kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2012年05月14日

ニューズウィーク日本版、"激戦地ホムスの惨劇はどこまで「真実」か"について(または「要・原文参照」ということについて)

ニューズウィーク日本版のこんな記事が回ってきた。

激戦地ホムスの惨劇はどこまで「真実」か
Embellishing an Atrocity
アサド政権の過酷な弾圧を伝える映像リポートには「演出」が加えられたものも
2012年05月14日(月)14時25分
マイク・ギグリオ
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2012/05/post-2540.php

これだけ見たら、「ギグリオさんが5月14日にニューズウィークに書いた記事」のように読めるかもしれないが、少しスクロールダウンすれば、「2012年4月11日号掲載」と出てくる。つまり、印刷媒体で「1ヶ月前の話」だ。「文献」として見る分には十分に新鮮だが、「ニュース」としてはとっくに死んでいるか、保存食状態だ。

しかもニューズウィークは「全文翻訳」ではなく「印刷媒体の紙面に入るように抜粋・要約した翻訳」である(「全文翻訳」のものもある)。それゆえ必然的なことだが、厳密性・正確性はかなり犠牲になっているため、本当にそのトピックに興味があるなら、翻訳記事の場合は、必ず、原文を参照すべきである(NW日本版オリジナルの記事もある)。

さて、というわけで原文を探す。ニューズウィーク日本版の場合は元記事のタイトルが表示されているので、Newsweekのサイトを開いて、それを検索するだけで見つかる。

Newsweek.comにアクセスすると http://www.thedailybeast.com/newsweek.html に転送されるが、それで問題ない(The Daily BeastとNewsweekは2010年に合併している)。ここで件の記事の英語題 "Embellishing an Atrocity" を検索すると "Syrian Rebels Caught Embellishing on Tape" というタイトルの記事が見つかる:


記事の見出しは一致しないが、筆者名や記事に出てくる人の名前が一致するので、これが日本版の元記事と判断できる(そして実際に、これが元記事なのだが)。気になったところを重点的に見ながら全文を読んでみる。なお、 "Embellishing an Atrocity" は「惨劇を演出すること」というような意味、 "Syrian Rebels Caught Embellishing on Tape" は「シリア反体制派がビデオを演出していることが発覚」というような意味。(たぶん元々は前者のタイトルで出して、問題出たので後者にサシカエたんだと思う。)

日本版の書き出し:
シリアの惨劇は、オマル・テラウィのような人々の手で世界に発信されている。テラウィはVJ(ビデオジャーナリスト)と呼ばれる少数の活動家グループの1人。バシャル・アサド政権が反体制派に過酷な弾圧を加えている中部の都市ホムスから、彼らは映像リポートを送り続けてきた。

太字にした部分が非常に気になる。「ビデオジャーナリスト」はグループ名ではない。それは「ブロガー」とか「Twitterユーザー」とか「iPhone使い」がグループ名ではないのと同じだ。(この文があまりに奇妙なので、出だしで既に「要・原文参照」の注意ランプが点灯し、その調子で後続部分を読むことになったため、私の読み方自体がバイアスかかっていたかもしれない。)

当該部分を原文で探す。事務的に、「ビデオジャーナリスト」という文字列を探せばよいので、video journalistでページ内検索をかける。しかし……



ヒットしたのはページ内で1件、記事が紹介している英国のチャンネル4のドキュメンタリーのタイトルだ。(というか、日本版ではこの記事に書かれているのが「英チャンネル4のドキュメンタリーの紹介である」ということもあまりよくわからなくされているのだが……。)

記事の書き出し、上で抜粋した日本版の記事に対応する部分は、原文では:
It's through people like Omar Tellawi that scenes of the bloodshed in Syria have reached the rest of the world.

Tellawi is part of a small, tightly knit group of Syrian video activists who have embedded themselves inside Homs, the center of a brutal crackdown by Bashar al-Assad’s regime.

「ビデオ・ジャーナリスト」なんてことは書かれていない。これを「VJ(ビデオジャーナリスト)と呼ばれる少数の活動家グループ」とするのは、おそらくはvideo activistsという目慣れない用語を処理する上での工夫のようなことなのだろうが、私は「翻訳」という作業としては、一線を超えていると思う。原テクストでは「ジャーナリスト」とは述べていないからだ。(逐語訳すると、「テラウィは、バシャール・アサド政権による苛烈な弾圧の中心となっているホムス内部に入り込んでいるシリア人ヴィデオ・アクティヴィストの、少人数で関係の密なグループの1人である」。)

a small, tightly knit groupの意味するところは、ある程度カンの働く人ならわかるだろう。外部からの「浸透」を防ぐため、グループの人数は少なくし、「互いに顔や名前を把握している」以上のつながりを築くのは定石だ。ましてやシリアは、特に何がなくても秘密警察がそこらへんに立ってたような環境だ(以前、西洋人のフォトグラファーの書いた文章を紹介したことがあると思うが、道路清掃をしているおじさんが実は秘密警察、みたいな感じだそうだ)。

原文のもう少し下の部分:
Tellawi and his fellow activists document the regime's atrocities with low-tech video dispatches, often reporting via Anderson Cooper–like stand-up reports. They post their work on YouTube, and it spreads globally via social media and the international press. Some of the so-called vee-jays−such as 23-year-old Danny Abdul Dayem, whom the Western press has dubbed the “voice of Homs”− feature regularly on networks such as Al-Jazeera and CNN and have become unlikely media stars in the course of the conflict.

ここには「いわゆる so-called」がついた形で、「VJ」という言い方が出てくる(ただしvee-jayと書かれていることからわかるが、職業としてある「ビデオ・ジャーナリスト」とは少し違う扱いだ。「若者カルチャー」というか、「ヒップホップのノリ」というか……微妙な皮膚感覚の領域かもしれないが)。これをまとめて冒頭で「VJ(ビデオジャーナリスト)と呼ばれる少数の活動家グループ」と書いたのかもしれないが、これは、vee-jaysについての「調べ物」の結果を原テクストに含まれているかのように扱っているし、「いわゆる」を落としているという点で、まずいのではないかと思う。というか、「要約」の場合、so-calledみたいなものは「枝葉」として飛ばすのが筋なんじゃないかという気が……。

というか、これ全体的に、日本語の記事を書いた人が、「アクティヴィスト」の指し示すものについて、あまりに感覚が鈍いんではと思う。(シリアについてのニュースにあまり接していないのかもしれないが。)

上に引いた部分は、少しいいかげんな逐語訳をすると、「テラウィとその仲間の活動家たちは、しばしばアンダーソン・クーパー(アメリカの有名なニュース・キャスター)のような現場からお伝えするスタイルを使い、ローテクなビデオ映像で、政権の蛮行を記録している。彼らは制作した映像をYouTubeにアップしているが、それがソーシャル・メディアや国際メディアを通じて全世界に広まる。いわゆるvee-jayの一部、例えば西洋のメディアが『ホムスの声』と呼んでいる23歳のダニー・アブドゥル・ダイエムのような人々は、アルジャジーラやCNNのようなネットワークでは常連扱いで、この紛争で思いがけず注目を集めメディアのスターとなっている」。

(この書き手の英文、すっごく訳しづらい……語の選択も、全体のリズムや前置詞とかも何か……。やたらvia使ってるし……。私が疲れているだけか?)

で、日本版では「一種のスターのように扱われるVJもいる」とあるのだが、このmedia starsってメタファーじゃん? ……ってか、この記事(原文)自体がEmbellishしてないか? ダニー何とかさんを「ホムスの声」と呼んだのはCNNだそうだが(Newsweekの原文にリンクあり)、私、1月とか2月はBBCでシリアのニュースはずっと見てたけど、そんな呼称があったという記憶はない。(ダニーさんは英国人で、あの「英語」を「ホムスの声」だと言い切る勇気は、たぶん英メディアにはない。)

【挿入:やっぱりBBCではそういう言い方はしてない。米メディアがそういう呼称を使ってきたことは確認できるが、それは「視聴者が感情移入できるわかりやすさが何より大事」なアメリカのメディアの問題であって、シリアの活動家の問題ではないと思う。】


(ちなみに英国にはアサド支持派の在英シリア人もいる。その筆頭が、バシャールの妻、アズマ・アサドのお父さんだ。医師で、西ロンドンに住んでいる。2月に一度「あのような暴君のところに嫁にやってしまって、娘が心配です」というインタビューを出していたが、すぐにバシャール・アサドに「弾圧ハウツー」を指南していたことがバレた。)(こういう入り乱れた状況なんですよ。1983年のハマの虐殺をやったリファート・アサドは、その後、クーデターに失敗してフランスに亡命し、今はバシャールの政権は非人道的だ云々と非難している。どの口でいうか、って。)

……なんか、ここまで書いてて、元から雑なのでいやになってきた。街が標的にされ、迫撃砲やらなにやらで攻撃され、人が殺されている。それも政府軍が自国の都市を標的にしている。その「事実」への目線がないんだよね、この記事。

ダニーさんは、ネット検索すればわかるけど、そうやってビデオで情報を外に出し、CNNやBBCなどで「目撃したこと」を語るということをやってきた人のひとりだが、その挙句、ネットでものすごい悪意を浴びている。(シリアについて、私が最もいやなのは、「反米派」からの言語攻撃だ。「リビアをああいうことにしたのはアメリカの陰謀」、「シリアを不安定化させることで誰が得をするかを考えろ」というアームチェア・アクティヴィストども。あれ見るとほんと消耗する。)

BBCのNewsnightに出たときのビデオ。2011年9月。
http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-14831387

アルジャジーラの電話(Skypeかも)インタビュー。2012年2月、ホムスへの攻撃が本当にひどいことになってきたときのもの。
http://www.youtube.com/watch?v=Y-EB8G3-5XQ

話を元に戻す。このNewsweekの記事は、ダニーさんについての記事ではない。「一種のスターのように扱われるVJ」(日本版より)の例として名前が出されているだけだ。ホムスから伝えていたのは(元々は外部の人である)彼だけではない。彼のチームだけでもない。本当に地域に暮らしてきた住民がカメラを持ち、YouTubeに投稿してきた。そういう人たちも、スナイパーに撃たれて殺されているのだ。その事実を、このNewsweekの記事は前提としているのかどうか……。

していないだろう。だってこれ、「シリアについて」の記事のようにみせかけているけれど、実は「米国のメディアの態度について」の記事だもん。「黒煙もくもく」の映像に食いつくのは誰か、ということ。


Citizen Journalist Anas Al Tarsha from the #Malaab area of #Homs shot dead by regime forces today #Syria yfrog.com/nwpznasj (@AlexanderPageSY)



Read more on:
http://matome.naver.jp/odai/2133059258404269801

さて、最初にこの記事を見てひっかかったのは実はこんなに「大きな話」ではない。翻訳や編集をやってる者として当たり前の読みとして「あれ」というのがあった。つまり、言葉遣いが不自然だった。


該当箇所:
 CNNの人気記者アンダーソン・クーパーは先日、ダイエムが映像を脚色しているという説の嘘を暴く特集を組んだ。『チャンネル4ニュース』のネビン・マブロ副編集長はこう言う。「報道機関は半年前から彼らの映像に頼ってきた。でも連中は(プロの)ジャーナリストじゃない。彼らには発信したいメッセージがあるんだ」

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2012/05/post-2540.php?page=2

「連中」ってさ、いい言葉じゃないでしょ。何これ、って。Ch4の人が情報を提供してくれる人たちについて、こういう言い方をするかなあ、と。

今見ると、「彼ら」の連続を嫌ったのかな、とも思う。でもそれなら3番目の「彼ら」を取り除く処理をするのが定石だろうし、よくわからない。まあ、他人の感覚だからね、わかることはないだろう。

上記の「彼ら」、「連中」混在の文は、原文では、2ページ目に大きく書かれている。
“News organizations have been relying on these guys for footage for the last six months, but they're not journalists. They have a message they want out.”

http://www.thedailybeast.com/articles/2012/03/27/syrian-rebels-caught-embellishing-on-tape.html

「この半年というもの、報道機関はこういう人たちの映像に頼りっきりだったが、彼らはジャーナリストではない。伝えたいメッセージがあるという人たちだ」(つまり、それが「活動家 activist」ということなのだが、「ヴィデオ・アクティヴィスト」を「VJ」という用語で独自に置きかえている日本語記事からはその点が伝わらない)。

these guysは、「連中」じゃないと思う。(親しい間柄でそう呼ぶことはあるかもしれないが。「うちのチームの連中はみんな明るくて」みたいな感じで。)

もう疲れたのでこのくらいにするが、日本語記事では省略されている部分が原文にはたくさんあることも重要だ。例えばジリアン・ヨークのコメント(彼女はシリアについて非常に深い背景知識と洞察力で見てきた人のひとり。昨年の「ゲイ・ガール」ブログ騒動のときのことなど参照)。

それと、Newsweekのこの記事にはこうあるのだが:
With the Assad regime dead-set on portraying the revolution as the work of what it calls armed “terrorists,” Mani says, the activists were reluctant to show members of the Free Syrian Army that is leading the armed aspect of the opposition’s fight−and they were touchy about having him shoot them as well, though he eventually succeeded in doing so.


じゃあ、2月のBBCのポール・ウッドの取材は?

Syria's slide towards civil war
12 February 2012 Last updated at 18:21 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-16984219

3月にはPanoramaでたっぷり放映したみたい。ダイジェスト映像がある。

On the front line with Free Syrian Army
Page last updated at 13:25 GMT, Monday, 12 March 2012
http://news.bbc.co.uk/panorama/hi/front_page/newsid_9704000/9704656.stm
(どんな武器持ってるかもはっきり。)

てか、BBCのような超大手がこういう取材をしていることを把握もせずに記事書いてるとしたら、Newsweekは「アメリカの国内向けのメディア」なんだな、というだけの話かも。

しかし、4月11日に翻訳掲載した3月末の記事を、5月半ばになって配信するか……その間、シリアでどういう動きがあったかはcrucialなのに。(←アナン・プランのことを言っている)



しかもこんな見出しで。
激戦地ホムスの惨劇はどこまで「真実」か

演出されてると元記事に書かれてるのは「惨劇」じゃないでしょ。「黒煙もくもくの映像は砲撃ではなくタイヤ」っていうことでしょ。

Embellishしてんのは誰だよ。。。

「衝撃、あの元有名ドラマ俳優が転落の人生」みたいな週刊誌の見出しにつられて記事を読んだら、「有名ドラマ俳優」が実は「有名ドラマ」に出ていた俳優でした、みたいな感覚。



ちなみに、シリアの反体制活動家の側が「惨劇」について誤情報を流している、ということを指摘したいのなら、「ホムスの黒煙もくもくの映像」になどつっこんでるヒマに……おっと、誰かきたようだ、的な素材はいくらでもあるはず。


※この記事は

2012年05月14日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 22:00 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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