A Word to the Wiseguy
http://blogs.guardian.co.uk/news/archives/2006/09/08/a_word_to_the_wiseguy.html
火曜日に警察が東ロンドン(ハックニー・ロード)の靴の卸売り店の社長を逮捕したが、その社長は実は逃亡中のイタリアのマフィアのボスだった、という記事。
Wiseguyというのは、英辞郎では「生意気な奴」といった語義が出てきますが、英国では「その筋の人」「ギャングの一員」の意味。。。ってあれ? ケンブリッジでも載ってないけど、んー、私どこで知ったんだろ。小説かな。
ともあれ。
ハックニー・ロードで靴を売っていたのは、カルデラリ一家(Caldarelli gang)のボスのラファエル・カルデラリ。シチリアじゃなくてナポリのマフィアだそうです。
ガーディアンのニューズブログにリンクされているタイムズの記事によると:
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2-2348100,00.html
カルデラリは35歳。麻薬と銃器の取引により、イタリアでの裁判(本人は不在)で、懲役20年が確定。イタリアの警察からの要請があり、英国の警察は何ヶ月にもわたって秘密捜査を続けていた。
で、この逮捕には、the Serious Organised Crime Agencyが大きな役割を果たしたらしいです。the Serious Organised Crime Agency(略称SOCA)というのは、今年の4月に日本でも「英国版FBIを創設」として報じられているんですが(記事リンク集)、Serious Organised Crime and Police Act (SOCPA) という法律が根拠の組織です。
んで、このSOCPAという法律は、何かどさくさに紛れて、国会議事堂前の広場(パーラメント・スクエア)を含むエリアでの「組織的行動」を再定義してみせているんで、「平和的で政治的なデモまでも“組織犯罪”と見なすナンセンス」という面があるのですが、メインは昔ながらの(?)「組織犯罪」で、極右組織なども含めてそういう「組織」が対象になっているらしい。マフィアとかギャングとかは、いわゆる「対テロ戦争」のずっと前から英国では大きな問題になってました(ティーンエイジャーが銃をぶっ放すとかいう事件も何件かあったし。報道されてた範囲、私が聞いたのはイタリア系じゃなかったけど)。
ともあれ。
この1年半の間に、ドン・カルデラリの前にも、フランチェスコ・トニチェッロというマフィアのドンがロンドン市内で逮捕されているそうですが、このトニチェッロがすごい。ヴォクソールの駅前でBig Issueと盗んだ新聞を売ってたそうです。(^^;)
金に困るような人じゃないだろうから、身元を隠すためだと思いますけど、それにしてもそこまでやるのかと。
あ、でも、90年ごろ(不況期)、ロンドンのそこらじゅうの道端でSpare some change, please.と言っている人たちの中に何らかの事情がある人がいる、ということは、井戸端会議のようなもので聞いたことがなくはない。あと、カムデン・タウンとかの観光客が押し寄せる場所でも「あんた、カメラしまっときな。ここらへんで構えるもんじゃない。写真を撮られたくない連中がいるからさ」とラスタなお兄さんに忠告されたことがある。
さて、ドン・カルデラリの店のあたりに住んでいたことのあるガーディアンのライターによると、
I can remember being turned away from one of the many shoe wholesalers on the road because they only did "trade, not retail". It was probably a different shop altogether, but the memory is a reminder of how closely human lives brush against each other in a big city, and how little we know about most of the people who cross our paths.
それが同じ店だったとはいえないが、あのあたりの靴の卸売り店で「業者さんだけだから」と言われて買い物ができなかったことがある。大都会では人間個々の顔がかき消され、自分が行き会った人のことはほとんど知らずに済んでいるものだ、と。
だからこそ「その辺で店を構えていた人」が「国際手配されているマフィアのドン」だった、ということがありうる、ということですが、ロンドンで「あのエリアはやばいよ」と言われているエリアの多くは、そういう事情ありです。つまり、移民が多いとか有色人種が多いとかいった「白人の“ざます”階級」的な説明・解釈じゃ何も説明できてないも同然というか。旧東欧のブルガリアとかルーマニアに対する抵抗感が英国にあるのも、たぶん、そういう事情じゃないかと思います。
なお、ガーディアンのブログのコメント欄にはウエストエンドのテイラー(紳士服仕立ての店)でのエピソードが書き込まれています。内容を要約すると:
ウエストエンドにあるイタリア系のテイラーのサービスに苦情を言ったことがあるが、怒号が飛び、手をぶんぶん振り回す事態となり、「俺たちに話をしたいときにはあんまり強く出るもんじゃねぇぜ」と警告された。その店は地中海系の顧客もいた。別の店で別の用事で話をしたときに、「あの店で働いていたことがあるが、ほんとにつながってるから気をつけたほうが」と言われた。あんな縫い方をしていて、よく無事でいられるものだと思うが。
というところです。
あ、ただロンドンには19世紀ごろにイタリアから亡命した人たち(カルボナリとか青年イタリア党とか)がけっこう多くいて、そのころからの、あるいはそれ以前からのイタリアン・コミュニティもあります。つまり、「イタリア系は一般的にやばい」ということではないです。
参考書籍:
ユーロマフィア〈上〉 ブライアン フリーマントル Brian Freemantle 新庄 哲夫 ![]() | ユーロマフィア〈下〉 ブライアン フリーマントル Brian Freemantle 新庄 哲夫 ![]() |
※この記事は
2006年09月08日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。