で、それは前置きで、ここからが本題。
英メディアでは「テロ(terrorism)」という語はめったに使われないのだけど(英国はTerrorism Act 2000で既に「テロリズム」を法的に定義していたけれど、やはりこの語は慎重に扱われている)、北アイルランドでは「放火テロ」(記事ではarsonとかarson attackと表される)はよくある。特にこの1週間、つまり先週の大型店舗4軒への放火攻撃のあと、やたらとよく見かける。
Jobs at risk after 'depot arson'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797125.stm
それから政治家の家が襲われた事件も。
Bomb defused at UUP peer's house
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797095.stm
Jobs at risk after 'depot arson'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797125.stm
事件があったのはCounty TyroneのDungannonという街。タイヤ店の倉庫が放火されて全焼。記事は、その結果としてタイヤ店の従業員が解雇されることになりそうだというのを見出しにしているのだが(あと、末尾のほうにちょっと、その倉庫の天井裏にアスベストが使われていたという問題も書かれている)、内容としては、このタイヤ店の社長の不動産物件も前に2度ターゲットとされている、ということを含め、放火攻撃そのものがメイン。
ただし、だれが(どの組織が)疑わしいとか、どのような手段で放火されたということは一切書かれていなくて、これはこの記事にある地名から何かが判断できる人じゃないと、さっぱり見当もつかない。で、私もほとんど見当がつかない。orz
ただ、このあたりがかつて(the Troublesのころ)、「殺人三角地帯」と呼ばれたエリアだということだけは知っている。政治的動機による殺人(つまり「テロ」)や宗派による殺人(「カトリックを殺す」あるいは「プロテスタントを殺す」)が、北アイルランド全域で最もひどかった地帯だ。「かつて」といってもthe Troublesは15年前までは全盛期だった。その地域でビジネスを展開している実業家が狙われている、ということは、まあ、素直に考えれば「そういうこと」だろうと思う。
http://en.wikipedia.org/wiki/Murder_triangle
あと、社長の名前で検索したら会社のサイトがすぐに見つかった。
http://www.philipwhitetyres.com/
で、この中で紹介されているのが、Ulster Rally(この会社がメインのスポンサーらしい)。Sectarian violenceが激しかった場所で、Ulsterという語を使っているということは、それ自体が政治色を帯びたことだ。これ以上は推測が過ぎるというものなので、この件はここで終わり。
次。
Bomb defused at UUP peer's house
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4797095.stm
UUP (Ulster Unionist Party)所属の英上院議員がCounty Louthに建設している家に爆弾が仕掛けられていた。軍の爆弾処理班が処理したが、もし爆発していたら建設中の物件が全壊していたであろう、というニュース。警察によると、爆弾はit contained 70 pounds of homemade explosive mix packed into a gas cylinder(ガスシリンダーに手製の爆発物が70ポンド=30〜35キロ詰められていた)。
この件に関しては、BBCのダブリン特派員が"Sources also said they believed dissident republicans, who have been more active in the border area over the past week, are responsible"と述べており、つまり、「事件の背後には非主流派リパブリカンがいると思われる」という治安筋の見解が、記事中に示されている。(「非主流派リパブリカン」は、和平推進派のPIRAに賛同しないリパブリカンで、主にReal IRAを指すが、どの組織であるか特定できない場合にも用いられる表現。)
County Louthは「北アイルランド」ではなく「アイルランド共和国」の側だが、ボーダー(「国境」と訳すのには個人的に抵抗がある)に接するあたりは、その辺、曖昧だ。(『プルートで朝食を』のキティがいた村は、物語では架空の名称を与えられていたけれども、映画に描かれていた状況から考えると、おそらくCo Louthじゃないだろうか。)
新築中の家に爆弾を仕掛けられるという被害にあったUUPの政治家は、Edward Haughyという。ウィキペディアにわりと詳しく経歴が記されているが、1944年生まれ、これは当然南北分断(1922年)後で、その親の世代も物心ついたときには南北は分断された後、その親(おじいさん)なら分断リアルタイム体験者だろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Haughey,_Baron_Ballyedmond
で、この人の経歴、読むとわけわかんないかも。。。UUPだからユニオニスト、したがってプロテスタントであると考えるのが通例なんだけど、この人のバックグラウンドはカトリックなんだよね(学童としてChristian Brothersの教育を受けている)。というか、「カトリック」でなおかつ「ユニオニスト」という数少ないスタンスの人たちのひとりのようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Category:Catholic_Unionists
Edward Haughyは、1960年代に4年間をアメリカで過ごしたあと、1968年に北アイルランドのNewryで事業を開始して成功。1994年にアイルランドの上院議員に指名され、2004年に英国の一代貴族、Baron Ballyedmondとなり上院議員に。つまり、英国でもアイルランドでも上院議員を経験してるんですね。(この2国間の関係は、細かいところでかなりややこしい。完全に「外国」じゃないんだよね。)
1997年から、the Forum for Peace and Reconciliationと、the British-Irish Inter-Parliamentary Bodyのメンバー。
UUPに入ったのがいつか、などはウィキペディアではわかりません。UUPについてはこれ↓。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ulster_Unionist_Party
UUPといえば、最新の記事では、見事にアルファベット・スープになっている。
UUP 'to clarify' links with PUP
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4795789.stm
UUP = Ulster Unionist Party
PUP = Progressive Unionist Party
で、PUPは「プログレッシヴ」と言う通り左派なんですけど、プロテスタント/ユニオニスト/ロイヤリストの「テロ組織」であるUVF (Ulster Volunteer Force)の政治部門。北アイルランド議会(アセンブリー)には2議席持っているけれど、それ以上のレベル(ウエストミンスター、EU)に議員はいない政党で、党首のデイヴィッド・アーヴァインは70年代にUVFのメンバーで、自動車爆弾を運転してカトリックのパブにつっこもうとして逮捕され有罪で服役。よってメディアでは「元テロリスト」として発言していたりしますが、政治家です。そういう経緯をたどってきた人だからこそわかることというのもあると思います。
http://en.wikipedia.org/wiki/Progressive_Unionist_Party
http://en.wikipedia.org/wiki/David_Ervine
いやほんと、北アイルランドは、「テロリストだからぶっ殺す」とかいうことになっていたら、こうはなってないかもしれない、ということがいろいろあります。
一方で、「成功した実業家」が大政党に大金を寄付していたりして、「イズム」というか「主義主張」では説明できないことがいろいろあるのも実際のところ。
「テロリストだから」ってのは何の判断の根拠にもならないような気がするというか、ある人物が「テロリスト」であるとすれば、その人物をそう呼ばなければよろしいんですというふうに動くのが政治なんだからっていうか(北アイルランドではそれが実際だ)。
「パンがないのならお菓子を召し上がればよろしくってよ」的な(<たぶん全然違う)。
※この記事は
2006年08月17日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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Thursday, 17 August 2006, 09:05 GMT 10:05 UK
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/4801069.stm
アイルランドのダーモット・アハーン外相が、dissident republican paramilitariesによる最近の暴力の増加を憂慮していると発言。
Mr Ahern said it was "part of a pattern of violence" which the government was determined to eradicate.
"The bombing of Newry, a town which was going from strength to strength, and now this incident at Eddie Haughey's - it again just makes the Irish government much more resolute in what we're doing," he said.
"(We are) working hand in glove with the British government and indeed our two police forces are working hand in glove in order to stamp this out, the entrails of this type of violence."
ということは、アイルランド共和国でReal IRAに対するプレッシャーは強められている、ってことだよなぁ。
共和国政府とUDAあたりは「交渉」をしているのだけど(そしてUDAはある種の「組織改革」でShoukri兄弟を追い出したり)、RIRAに対しては何がどうなってるのか。
NI fires 'are 60% arson attacks'
Thursday, 17 August 2006, 12:34 GMT 13:34 UK
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/4800849.stm
北アイルランド消防のcommander Brian Irvineが、「北アイルランドにおける火災の6割は放火(故意のもの)」と。
"Probably in excess of 60% of the fires that are attended by the fire service are deliberate," Mr Irvine said.
"Quite often it's public amenities, public money that is being squandered by meaningless acts of vandalism."
↑terrorismという語は用いられていない。vandalismという、terorrismよりニュートラルな語が用いられているが、これは、出火原因が「放火」であっても、それが「政治的目的による破壊行為」の場合もあれば、政治的背景を持たない場合もあるためと思われる。(で、その判断は消防がするもんじゃない。)
というかこのarsonっていう語も難しいなあ。ガソリンをまいて火をつけても、爆発物を仕掛けてもarsonだし。
さらにBallynahinchのコミュニティセンターの火災については(この火災は放火だけど、セクタリアンな背景はないと考えられている):
Mr Irvine said there was always an increase in such incidents at this time of year.
"The summer months - maybe it's because the kids are off school and the warm weather - there's always an increase in the number of deliberate fires in Northern Ireland," he said.
学校が休みで気温が高い(=外に出る)ことが夏の放火件数増加と関係がある、との見解。