「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2006年10月10日

英国でテロ計画未然に防がれる! ただし・・・

どっかのコメント欄で誰かが書いていたので知った記事。じゃなかったら知らなかったと思うよ。BBCとかに出てないもん。

Chemicals Find: Two In Court
http://www.pendletoday.co.uk/ViewArticle2.aspx?SectionID=8&ArticleID=1806619

不法な目的で爆発物を所持していたとして49歳と62歳の男2人が逮捕・起訴された、という記事。10月6日付け。

法的根拠は、the Terrorism Actではなく、the Explosive Substances Act 1883(<こりゃまた古い法律だ)。

警察の捜査で押収された物質(爆発物製造に用いられる化学物質だと思われる)の量は英国で過去最大だそうだ。もしこの計画が進められていたらと考えるとぞっとするね。

ただしこんなにでかい話なのに、BBCとかで記事になってる気配がないんだよね。少なくとも、UK versionのトップページでは見てない。(International versionのトップではもちろん見てない。)

なぜか? 

たぶんこれが「イスラム過激派の恐ろしいテロ計画」じゃないからだと思う。

Cottage is an ex-BNP member who stood as a candidate in the Pendle Council elections in May.

Mrs Christiana Buchanan, who appeared for the prosecution in Jackson's case, alleged the pair had "some kind of masterplan".

She said a search of Jackson's home had uncovered rocket launchers, chemicals, BNP literature and a nuclear biological suit.

Cottageというのは人名。起訴された2名の男のうち、49歳のほうだ。この男、元BNP党員。つまり極右。今年5月の地方選では地域の議会の議員に立候補していた(が、落選しているってことだよね、この書き方は)。

Jacksonというのは逮捕されたもうひとりで62歳の男。元歯医者。

検察側は「両者は何らかのマスタープランを持っていた」と主張、ジャクソンの家を捜索したところ、ロケット・ランチャーや化学物質や、BNPの書き物や防護服が見つかった、と述べた。

ちなみに記事を掲載した媒体は、East Lancashireの地方メディアです。

BNPは最近「クリーンな政党」になろうとしているのか、なろうとしているふりをしているのかで、こういう恐ろしいことは組織としてはしてないようですが、組織としてどうするのかと組織のメンバーが個人のレベルで何をするのかは別な話で(先日のthe 12th IMC Reportでもしつこいくらいに「ロイヤリスト側武装組織は組織としてはほにゃららだが個人がほにゃららしている」という記述が出てきましたが)。49歳と言えば元コンバット18世代とかの可能性もあるなあ。

化学物質が見つかった町、Colneについて:
http://en.wikipedia.org/wiki/Colne
Colne is a town in east Lancashire, in the north-west of England, with a population of around 20,000. It is a principal town in the district of Pendle, and is the last station on the Colne to Preston railway. Colne is located 2.5 miles north-east of Nelson (the administrative centre of Pendle), 6 miles north-east of Burnley, 25 miles east of Preston, 25 miles north of Manchester and 30 miles west of Leeds.

うはー。バーンリーから6マイル(=10キロ足らず)ですか。このへん、BNPが地方議会に議席持ってる地域じゃん。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/4974870.stm

バーンリーは2001年に暴動になった町のひとつです。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/5032166.stm

選挙結果のニュースのページにBNPの党首のおもしろいコメントがあったんで引用しておこうっと。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/4974870.stm
"We're not a Nazi party. People can look at our manifesto online and see we're committed to a libertarian position in many things, and most certainly to the extension let alone the maintenance of democracy."

ネットでマニフェストが読めて、リベタリアンなスタンスを取っていればナチじゃないようです。この人はアホではないので(アホどころかインテリで頭切れます)わざとこういうふうに言っているんだと思いますが、BNPが「ナチ」と呼ばれるのはそういうのが理由じゃないと思うよ、あたしゃ。



用語集&メモ(10月10日追記):

■BNP (= British National Party)
http://en.wikipedia.org/wiki/British_National_Party

極右勢力としては英国最大の政党。「英国の白人の労働者階級」の代弁者を自認。フランスの「国民戦線」(ジャン・マリ・ルペンの党)やドイツの「NPD」といった欧州大陸の極右政党と友好的関係にある。

1980年、元National FrontチェアマンのJohn Tyndall(1934-2005)によってNew National Frontとして設立、すぐにBNPに改名。1999年、党首選でTyndallが破れ、Nick Griffin(1959-)が党首となる。

Griffin党首のもと、BNPはイメージアップをはかり(a programme of modernizing the BNP's image)、「非白人(=いわゆる『移民』)は強制送還すべき」としていた主張を「非白人は自主的に英国を去り本国に戻るべき」などと変更。「英国人」らしさを“守る”こと、非欧州系の人々と「英国人」との間にはっきりと境目をつけることなどを主張しながら、「自分たちは人種差別主義者ではない」としている。

国会には議席は持っていないが、2000年代に地方議会での獲得議席数を増している。

その他、注目すべき特徴として、反ユダヤ主義&ホロコースト否定論、反イスラムなど。

■英国の「極右テロ」
「大ニュース」になったもので、時期的に最も新しいのは、「SOHOネイルボム事件」を含む一連の爆弾テロ(1999年4月)。事件発生直後はusual suspectsでIRAじゃないかという話もあったと思う(<記憶に頼っていますが)が、狂信的な極右(ホモフォビア&ゼノフォビア)の犯行。
http://en.wikipedia.org/wiki/Admiral_Duncan_pub
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/781097.stm

元極右組織メンバーのデイヴィッド・コープランド(当時20代初め)が、手製のネイルボム(空き缶などに爆薬と釘を詰めた爆発物)をロンドン中心部SOHOのパブ、the Admiral Duncanに仕掛け爆発(事前警告なし)。死者3名、負傷者120名以上。このパブは同性愛者の間で人気のあるパブだった。

SOHOのパブの前に、ロンドン南部のブリクストン(アフロ・カリビアンの人が多い)と東部のブリックレイン(アジア系の人が多い)に仕掛けられていた2件のネイルボムもコープランドの犯行と判明。ブリクストンとブリックレインでは合計で45人が負傷している。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/780069.stm

事件はコープランドの単独犯行との結論。コープランドは人格障害などを主張したが情状酌量は認められず、2000年7月に有罪となり、終身刑6回を言い渡された。現在服役中。極右の機関紙などではコープランドは英雄視されている。

なお、爆弾事件では軽傷を負っただけで済んだパブのオーナーは、2004年、15歳から21歳の男3人と女1人のグループに撲殺された。このグループは携帯カメラで暴行現場を録画・中継するhappy slappingとしてオーナーを襲撃。ホモフォビアが動機ではなく、たまたまそこを通りかかった人を襲撃しただけだったらしい。
http://en.wikipedia.org/wiki/David_Morley
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/4410462.stm

■コンバット18
http://en.wikipedia.org/wiki/Combat_18
http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/panorama/1672100.stm

1992年に結成されたネオナチ武装組織。極右ロックバンド周辺のB&Hとフットボール・フーリガンから成っていた。組織の創設にはMI5が関わっていた(そこらへんの暴れん坊をまとめておくために)という話もある。

■2001年の暴動
2001年夏(5月〜7月)にイングランドの北部、オールダム、ブラッドフォード、バーンリー、リーズなどで連続して「人種暴動」が発生。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/in_depth/uk/2001/summer_of_violence/

これらの地域では1950年ごろから白人と非白人の間での緊張は存在しており、衝突やヘイトクライムはたびたび発生していたが、2001年夏の暴動は非常に組織だった大規模なものだった。

※メモ:
暴動には白人側ではBNP, NF, C-18などが組織的に関与。非白人側でも組織的な動きがあった。

このときにBNP党員が暴行を行なったことが、BBCの潜入取材で明らかになり(2004年)、バークレイズ銀行がBNPの口座を閉めるなどしている。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/3894529.stm
http://politics.guardian.co.uk/farright/story/0,11375,1263468,00.html

■BNPの地方議会の議席
最初にBNPが地方議会に議席を獲得したのは1993年。ロンドン南東部(SE)のミルウォール選挙区。
http://news.bbc.co.uk/onthisday/hi/dates/stories/september/17/newsid_2520000/2520085.stm
http://en.wikipedia.org/wiki/Millwall

その次にBNPが議席を獲得したのは、暴動後の2002年のこと。バーンリーにて3議席を獲得(得票率20%以上)。

2006年の地方議会選挙結果については:
http://nofrills.seesaa.net/article/24632723.html

※あれ、↑の記事で自分で次のように書いてた。Pendleという地名を記憶していなかったのだけど、本文部分の「大量の爆発物」とがっつり関係のある地域ですね。逮捕・起訴された男の1人が立候補していたのがPendleということで。
今回選挙でBNPの最初の議席が確定したPendleは、North West Englandの内陸部。これまで議席ゼロだったところで1議席を獲得した。(全体ではLibDemが過半数。)



BBCでは報じられていないのかどうかの確認(10月10日追記):

本文冒頭で「BBCとかに出てないもん」とか「BBCとかで記事になってる気配がない」とか書いた責任上、確認をしてみた。以下、切り張りした画像を貼り付けておくが、結論を言えば、元の地方メディアの記事に出ていた被告人2名の名前でBBCで検索しても何も出ず、地名で検索してもこの件についての記事は何もなく、裁判所の名前で検索しても同じく何もなかった。ということは「BBCではこの件を報じていない」と断言できる。

bbcsearch-pendlebomb.png

BNPの勢力が強い地域でBNP支持者やシンパが爆発物を準備していたからといって、全国レベルのニュースではないのかもしれない。しかしこの地域は極右集中地帯だ。ウォルサムストウがあんなに注目されていた(どのメディアでもトップ扱いだった)ことと比較すると、やっぱ「???」という気持ちにはなる。だいたい、北アイルランドのdissident republicansの集中地帯で爆発物が見つかって摘発とか検挙とかがあれば、BBCは記事を立てるんだし。(すべての件について記事が立てられるわけではないかもしれないが。)

なお、英国政府当局は、極右組織や極右支持者やシンパが絡んでいる組織に対して内偵なども行なっているようだ。ただ、そういうのはあんまりニュースにはならない。どっかのメディアが取材をしたものが記事になることはあるが。(そういったものの例としては、"father 4 justice"と"far-right"を検索ワードにしてGoogleなどで検索してみると、ちょこちょこと見つかるんではないかと思う。)

※この記事は

2006年10月10日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 00:37 | Comment(1) | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この件、このエントリでのアップデートをしていなかったのを発見したので今さらですが。

2007年02月28日
「元BNPのテロ計画」はあったのかなかったのか。
http://nofrills.seesaa.net/article/34948952.html

英語版ウィキペディア:
http://en.wikipedia.org/wiki/Talbot_Street_bomb-making_haul
Posted by nofrills at 2008年11月10日 21:41

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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