「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

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2006年08月17日

「放火テロ」に「爆弾テロ(結果的に未遂)」(北アイルランド)

日本でも、おそらくは主義主張がモチベーションとなって、国会議員の家が襲撃されるという事件が起きている。これ、現段階で既に推測されている通り本当に主義主張が動機なら「テロ」と呼ぶに値するはずだけど、そうは呼ばれてないのかな。。。何かというと「なんとかテロ」と呼ぶのにね(「爆弾テロ」「自爆テロ」「航空機爆破テロ」など)。「放火テロ」っていう言い方がないからかな、と思い、いや待て、ベスランのときなんか「学校占拠テロ」という奇妙な造語(?)が出たではないか、と。

で、それは前置きで、ここからが本題。

英メディアでは「テロ(terrorism)」という語はめったに使われないのだけど(英国はTerrorism Act 2000で既に「テロリズム」を法的に定義していたけれど、やはりこの語は慎重に扱われている)、北アイルランドでは「放火テロ」(記事ではarsonとかarson attackと表される)はよくある。特にこの1週間、つまり先週の大型店舗4軒への放火攻撃のあと、やたらとよく見かける。

Jobs at risk after 'depot arson'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797125.stm

それから政治家の家が襲われた事件も。

Bomb defused at UUP peer's house
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797095.stm

Jobs at risk after 'depot arson'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797125.stm

事件があったのはCounty TyroneのDungannonという街。タイヤ店の倉庫が放火されて全焼。記事は、その結果としてタイヤ店の従業員が解雇されることになりそうだというのを見出しにしているのだが(あと、末尾のほうにちょっと、その倉庫の天井裏にアスベストが使われていたという問題も書かれている)、内容としては、このタイヤ店の社長の不動産物件も前に2度ターゲットとされている、ということを含め、放火攻撃そのものがメイン。

ただし、だれが(どの組織が)疑わしいとか、どのような手段で放火されたということは一切書かれていなくて、これはこの記事にある地名から何かが判断できる人じゃないと、さっぱり見当もつかない。で、私もほとんど見当がつかない。orz

ただ、このあたりがかつて(the Troublesのころ)、「殺人三角地帯」と呼ばれたエリアだということだけは知っている。政治的動機による殺人(つまり「テロ」)や宗派による殺人(「カトリックを殺す」あるいは「プロテスタントを殺す」)が、北アイルランド全域で最もひどかった地帯だ。「かつて」といってもthe Troublesは15年前までは全盛期だった。その地域でビジネスを展開している実業家が狙われている、ということは、まあ、素直に考えれば「そういうこと」だろうと思う。
http://en.wikipedia.org/wiki/Murder_triangle

あと、社長の名前で検索したら会社のサイトがすぐに見つかった。
http://www.philipwhitetyres.com/
で、この中で紹介されているのが、Ulster Rally(この会社がメインのスポンサーらしい)。Sectarian violenceが激しかった場所で、Ulsterという語を使っているということは、それ自体が政治色を帯びたことだ。これ以上は推測が過ぎるというものなので、この件はここで終わり。

次。

Bomb defused at UUP peer's house
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797095.stm

UUP (Ulster Unionist Party)所属の英上院議員がCounty Louthに建設している家に爆弾が仕掛けられていた。軍の爆弾処理班が処理したが、もし爆発していたら建設中の物件が全壊していたであろう、というニュース。警察によると、爆弾はit contained 70 pounds of homemade explosive mix packed into a gas cylinder(ガスシリンダーに手製の爆発物が70ポンド=30〜35キロ詰められていた)。

この件に関しては、BBCのダブリン特派員が"Sources also said they believed dissident republicans, who have been more active in the border area over the past week, are responsible"と述べており、つまり、「事件の背後には非主流派リパブリカンがいると思われる」という治安筋の見解が、記事中に示されている。(「非主流派リパブリカン」は、和平推進派のPIRAに賛同しないリパブリカンで、主にReal IRAを指すが、どの組織であるか特定できない場合にも用いられる表現。)

County Louthは「北アイルランド」ではなく「アイルランド共和国」の側だが、ボーダー(「国境」と訳すのには個人的に抵抗がある)に接するあたりは、その辺、曖昧だ。(『プルートで朝食を』のキティがいた村は、物語では架空の名称を与えられていたけれども、映画に描かれていた状況から考えると、おそらくCo Louthじゃないだろうか。)

新築中の家に爆弾を仕掛けられるという被害にあったUUPの政治家は、Edward Haughyという。ウィキペディアにわりと詳しく経歴が記されているが、1944年生まれ、これは当然南北分断(1922年)後で、その親の世代も物心ついたときには南北は分断された後、その親(おじいさん)なら分断リアルタイム体験者だろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Haughey,_Baron_Ballyedmond

で、この人の経歴、読むとわけわかんないかも。。。UUPだからユニオニスト、したがってプロテスタントであると考えるのが通例なんだけど、この人のバックグラウンドはカトリックなんだよね(学童としてChristian Brothersの教育を受けている)。というか、「カトリック」でなおかつ「ユニオニスト」という数少ないスタンスの人たちのひとりのようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Category:Catholic_Unionists

Edward Haughyは、1960年代に4年間をアメリカで過ごしたあと、1968年に北アイルランドのNewryで事業を開始して成功。1994年にアイルランドの上院議員に指名され、2004年に英国の一代貴族、Baron Ballyedmondとなり上院議員に。つまり、英国でもアイルランドでも上院議員を経験してるんですね。(この2国間の関係は、細かいところでかなりややこしい。完全に「外国」じゃないんだよね。)

1997年から、the Forum for Peace and Reconciliationと、the British-Irish Inter-Parliamentary Bodyのメンバー。

UUPに入ったのがいつか、などはウィキペディアではわかりません。UUPについてはこれ↓。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ulster_Unionist_Party

UUPといえば、最新の記事では、見事にアルファベット・スープになっている。

UUP 'to clarify' links with PUP
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4795789.stm

UUP = Ulster Unionist Party
PUP = Progressive Unionist Party

で、PUPは「プログレッシヴ」と言う通り左派なんですけど、プロテスタント/ユニオニスト/ロイヤリストの「テロ組織」であるUVF (Ulster Volunteer Force)の政治部門。北アイルランド議会(アセンブリー)には2議席持っているけれど、それ以上のレベル(ウエストミンスター、EU)に議員はいない政党で、党首のデイヴィッド・アーヴァインは70年代にUVFのメンバーで、自動車爆弾を運転してカトリックのパブにつっこもうとして逮捕され有罪で服役。よってメディアでは「元テロリスト」として発言していたりしますが、政治家です。そういう経緯をたどってきた人だからこそわかることというのもあると思います。
http://en.wikipedia.org/wiki/Progressive_Unionist_Party
http://en.wikipedia.org/wiki/David_Ervine

いやほんと、北アイルランドは、「テロリストだからぶっ殺す」とかいうことになっていたら、こうはなってないかもしれない、ということがいろいろあります。

一方で、「成功した実業家」が大政党に大金を寄付していたりして、「イズム」というか「主義主張」では説明できないことがいろいろあるのも実際のところ。

「テロリストだから」ってのは何の判断の根拠にもならないような気がするというか、ある人物が「テロリスト」であるとすれば、その人物をそう呼ばなければよろしいんですというふうに動くのが政治なんだからっていうか(北アイルランドではそれが実際だ)。

「パンがないのならお菓子を召し上がればよろしくってよ」的な(<たぶん全然違う)。

※この記事は

2006年08月17日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 01:32 | Comment(1) | TrackBack(1) | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Pledge to end dissident violence
Thursday, 17 August 2006, 09:05 GMT 10:05 UK
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/4801069.stm

アイルランドのダーモット・アハーン外相が、dissident republican paramilitariesによる最近の暴力の増加を憂慮していると発言。

Mr Ahern said it was "part of a pattern of violence" which the government was determined to eradicate.

"The bombing of Newry, a town which was going from strength to strength, and now this incident at Eddie Haughey's - it again just makes the Irish government much more resolute in what we're doing," he said.

"(We are) working hand in glove with the British government and indeed our two police forces are working hand in glove in order to stamp this out, the entrails of this type of violence."

ということは、アイルランド共和国でReal IRAに対するプレッシャーは強められている、ってことだよなぁ。

共和国政府とUDAあたりは「交渉」をしているのだけど(そしてUDAはある種の「組織改革」でShoukri兄弟を追い出したり)、RIRAに対しては何がどうなってるのか。

NI fires 'are 60% arson attacks'
Thursday, 17 August 2006, 12:34 GMT 13:34 UK
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/4800849.stm

北アイルランド消防のcommander Brian Irvineが、「北アイルランドにおける火災の6割は放火(故意のもの)」と。

"Probably in excess of 60% of the fires that are attended by the fire service are deliberate," Mr Irvine said.

"Quite often it's public amenities, public money that is being squandered by meaningless acts of vandalism."

↑terrorismという語は用いられていない。vandalismという、terorrismよりニュートラルな語が用いられているが、これは、出火原因が「放火」であっても、それが「政治的目的による破壊行為」の場合もあれば、政治的背景を持たない場合もあるためと思われる。(で、その判断は消防がするもんじゃない。)

というかこのarsonっていう語も難しいなあ。ガソリンをまいて火をつけても、爆発物を仕掛けてもarsonだし。

さらにBallynahinchのコミュニティセンターの火災については(この火災は放火だけど、セクタリアンな背景はないと考えられている):
Mr Irvine said there was always an increase in such incidents at this time of year.

"The summer months - maybe it's because the kids are off school and the warm weather - there's always an increase in the number of deliberate fires in Northern Ireland," he said.

学校が休みで気温が高い(=外に出る)ことが夏の放火件数増加と関係がある、との見解。
Posted by nofrills at 2006年08月17日 22:47

この記事へのトラックバック

ジョンベネがどうこうと
Excerpt: いまあちこちのぞいていたら、加藤紘一宅の事件は「放火テロ」こんな記事を見かけた。 まさに正論、そして深刻な出来事なのだ。
Weblog: 季節
Tracked: 2006-08-17 22:10

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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