とりあえず、英語の記事のリンク集。Google Newsの記事のリストのキャッシュをとっておきましたので参照してみてください。ヒューストン・クロニクル掲載のPA記事とか、Euronewsの記事がコンパクトです。(でも北アイルランドについて調べたりしている人にはこれでは全然足りない。)
政治として重要なのは、「IRAは活動をすっかり停止したとブレアは述べた」、だから次にどうなるか、ということです。
日本語では共同通信さんが記事を出しているようです。Google News(日本)から発見したURL:
http://www.usfl.com/Daily/News/06/10/1004_012.asp?id=50779
IRAはテロ活動停止 独立委が報告書
英領・北アイルランド和平を監視する独立委員会は、4日発表した最新の報告書で、プロテスタント系から和平の障害として懸念が出ているカトリック過激派アイルランド共和軍(IRA)について、もはや犯罪やテロ活動などに携わっていないとの見解を示した。
今回の報告書が発表されたことで、対立するカトリック系とプロテスタント系が、北アイルランド議会での自治復活に関する協議で、11月24日の期限までに合意に向け歩み寄ることが期待されている。
・・・後略
「プロテスタント系から和平の障害として懸念が出ているカトリック過激派アイルランド共和軍(IRA)」という部分にツッコミ入れたくてしょうがないのだが、おおかたスルー。(「和平の障害」というのは「懸念」じゃなくて「主張」や「指摘」だし、「プロテスタント系」と「カトリック過激派」という宗教的な分類もほんとに無意味。対立軸は「ユニオニスト」と「ナショナリスト」だ。)
「期待されている」って、誰が期待してんのか?ってことまで明示しないと意味ないし。
ということですが、要するに現状としては、昨年夏に武装闘争終結宣言を行ない、昨年9月には武器の放棄が確認されたIRA (Provisional IRA)について、今回(2006年10月)の独立監視委員会(IMC)が出した報告書で、それが追認された、ということです。で、それがどうして重要なのかというと、今年11月24日を期限とする「北アイルランド議会での自治復活」(=アセンブリーの再起動)に向けてのプレテクストとして重要。自治の復活は北アイルランドのためというよりブレアのため。1997年に首相になったブレアが最初に最優先でやったのが北アイルランド和平で、現在の和平の枠組みは1998年のベルファスト合意(グッドフライデー合意)。これを完了させないことには、「ブレア首相」の業績として「和平」というものが残らない。だからブレア(とその側近)は必死・・・ということだと思います。それがいいとか悪いとかではなく。(政治ってのはそういうものだと思うんで。)
で、自治政府はアセンブリーの第一党だけが閣僚を占めるのではなく、民意の選択(得票数)に応じて各政党から閣僚を出すということになっているのですが(1998年のベルファスト合意による)、「プロテスタント」の政治的過激派(笑)のDUPがこれに猛反発してきた。「シン・フェインはIRAと表裏一体だ、よってシン・フェインはテロリストだ。テロリストと権限を分け合うなどありえない」と。
で、DUPが小政党なら別にいいんですが、2000年代にDUPは北アイルランドの第一党になってしまったので、「元々ベルファスト合意には反対していた」という彼らの声がむちゃくちゃ大きくなった。
一方のシン・フェインはナショナリスト(「カトリック」と言い替えましょうかね)の間では最大政党で、北アイルランド全体では第二党。シン・フェインがベルファスト合意に賛成したことで、同合意を「現在の南北分断を固定化させる」ものであるとするガチガチのナショナリスト(36カウンティ主義)はシン・フェインから分派。IRAでも同様のことが起きて、Provisional IRAは停戦したけれども、合意反対のIRA過激派が分派して、Real IRAができた。(CIRAはその前に分派した過激派。INLAは昔からの過激派というか、共産主義革命路線でIRAとは別組織。)
というわけで、IRAはIRAでもいろいろあるのだけれども、とにかく最大の問題はProvisonal IRAで(実際、数多くの「テロ」を行なってきたのはPIRAだし)、その活動停止と武装解除が、権限分担を前提とする自治にとっては必要だった。
で、それが2005年から2006年にかけて実施・確認された、と。
それゆえ、次はDUPの出方次第。これまでにもさんざんゴネてきたDUPも、今度はもうゴネていられないだろうというのが、ロンドンとダブリンの読み。
ただし、「そもそもダブリンが関わることが許せない」「そもそもベルファスト合意に反対」とかいった感情的というか非論理的な反応もあると思うんで(<未確認。ただしこれまでのパターンから推測はできる)、あとはダブリンおよびロンドンが、DUPとどうネゴするか、という話になってくると思います。
DUPは元々政治的である以上に宗教的な集団で(「ドクター・ノオ Dr No」こと党首のイアン・ペイズリーは宗教家)、しかもプロテスタント、というかスコットランドのカルヴァン派(プレスビテリアン)の系列だとは思うのですが、ペイズリーの設立した(<ここ注目)フリー・プレスビテリアンという宗派は、ガチでファンダメンタリストというかある意味ピューリタンで(「北アイルランド」のそもそもの始まりは、クロムウェルの時代のアルスター入植)、カトリック(と無神論者)はDUPにとっては敵でしかない。これまでにも「ローマ法王はアンチ・クライストだ」とか、わけのわからないことを数々発言してきている。発言の有無じゃなく、そう思っているということが重要なのだけど。
フリー・プレスビテリアンという教会は北アイルランドでもそう大きなものではないようなのだけれども、政治的に大きな支持があるということはそう簡単な問題ではなくて、「無視されたワーキングクラス」の話とも関連している。
というわけで、共同通信の記事のように、「プロテスタント」側に理があるのに「カトリック」がごねている、かのような書き方はほんといかがなものかと思います。
第一、今最大の問題は、UDAとUVFという「プロテスタント」側の武装組織なのだしね。その活動内容は政治的というよりもただのギャングであるとしても。
※この記事は
2006年10月05日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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