ホワイトハウスの反応を受けて、法案はshelvedの状態になったようだが、18日の抗議行動は予定通りにおこなわれる(廃案になったわけではないので)。詳細は下記などを参照。
http://allthingsd.com/20120117/list-of-sites-planning-sopa-protests-continues-to-grow/
http://en.wikinews.org/wiki/Wikipedia,_Reddit_in_%27blackout%27_against_SOPA,_PROTECT_IP_laws?dpl_id=342230
「24時間ウィキペディアが使えない」ことの不便さをグチってるのを見かけたが、調べ物の窓口になるのはウィキペディアだけじゃないし(例えばCIAのワールドファクトブックとか、BBCのサイト内検索など代替となるものはあるわけで)、むしろウィキペディアに一極集中させちゃうことの危うさをここに見るべきと思う。あと、個人的には、どんだけdisられてもこういう抗議行動をオーガナイズできるという点で、SACなどには感心する。
18日、米国のインターネットでストライキがおこなわれる。ネット上の少なからぬ部分がブラックアウトすることになっている。
これは、最もわかりやすいものを取って、「ウィキペディアのブラックアウト」として注目されているようだ(ウィキペディアはブラックアウトを予定している多くのサイトのひとつにすぎないのだが、とにもかくにもビッグネームではある)。たとえばBBCなど。
「ガラパゴス」状態の日本語圏ですら、IT関連のメディアはもちろん共同通信も記事を出し、それが大手新聞に掲載されている。
ウィキペディア(というかウィキメディア財団)のジミー・ウェールズは、「よいこのみんな!宿題は早めに済ませようね。水曜日、ウィキペディアは悪い法律に抗議しますよ」とツイートしている。
彼が「悪い法律 bad law」と述べているのは、その直後にある #sopa のことだ。
SOPA = the Stop Online Piracy Act. 「オンラインでの海賊行為阻止法」。(米東部時間の)水曜日は閲覧できなくなるけれども、英語版ウィキペディア:
http://en.wikipedia.org/wiki/Stop_Online_Piracy_Act
……と、今(17日午後4時ごろ、日本時間)見たらこうなっていた。
「今から23時間もしないうちに、英語版ウィキペディアは全世界で閲覧できなくなります。SOPAとPIPAへの抗議です」と書かれたこのバナーをクリックすると、下記に飛ぶ。ここに詳しく説明されている。
http://wikimediafoundation.org/wiki/English_Wikipedia_anti-SOPA_blackout
PIPA =
http://en.wikipedia.org/wiki/PROTECT_IP_Act
PIPAは2010年に廃案となった(んだったと記憶している)COICA法案の仕切りなおし、再チャレンジだ。COICAについては下記に、とてもわかりやすい日本語ページがある(2010年10月4日付):
http://tezawaly.jp/archives/2010/10/demandprogress-coica/
COICAについてのEFFの記事は、@heatwave_p2pさんのところで翻訳が上がっている(同年10月7日):
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-1714.html
出発点としての非常に大まかなところとしては、これがゾンビのごとくよみがえったのがSOPA and PIPAという法案であるという理解でOKだと思う。
COICAについての@heatwave_p2pさん翻訳のEFF記事から:
この法案(引用注:COICA)の主なメカニズムは、インターネットのドメインネームシステム(DNS)に干渉することにある。DNSはたとえば"www.eff.org" や"www.nytimes.com"といったドメインネームを、コンピュータがコミュニケートするためのIPアドレスに変換してくれる。この法案は、検閲するドメインに関して2つのブラックリストを作成する。1つめのブラックリストには、司法省が「主に」権利侵害を目的だと判断したサイトが載せられる。この法案では、ISPやドメイン登録業者にそのリストに掲載されたドメインを検閲するよう、強い法的インセンティブが与えられる。2つめのブラックリストに載せるサイトは裁判所が判断するのだが、これは司法長官が裁判所に要請する形をとる。この法案は、2つめのブラックリストに含まれるサイトを検閲するよう、ISPやドメイン登録業者に義務づけている。
同じく、COICAについてのtezawaly.jpさんのページから:
Q: 当面の間、著作権を保護するのが目的なんでしょ?
A: それがいつまで続くと思う? ひとたび司法長官がインターネットを検閲するためのシステムを手にすれば、Web サイトに関連する問題に頭を抱えている誰もがそれに乗っかろうとするはずだ。Wikileaks やポルノ、ギャンブル、アナーキスト、テロリストらしき者、それから司法長官がお気に召さないあらゆる人間にブロック範囲が拡大されるのも時間の問題だろう。もし何か違法なことをしている人々がいれば、政府は彼らを法廷に連れていき、それをやめさせる必要がある。彼らのドメイン名をブロックするための適切なデュープロセスを踏まえてね。
この日本語記事がアップされた2010年10月というと、Wikileaksに関しては、例のCablegate(米外交公電大量リーク)の前、「イラク戦争ログ」の数週間前にあたるが、その時点で既に、「コラテラル・マーダー」のビデオ(イラク戦争で、ロイターの記者のカメラを武器と思い込んだ米軍戦闘ヘリ乗員が、空から地上に攻撃を加えてその記者ら何人もを殺したときの軍の記録映像)と、「アフガニスタン戦争ログ」は公開されていた。(むろん、ほかにも多くのリーク文書公開行為をおこなっているが、ここでは誰もが記憶している大きな事案で、なおかつ米国関連というものだけに注目することにする。)
で、思い出されるのは、「コラテラル・マーダー」のビデオは、誰か(結局、正確に「誰」だったのか……)が「著作権」を盾に、ネットから消そうとしたことがある、という事実だ。
2010年05月16日 WikiLeaksの入手した米軍ヘリ誤射事件の映像が、著作権侵害の申し立てにより、一時見られない状態に(現在は復活)
http://nofrills.seesaa.net/article/150071801.html
WikiLeaksは映像をネット上で誰でも見られる場所にアップロードした。入手した映像は40分近くと長いものであるため、半分以下の18分弱に編集した短縮版も作られた。……
その「短縮版」が、今日、YouTubeによって削除されたということを、WikiLeaksがTwitterで伝えた。……
いわく、Spanish Broadcasting Systemなる米国の企業が著作権侵害の申し立てを行ない、YouTubeが映像を削除したとのことだ。
……WikiLeaksの「削除された」とのTweetがあってから1時間ほどあとにはもう、http://collateralmurder.com/ のエンベッド・プレイヤーで短縮版が見られる状態になった(戻った)。
このときの申し立て主である「スパニッシュ・ブロードキャスティング・システム」は米国各地でスペイン語(と英語)のラジオ放送をおこなっている会社だ。例えば「CNNが制作した番組が、CNNとは関係のない人によってYTにアップされているので、CNNがYTに対し著作権侵害を申し立て、YTはその映像を削除した」ということなら単なる「違法アップロードへの対処」であり「検閲」などではないのだが、米国の民間のラジオ局がイラクでの米軍資料のビデオについての著作権を有するとは考えられないわけで、いったいどういう理屈でそんな申し立てが通ったのか、わけわかんないね……という会話をしたことは覚えているが、結局数時間で元に戻ってしまったし、ほかにもフォローすべきニュースはたくさんある、ということで、そのまま流れていってしまった。
ただ、「著作権というものを盾にして、そういうことが起こりうる」ということは記憶しておかなきゃ、ということだけは流れていかなかった。(なお、しつこいようだが、「テレビ局が自局の番組が勝手にアップされているのを削除要請する」というケースとこの事例は、まったく違う。単なる著作権違反の事例を「検閲」と言って騒いで回る人、私はあなた方とはまったく別のスタンスを取っているので、都合よく記述・発言を利用したりしないよう、よろしく。)
「著作権法」関連では、最近、こんなこともあった。TV番組をオンラインで見られるサイトを作った英国の学生が、米国の「著作権法」に違反したという疑いで(あくまでも「疑い」である)米国に身柄を送致されることは法的に妥当なものであるかどうか、という点について、英国の司法が「妥当」との判断を示した。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-south-yorkshire-16544335
Speaking before the hearing, Mr O'Dwyer said he was "surprised" when police officers from the UK and America seized equipment at his home in South Yorkshire in November 2010.
However, no criminal charges followed from the UK authorities.
The case was brought by the US Immigration and Customs Enforcement agency, which claims that the TVShack.net website earned "over $230,000 in advertising revenue" before US authorities obtained a warrant and seized the domain name in June 2010.
この件ではテレグラフの記事も非常にしっかりしている。この記事によると、弁護士は「サイトはGoogleやYahooと同じくただのリンク集であり、それ自体が著作権侵害とはならない」と主張している。それでも身柄送致が法的に妥当と判断されるということで、記事に紹介されているこの学生さんのお母さんのように、「英米間の身柄引き渡しに関する取り決めがひどい。(アメリカは)自分たちが訴追したいと思ったら、誰であろうと訴追するのだ」と感情的反応が出るのも無理はない。
しかし、1月なんてえらく寒そうなのに、彼は上着も着ず、中がもふもふになってるわけでもなさそうなスウェットシャツ1枚で、寒くないんだろうか。(^^;) いや、これを真顔でやるのがさすが、英国クオリティなんだけど……(学生さんも、テレグラフも)。(via kwout)
このように、米国じゃなくても、「リンク集は著作権侵害の可能性がある」と判断されるこんな世の中じゃ、ポイズン、で、例えばLifehackerの日本版の下記の記述(基本的に、英語からの翻訳)のようなものを見て、「心配しすぎ」とか言ってはいられないことは、明白である。
http://www.lifehacker.jp/2011/11/111128wtfissopa.html
「SOPA」とは「Stop Online Piracy Act」の略で、何かいいことのためになるという風に見せかけて、実はインターネットをネガティブに変化させる恐れのある深刻なアクションです。著作権を侵害する「おそれがある・可能性がある」サイトを検閲するという名目で、エンターテインメント産業を管理下に置こうとしています。この言葉(概念)はかなり曖昧で、TwitterやFacebookなど、多くの人々が毎日使っているサイトが囲い込まれる可能性も十分あり、SOPAは深刻な問題となりつつあります。
SOPAはアメリカの法案ですが、これが通れば日本のサイトも同じく適用される可能性がないわけではありません。今やインターネットには国境などあってないようなものなので、私たち日本人もアメリカのサイトやサービスを利用しています。それらがある日突然使えなくなることもあり得るわけです。
私は日本語ではこのニュースは追っていないし(@heatwave_p2pさんのブログが継続的にフォローしておられるが、あまり読めていない……)、英語でもあまり本気では追えていないのだが、EFFのがっつりした記事とか読んでいられる余裕がない場合も、Nine Inch Nailsのサイトのフォーラムで誰かがポイントをまとめてくれているのが、非常に便利だ。(この流れでは、あたくしについて「NINのステマ」疑惑が出てしまう…… ^^; でもこれ、便利なので。掲示板としてのやり取りは全然成立してないけど。)
http://forum.nin.com/bb/read.php?31,1322907
つい数日前には、米ホワイトハウスがSOPA & PIPAについて非常に否定的な見解を示した。これは、見解が示されたときにTwitter上の米国圏でかなりの反響があった(私がフォローしている米国人の多くが「をを!」的に反応していた)。
White House Comes Out Against The Approach In SOPA/PIPA In Response To Online Petition
by Mike Masnick
Sat, Jan 14th 2012
http://www.techdirt.com/articles/20120114/09513217409/white-house-comes-out-against-approach-sopapipa-response-to-online-petition.shtml
Remember that big first petition to the White House against SOPA? As you may recall, that got enough signatures that it required a response from the White House... and that response has come out. It rejects the approaches found in both SOPA and PIPA. They say that "online piracy by foreign websites is a serious problem that requires a serious legislative response" but that there are many things they will not support.
SOPAに反対するホワイトハウス宛の請願文の件。十分な数の署名を集めたので、ホワイトハウスは反応をしなければならなくなり、その反応が出されたのだが、なんと、WHはSOPAとPIPA双方のアプローチを拒否している。「外国のウェブサイトによるオンライン海賊行為は深刻な問題であり、真剣な法的対応が必要である」としているが、多くの点は支持しかねるとしている。
They will not support a bill that has the potential to censor lawful activity or inhibit innovation:
...
合法的行動を検閲し、イノベーションを抑制する可能性のある法案は、WHは支持しない。
They flat out reject anything that involves DNS blocking:
...
DNSブロッキングが関わるものはすべて、WHはとにかく受け入れない。
They do still say that new legislation is needed, but they want something where every stakeholder is actually involved:
...
WHは新たな法的整備が必要とされるということは述べているが、それにはすべてのステークホルダーが実際に関わることが望まれるとの考えだ。
Make no mistake about this: this is the White House asking for a hard reset of SOPA/PIPA and saying start again from scratch. This is an astounding turn of events, and a much stronger statement from the White House than anyone honestly expected. ...
強調しておきたいのだが、ホワイトハウスはSOPA/PIPAのハード・リセットを要求している。最初っからやり直すようにと言っているのだ。これはまさかの大どんでんがえし、誰もここまで強い調子のステートメントがWHから出るとは予想していなかった。……
※Techdirtのページでは必要な箇所にはリンクがついている。ぜひ原文でご覧いただきたい。
というわけで、俺、ウィキペディアがブラックアウトする前に、書きかけのエントリ、なんとかするんだ……
※この記事は
2012年01月17日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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