昨日の時点では、書かれていることがメディアによって微妙に違っていて、全容の把握に困難を極めざるを得ない状態であったBBCのthe wrong "Guy"事件だが、今日、本物のGuyさんとBBCによる説明が上がった。
Guy Kewneyさんのウェブログ:
That "Guy" - he really is a Guy, and not a cab driver, either!
http://www.newswireless.net/index.cfm/article/2708
BBC:
BBC News 'wrong Guy' is revealed
http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/4774429.stm
日本語で@X51.ORGさん:
タクシー運転手がコンピューター専門家と間違われて生放送に出演 → 何となく音楽ダウンロードの未来を語る(「後日談」あり)
http://x51.org/x/06/05/1656.php
まず、いきなりニュースのスタジオでインタビューを受けたあのフランス語訛りの「Guy Kewneyさん」は、メディアで報じられていたような「タクシー運転手」ではなかった。(「タクシー運転手 cab driver」という話がどこから出てきたのか、とても興味がある。類型化の力だと思うんだけど。)
あの「Guy Kewneyさん」は、名前をGuy Gomaさんといい、コンゴ出身で、大学で経済学・経営学を修めていて、BBCのIT技術職の求人に応募したために、あの日BBCの受付に来ていた。そう、就職の面談――job interviewを受けるために。
たまたま同じ時間帯に、IT専門家のGuy Kewneyさんのinterview出演がブッキングされていた。
つまり、2人ともGuyさんで、2人ともinteriewのためにBBCに来ていた。(英語屋としてはここがおもしろいところ。日本語環境だったら「面接」に来た人と「インタビュー」に来た人を取り違えることは、多分ない。)
Guy Kewneyさんを迎えに受付まで来たプロデューサーは、受付の係に「Guy Kewneyさんは?」と尋ねた。受付の係はGuyはGuyでもGuy Gomaさんの方向を指し示した。
Guy Gomaさんはジョブ・インタビューを控えて相当テンパってたのかもしれないが、プロデューサーに「Guy Kewneyさんですか?」と訊かれて「はい」と答えた。そして「こちらへ」と言われるまま、スタジオへ向かった。
本物を受付に残して。。。
本物のブログによると、受付に残された本物は、時間になってもスタジオから迎えが来ないのを不審に思ったが、尋ねても「すぐに参りますので」という答えが返ってくるばかり。(あはは、モンティ・パイソンだ。)
そしてテレビの画面に自分の名前と見知らぬ男が映るのを見て、最初は愉快がっていた(本物のブログによると、hilariousだそうで)。しかし、インタビューを受けているのがApple対Appleの件について何も知らない人物であることがはっきりわかると、「このまま放置しておくとまずい、私がこの件について何もわかってないと思われる」とあせった。そこでやっとスタジオマネージャーをつかまえて、何が起きているのかを把握したという。つまり・・・
スタジオマネージャーは出演者控え室ではなく受付に、Guy Kewneyさんが到着しているかどうかを確認してしまった(間違いの第一段階)。Guy Gomaさんが来ていた受付は「はい」と答えた(間違いの第二段階)。
それから、本物のブログによるとはっきりしたことはわからないようだが(これは時間が経過しても明らかにされない性質の話だが)、Guy Gomaさんは名前入りのセキュリティ・パスを受け取った(間違いの第三段階)。
ジョブ・インタビューを受ける予定のGuy Gomaさんが、ここで「さすがBBCはセキュリティが厳しいな」と思い、「これはセキュリティ意識のチェックなのだ」と思い込んで、何となく場に合わせるように対応してしまったとしても、不思議ではない。彼の応募する職はデータを扱う部門だったのだから。
スタジオマネージャーはそのとき、何か変だとは思っていたらしい。本物に対して、マネージャーは次のように語っている。
「以前ウェブサイトでお写真を拝見しておりましたので、別人ではないかと思いはしたのですが、あの人に『あなたはだれですか』と訊くと『ガイ・キューニーです』というんですね。『本当にガイ・キューニーさんですか』と訊いたのですが、やはり、そうですよという。で、受付に改めて確認したんでうが、やはりそうですという返事でして。」
という次第で、成り行きで「ガイ・キューニー」さんになってしまったガイ・ゴーマさんはスタジオに連れて行かれ、カメラの前に座った。
痩せ型の白人男性と、小太りの黒人男性が入れ替わるというおかしなミステリーは、こうして起きた。要するに、「その人物がセキュリティパスを持っていた」ことが決定的だったわけだ。
という次第で、実はあまり笑えない話なのかもしれないのだけど、現象として現れたあれこれはあまりに可笑しい。
そのときの映像:
http://img.dailymail.co.uk/video/cabbie.wmv
※WMPがない人はYouTubeでどうぞ。
特にインタビュアーの"A big surprise, yes, yes"という受け(0:27あたり)と、"Exactly"の瞬間(1:07)は爆笑ものだ。
さらに笑えるのが、Wikipediaは相変わらず早いという事実。Wikipediaにはこの「インタビュー」のトランスクリプトもある。
ちなみにGuy Gomaさんが応募していた職をゲットしたのかどうかはわかっていない。(明らかにされないと思う。)
Guy Gomaさん的には、いきなりスタジオで「インタビュー」というのも、とっさの事態にいかに対応できるかのチェック(initiation prank)だと判断していたようだ。それはそれで合理的なような気がする。(ただし決定的に何かが噛み合っていないんだけど。)
本物のブログによると、BBC関係者は本物に対し、「ゴーマさんは、専門分野のことを何も聞かれないので、ちょっとむっとしていた」と語っているという。
またBBC記事によると、ゴーマさんは、またテレビに出演する機会があれば喜んでお受けします、何でもお答えします(happy to speak about any situation)、しかし次回は準備させていただきたい、と述べているとのこと。
いずれにしても、ガイ・ゴーマさん、がんばれ。私はあなたの"Exactly"を忘れない。(「英語での会話で初めてExactlyと言えたあの日の自分」が思い出される。。。)
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関連記事
That gurning idiot on TV turned out to be me
Tim Dowling
Tuesday May 16, 2006
http://www.guardian.co.uk/g2/story/0,,1775739,00.html
あと、スラオさん、「メークされるから気がつきそうなものじゃない?」というコメントに対し、「出たことあるんですが、BBC News24はメークありません」とレスがついたり、細かくておもしろいです。
あと、ガイ・ゴーマさんはITの仕事をゲットできそうだとのこと(スラオさんのコメント欄より)。よかったです。
投稿者: nofrills at 2006 年 05 月 18 日 23:24:27
※この記事は
2006年05月16日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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