そのとき私はすかさず、できる範囲でだが、BBCの記事の見出しにある「幽霊船」との表現はカナダの当事者の発言の引用であること(記事の見出しに引用符が用いられているということ)、また「幽霊船 ghost ship」という表現は英語の成句で、現在は「無人であるにもかかわらず動いている船」を指すということを、事実として指摘した。
今日、「無人の、見捨てられた」(「ゴーストタウン ghost town」の「ゴースト」)を意味するghostの用例をまた新たに見たので、それのメモをしておく。
ブロンプトン・ロード地下鉄駅は、Hidden London系の名所としては定番中の定番である。特別な機会でないと中には入れないと思うが、駅舎は外から見ることができる。ピカデリー・ラインのサウス・ケンジントンとナイツブリッジ(市南西部の高級エリア)の間(というか、V&Aのすぐ脇)にある。設計はレスリー・グリーンで(この時期のロンドン地下鉄の駅舎はこの建築家の仕事が多い)、モーニングトン・クレセント、ラッセル・スクエア、レスター・スクエア、コヴェント・ガーデンなどなどの駅舎とそっくりな外見だ。(Google Mapsでは何かの作業中の塀に隠れていて見えない。)
http://en.wikipedia.org/wiki/Brompton_Road_tube_station
1906年に開業したが、開業の3年後には既に、通過する列車があるというマイナーな駅になっていた。そして隣のナイツブリッジの駅の設備が整えられた後、1934年には、駅としては廃業した。その後、第二次大戦前に戦争省が駅舎の建物を買い取り、第二次大戦中にはロンドンの防空作戦室として利用されていた(ルドルフ・ヘスが連行されてきた建物がここらしい)。
現在はUniversity Air Squadronが使用しているが、公共に開かれた施設として再利用しようという計画もある。その計画がアナウンスされた、というのが、この駅を "ghost station" と描写しているBBCの記事である。(ウィキペディアには「2012年五輪までに」とか書かれているが、今ごろ告知されているようでは間に合わないだろう。)
いわく、Ajit Chambers というビジネスマンが駅舎を買い取る手続きを開始した。観光施設(屋上にレストラン、駅そのものは体験型ミュージアムかな)として再開発される予定である、という。(えらい大風呂敷広げてますけど、大丈夫か……。バタシー発電所のようなバカでかい規模ではないから、施設の転換自体はさほど心配ないと思うのだけど。)
Brompton Road Tube ghost station resurrection plans announced
By Andy Dangerfield
BBC London News
14 April 2012 Last updated at 11:10 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-london-17699680
(記者さんのお名前がすてき。)
記事によると、ロンドン市内の地下鉄廃駅は21件。それらすべてについて再利用するのは難しいというが、一部は何らかの形で生まれ変わるのかもしれない。
で、"ghost station" という表現は、このビジネスマンの発言から。
Mr Chambers is working with the Ministry of Defence (MoD), which owns many of the stations, to lease the sites, he calls "ghost stations".
ブロンプトン・ロード駅は、1995年に建物の通気孔を通じて中に転落したと思われる人が死体となって発見されてから(合掌)、「穴」がふさがれて密かに忍び込むということもなかなかできなくなってしまったそうだが、何らかの機会に構内に入った人が撮影した写真は、Hidden London系のサイトにたくさんアップされている。例えば:
http://underground-history.co.uk/brompton.php
http://www.silentuk.com/?p=3428
http://www.abandonedstations.org.uk/Brompton_Road_station.html
お。Londonistが昨年夏に見学会に参加しているが、その報告の記事でも "ghost station" という表現を使っている。(この見学会が、今回プランを発表したビジネスマンによるものだったとのこと。)
Inside A Ghost Tube Station: Brompton Road
http://londonist.com/2011/08/inside-a-ghost-tube-station-brompton-road.php
ロンドン地下鉄マニアのサイトを運営して10年以上になるAnnie Moleも参加している。
http://www.flickr.com/photos/anniemole/sets/72157627484482739/with/6120908822/
このビジネスマン、Ajit Chambers さんのTwitterのプロフィールにも、"to transform London's Ghost stations into Value for London" とある。
Ghostという語は、辞書には「無人の」、「見捨てられた」の意味は掲載されていないのだが、ghost town, ghost shipから転用された「形容詞のghost = 無人の、廃用となった、見捨てられた」の実例がけっこうあるので、そのうちに「新たな語義」として定着するかもしれない。
※この記事は
2012年04月15日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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