「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2012年02月23日

北アイルランド、UVFの「スーパーグラス裁判」、結果は驚きの……(付:BBCの解説記事など)

北アイルランドで71日間にわたって行われていたUVFのいわゆる「スーパーグラス裁判」(スーパーグラス=情報屋, "assisting offenders" を証人とした裁判)の判決が出された。これがもう何ていうかね、すっごい徒労感。

12 cleared of all supergrass charges
Published Wednesday, 22 February 2012
http://www.u.tv/News/12-cleared-of-all-supergrass-charges/250939db-452b-44d6-a457-308ede4c68f7

この裁判は、被告が14人に罪状がいったいいくつあったんだっけという「人多すぎ」の裁判だったのだが、本格審理に入る前に1人が証拠不十分不起訴となり、22日に判決を申し渡されたのは13人だった。そのうち1人が微罪(テロに使われうる物品の所持、たぶん拳銃や実弾だと思う)で有罪となったものの、残る12人は全員無罪。

理由は、「証人の証言が信用できないから」。

うん。それ、裁判始まる前から言われてたような気がするんだ。「スパイ」だから。。。というのとは別に、証人(兄弟2人なのだが)の一方にかなり深刻なアルコールの問題があったり、虚言癖なのか何なのか、まともに「真実」を語ることがないという問題が指摘されたりして……ニュース記事を追ってても、うわあもうなんか aaaarrrgggghhh! という。

というわけであまり追っていなかったのだけれども、この裁判が注目されたのは、「証人がスパイ」(それゆえに法廷の警備体制はものすごいものだった。それだけでニュースになってた)とか「被告人多すぎ」といった理由だけではない。この裁判のメインディッシュというか、本命の「ヤマ」が、UVFとUDAの間に生じたロイヤリスト内紛で最もhigh profileな事件のひとつだったからだ。

2000年のハロウィーンの夜、UDAのリーダーの1人のトミー・イングリッシュという男が自宅で撃ち殺された。

当時、UDAは同じロイヤリスト武装組織のUVFと激しい内紛状態にあり(「内紛」というより「組の抗争」に近いのだが)、イングリッシュを殺したのもUVFと見られ、捜査が進められた。

そういう捜査がスムーズに進まないのが北アイルランドの武装組織関連の「犯罪」であり(当時はまだ「テロ」と「犯罪」とは別の扱いがされていたが、これは「テロ」ではなく「犯罪」として処理されていたはずだ)、主犯格と目されたマーク・ハドックという人物が逮捕されたのは2005年のことだった。

このハドックという人物が、1968年生まれだからロイヤリストのリーダーとしては若い世代なのだが(だから「政治的主義主張による暴力」より「ギャング、組織犯罪」のほうが得意、という傾向もあると思う)、もう何というか、はい。もうね。ええ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Haddock

で、いろいろあった人なのだけれども捜査当局はなかなか「尻尾をつかめずにいた(棒読み←たぶん)」状態で、それがようやく起訴できたのが、もともとはUVF構成員だったスチュワート兄弟を、トミー・イングリッシュ殺害事件に関与した罪で減刑することと引き換えに、検察側の証人として証言させることにしたからだった。

しかしその「証人」が、判事(「裁判長」ではなく……北アイルランドの武装組織関連の裁判は、Diplock法廷と呼ばれるが、判事が1人しかいない。陪審もいない)いわく次のような人物で、要するに無駄。
In summary, these are witnesses of very bad character who have lied to the police and to the court ... These were the same men wearing new suits.
http://www.u.tv/News/12-cleared-of-all-supergrass-charges/250939db-452b-44d6-a457-308ede4c68f7


で、リーダーのマーク・ハドックと一緒に起訴されていた、北ベルファストのUVFメンバー合計13人(うち9人がトミー・イングリッシュ殺害に関連して起訴されていた)が、上述のとおり微罪で有罪となった1人を除いてはそろって「無罪」となり(They were also cleared of other charges including UVF membership, wounding, possessing guns and hijacking... UVFメンバーシップまで無罪ってどういうことなんだろう)、晴れやか〜〜な顔で裁判所を後に……ってもうね、この光景。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-northern-ireland-17126475

2列目左から2人目の黒いシャツ、黒いコートに紫と紺のストライプのネクタイという風体の白髪の男性がPUP(UVFの政治部門)のケン・ウィルキンソンで(UTVのギャラリーを参照)、PUPっていうのは、数ヶ月前に亡くなったガスティ・スペンス(現代UVFの創始者)が獄中で「暴力ではなく政治で世の中を変えるべきだ」と悟ったことから作った政党で、「労働者のために闘うロイヤリスト」(実際、政治的には左派)ということになるのだけど(そしてスペンスとか、スペンスの次の世代を背負っていたが惜しくも早世したデイヴィッド・アーヴァインの言葉は、実際、かなりインテリジェントなのだけど)、2010年だっけな、UVFが西ベルファストのシャンキル・ロードで白昼堂々と人を撃ち殺すということをやっても「それが連中のやり方だ」的な態度しか取れないので、当時の党首で東ベルファストっ子のかっちょええ姐さん、ドーン・パーヴィスさんが党首を辞するばかりか党から出て行ってしまった(愛想をつかした)という、ダメな政党だ。今は北アイルランドの自治議会にも議席あるのかないのかわからんくらいに縮小していて……って打ってる間に調べたほうが早いね。。。やっぱり議席ゼロだった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Progressive_Unionist_Party#Assembly_elections.2C_May_2011

ともあれ、起訴されていた13人の罪状は、トミー・イングリッシュ殺害(9人)関連を含め、全部で30以上だとか、記事を読んでいると頭が痛くなってくるかもしれないので、あまりうっかり読まないほうがいいかもしれません。

審理は71日間にわたり、これは北アイルランドの裁判で最長クラス。また、被告人の人数が多かったことと、証人(「仲間を裏切った」ことになる)の身の安全を図ることによる警備費用がかさんで、NIの裁判で最もお金がかかった裁判のひとつになったとか、ああ、そうですか、みたいな。まさに「大山鳴動ネズミ一匹」。

UVF/PUPや被告の家族・友人らは、一貫して「こんな裁判は許さない」と訴えており(そりゃそうだよね、刑期を7割カットしてもらう代わりに証言、なんて滅茶苦茶。赤いものを青とは言わないかもしれないが、黄色だったかも、くらいは言うかもしれない)、ていうかこの話もわざわざ書いても伝わらない(笑)ので、下記写真を。
http://www.guardian.co.uk/uk/2011/sep/06/supergrass-terrorist-trial-northern-ireland

判決が出たときのBBC News NI:


もうちょっと後:

このときのトップニュースの写真のところがスライドショーになってて、それがもうね。

※ハドックはファイルフォト(何年か前にon bailの期間中に出廷したときのものだと思う)。この人たち、基本的に、顔は見せない(報復とかあるので)。

ただ裁判所から出てくるときに、満面の笑みで親指立ててる人がいるけど(白いニットジャケット)。



備忘:2000年から2002年のロイヤリスト内紛で「解決」した事件があったかどうか、あとで調べること(余裕あったら)。あとUDAの内紛での殺人事件も(ジム・グレイとか)。

ロイヤリスト側は、ちょっと掘れば「英軍のスパイ」、「警察のスパイ」、「MI5のスパイ」が出てくるので、たぶん……。

最後に、この件でのタナボタとしては、BBC Newsの解説記事&映像。BBCがここまで書く・言う時代になった(「紛争」は遠ざかった)んだなあというのが何より感慨深い。

Supergrass use in Northern Ireland courts
22 February 2012 Last updated at 19:12 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/uk-northern-ireland-17121437
BBC Newsline's Mervyn Jess looks at the history of the supergrass in Northern Ireland.

映像、3分16秒、いきなり街路のボムです。音すごい。(0:45くらいでシン・フェインのオフィスの看板が出てくるのだけど、BBCでマレード・ファレルの顔だよ……時代は変わったね。)

あとは記事。画像内リンクをクリックで。


※この記事は

2012年02月23日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼