「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2012年05月02日

敵に捧げる罵倒〜グラスゴーから

前のエントリ群(このエントリの末尾にリンクする)から、さらに関連して。

「カトリック」と「プロテスタント」の「対立」として、うちらのような外部の者にも即座に目に見えるものとして、サッカーのセルティックとレンジャーズのことがある。スコットランドのグラスゴーを拠点とする2つのクラブ間のサポーター同士の対立と、その背景のひとつの重要な要素である「アイルランド問題」、「北アイルランド紛争」については、以前、書いたものがある。

2008年09月17日 グラスゴー、Old Firmの「お歌」の応酬について――背景は北アイルランド紛争です。
http://nofrills.seesaa.net/article/106686530.html

これを書いてから3年半、2012年の現在、セルティックの監督らに「なんちゃって爆発物」を送りつけた40代男2名が有罪となった数日後、私はベルファスト・テレグラフでこんなものを見ている。3月25日のレンジャーズのホームでの対決がものすごい死闘となったが、その記憶も生々しい段階で行われた、4月29日のセルティックのホームでの対決の、セルティック側観客席の写真だ。(記事は落ち着いた感じで書かれているが。)(なお、セルティックの優勝は確か前節で4月7日に決まっている。)


ハロウィーンですか。

写真の下にあるMore Picturesの文字列をクリックして立ち上がるギャラリーを眺めていると(最初の15枚くらいが観客席の様子)、こうなっているのはセルティック側サポ席の一角のようだが(全体ではない)、よくもまあこんだけ罵倒・挑発の文言を思いつくものだ、というくらいに並んでいる。

好意的に考えれば、これは「トムとジェリー」状態。本当は相手がいなくなると淋しい。その感情を表すのに罵倒や挑発の言葉しか使えない。好意的に考えれば。

レンジャーズはこの2月、破産した。現在はアドミニストレーション入りしている(管財人がクラブの経営権を握っている状態)。経緯はウィキペディア英語版に簡潔に書かれている(日本語版にもあるけれど、「〜の可能性があった」は百科事典の記述ではない)。こういうことになった理由は、1988年から2011年までの前オーナーのもとで膨らんだ負債が、どうすることもできなくなったということだ。プレイヤーは報酬の75%カットなどということにもなっているし、リーグ規定で勝ち点10剥奪などの制裁も科されている。

最新ニュースとしては週内にも買い手が決定しそうだとのことだが、まだ「確定」の段階ではない。29日の試合の段階では清算の可能性もあると報じられていたし(BBCのほうが詳しいかも)、「クラブ消滅だけは勘弁」調の論説もいくつか立てられていた(ガーディアンなど)。29日の試合でセルティックでゴールを決めたクリス・コモンズというプレイヤーも「レンジャーズがスコットランドのプレミアリーグからいなくなるのは、スコットランドのサッカーそのものにとって非常によくない」とメディアの取材に答えている

てか、29日の試合でいろいろとすごかったんだ。BBC:
I did smile at the banners and imitation gravestones on display at Celtic Park on Sunday.

It's incredible how creative people can be at the expense of others, like the announcer at Celtic Park who chose to play the Three Degrees classic When will I see you again? as the Rangers support and team departed.
http://www.bbc.co.uk/sport/0/football/17900130


(歌詞出ます。)

・・・ (^^;)

このように、今は進行中の別のドラマ(レンジャーズの破産劇)があるのだが、いったんそれは脇に置いて、「カトリック」と「プロテスタント」という対立軸のことに集中する。この対立があるのは実はグラスゴーのオールドファームだけではない(例えば北アイルランドでは、同じ市のダービーでの対立の形態ではないのだが、リンフィールドとデリーの対立がある。先日もサポが暴れてニュースになった)。ただそれが、今になっても際立っているのはグラスゴーだろう。

4ヶ月ほど前、今年1月のことだが、このようなニュースがあった。

Anti-catholic jibe on former referee's blog
Monday, 23 January 2012
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/northern-ireland/anticatholic-jibe-on-former-referees-blog-16107461.html

イングランドのプレミア・リーグで審判をしていたジェフ・ウィンター氏(56歳、現在はテレビ解説やコラム執筆などの仕事をしているそうだ)の個人ブログに、教皇とカトリック教会を悪罵する書き込みがあり(教会による子供たちへの性的虐待をネタにしたもの……いまやアンチ・カトリックの定番)、ウィンター氏はそれを放置していた。ブログは、ちょっと詳細がわからないので原文のまま貼るけど、internet authoritiesによって閲覧不能にされた。(「インターネット・オーソリティ」はたぶんブログの業者……このブログでいえばSeesaaさん……か、レンタルサーバーで運営されているサイトならサーバーの業者だと思うけれど。)

問題の書き込みがなされたのは2011年12月で、セルティックがレンジャーズに勝ったあとのこと。ウィンター氏本人はオセアニアでクルージングを楽しんでいたので、問題の書き込みは見ていないと述べ、法律相談をしているとコメントしている。

この記事の文面をそのまま取ると、ブログの運営者のあずかり知らぬところで、通りすがりの誰かが一方的につけたコメントで、ブログがサスペンドされてしまう、というおっかない事例のようにも思える。

しかし実はそうではない。

下記のサイトなどに、一体どのような「投稿」があったかが掲示されている。
http://www.offthepost.info/blog/2012/01/ex-referee-jeff-winters-website-features-bizarre-anti-catholic-rant-about-celtic/

2011年12月30日付けのブログの本文で、ウィンター氏は「セルティックが首位。サッカー的にはほかにあえて言うこともないが、教会の子供たちには(以下、あまりにひどいので……)」と書いている。

今、確認できる限り、ジェフ・ウィンターのブログには、外部の人が投稿できるコメント欄はない。
http://www.jeffwinterentertainmentandmedia.co.uk/world2012/2012000.php

問題となった当時のサイトのキャプチャを見ると、今確認できるのと同じ形式のようだ。しかもカトリックへの悪罵の次のパラグラフではオーストラリア旅行記をおっぱじめている(キャプチャ)。

つまり「私はその文章に心当たりがない」云々という内容の言い訳は、まったくの虚偽と思われる。このブログが「問題」となった当初、「ジェフ・ウィンターがそんな発言をするとは信じられない」ということで、サイトが乗っ取られたのではないかと疑った同業者らが本人に確認した経緯が、Storyfulに「まとめ」られている。(リアルタイム・ニュースで「何が問題点なのか」をさくっとわかるようにするという点で、Storyfulのキュレーターの人たちはほんとにいい仕事をする。)「あんなことを書いたのか?」という問いにはYesともNoとも答えていないそうだ。
http://storyful.com/stories/16484

上のほうで見たベルファスト・テレグラフの1月23日の記事は、この「炎上」から10日以上経過した時点での記事だ。

ベルテレより詳しいのが、ウィンター氏本人が住んでいる地元のメディア。21日(土)の記事で、この前日にオセアニアからUKに戻ってきたそうだ。
http://www.thenorthernecho.co.uk/news/9485485.Ex_referee_Jeff_Winter_seeks_legal_advice_over_blog_posts/
The Sky Sports and Talksport Radio pundit, who arrived back in the UK yesterday, said: “I have been away for 39 days and, during that time, I have had little or no opportunity to phone, email or text as I have been at sea most of the time.

“I need to look and see what has been going on, what has been on my website and take some legal advice.”

「39日間の休暇中、ほぼずっと海にいたので電話やメール、テキストメッセージはほとんどしていない」って、Storyfulでの誰かの報告を見る限り、Twitterやってるじゃん……。それに、ブログに楽しそうな旅行記書いてるじゃん……。

この人、Sky NewsやTalkSport、BBC Radio5でコメンテーターとして出演し、The Sunで書いているということで、「人種差別や宗教差別、ホモフォビアで職場からクビになるということがあるのなら、この悪意に満ちた人物に仕事があるということ自体がおかしい」としてキャンペーンを始めたのは、いわれのない悪罵を受けたセルティックのサポーターたちだった(1月11日付)。ほぼ同時にデイリー・メイルが記事化し(コピペしただけの中身のない記事なのでリンクはしないけど、ウェブ検索すればトップに出てくる)、ニュースとして広範囲に広まった。

スコットランドでは警察が動いている(セルティックが告発した?)との報告が、1月13日には既にあがっている。現行法ではCommunications Actが適用されうる、と。(12月にスコットランドではサッカーでのbigotoryに特化した法律が自治議会で成立していたのだが、まだ発効はしていなかった。)
http://www.dailyrecord.co.uk/news/scottish-news/2012/01/13/scots-police-probe-anti-catholic-and-celtic-hating-online-rant-made-by-english-ref-jeff-winter-86908-23696934/
Football pundit Gabriele Marcotti said he contacted Winter to find out if the site had been hacked and received a reply saying his website manager was looking into it.

Celtic demanded an apology when Winter called Aiden McGeady a “cheating b*****d” and branded Neil Lennon “a hate figure” in 2010.

Winter could be prosecuted under the Communications Act. The Offensive Behaviour at Football and Threatening -Communications Bill, which was passed last month, has still to receive royal assent.

ああ、あれか>2010年の件。

現在、ジェフ・ウィンターのサイトは閲覧できるし、3月に、レンジャーズについてのニュースで主役扱いされているし(今から見れば古いニュースですが……)、Google Newsで掘ってみても「起訴された」との報道はないので(その後2月14日にはレンジャーズのアドミニストレーション入りという超特大ニュースがあってメディアの関心はウィンターからは離れたと思うが)、立件は見送られたのかもしれない。

(と、Google Newsの古い記事を見たら、昨年の11月のポピー・デーの日に行われたイングランド対スペインの親善試合で、イングランド代表はレッド・ポピーを見につけるべきと言い出した妙な右翼連中のひとりか……。主義主張というよりただの脳みそ筋肉かもしれない。それか、ジェレミー・クラークソンに続いてヤナギの下の二匹目のドジョウを探している愚か者のひとりかもしれない。)

ここでもう一度、冒頭の「4月29日の試合での観客席の写真」に戻る。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/sport/football/scottish/in-pictures-celtic-show-no-mercy-as-fans-gloat-over-rangers-woes-16151937.html

セルティックの側から、レンジャーズの側に「捧げ」られている「お別れ」の罵倒のメッセージには、(まあキリスト教はキリスト教なのだけれども)セクタリアンなものは特に感じられない。「カトリック」が「プロテスタント」を罵倒している、という文面ではない。

一方でレンジャーズの観客席の様子は:
http://www.belfasttelegraph.co.uk/sport/football/scottish/in-pictures-celtic-show-no-mercy-as-fans-gloat-over-rangers-woes-16151937.html?action=Popup&ino=12

United we stand
We will not fall
To hell with the SFA, SNP and ALL
For we are the people
We support Glasgow Rangers
We won't walk away
Boycott the SFA

あはははは、SNPの陰謀だって言ってるんだ。

(日本語版のウィキペディア、レンジャーズの項で「SNPの支持者も多い」的なことが書かれてるけど、そういう説は私は聞いたことない。SNP支持者も多少はいると思うけど、レンジャーズは「連合断固保持」のUnited we stand論、彼らの「ナショナリズム」はBNPとかと同じ「英国全体のナショナリズム」で、「スコットランドのナショナリズム、民族自決」ではないはず。)

なお、試合後、レンジャーズのいた側のトイレが破壊されていたそうで、20歳のレンジャーズ・サポさんが逮捕されたとのこと。
http://news.stv.tv/scotland/97556-rangers-fan-arrested-after-vandalism-of-toilets-at-celtic-park/



ちょっと見てて、これ、目が点になった。


RangersのNo Surrenderのお歌についての質問への回答。上の「4票」入ってるのはRangersサポのお花畑で語り伝えられている伝説。下の「1票」のがごく普通に検証可能な歴史的事実。

上の「4票」入ってる回答に見られる「連中が侵略してくる」という思考回路は「包囲の心理 siege mentality」によるもの。これが暴走した最も極端な例がノルウェーのオスロ爆弾&ウトヤ島銃撃事件。


前のエントリ群:
2012年04月30日 アイルランド、語られることのほとんどなかった「プロテスタントへの暴力」について、RTEのドキュメンタリー番組がオンラインで
http://nofrills.seesaa.net/article/267742656.html

2012年04月30日 真実を語ること、真実が語られることを邪魔しないこと(アイルランド)
http://nofrills.seesaa.net/article/267842665.html

2012年05月01日 「どちらの側にも差別はあった」と明言し、50年前について触れた5年前の記事を、今読む。(アイルランド・北アイルランド)
http://nofrills.seesaa.net/article/267984167.html

※この記事は

2012年05月02日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 10:00 | TrackBack(1) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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来期からSPLで復活するオールド・ファームのライバル関係について、今から半笑いしておく。
Excerpt: 4年前の2012年、スコットランドのサッカー、プレミアリーグの強豪のひとつ、レンジャーズFC(Rangers FC: RFC)が、4部リーグにまで格下げされた。理由は、サッカーそのものとは関係のない、..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2016-04-18 00:01

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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