうな普通の若者」たちだった。そのうち3人は、パキスタン出身で英国に移住した人々の子供だった(英国生まれ)。そのため、爆破事件直後はロンドンから、「何ら悪意はないのだけれど、アジア系(英国でAsianといえばインド亜大陸の系統の人のことをいう)の若い男性がリュックをしょって(iPodの)白いイヤフォンのコードを垂らしていると、どきっとしている自分がいる。そのことがショックだ」といった声が、(当時はTwitterはなかったので)ブログなどでつづられているのをいくつか、読んだ。

日本では彼らAsianの「テロリスト」たちの出身地が特に注目されていた。ウエスト・ヨークシャーのリーズやブラッドフォードの南に位置するデューズベリーという町で、英国でニューズエイジェントやフィッシュ&チップスの店など、規模はさほどでもない地道な商売をして安定した生活をしているパキスタンからの移民の人々が多く暮らす地域だ。その地域について、日本のマスメディア、特に新聞は、現地入りして取材していながら、「貧しい移民」というステレオタイプに乗っかって、事実とは逆方向の印象を与えることを好き勝手に書き散らしていた。そのことも当時のブログに書いている。(今思い出しても腹が立つ。日本の新聞は、英国のメディアの311津波・原発事故の恐怖報道に、上から目線で文句が言えるような立場ではない。)

さて、4人の自爆者の中で、1人だけ、Asianではない青年(といっても19歳だったので「少年」か)がいた。事件当時住んでいた場所もウエスト・ヨークシャーではなくバッキンガムシャーだった。彼、ジャーメイン・リンゼーはジャマイカで生まれ、物心がつく前に英国に引っ越してきた(父親をジャマイカに置いて、母親が息子を連れて出てきてしまった)。それから何年も、母子はウエスト・ヨークシャーに住んでいた。そして英国に来て14年後の2000年、母子はイスラム教に改宗した。ティーンエイジャーのジャーメインは、同じジャマイカ出身の強烈な宗教家(のちに「人種憎悪」などで有罪となり投獄された)の強い影響を受けた。やがて母親は10代の息子をイングランドに残して渡米してしまい、1人残されたジャーメインは学校をやめてその日暮らしをしていた。

2002年10月、ロンドンでの反戦デモ(イラク戦争反対)で彼はイスラム教に改宗した白人女性と会い、彼女と結婚する(その前に8日間だけ、アイルランド人の女性と結婚していたそうだが、詳細不明)。そして彼女の実家のあるバッキンガムシャーに引っ越して、カーペット張りの職人として仕事をしていた。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-12621385
http://en.wikipedia.org/wiki/Germaine_Lindsay

2005年7月7日、ジャーメインがロンドンの地下鉄で自爆したとき、彼女のおなかには赤ちゃんがいた。(もう1人の自爆者、というかリーダーだったモハメド・シディク・カーンの妻も妊娠していた。)

事件の後、彼女は下記のようなステートメントを発表した。夫らの自爆を厳しく非難し、まさかあのようなことをするとはまったく考えたこともなかったと述懐し、「私の世界は崩壊してしまいました。理解することなどできぬこの破壊の犠牲者のご遺族のみなさまにお悔やみを申し上げます」とする内容だ。
Lindsay's wife Samantha Lewthwaite, 22, said: "I totally condemn and am horrified by the atrocities which occurred in London on Thursday 7 July.

"I am the wife of Germaine Lindsay, and never predicted or imagined that he was involved in such horrific activities. He was a loving husband and father.

"I am trying to come to terms with the recent events. My whole world has fallen apart, and my thoughts are with the families of the victims of this incomprehensible devastation."

http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4690011.stm

彼女は、「気づかぬところで夫がテロリストになってしまい、本人は妊娠しているというのに夫が自爆して多くの人々を殺傷してしまったという、気の毒な若い女性」のはずだった。

その彼女が「自爆したジャーメインの妻」としてではなく、「サマンサ・ルースウェイト」としてニュースになったのは、今年、2012年2月も末のことだった。

Kenya terrorism police probe link to 7/7 bomber widow
By Dominic Casciani
29 February 2012 Last updated at 16:16 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/world-africa-17209899

記事いわく、ケニア警察が手配しているテロ容疑者の白人女性が、パスポート写真を見るに、ジャーメイン・リンゼイの妻、サマンサ・ルースウェイトかもしれない(これは後に事実として確定する)。

ケニア警察が、昨年12月下旬にモンバサである家屋に家宅捜索(テロ計画の容疑)に入った。そのときに警察が探していたのが、「ナタリー・フェイ・ウェッブ」なる女性(同名の女性が存在しており、アイデンティティを盗まれたと考えられている)。彼女には3人の子があり、2011年1月に南アのパスポートを使ってケニアに入国。家宅捜索の時点ではすでに出国していた。

そしてパスポートの写真の「ナタリー」はサマンサにそっくりなのだが、この時点ではケニア警察はそのことには気づいていなかった。

この記事によると、自爆したジャーメインとサマンサは、2002年10月に反戦デモで実際に会う前に、既にネットで知り合っていたそうだ。

この時点で、サマンサの件を追っていたタイムズは、サマンサのお父さんに接触したが、お父さんは娘とは連絡を取っておらず居場所もわからない、と述べていたそうだ。

この前年からこの時期、ケニアでは隣国ソマリアの武装組織「アッシャバブ(アルシャバブ) As-Shabab」による攻撃が何度かあったが、同時に、「英国人テロリスト」の活動への警戒が高まっていた。「警戒」だけでなく実際に起訴された人もいた。
One 28-year-old Briton, Jermaine Grant, has been charged in Kenya with possessing illegal explosive-making material and plotting to explode a bomb. Mr Grant, originally from Newham in east London, was arrested in Mombassa in December but denies the charges.
http://www.bbc.co.uk/news/world-africa-17209899

つまり、2011年12月にモンバサで、爆発物製造に用いられる材料を所持し、爆発を引き起こす計画を立てていたとして、28歳の英国人男性が逮捕・起訴されている。

4月には、ケニア警察がサマンサを手配している。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-17611918
Samantha Lewthwaite, the widow of 7/7 bomber Germaine Lindsay, is wanted by Kenyan authorities investigating a terrorism plot.

なお、BBCのこの記事はサマンサとはどういう人物なのかを取材してまとめた記事である。Aylesburyの庶民的な住宅街で育った彼女は、15歳でイスラム教に改宗。近所の人たちの間でもモスクでも非常に評判のよい女の子で、学業も悪くなかったようで、2002年にはSOASでディグリー・コースに進んでいる。同じ年に結婚したジャーメインとサマンサは、地域でも尊敬を集める模範的夫婦だったようだ(「黒人」でかなり荒い暮らしをしてきた夫に、「白人」で大学に行けるような妻、ともに信仰心は篤い……確かにロールモデルだろう)。2005年7月の事件後、家が襲撃されるなどして警察の保護を受けていたサマンサだが、やがて自宅に戻った。そのときにこれまで通っていた地域のモスクには行かないようになってしまったそうだ(そりゃ、行きづらいよね)。地域の人は、このタイミングで過激派にリクルートされたのではないかと考えているようだ。

そして、今(7月)になってから気づいたのだが、ケニアで爆発物の容疑で逮捕・起訴された東ロンドン出身のジャーメイン・グラントという28歳の人物が、サマンサと一緒に行動していたと警察が見ていることが報じられたのが、5月、グラントの初公判の日のことだった。

Kenya trial Briton Jermaine Grant 'linked to 7/7 bomber'
10 May 2012 Last updated at 16:37 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/world-africa-18016978

この記事を読むと、昨年のいくつかのケニアからのニュースについて、「あっ、あれはそうだったのかー」の連続である。
Grant, from Newham, east London, was first detained in Kenya near the Somali border in 2008, but escaped police custody.

He is said to have been sprung from a police station by a group of militants belonging to al-Shabab.

Last October, Kenya sent troops into Somalia to pursue the group, blaming it for a recent wave of abductions which threatened its tourism industry.

Al-Shabab denied any involvement and said the Kenyan incursion was an act of war and it would take revenge.

The group is now under pressure on a number of military fronts in the south of Somalia - but still mounts frequent attacks and controls much of the country.


で、5月末のサイモン・コックスの映像レポートを見ると、「英国人テロリスト」が東アフリカとどういうつながりを持っているか、BBC Newsのトップページやガーディアンでは見たことのない話で、どきどきする。

昨年「ツイッター、大ブームだな」的にも話題になった「アッシャバブ(アルシャバブ: As-Shabab or al-Shabab)のツイッターアカウント(英語)」も英国人が書いている可能性が高いと考えられている。

そして2005年7月7日から7年が経過したタイミングでのデイリー・テレグラフ記事(7月8日付)が……



テレグラフの取材で、サマンサがソマリアで、女性ばかりの攻撃部隊 (all-women attack squads) を結成しているということがわかった、という記事。

イスラミストの武装組織での女性の役割といえば、(「男尊女卑」そのものなのだけど)「戦う男たちを支援する任務」(食事、洗濯、掃除……)、「子を産み育て、立派な戦士にする任務」ということだったはずで、「女性ばかりの攻撃部隊」というものが出てきたことに面喰ってしまった。

ただ、(中央アジアや西アジア、東アフリカに比べて)女性の社会的役割の制限がゆるく、「女性が戦う」ということの社会的・心理的敷居も低い英国出身者が「中の人」の多くを占めている場合は、別の話になってくるのかもしれない。。。などと憶測しつつ、記事を読む。

いわく、ケニアの急進的ジハディズム支持組織のMuslim Youth Centreのブログに、"Dada Mzungu" (= White Sister) と呼ばれる人物についてのエントリがアップされた。これがサマンサのことで、エントリには次のように書かれているという。
"She gave her life to Allah and she now serves Allah as His female soldier. In +252 [Somalia] she commands her 'all-female mujahid terror squad' and conducts her operations against the kuffar.

Kuffarとは "non-muslims" の意味(つまり「異教徒」)。「ホワイト・シスターはその人生を神にささげ、神の女戦士となりました。ソマリアで彼女は、『女性ばかりのムジャヒド(聖戦士)・テロ部隊』を指揮し、異教徒に対する作戦を行なっています」。

記事にはまた、ケニア警察筋のコンファームしたこととして、サマンサがソマリア南部にいて、アッシャバブの保護下にある、と書かれている。

さらに、サマンサの日記には、自分の子供たちもムジャヒドにしたいといったことが書かれているとか、サマンサはHabib Saleh Ghaniという人物(英国人で、ケニア警察にテロ容疑で手配されている)と結婚しているとかいったことも記事に書かれている。



例のハリウッド俳優の離婚の関連で読んだものの中に「新興宗教(カルト)の信者の子供」についての文章があり、いろいろと重なって思えてきます。ただやはり、「母親が自分の子供をムジャヒドにしたいと願う」ということについては、理解が全然及びません。

※この記事は

2012年07月10日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 08:00 | TrackBack(1) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【ご注意】「英国人テロリスト」に関して、ロシア発の「デマ」が流れています。
Excerpt: 日本時間で12日から13日にかけて、ネット上の英語圏で、「サマンサ・ルースウェイトがウクライナ東部で撃ち殺された」という「《報道》があったという報道」が出回りました。結論だけ先に言うと、これは「デマ」..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2014-11-15 14:06

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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