「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2011年12月22日

米国によるショーン・ガーランドの身柄送致請求が却下された。

「スーパーダラー superdollar」というフレーズをご記憶の方はどのくらいいらっしゃるだろうか(たぶんかなり大勢おられると思うが)。プロでも峻別できないほど精巧に偽造された米ドル札のことで、「スーパーノート supernote」などという言い方もされていた。
http://en.wikipedia.org/wiki/Superdollar

2000年代、この偽札の存在は「国際社会」でかなり大きな話題となった。10年以上前に終わったはずの「東西冷戦」の残り火を、00年代の「ポスト9-11」でなおかつ「ブッシュ政権」の世界地図の中に投げ込んだらこうなる、というような感じで、日本では元NHKのワシントン支局長がドキュドラマ的な小説を書き、話題となった。

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手嶋 龍一

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「背後に某国」とか「背後に某組織」と言われたこのスーパー偽札に関連しては、思わぬ名前が取り沙汰された。ショーン・ガーランド。アイルランド人。というか、1969年のIRAの大分裂でProvisional IRAと袂を分かったOfficial IRAの指導者で、「OIRAの政治組織」である労働者党(Workers' Party: WP. 「労働党」とはまったく別の組織)の党首。

偽札の被害にあっている米国は、何年も前から、ガーランドの身柄の送致をアイルランド共和国に求めていたが、21日、その結論がアイルランドの高等裁判所で出された―― No.

High Court refuses US bid for Garland extradition
http://www.irishtimes.com/newspaper/ireland/2011/1222/1224309381379.html

THE HIGH Court has rejected an application by the US authorities to extradite veteran republican Seán Garland for his alleged role in an international counterfeiting conspiracy aimed at destabilising the US dollar.

The Americans contended that the plan by Mr Garland and co-conspirators to distribute counterfeit $100 notes internationally was done in conjunction with the regime in North Korea.

Mr Garland is a former chief-of-staff of the Official IRA and later president of the Workers' Party.


現段階では結論が公表されただけで、判事の判断の根拠など詳細は年が明けてから、1月13日に発表されるとのことだ。

アイリッシュ・タイムズの記事から、米国側の主張の部分:
In an affidavit to the court in July, Brenda Johnson, assistant US attorney, said: “This case involved a long-standing and large-scale super notes distribution network based in the Republic of Ireland and headed by Seán Garland, a senior officer in the Irish Workers' Party.”

Ms Johnson claimed one of Mr Garland’s alleged co-conspirators, Hugh Todd, later told investigators he purchased more than $250,000 of “super notes” from “the Garland organisation”.

According to indictment documents filed before a grand jury in the US and revealed in 2005, Mr Garland conspired with six others to smuggle and circulate dollars forged in North Korea.

The Americans contended the forgery and distribution of the $100 notes was part of a Marxist bid to destabilise the dollar. The allegations against Mr Garland related mostly to 1999 and 2000.


ベルテレさんもいい仕事をしている。上記アイリッシュ・タイムズと合わせて読むと、見える像がかなり大きくなる。

Judge rejects Garland extradition
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/republic-of-ireland/judge-rejects-garland-extradition-16093995.html
Mr Garland, of Beldonstown, Brownstown, Navan, Co Meath, was a former IRA leader in the late 1960s and early 1970s. He was a key figure in securing the official IRA ceasefire of May 1972.

He was initially arrested by the Police Service of Northern Ireland, on the basis of an extradition warrant from the US authorities, in October 2005 at the Workers' Party annual conference in Belfast. He fled to the Republic when released on bail.

He was later arrested outside the Workers' Party offices in Dublin in January 2009 and released on strict bail conditions, which included surrendering the title deeds to his family home.

But barristers for Garland maintained the pensioner should not be extradited as the alleged offence happened in Ireland and was based on hearsay. His legal team also argued Garland's fundamental rights have been infringed, ...


北米での報道は下記から(私はまだどれひとつとして読んでいないが、Boston.comとNYTくらいは読むか……)。



ガーランドについては、今年非常に話題になったFACTAの阿部重夫さんの2006年のブログ記事が非常に詳しい。

「ウルトラ・ダラー」を100倍楽しむ1――BBC調査報道の真実
2006年02月28日
http://facta.co.jp/blog/archives/20060228000093.html
2004年6月20日、BBCの調査報道番組「パノラマ」は、北朝鮮が製造した極めて精巧な偽100ドル札(コード名C14342)が、北アイルランドの反英過激派組織IRA(アイルランド共和軍)の分派である「正統IRA」(Official IRA)の手によって西欧社会に持ち込まれていると報じた。……

……

調査は広範囲にわたり、随所に警察が盗聴した録音が挿まれる驚くべき内容だ。「北朝鮮にとってこのプロジェクトは核開発計画とおなじくらい重要だ」という北朝鮮亡命者の声も紹介される。そして2000年にバーミンガムで実施された警察の摘発作戦で、北朝鮮製の精巧な偽ドル札がモスクワからダブリン経由で英国に流入していたことが判明する。

そのルートの中心人物として浮かびあがってきたのが、旧ソ連の秘密警察KGBに属していたらしいバーミンガムのロシア人ギャングと、「ショーン」と呼ばれるアイルランド人だった。「ショーン」の正体は、マルキスト系の「正統IRA」指導者ショーン・ガーランドと判明する。1957年にIRAの仇敵RUC(王立アルスター警備隊)の兵舎を襲撃、同志を救おうと重傷を負った英雄だが、70年のIRA分裂で主流の「暫定IRA」(Provisional IRA、通称プロヴォ)と袂を分かち、77年に「正統IRA」の政治組織、労働者党(Workers Party)の幹事長、2000年に党首となった。BBC記者はその彼にマイクを突きつける。……


なお、しつこくなるが、「正統IRA (Official IRA)」は「分派」であり、北アイルランド紛争で主要な役割を果たした「暫定派IRA (Provisional IRA)」(これが俗に、単に「IRA」と呼ばれている組織。ここから後に、CIRAやRIRAが分派する。詳細はNI FAQにポストしてある)とは別の組織である。

つまり、「スーパーダラー」事件に関連して「IRAルート」と言う場合、それは「北アイルランド紛争のIRA」ではない。

PIRAは1970年代にその活動を活発化させたが、OIRAはPIRAにとっての最大の転機となった1972年に武装闘争を停止し、その後、ゲリラ組織としてはフェードアウトしている。ただし武器を本当に「捨てた」(デコミッションした)のは、UDAやUVF、INLA(OIRAの分派)がデコミッションした2009年である(北アイルランド紛争に関連した武装組織の武器の破棄の最終期限。これを過ぎて武器の所持が発覚した場合は刑事罰の対象となる)。

詳細は下記など参照のほど。
http://en.wikipedia.org/wiki/Official_Irish_Republican_Army
http://en.wikipedia.org/wiki/Workers%27_Party_of_Ireland

※この記事は

2011年12月22日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 21:10 | TrackBack(0) | 雑多に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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