http://d.hatena.ne.jp/kaikai00/20060911/1157911460
というのも私はこの問題の書籍を読んでいないので。ま、引用されている部分だけで私でもツッコミ可能なのだが。
なんつーかこの系統の「サッチャー礼賛」ってもう一種の病だよね。女神サッチャー。(ここ、苦笑いするところです。)
アベ氏がまったくスルーしているのは、1997年のブレアのEducation, education and education.という宣言。んで、たぶんだけど、ブレア後に整えられた教育の基盤というか環境というかを、「結局はサッチャーの業績だ」と思っている。
つーかメイジャーの立場は?(笑) メイジャーの「階級なき社会」への取り組み(それがいかに地味で影が薄くても)がなければ、英国は今と違ってたかもしれんと最近ちょっと思うようになったんだけど。
「今日行く審議会@はてな」さんで引用されている安倍氏著書の記述を孫引き。(孫引きですみませんです。)
じつは、サッチャー首相は、イギリス人の精神、とりわけ若者の精神を鍛えなおすという、びっくりするような意識改革をおこなっているのである。それは、壮大な教育改革であった。
ここで問題だと私が思うのは、「イギリス人」とか「若者」とか、それは具体的にどの人々のことかがあっさりスルーされている点。イギリスのような社会で教育を語るとき、「若者一般」が存在するかのように扱ってはならない、というのは、基本中の基本だ。
つーか、イギリスの「社会」(<政治とかじゃなくてね)について書かれた文章でそういったわけのわからん一般化をしているものは信用できない、というのを目安にしているだけなんだが。
んで、記述自体に論理性が欠如していて、言いたいことがよくわからないのだけれど、一番ものすごい「精神を鍛えなおす」については、あまりにびっくりするような壮大な話なので、スルーさせていただきます。(^^;) というか「精神を鍛えなおす」じゃなくてproud to be Britishの話じゃねーの? (^^;)
もうひとつ、孫引き。
サッチャーの後は、メージャーがこの政策を引き継ぎ、なんと労働党のブレアもこれを引き継いだのだった。しかもブレアは、教育改革は自分たちの成果である、とまで自負しているのである。
ぎゃははははは。ぶわははははは。何が「なんと」「しかも」ですって?(<「ジャパネットたかた」かよ。) 「ブレアの」教育改革なんだから、ブレアが自負することに何も問題ないじゃん。
あと「ブレアの教育改革」ってのは、サッチャーからメイジャーの保守党政権下で結局無茶苦茶のぐちゃぐちゃにしかならなかった初等・中等教育(中学&高校まで)から立て直そうってことね。1997年の選挙のときに労働党のスローガンでブレアがEducation, education and education.とバカの一つ覚えみたいな「明言」(<実際OxfordかどこかのQuote Dictionaryに入っている)を口にしたのは、「私たちは教育を変えます、絶対に変えます、最優先です」っていう宣言ね。(それがどうなっているかは、けっこう難しいところもあると感じるのだけれど、まったく成果が上がってないわけでもないらしい。)
つーか安倍さんさぁ、サッチャー前とサッチャー後の二項対立なんじゃん、頭が。ろくすっぽ調べたりしてなくて、単に「ブレアはサッチャーの後継者である」という論評を鵜呑みにしたうえで、それを前提としている場合にこういうのがありがちだよなあ・・・というのはただの印象論。根拠ありません。
ついでに言えば、サッチャー改革で街に溢れた失業者に職場を与えたのは、1990年代末の好景気のおかげでもあるけれども、メインプレイヤーはブレアの雇用政策改革という政治の力だ。ブレアが仮にサッチャリズムそのまんまで社会政策してたら、英国の失業問題はどうなってたかわからないと思う。で、重要なのは、ここでもブレアのEducation x 3的なコンセプトは大きく働いていたということで、職業訓練とか職業のマッチングとか、いろいろと「改革」が行なわれた。そしてそれは成果をあげた。(ただしそこに営利追求の私企業が入っているのが昔の労働党との最大の違い。)そのことは、ブレアが好きか嫌いかに関わらず、事実だ。
サッチャリズムで荒野と化した不況期のロンドンを私はわりとよく知っているけれど、90年ごろなんてひどかったからね(メイジャー政権だったが)。当時エリートしか行かなかった大学(University)を出ていても、人文系の卒業生は履歴書を送って面接に行く相手が存在しないも同然で、「ワイン量販店の倉庫番とかスーパーのバックヤード担当とかするくらいなら失業手当をもらう」とかいうことになってた。知り合い(同年代)でもそういう人は1人じゃなかった。決して「教育のない労働者階級の若者たち」だけの問題じゃなかったのね、あの失業問題は。大卒は給料が高いからって企業が雇わなかった。そういうことをしててもOKなくらい生産力は低下していた。で、友達同士で起業というか店始めたりとかするんだけど(音楽スタジオとか)、立ち行かなくなったり。あと勤めててもいきなり「明日っから来なくていいよ、この部署は閉鎖するから」とレイオフされたり(これも知り合いで1人じゃなかった)。
あと、どうでもいいところかもしれないけど、もう1箇所、孫引き。
一九八〇年代、イギリスのサッチャー首相は、サッチャー改革と呼ばれたドラスティックな社会改革をおこなった。イギリス社会には、大きな軋轢を生じさせたが、それは、よりよき未来へむけた、いわば創造的破壊だった。
わたしたちはこの構造改革を、金融ビックバンに象徴される、民営化と市場化の成功例ととらえているはずだ。……
※太字は引用者による
「社会改革」と言っていたものを、間に特に何もはさまずに「この構造改革」と言い換える。アクロバティックぅ!
言語屋のハシクレとしては、こんな粗雑な言語感覚の持ち主に政治をやってほしくないと思うんですが。いやこれは言語感覚というより論理性だわね。
ああそうか、論理じゃなくて美しさなのか。こんなものを美しいとはあたしゃ思わないけどね。
うーん、しかしこの本、買って読む本なのかどうか・・・(^^;) 図書館では貸し出し中だろうし。
■毒消し:
サッチャー改革再考
Japan Research Review 2003年01月号 STUDIES
http://www.jri.co.jp/JRR/2003/01/st-reconsideration.html
一方、サッチャー改革がもたらした最大の弊害は、貧富の格差の大幅な拡大とそれに伴う低所得者層の一層の困窮である。サッチャー政権は、市場メカニズムが浸透し、「努力すれば報われ、怠けていれば困窮する」競争的な社会システムをつくり上げることで、人々の働く意欲が高まると期待した。ところが現実には、働きたくても何ら技能も経験もない、いわば競争のスタートラインにすら立てない層が存在し、彼らは改革の痛みを全面に受けた。
蛇足ながら、「競争のスタートラインにすら立てない層」というのは「教育のない層」に限らなかった。「立たない」ことを選択していた人もいたにせよ、そういう人にしても、自分がこれからやっていきたい分野の入り口が、職場経験のない新人には開かれていなかったりしてプランが立てられないような状態、ということも多く。
英国にみる「小さな政府」の負の遺産とその対応
2005年12月14日
http://www.mizuho-ir.co.jp/column/shakai051214.html
そもそも、サッチャー改革の「負の遺産」とは何か。第一に、「社会的排除」の発生である。英国では80年代に所得格差が拡大したが、低所得層の中で、スキル不足、失業、家族の崩壊、病弱といった問題を複数抱えて、社会から疎外される人々が増加していった。・・・・・・
現ブレア政権では、こうした「負の遺産」の克服に積極的に取り組んでいる。しかし、それは「大きな政府」路線で用いられた手当の支給といった救済方法ではなく、人々の自立を支援する方向で進めている。例えば、失業者に対しては、従来型の失業手当の支給よりも、教育技能訓練を行って失業者のエンプロイアビリティ(就業能力)を高めることに重点を置く。いわば、「低所得→スキル不足→無職→低所得」という社会的排除の悪循環を、スキルをつけさせることで断ち切ろうとしている。そして失業者の就業能力を高めることは、福祉に依存する人々を「経済の担い手」に変え、経済成長にもつながると考えられている。
安倍氏の賞賛するサッチャーの教育改革について
2006-09-07
http://d.hatena.ne.jp/opemu/20060907/1157550587
社説 自民総裁選 教育改革 貧しい現状からの脱出策を
熊本日日新聞、2006年8月23日
http://kumanichi.com/iken/index.cfm?id=20060823(→魚拓)
新自由主義的教育改革の典型は、英国のサッチャー首相が行った。有力な総裁候補である安倍晋三官房長官は、著書の「美しい国へ」の中で、「誇りを回復させたサッチャーの教育改革」と絶賛している。しかし、世界の教育研究者の間では、サッチャー首相の教育改革には弊害が多かったという見方が一般的だ。「アメとムチ」の論理で行われる教育では教師も子どもも疲労を深めたというのだ。
サッチャー首相を継いだ[原文ママ*]ブレア首相は就任時に、「教育、教育、そして教育」と述べ教育最優先の政策を掲げた。サッチャー改革への反省から、教育予算を大幅に増やす決意表明だった。安倍氏はそうした経緯を押さえているのだろうか。
* 言うまでもなく、ブレアはサッチャーを継いだのではなくメイジャーを継いだ。(メイジャーの影が薄いことは事実だ。サッチャーが強烈で猛烈すぎ。)
■参考
うはー、こんな書籍が出ていたのか!
サッチャー改革に学ぶ教育正常化への道―英国教育調査報告
中西 輝政【監修】・英国教育調査団【編】
PHP研究所 (2005-04-05出版)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9979311746
・・・・・・「正常化」って・・・・・・(^^;) 鉄道のダイヤの乱れとか外交関係じゃないんだから。
こんなふうに「教育基本法改正」が進められたらたまらんな。
※9月14日:投稿時にあまりに大笑いしてあまりに書き殴りで文意不鮮明(<no pun intended!)だったので、少し追記しました。
※この記事は
2006年09月12日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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いや、マギーとトニーの話だけならまだしも、
安倍ちゃんととどめは中西輝政というのが
・・・香ばしすぎます (爆
本人達は本気、なんでしょうねえ。
〈事実〉と〈解釈〉と〈意見・主張〉は、〈主張すること〉を目的とする言説においては、ぐちゃまぜになってしまうものですけどね。
以下、補足。
http://www.mskj.or.jp/getsurei/hira9704.html
『イギリス労働党の勝利について』by 平島廣志さん、from 松下政経塾のサイト。サッチャーの長期政権を可能にしたのは「選挙制度と二大政党制、そして日本とは比較にならない政党の党首への権力の集中性であるとも言える」という、1997年執筆の記事。
サッチャーの長期政権については、カナダの人だったかな、どっかの質問サイトで「英国人で誰一人サッチャーを誉めている人を知らないのだが、それなのになぜ彼女が長期にわたって首相の座にあったのか」ということを書いているのを見かけたことがあります(2005年の選挙のすぐ後)。それに対する英国人(「保守党支持」と明言していた)の回答がやはり「最大の役割を果たしたのは選挙制度」で、2005年の総選挙を引き合いに説明していました。この質疑応答のURLは控えてないんですが。