※私の簡単なまとめではアテにならないので、学生さんとかで研究している方は、まずはwikipediaの下記記事をごらんください。
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_IRAs
以下、特に資料を参照せずに書きますので間違いがあるかもしれません。
■IRAとは:
the Irish Republican Army(アイルランド共和軍)の略称・・・というだけならややこしくないのだが。
■IRAはいくつもある:
1969年以降、「IRA」と名乗る組織は複数存在している。現存するものを列挙すると、OIRA, PIRA, CIRA, RIRAである。これについては、最近の「一澤帆布」のような「本家争い」と考えるとちょっとはわかりやすいかもしれない。つまり、みんな「本家IRA」の名前を名乗りたいので勝手に「IRA」の名前を名乗っているようなものである。
■「本家IRA」のルーツはIRB:
本家のIRA(the Irish Republican Army)は、19世紀後半からイースター蜂起(1916年)のときにかけてのIRB (the Irish Republican Brotherhood)の後継の武装組織。
なお、IRBのアメリカ支部がthe Fenian Brotherhoodである。「アイルランドのナショナリストで独立運動の闘士」についてFenianという語が用いられるのはここに由来する。(現代ではユニオニスト側からの罵倒でしか見られないと思うが。)
■「本家IRA」はold IRA:
ケン・ローチの『麦の穂をゆらす風』に出てくるIRAはこの「本家IRA」。つまり、1919年から1920年の「アイルランド独立戦争」を戦ったIRA。
■IRAの内部対立と内戦:
IRAは、英国との講和(アングロ・アイリッシュ・トリーティ、1921年)を支持する勢力と、「講和の条件がひどいので受け入れるべきではない、あくまで共和国樹立だ」とする勢力(リパブリカン)に分かれて内戦となる。
■Old IRAの講和支持派はアイルランドの正式な軍隊に:
講和を支持したOld IRAのメンバーたちは、1923年のアイルランド自由国成立で、アイルランドの正式な軍隊に入る。こんにちのアイルランド共和国の正式な軍隊はゲール語ではÓglaigh na hÉireannというが、このÓglaigh na hÉireannはゲリラ組織のIRAのゲール語名と同じである。
■Old IRAの講和反対派はIRAに:
1921年のアングロ・アイリッシュ・トリーティは、アイルランドの「自由国」というびみょうな立場を規定していただけでなく、アイルランド島の南26州と北6州の分断をも規定していた。自由国が正式に成立したあとも、講和反対派はIRAの名前(ゲール語ではÓglaigh na hÉireann)を使い続けた。彼らは1916年のイースター蜂起の「共和国宣言」とともにあるのは自由国ではなく自分たちだと主張し続けた。まあ、一種のフリンジ的存在。
この後しばらく時間が飛んで1969年に。
■IRAの分派@1969年:
第二次大戦後、IRAはマルキシズムを大いに取り入れていく(1920年のIRAも社会主義的ではあったが)。そして1969年、マルキシストで行こうという人たちと、いやそれより1916年的なリパブリカニズムだという人たちが分かれる。後者が「暫定派」、つまりProvisional IRAを名乗り、これに対してマルキシズム路線を貫こうとした一派はOfficial IRAとなる。
■Provisional IRA=いわゆる「IRA」:
私たちが普段メディアなどで見聞きする「IRA」とは、このProvisional IRA(PIRA; Provo)である。「暫定派」という名前なのに、プロパーな存在になってしまった。1970年代から96年までの「IRAのテロ」は、このPIRAのテロである。また、1998年の和平合意(グッドフライデー合意/ベルファスト合意)を支持し、2005年に「武装闘争停止」と「武器の破棄」を宣言した「IRA」もPIRAである。ちなみに彼らもゲール語でÓglaigh na hÉireannを名乗る。P O'Neil署名の声明とか参照。
■Continuity IRAの分派@1986年:
PIRA内で政治手法についての考えの対立(議会を認めるか認めないか。これもまた1916年の共和国宣言との齟齬の問題)が発生し、1986年にContinuity IRA(CIRA)が分派した。2006年10月のIMCの12th Reportによると、CIRAは現在も活動中である。
http://nofrills.seesaa.net/article/24917664.html
■Real IRAの分派@1998年:
1998年に北アイルランド紛争にピリオドを打つはずの和平合意(グッドフライデー合意/ベルファスト合意)が成立したが、この合意が1916年の共和国宣言(32カウンティで独立)とは異なっている(南26州と北6州の「分断」を了承している)ことに不満を持った人々が、PIRAから分派し、「真のIRA」の意味のReal IRA(RIRA)を名乗った。
RIRAは1998年8月のオマー爆弾事件の犯行声明を出しているが、当人たちは後に「組織内に入り込んでいたスパイが計画を進めた」と主張、事件へのRIRAの関与は最小限だったとしている。(これは一方的な主張なのでよくわからない。)
2006年10月のIMCの12th Reportによると、RIRAは現在も活動中である。
http://nofrills.seesaa.net/article/24917664.html
■まとめ:
というわけで、いわゆる「IRA」ことPIRAと、オマー爆弾のRIRAと、その他いろいろのCIRAとは、同じ「IRA」を名乗っていてもそれぞれ別組織なので注意されたい。
ただしCIRAとRIRAが実際どこまで異なっているのかは不明。IMCレポートでも把握しきれないみたいなことが書いてあったし、普段記事とか見ててもわかりません。
なお、特にこの数ヶ月、北アイルランドのあちこちで起きている発火物による商業施設などへの攻撃については、警察は多くのケースで「犯行はdissident Republicans(非主流派リパブリカン)によるもの」との見方を示している。このdissident Republicansとは「リパブリカン主流派(PIRA)に反対しているリパブリカン」のことで、つまりCIRAやRIRAのこと。
あと、「IRA」を名乗らず「民族解放」をかかげるINLA (the Irish National Liberation Army)という組織(1970年代にできた)もあって、これもdissident Republicansに含まれる。INLAとPIRAは互いに暗殺者を差し向ける仲で、激しく対立してきた。現在でもその対立はある。1981年にIRA(PIRA)が計画立案&実行したハンストにはINLAからも合流があり、最終的にはINLAの3人が餓死しているのだが、ハンストの死者10人を記念する今年の25周年行事のときには、「IRAは我々の同志の死を自分たちのために利用している。INLAの3人を一緒に扱うな」と怒っているような文章を見た。(INLA系のサイトで。)
ちなみに「リパブリカン」というのは日本語にすれは「共和主義者」なのだけれども、アイルランド(&北アイルランド)のコンテクストでは、「1916 Proclamation(the Easter Proclamation)のIrish Republicこそが真のIrish Republicである」という主義主張思想信条を持つ人たちのこと。当時も今も英国は「王国」ですが、その「王国」と対峙するのが「共和国(Republic)」ということで。
というわけで、(北)アイルランドについて調べている人、日本語では(特にネットでは)頼りにできるソースがほとんどないので、英語は必須です。
英語が大丈夫なら、情報源はいくらでもあります。
Wikipediaの関連事項の記事は、中立性議論はしょっちゅうだし、ときどきものすごい編集合戦になりますが、概して真面目に書かれています。ポータル的な記事は下記。
http://en.wikipedia.org/wiki/Troubles
Wikipediaの前に、BBCのHistoryのところにある解説の方がよいかも。
http://www.bbc.co.uk/history/recent/troubles/index.shtml
http://news.bbc.co.uk/hi/english/static/in_depth/northern_ireland/2001/provisional_ira/
PIRA, CIRA, RIRA, INLAといった武装組織についての解説も、WikipediaとBBCにある記述で、だいたいのことはわかります。
また、リパブリカンではない側(つまり「ロイヤリスト」の側)の武装組織についても上のWikipediaとBBCから基本的なことは調べられます。
英国の「国家テロ」的な側面についての情報が集まっているのは・・・PFCかな。自宅に押し入ったロイヤリストの暗殺者に家族の目の前で射殺されたカトリクの弁護士、パット・フィヌケンの事件の真相究明を求めて情報を集めているサイトで、法律専門家が情報を整理してくれているのかも。とにかくすごい情報量で。
http://www.serve.com/pfc/
書籍は数限りなくあります。
※この記事は
2006年11月06日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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