「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2012年02月10日

イアン・ペイズリーの入院について

今週初め、北アイルランドのメディア(UTV, Bel Tel, BBC NI)のサイトでトップニュースとなっていた「イアン・ペイズリーの入院」の件だが、水曜日にはいずれのサイトのトップページにも記事は出ていなかった。

今(日本時間で金曜日朝)のBBC NIのトップページ。ちょっとまたデリーがよくないですね、というのがメイン。(昨日は私が見たときは、病院の院内感染の件と殺人事件が大きな扱いだったか。)



入院しているイアン・ペイズリーについては、特に大きな変化は伝えられていない。というか伝えられている情報が少ない。

はっきりしているのは「日曜日に倒れて東ベルファストの病院に搬送され、集中治療室に入っている」、「家族が病院に詰めている」ということだけで、病状について医師団からの説明があるわけでもない(ペイズリーは既に、政治家としても宗教家としても引退しているので、「公人」の扱いがされなくなっていることは不自然なことではない)。家族が「プライバシーを尊重してほしい」と声明を出しているが、倒れた原因もはっきりしない。以前から心臓に問題があり、ペースメーカーを入れているということは報じられているので、「未確認ながら」として報じられている「心臓に問題が生じて」という説明は説得力があるが、当初伝えられていたような「心臓発作 heart attack」なのかどうかははっきりしない。ジャーナリストのエイモン・マリーは現地6日夜(日本時間7日早朝)の時点で、「信頼できる筋から聞いた」として「心臓発作ではない」とツイートし、その後さらに「心臓発作との説は否定」と断言している。

85歳と高齢でもあり、しばらくは入院が続くのかもしれない。2011年2月には上院(下院議員からは引退したが、一代貴族となっているので上院に議席がある)で具合が悪くなったあとで、心臓にペースメーカーを入れている。

イアン・ペイズリーは、つい最近、公的生活から引退した。プレスビテリアン教会のエキュメニズムに反対して1951年に設立した新興の教会、「フリー・プレスビテリアン・チャーチ・オヴ・アルスター」という組織のトップ(モデレーター)から退いたのが2008年のことだったが、その後も自身の地元の教会での仕事は続けていた。宗教家として最後の説法 sermonをしたのは、倒れる10日前、1月27日のことだった(元々伝えられていたところでは最後の説法はクリスマスにということだったし、実際に12月18日に「最後の説法」が行われたはずなのだが、最後の最後があったようだ)。ベルファストの教会で、2500人とも3000人ともいわれる人数を集めたそうだが、このときの様子を伝えるニュース映像でのインタビュー(説法の前に控え室で行われたもの)では、「胴間声」と言いたくなるようなあの大きくて太い声が、すっかり衰えていた。

There had been concerns several years ago about Mr Paisley's health when he lost weight and looked gaunt.

But he made a good recovery from heart problems and while his voice was showing signs of obvious weakness, some people who were there for his farewell sermon at the Martyrs Memorial Church in Belfast on January 27 remarked on how well he appeared for his age.

One member of the congregation said: "I have rarely seen him in better form. Steady on his feet, it was typical Paisley cracking the odd joke with a jibe. He may have looked 85, but he was in fine form, really good."

Read more: http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/northern-ireland/paisley-critical-sinn-fein-mla-i-hope-he-pulls-through-16114426.html#ixzz1lwOJjUY5


ペイズリーが入院したあと、家族の「そっとしておいてほしい」という声明が出された上に、本人が既に公的生活から引退しているということもあってか、「政界の反応」というものはあまり伝えられていない。といってもペイズリーの場合、自身が設立した政党であるDUP所属の政治家のほとんどが、自身が設立した教会の信徒でもあり(ただしピーター・ロビンソンは違う)、教会の人の談話で代表させているのかもしれないが。

そのあたりのことは、8日のベルファスト・テレグラフの記事にまとめて書かれている。記事タイトルは「フリー・プレスビテリアン教会のモデレーターが」という主語になっているが、記事本文はむしろ政界というか、北アイルランド自治政府トップのコメントのほうに重点がある。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/northern-ireland/paisley-critical-moderator-hails-great-qualities-of-big-ian-16114969.html
A spokesman for Mr Robinson and Mr McGuinness said: "The First Minister and the deputy First Minister have both been in contact with the Paisley family. They have offered their best wishes to Dr Paisley and his family and call on the community to give prayerful support to Ian and his family at this time.

"The First Minister and the deputy First Minister would appeal for the Paisley family to be given the space and privacy they deserve and that their wishes are respected."

わかりづらいといえばわかりづらいのだが、北アイルランド自治政府はFMとDFMの2人がトップで、上記のステートメントはOFMDFM (the Office of First Minister and Deputy First Minister) として出されたものである。FMはDUPのピーター・ロビンソン、DFMはシン・フェインの、つまり、イアン・ペイズリーがかつて唾棄していた「カトリック」で「フィニアン」の、しかもIRAの幹部でもあったマーティン・マクギネス。

このコメントが出たとき、あるジャーナリストはTwitterで「マーティン・マクギネスがイアン・ペイズリーにお見舞いをと言葉にし、ペイズリーのために祈りをと呼びかけている。時代がいかに変わったかを物語っている」ということを述べていた。実際に、そうだと思う。

しかし、現実はそんなに物分かりよくはない。ペイズリーといえばMEPだったころに欧州議会の議場で「教皇はアンチ・クライスト」とぶちかますなど、カトリックへの敵視で知られる(カルヴァニズム系ファンダメンタリストなのだから当たり前だが)。この敵視が、「教会というシステム」に向けられたものだったならば、「北アイルランド紛争」はあんなにならなかったかもしれない。しかし実際には、ペイズリーの「カトリック敵視」は、「カトリック教徒への差別」の言辞だった。そのことは、絶対にスルーしてはならない。第一報があってすぐの段階のTwitterでもいくつか、非常にビターなコメントがあるが、それはそういうコンテクストでのものだ。



このあとニュースが広がるにつれて、だんだん、見ているのがつらいほどひどい言葉も出てくるようになったが……「メシウマ」的な。

しかし、「ご快癒を」といえない人たちを "sick people" と呼ぶのは、ただの歴史修正主義だと思う。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/opinion/columnists/fionola-meredith/those-who-enjoy-paisleyrsquos-ill-health-must-be-sick-people-16115031.html

これもまた、「和解」、「赦し」の問題。



イアン・ペイズリーについては:
Paisley: From a firebrand unionist to sharing with SF
Tuesday, 2 March 2010
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/paisley-from-a-firebrand-unionist-to-sharing-with-sf-14704846.html

31年前はこんなでした。



7日のベルテレのトップ:


※この記事は

2012年02月10日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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