http://en.wikipedia.org/wiki/Keep_Calm_and_Carry_On
実際には、この標語はほかの2種類の標語と同時にデザインされ、ポスターとして印刷されたにもかかわらず最終的にはお蔵入りとなり、日の目を見ることなくそのまま埋もれていた。それが、ある地方都市の書店(19世紀半ばから1968年まで鉄道駅だった建物を利用)で再発見(発掘)されたのが2000年のことだ。そして、このシンプルなフレーズは、英国の人々のハートを鷲掴みにして大流行、「数々のパロディを生み出す定番」と化した。パロディをいくつか、一覧できるようにしてみた。(私が一番好きなのは、もちろん、「アイリッシュ」だ。しれっと出てきて真顔でやるな、真顔で。)
http://matome.naver.jp/odai/2133419087649968201
※「続きを読む」の下にエンベッドしますが、環境によってはNaverのサイトで見ていただいたほうが見やすいです。
で、この標語について、「冷静に、戦い続けよ」という日本語訳がある(ウィキペディア日本語版だが)。これは、私が翻訳担当なら「誤訳」と指摘すると思う。なぜなら、このcarry onは自動詞で、下記の意味だから。(比喩的な「戦い」、つまり「銃後の守り」であっても、「戦いを続ける」という意味ならば、carry on our fight(s)などと目的語を明示するはず。)
http://dictionary.reference.com/browse/carry+on
to continue to live, work, etc., despite a setback or tragedy; persevere.
(Dictionary.com Unabridged)
もうひとつ、起きていることが「非常事態」である、という認識を、少なくとも言語的にはしないのがブリティッシュの(自他共に認める)ステレオタイプ的な「らしさ」であり(例えばアメリカ人とは違って)、それゆえに2000年代にmeme化していると考えることがきわめて妥当であるから。
バーター・ブックスのサイトにもあるこのビデオの30秒台でしっかり説明されているが、Keep Calmのポスターが制作されたとき、ほかに2種類の標語が採用され印刷された。「あなたの勇気、あなたの笑顔、あなたの決意が我々に勝利をもたらす」という言語的に「戦い」っぽさの明示された標語と、「自由が危機にある。全力で守れ」という「戦争標語」以外ありえない標語である。
それら、勇ましい標語が歴史の向こうに忘れ去られた一方で、当時お蔵入りとなったシンプルこの上ない、「戦争」を明示しようとしていない "Keep Calm And Carry On" は、半世紀以上を経て、平和的な背景でこれだけミーム化している(英国はアフガニスタンやイラクで戦争をしているので完全に「平和」ではないにせよ、この標語が流行っている背景は「戦争」ではない)。この標語を見るうえで最も興味深い事実はそれである。
だからこそ、「翻訳」にあたっても、オリジナル・テクストに明示されていないにもかかわらず、ことさらに「戦争」を強調するのは(「私ならそういう翻訳はしない」の域を超えて)「誤訳」であると、私には感じられる次第。
というか、オリジナルについて「冷静に、戦い続けよ」という「翻訳」をされてしまうと、何が面白くてこんだけパロディが量産されてるのかがわからんのよ。「アイリッシュ」のパロディなど、シャレにならないものに見えてしまうし (^^;)。「完全にオリジナル・テクストと同じ翻訳」はありえないのだけれども、妥当な範囲というのはある。
言語によって描写される事実があるだけでなく、言語によって形作られる事実というのは、ある。それは表層的な「用語(ターム)」のレベルだけではない(タームとは、例えば物理学で「この現象を《なんとか現象》と呼ぶ」などとしているもの。それを名づけることによって、観察や実験・追試、定義や共有が可能になる、というのが基本にある)。例えば誰かが「用語(ターム)」を知ってるか知らないかだけで人の内面を判断したり、その人を論難することは愚の骨頂というか「上から目線」の下衆の行為だが、誰かが言語的に何を明示しようとしているか、ということは、何が共有される「事実」となるかという点において、決定的な役割を果たす。
以下、Keep Calm ... の貼り付け。
※この記事は
2012年04月12日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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