「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2005年07月07日

LONDON 2012

2012年夏季オリンピック開催地がロンドンに決定。

↓は招致委員会(www.london2012.org)サイトのキャプチャ。(クリックで原寸表示。)
london20120.gif

www.london2012.orgのサイトで,選考に際してIOCに提出されたCandidate Fileがダウンロードできます(PDFファイル)。

↓はBBC NEWSのキャプチャ。当然トップニュース。(クリックで原寸表示。)
bbc_london2012.gif

BBC記事:
http://news.bbc.co.uk/sport2/hi/front_page/4655555.stm

さて,このオリンピック,会場となる地域はロンドンの東部,Newhamというborough(行政区)にあります。(ここに地図があるので参照していただくと,だいたいの場所がわかりやすいかもしれません。)郵便番号的にはE15です。

ちなみに,観光ガイドブックなどに載っている「ロンドン」は,the CityとCamdenとWestminsterとKensington and Chelseaに,LambethとSouthwarkのテムズ沿いの辺りを合わせたくらいの範囲です。(東京で言えば「山手線の内側」という感覚。)あ,ちょうど地図がありました

たまたま見かけた毎日新聞記事より:
……ロンドンは英国政府の強い後押しを受け、「五輪公園」を設置する市東部ストラトフォード地区の再開発のほか、約300億ドル(約3兆3000億円)をかけた鉄道・道路の整備計画を立案。五輪後、同公園に建設する五輪研究所構想など、詳細な跡地利用も高い評価を受け、パリをしのいだ。ブレア首相も、自国で開かれる主要国首脳会議(サミット)を前にしながら当地を訪れ、最後の招致活動に力を入れた。
―― http://sports.yahoo.co.jp/hl?c=sports&d=20050706&a=20050706-00000122-mai-spo


えーっと,まず,「ストラトフォード」っていっても,この「ストラトフォード」はシェイクスピアで有名な「ストラトフォード・アポン・エイヴォン」(エイヴォン川沿いのストラトフォード)ではありません。

んで,会場を決定したIOCの総会に「様」が来たとか何とか大騒ぎになっていましたが,「様」が生まれてからマンUのユースに入るまでを過ごしたのは,この「ストラトフォード」の辺りです。正確にはもうちょっと東に行ったレイトンストーンですが。。。

ま,とりあえずサッカー場には困らないでしょう……と思ったら,超地元のUpton Parkはもちろん,やや北のWhite Hart Laneも「おめでとう」メッセージを出しています。ちょっと西のガナーズは今のところ何もなしでした。

Stratford Olympic Parkの地図:
http://www.alwaystouchout.com/project/44
なるほど,ハックニー・マーシュのすぐ東にある貨物ターミナルの跡地がオリンピック・パークになるわけですね。

で,この「ロンドンのストラトフォード」について,ウィキペディアを見てみると,さすがに仕事が早い,もうオリンピックのことが書かれてます。
http://en.wikipedia.org/wiki/Stratford,_London
Stratford will be the location of the main Olympic Park, which will contain a significant number of venues to be used in the 2012 Olympic Games, including the Olympic Stadium, aquatics centre, velodrome and BMX track, hockey complex, multi-sport indoor arena and the Olympic Village.


LondonNet(観光を中心とするロンドン情報のサイトとしては老舗。充実してます)から:
http://www.londonnet.co.uk/ln/guide/about/olympics2012_location.html
On the outskirts of a developing London, Stratford has always been somewhat overlooked, in terms of cultural and tourist hot-spots. During the Industrial Revolution, it was the centre of some of the cities more unwanted industries, including chemical plants, soap-creation and ink-making, and later became the centre for carriage and train making. Later, after the Second World War, Stratford faced much devestation and the closure of the Royal Docks, and since then struggled to develop while preserve its history.
_
Plans for the 2012 Olympics has become a wind in the sail of Stratford development, offering huge numbers of jobs, community programs and sparkling new facilities.


なるほど,1889年の「ロンドン貧困マップ」ではストラトフォードはぎりぎりで範囲外となっているのですが,産業革命で化学工場がたくさん作られ,その後は馬車や列車車両の工場が作られた場所なのですね。

やはり産業革命期の一大工業団地だけあって,昔からある鉄道駅がcast ironの美しい作りになってるようです。
British Railways Stratford east London

http://www.railart.co.uk/gallery/insole2.html

Demographicsのデータもついてる航空写真:
http://london.agi.org.uk/...
総選挙での選挙区としてはWest Ham――ということは,今年の総選挙で当選したのはLabourですが,第2位がジョージ・ギャロウェイのRESPECTだったところ。いや,別に今年の総選挙はOlympic bidにはあまり関係ないのですが。

さて,毎日新聞記事に「『五輪公園』を設置する市東部ストラトフォード地区の再開発のほか、約300億ドル(約3兆3000億円)をかけた鉄道・道路の整備計画を立案」と書かれているストラトフォード地区の大規模再開発計画ですが,これは「ミレニアム開発事業」(→当時の記事@「三井のロンドン絵日記」さん)のころには既にありました。

例えば,ストラトフォードはそれまで地下鉄セントラル・ラインだけだったのですが,ミレニアムの事業でジュビリー・ラインとDLR(ドックランズ・ライト・レイルウェイ)も使えるようになりました。これは,後述するChannel Tunnel Rail Linkとの乗り換えを考えてのことです。なお,ジュビリー・ラインの延長工事は1997年ごろから行なわれていました(<source)。DLRが開通したのは1999年だったと思います。(建築方面ではジュビリー・ラインの駅はけっこう有名なようです。)

ロンドンがオリンピック招致活動開始を決定したのは2002年1月なので(→過去記事),「約300億ドル(約3兆3000億円)をかけた鉄道・道路の整備計画」は「オリンピックのため」というより,普通に,再開発の公共事業です。

ロンドンの再開発公共事業計画は,2000年のミレニアムをピークとして80年代末から続々と行なわれていたのですが(新たなビジネスセンターとなっているドックランズもそうです),今回オリンピック招致でロンドンの強みとなったらしい鉄道などの交通網整備計画もそのひとつです。(パリと比べてどこがどう「強み」なのかが今ひとつわからないんですが。)

その大規模な交通網整備計画のメインが,ウィキペディア記事の文中にも書かれている,Channel Tunnel Rail Link。セント・パンクラス&キングズ・クロス(<これら2つの駅は道路を挟んで隣り合っている)から英仏海峡まで直結する地下高速鉄道路線。一部区間は2003年にできていて,残りは2007年完成予定だそうですが,全線完成すればユーロスターがこの路線に乗り入れることになるという計画。

この鉄道は地下を走らせるのですが,鉄道発祥の地なのに技術面ではすっかり遅れてしまって,仇敵フランスにも大きく水を開けられている英国としては「どうだすごいだろうこの技術」的な意味もあり,「プライドの回復」のためでもあるようです。(<世間話です。あんまり真面目に受け取らないようにしてください。)

ストラトフォードは,この鉄道路線において,セント・パンクラスの1つ手前の駅になります(Stratford International station)。

いずれにしても,この鉄道ができれば,欧州大陸からの人やモノの行き来が非常に簡単になるわけで,これは拡大EUにおいて,陸続きではないというハンデを背負った英国がどう存在していくかという天下国家の話でもあるわけです。(というか欧州大陸側はとっくに高速鉄道を整備できていたわけですから,英国は「やっと」と言えるかもしれませんが。)これがオリンピック招致においても大きな魅力となったことは確かでしょうが,オリンピックがあろうとなかろうとどのみち建設されていた鉄道です。詳しいことはピーター・マンデルソンにでも訊いてください。(笑)

なお,セント・パンクラス&キングズ・クロスのエリアは,観光ガイドブックに載っている範囲のロンドンの中で最も荒れていて(グレイター・ロンドン全域に話を広げてみても最も荒れている地域のひとつですが),この鉄道路線計画には,「地域浄化」(<などという言葉は用いられていないけれども)という副次的な目的もあるという話です。

さて,2000年春に私は拙著の取材のためにロンドン東部のハックニーに滞在してまして,そのときにちょこちょこと,ストラトフォードあたりの再開発計画のことは耳にしました。

当時,上述のように,ジュビリー・ライン延長とDLRで,テムズ川に沿った辺りは交通網が出来上がっていたのですね。だから,私のステイしていた辺り(ハックニー)も確か90年ごろから地下鉄計画がありませんでしたっけみたいなことを家の人と話していたんですが,「いや,ここらへんよりもストラトフォードの方が先に再開発が進むだろう」という感じで聞いたのです。

記憶している限りで具体的には,
私:「都心部は92年と比べるとかなり変わりましたけど,キングズ・クロスは相変わらず物騒な雰囲気ですね。」
ステイしていた家の人:「再開発が終われば変わるかもしれないけどね。」
私:「再開発?」
家の人:「駅前の工事してたでしょ?」
私:「ええ。」
家の人:「ユーロスターが乗り入れるんだよ。」
私:「へっ?」
家の人:「パリのLa Gare du Nord(北駅)とまっすぐつながる計画なんだ。そういえばパリの北駅の辺りの雰囲気ってキングズ・クロスの雰囲気に似てると思わない?(笑)」
私:「(笑)」→余談
家の人:「ここ(ハックニー)よりも東にストラトフォードという場所があって,そこを経由してドーヴァー海峡まで1本の直通の鉄道ができる。地元の人々のためというより,長距離移動のための鉄道で,それができたからといって都心への交通の便がよくなるわけではないが,それに合わせて地下鉄などの乗り入れも整備されるから,あっちは開発が進む。」
私:「なるほど。ストラトフォードって何かあるんですか?」
家の人:「別に何もないなぁ。ショッピングセンターがあって,カウンシル・フラットがあってという感じで。いずれにしても,ストラトフォードの開発が優先されれば,この辺りの地下鉄整備は後回しになるよね,理論的に何ら矛盾なく。(大笑)」


■余談:
パリの北駅の辺りは安宿街です。『地球の歩き方』にも紹介されています。ロンドンのキンクロ付近も,規模は小さいものの安宿街です。こちらは『地球の歩き方』には出てないと思います。空港から地下鉄で直結してるキンクロがガイドブックに載っていないのは,安宿街の規模の小ささ(でも15〜20軒くらいはあるけどね)ゆえのみならず,あんまり治安がよくない(というかぶっちゃけ悪い)からじゃないかと思いますが,パリの北駅も,まあそうですね。(私としては,安宿の部屋そのものは,パリ北駅エリアよりロンドンのキンクロ近辺の方がましだと思いましたが。)なお,安宿とはすなわち,売春で生計を立てている人たちの仕事場でもあります。

■追記:
ダメダメな地下鉄をsex upしてたらしい――もう笑うしかない,このnew Labour的言説。
Yahoo JAPANにあった記事:
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050707-00000030-kyodo-int
 【ロンドン6日共同】2012年夏季五輪の開催地に6日決まったロンドンの招致委員会は、地下鉄の整備を五輪の輸送計画の中核に位置付けた。従来「遅れる」「止まる」と評判の悪い鉄道網の改善が、ロンドン五輪の成否に直結しそうだ。
 「地下鉄を含め列車は15秒ごとに発着、1時間に24万人の乗客を運ぶことができる」−−。招致委員会が輸送計画を記述したパンフレットは、現状と程遠い。
 19世紀に世界で初めて開通したロンドンの地下鉄。その遅れは日常的で、信号機の故障などで運休となることも多い。6月下旬には朝のラッシュ時に駅と駅の間で立ち往生し、気温30度超の車内に乗客800人が1時間も閉じ込められた。
-------------------
共同通信さん,見事に端的にまとめておられます。

付け加えるならば,「……駅と駅の間で立ち往生し……車内に乗客……が……閉じ込められ」るということも「日常的」です――「朝のラッシュ時」というタイミングは最悪だし,「気温30度超」は劣悪な条件だし(でもロンドン地下鉄は冷房がないからね),「800人」は多いし,「1時間」は少し長いと思いますが。

(「1時間も」の「も」が,記事を書いた記者さんの驚きを素直に表しているように見えます。)

いずれにしても,「地下鉄を含め列車は15秒ごとに発着」という怪しげな数字の使い方は,極めてnew Labour的。Ask Peter Mandelsonって感じ。

別に調べたわけでもないし,はっきりとした根拠もあるわけではないんですが,2012年オリンピックを口実に,大規模な公共事業をやりたい(ハックニー・チェルシー線も作りたい)という思惑があるのではないかと,立候補したときからずっと思ってました。ほんとにそうかもしれない。ついでに料金値上げとか言い出しそうなんだけどね。

そういえば地下鉄のPPP (Public-Private
Partnerships: 実質的にはpart privatisation)はどうなったんでしょう。

ここに2003年2月の野村総研の資料 (PDFファイル)がありますが,2004年6月の段階でSome successes but companies must improve――具体的には,London Underground managing director ... said ... (he) had concerns over their failure to plan spending properly or improve the reliability of trains and track.……つまり「(駅の設備の美化などは順調に進んでいるが<some success),経費の面および列車や路線保守の点での改善は見られていない」との発言。Wikipediaに, In March 2005 the House of Commons Public Accounts Committee, charged with ensuring value for money in public spending, published a report concluding that this remained to be demonstrated, primarily because of the untested structure of the 30-year contracts.といった記述あり。

何かこれもさー,無理やり「民営化」されてるんだよね。反対意見が強かったのに。「民営化した方が金がかからなくなる」とかって。(ロンドン・トランスポートはロンドン市ではなく国の管理下だから市当局ではなく国会ですべてが進んだ。)
投稿者: nofrills at 2005 年 07 月 07 日 12:20:31


Work starts on 2012 Thames tunnel
http://www.thisislocallondon.co.uk/news/matters/currentaffairstransport/...
12:28pm Monday 3rd April 2006

A MASSIVE 540-tonne boring machine has begun tunneling under the Thames, as part of London's transport system expansion for the 2012 Olympics.

The 2.5km extension will connect the Docklands Light Railway King George V station to the heart of Woolwich town centre.

During the Olympics, the extension will serve the Royal Artillery Barracks in Woolwich, which will hold the shooting events, and provide access from south east London to the Olympic Park and other venues.

以下略……
投稿者: nofrills at 2006 年 04 月 06 日 22:09:17

※この記事は

2005年07月07日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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