さっきガーディアンの記事を読んでたらたまたまそのときに覚えた例文にそっくりなのがあったのでメモしておこう。
... it emerges that increasing numbers of students in Britain's schools and colleges are learning Chinese.
記事そのものもおもしろい。日本語を習得し、今は中国語(北京官話)を習得しようとしているネイティヴ英語スピーカーの、具体的体験てんこもりの記事。
Empire of signs
http://www.guardian.co.uk/elsewhere/journalist/story/0,,1710989,00.html
この記事を書いたジョナサン・ワッツさんは、2003年夏に日本を去るまでの10年ほど、ガーディアンの日本特派員をしていた。端的にいえば、ジョンさんは日本から中国に転勤になった。中国の農村の反政府抗議行動(ときには暴動になる)についてなど、「硬派」な記事を多く書いている。
そのジョンさんが今回言語についての記事を書いている。まず、記事の表題に思わずニヤリとさせられる。
Empire of signs
→日本語版は『表徴の帝国』(宗左近訳)
どうしてこういう表題をこの記事につけたかは、記事を読み進むとはっきりわかる。ネタバレになってしまうからそれが具体的にどの文に書かれているかは、ここには書かない。
記事にはいろいろ興味深いことが書かれている。例えば、「北京語でのディスレクシアの割合は、英語でのそれよりずっと低い」。(やはり表意文字か表音文字かは関係が深いんでしょうか。)
話が前後するが、同じ記事から英語の実例をもうひとつ。
中国に来て2年半になるが言葉の壁は厚く、買い物をしたりタクシーに乗ったりレストランで注文したりは何とかなるにせよ、いまだに仕事ではアシスタント(通訳)に頼らなければならない、というくだりで:
As accurate, hardworking and reliable as she[= my assistant] is, it is immensely frustrating not to be able to communicate with sources directly.
「〈譲歩〉のas 〜 as」です。
(余談ながら、「レストランで注文するのは何とかなる」の原文は、in a restaurant I can get by, as long as they have the five dishes I know how to order、つまり「自分が注文できる料理は5品あり、入った店にそれがあれば何とかなる」ということで、こう書いてしまうとつまらないのだけど、この英文には何ともいえないおかしみを感じる。)
さらに実例。
What helps a little is that I have been in this situation before. I lived in Japan for 10 years, by the end of which time I was reasonably proficient in the local language. But at the two-and-a-half-year stage, I was just as hopeless in Japanese as I am now in Mandarin.
関係代名詞。
さらに。
Two big differences between learning Chinese and any other language are the tones and the characters. Mandarin has a far wider range of characters than English (more than 4,000 ideograms are commonly used, compared with the 26 letters of the alphabet) but a far narrower range of syllables.
character, ideogram, letterの使い分け。
記事ではこの後、中国語の四声の難しさについて、具体的なエピソードで語っている。(ちなみにジョンさんは、テレビ番組で意見を述べているのを何度か見たことがあるのだが、日本語はぺらぺら。)四声の使い分けにはどうやら「音楽的な才能(musical talent)」が必要なようだ。
そう言えば、英語圏のミュージシャンは日本語の高低アクセントにちゃんと反応していた。(「たまご」と「たばこ」の高低アクセントがいきなり把握できる、という感じ。)ああいう人なら四声も把握できるのかもしれない。
最後に、ジョンさんが日本語について書いているところで、爆笑間違いなしの部分:
One of my first teachers in Kobe initially insisted that Japanese had no swear words. "So when you want to insult someone, what do you say?" I asked. "You should never want to insult them," she answered earnestly.
_
"Sorry, you are right. But it must happen sometimes - if not for you, for others. What do they say when they are angry?"
ジョンさんはよほどお上品な先生に日本語を教わったのだろう――というか、お上品なのが普通なのかもしれないが。「insultしたいときにはどう言えばいいのか」とジョンさんに訊かれた先生は、「頭がピーマン」というフレーズを小声で言い、「でもそんなの絶対使っちゃだめ」と言ったという(10年以上前、実際に「頭がピーマン」という表現はあったと思うが、もう使われてない)。
このお上品な先生は、実際の生活で他人をinsultしたいと思ったときに、insult語を使わないんだろう。そういう人は私も知らないわけじゃない。
しかし「正しいinsultの仕方」を教えないと、ネットで簡単に検索できるこんなページを参考にして、「ロバ」だの「律法学者」だの「おならあたま」だのと罵り出す人が出てきかねない。(※リンク先には一部、「罵り」ではなく、卑猥なだけの言葉も入っています。)
……とまあこういうのを読んでニヤニヤしてたわけですが、次の引用については、「実際に日本語の罵りの語彙は、方言や身内のスラングでも使わない限りは、英語より少ないということに異論はありません」以外はノーコメントってことで終わり。
Japan's most famous film subtitler, Natsuko Toda - who is also a very refined lady - used to say that the hardest things to translate were swear words, because a long string of English expletives could only be rendered by a single Japanese word, "baka" (idiot). She had particular problems with gangster films and anything by Joe Orton.
■追記:
そうそう、「罵り言葉」だけじゃなくて「ほめ言葉」もね。ロシア語通訳者の米原万里さんのエッセイ:
http://www.alc.co.jp/eng/hontsu/soutsu/0409.html
「便利な言葉だね、スッバラシイって」「はあ?」「だって、米原さんは、admirable も amazing も brave も brilliant も excellent も fine も fantastic も glorious も magnificent も marvelous も nice も remarkable も splendid も wonderful も必ずスッバラシイと転換する。いやでも覚えてしまうよ」
タグ:英語
※この記事は
2006年02月17日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。