「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2006年10月11日

どれが「ほんと」なんだ?---プーチンの発言

アンナ・ポリトコフスカヤ殺害について、「バイナフ自由通信」さん11日記事経由で産経新聞さん記事:
プーチン大統領は「恐ろしく、受け入れがたい犯罪」と述べる一方、「事件はロシアに大きな打撃を与えることはない」と言い切った。

さらにYahooトピックスから毎日新聞さん記事:
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061011-00000025-mai-int
ロシアのプーチン大統領は10日、訪問先のドイツで、「下劣極まる犯罪」と非難した。一方で、「彼女の影響力はまったく取るに足らない」と述べた。


しかるに、英ガーディアンでは:
http://www.guardian.co.uk/russia/article/0,,1892362,00.html
Mr Putin said the killing had inflicted much greater damage on his government than any of the journalist's sharply critical writing.

ポリトコフスカヤは非常に批判的な記事を書いてきたが、プーチン大統領は、そのいかなるものよりも今回の殺害はプーチン政権にとって大きなダメージになっていると述べた。


しかしながら、BBCでは:
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6036241.stm
President Putin said the "horribly cruel" crime must not go unpunished.

...

"Whoever has committed this crime and whatever their guiding motives, we should state that this is a horribly cruel crime. It must not remain unpunished, of course."

But he played down the significance of Ms Politkovskaya's work.

"This journalist was a severe critic of the incumbent authorities in Russia; she was well known among journalists and human rights campaigners and in the West. However, her influence on the country's political life... was minimal."

プーチン大統領は、この「恐ろしく残酷な」犯罪は罰されずには済まないと述べた。……「この犯罪を実行したのが誰であれ、その動機が何であれ、これは恐ろしく残酷な犯罪であると言わなければならない。むろん、罰されずに済むようなことはあってはならない」。しかし大統領はポリトコフスカヤの仕事の重要性については、軽視した。「彼女は現在のロシア当局を厳しく非難していた。西側のジャーナリストや人権活動家の間では高名であった。しかしながらロシアの政界(OR政治的中心)に対する彼女の影響力は…原文で略…最小限のものだ」。

※以上、すべて太字は引用者による。

4つの中で「仲間はずれ」はどーれだ?って感じね。いや、もちろん元々の発言が英語でもなければ日本語でもないのだから、英語や日本語の記事を読むときにはそれらが「翻訳済み」であることを勘案しないといけないんだけどさ、1つだけあまりにも違う。

まず、これら4記事の話題は2つだ。産経とガーディアンは「ポリトコフスカヤ殺害の影響」についてで、前者は「ないとプーチンは発言」と伝え、後者は「大きいとプーチンは発言」と伝えている。まったく正反対だ。もうひとつの話題が毎日とBBCが取り上げている「ポリトコフスカヤの業績への評価」で、両者とも「たいした仕事ではなかったとプーチンが発言」と伝えている。

産経が「ポリトコフスカヤの業績への評価」について取り上げていればどう取り上げているかは簡単に推測できる(毎日やBBCと同じだろう)。一方でガーディアンではどうか……ううむ。ガーディアンにこの点が書かれていないのは気になるよね。ていうか何でこの点に触れてないんだろう。(記事の文字数という事情もあるかもしれないけど。)

というわけで、4つの中の「仲間はずれ」のガーディアンの記事はなかなか味わい深いものがあります。「東西冷戦・右派と左派の二項対立と21世紀」な観点から読んでみるといろいろ見えてくるものがあるかもしれません。ガーディアン自体、アイデンティティ・クライシスなのかもというのが個人的な感想ですが。(あくまでも「感想」です。いいとか悪いとか判断するわけではなく。)

一応、記事の概略:
ロシアのプーチン大統領は昨日、アンナ・ポリトコフスカヤ殺害について「胸がむかつくほどに残酷な犯罪」であり、いかなる動機で行なわれたものであろうとも罰されずに済むものではないと述べ、実行者の追跡を約束した。

またプーチン大統領は、ポリトコフスカヤは非常に批判的な記事を書いてきたが、そのいかなるものよりも今回の殺害はプーチン政権にとって大きなダメージになると述べた。ロシア大統領のこの発言は、ドレスデン訪問中にドイツのアンジェラ・メルケル首相と会談を行なったあとのもの。大統領はかつてこの町でKGB職員として働いていたことがある。

▲ここまでが記事のだいたいの内容を要約した「冒頭の部分」。

メルケル首相は、プーチン大統領に対し報道の自由は民主的プロセスの一部であると明確に示した、と述べた。〈略〉

つまり、メルケル首相は首脳会談でポリトコフスカヤ殺害について議題にした、ということです。それに対してプーチン大統領は「ひどい犯罪だ、犯人は絶対に捕まえる」と応じた、と。

またメルケル首相は「報道の自由」について持ち出しています。これがドイツにできる精一杯の「圧力」なのかも。

この先の部分でガーディアン記事の味わいがぐっと深まります。
専門家たちは、メルケル首相は、商業上また国際関係上でキーパートナーたるロシアと良好な関係を保とうとする一方で、こういった問題を取り上げることで、外交的綱渡りをしている、との分析を示している。

German Council on Foreign Relationsのロシア専門家でフォーラムのコーディネイターであるアレキサンダー・ラール(訳注:読み方は「レール」かも。Alexander Rahr)は、「メルケル首相は慎重になる必要がありますね」と述べる。「イランや北朝鮮、レバノンに対しては、ドイツ首相はロシアを緊密な同盟国として必要としています。ロシアを孤立させるリスクは犯したくないでしょう。」

この研究所(German Council on Foreign Relations)のスタンスとかがわかればもうちょっといろいろと、な感じですね。

この専門家は北朝鮮に言及していますが、記事そのものは北朝鮮についてはむにゃむにゃ書いてるだけという感じもします。(北朝鮮の核開発については、ロシアは間違いなくキープレイヤーなんですけど、この部分の記事を書いたのがロシア特派員ではなくドイツ特派員であるためか、ドイツがプライオリティと位置付けている「イランの核開発」についてのそれなりの記述はあっても、北朝鮮については「両首脳は一致した」程度で。)

さらにずっと後のほうで:
メルケル首相は1月からEU議長となるが、EUはロシアとの緊密な関係を維持していくと述べた。

ロシアはドイツの天然ガスの3分の1を供給しており、ドイツにとっては非常に重要な経済的パートナーである。また、ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツはロシアの対外貿易の10分の1をになっている。

両国の商業的関係はシュレーダー前首相とプーチン大統領の友好な関係のもとで飛躍的に伸びた。両首脳のプロジェクトのなかには、バルト海の海底を横断しドイツまで直接天然ガスを輸送する大規模なパイプライン計画も含まれている。

今年1月のウクライナのあれとか考えると、うにゃあ、恫喝外交@ロシア流、とか思うんですけど。(資源開発については日本も無関係ではないですね。)

しかしガーディアン記者のこの書きっぷり、どう解釈したらいいんだろうね。書いてあることは客観事実であるけれども、含みがいろいろとありそうな。。。

おまけ:
同記事から、「プーチンとドレスデン」について。
ドレスデンでは、プーチン大統領は1985年にスパイとして仕事をしていたが、その任務は東ドイツの共産党政権の崩壊で終わりとなった。東ドイツでの年月についてはプーチン大統領はほとんど明らかにしていない。

(当時)32歳のスパイ(だった大統領)は、社会党の団地の3ベッドルーム(訳注:3DKという感じ)のアパートに家族とともに住んでいたと言われている。諜報部のチャンネルを通じて彼は西ベルリンの高級デパートKaDeWeからステレオを取り寄せることすらできていたが、これは共産主義の東ドイツでは通常ありえない贅沢であった。

共同記者会見の席上、プーチン大統領は懐かしいという気持ちを少し漂わせていた。「私の子供はここで生まれ、私は最初にドイツに来たときはちょうどドイツ語を習っていたところでした。こういったことが、本日の会談の雰囲気をよいものにしていました。」


なお、プーチンがいかにひどい奴であるかを糾弾する記事が読みたい方は、テレグラフとかタイムズがいいのではないかと思います。

人権だ、報道の自由だという点では英国も米国もたたけばホコリが出てきますから(さすがに「ジャーナリスト殺害」という直接的な行動は、特に狡知に長けた英国のポリティックスではほとんど見られないし、ホコリを出すには相当たたかないと難しいんだけれども)、どこらへんでどう突っ込むのか興味を持って見ていますが、BBCは「この事件はロシアだから起きた」の方向に完全にシフトしているように見えます。(ポリトコフスカヤ殺害の関連記事のすべてに「殺し屋の犯行と思われるロシアでの殺人」のリストをつけている。Omagh Bombingについて毎度「双子を妊娠していた女性を含む29人が殺された/死亡した」と書くような調子。)

※この記事は

2006年10月11日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 15:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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