例えば私はアラビア語を読むことができない。しかし毎日、Twitterの画面にはアラビア語のツイートがたくさんやってくる(アラビア語圏の人たちのツイートやRTである)。それらについて、何らかの必要がある場合、私は「Google翻訳」でアラビア語→英語にして「何について書かれているのか」を把握する。よくあるのは、シリアの人から、住宅街から煙が上がってくる写真がツイートされる、というような状況だ。ハッシュタグで説明してくれてることもあるが、そうでない場合には、ツイート本文を「Google翻訳」にかけて、どの都市・どの地域でいつ撮影された写真であるかを確認する。そういう感じだ。(それ以上のことは私は「Google翻訳」には求めていない。)
同じようなことは、私が文字を認識しないすべての言語について行われうる。ロシア語しかり、ギリシャ語しかり、アルメニア語しかり、ペルシャ語しかり、ヘブライ語しかり……である。
そして、「Google翻訳」を使えば、少なくとも何についての文章なのかがわかるようになったのは、パソコンもネットもなかった時代から見れば夢のような、「翻訳こんにゃく」級のことである。
イランのニュースサイトに掲示されている写真のキャプションは、「撃墜した(タイプの)無人偵察機」と言っているのか、「イメージ写真(※本文とは関係ありません)」なのか、といったことが、ペルシャ語話者に相談しなくてもわかる、ということは、非常に大きな「進歩」だ。私はそれを可能にしたテクノロジーの進展に感嘆しているし、感謝もしている。
しかし、こういった「読めない言語を読める化する」ような作業を「翻訳」と呼ぶとき、私はどうにももやもやする。違う違う、「翻訳」ってのは、そんなんじゃない。「東京」をTokyoとするような作業、「東京の街路地図」をTokyo street mapにするような作業は「翻訳」じゃない。「翻訳」という日本語の持つ《意味》に合ってない。英語でのtranslateという語の感覚ではどうなのか、私には皮膚感覚がないからイマイチわからないが。
そんなことをまた考えているのは、例の「東北博」での機械翻訳による「誤訳(と呼べる性質のものではないが)」騒動が発端だ。
何があったのかについて報道されていること(1ページ目)と、翻訳者からの声の数々(ここまでで4ページ半)、および(5ページ目で)同じ翻訳エンジンでアウトプットされていると思われる別の「機械翻訳」の例の検討、そして日本国政府の観光庁(国土交通省外局)がいかに「英語」を粗末に扱っているか(というか、ナメてかかっているか)を、"Japan. Thank You." なる謎のキャッチフレーズ(何そのピリオドは)から検討した。
【東北観光博機械翻訳騒動】「啄木」は「きつつき」、では「カマクラ」は…えっ、「蚊枕」?http://matome.naver.jp/odai/2133462929975556101
※「続きを読む」の下に貼り込みます。
「石川啄木」をIshikawa Woodpeckerと出力するようなのは「翻訳」じゃないし、「カマクラ」をmosquito pillowと出力するようなのも「翻訳」じゃない。何もわかっていないからこそ可能な言語処理の結果だ。
機械に「わかる」ことは期待できないのだが、だからこそ「石川啄木」は人名(固有名詞)で、「カマクラ」は「かまくら」の表記ゆれである、ということを機械にインプットしておかねば、そもそも作業にならない。
今回の「東北博」の事例では、それすら為されていないというお粗末っぷりだったのだが、それ以外に、「このイベントはこんな背景があってこういう歴史で、こういう内容ですよ」という「説明文」も、どうせ機械翻訳ではぐだぐだになっているに決まっている。
そして「機械」によるそういう作業を「翻訳」と呼んでよいのかどうか、またもや考え込んでいる。
※この記事は
2012年04月17日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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