「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2006年08月13日

英国の、あまり報道されない「爆弾テロ」@実行済

それが「テロ」であるかどうかは英語の記事からはわからない。というのも、BBCやガーディアンなどの英語メディアではめったなことではterrorismという語は用いないからだ。(これについて興味のある方は、各メディアの表記ガイドライン style guideをご参照あれ。)

しかし日本の報道機関であれば、これは確実に「爆弾テロ」と呼んでいるだろう――一部は「未遂」ではあるのだが。

12日、英国のある地域で、軍の爆発物処理班が、町中で、複数の爆発物の処理を実行した。
Controlled explosions carried out
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4787309.stm

その前日の11日、鉄道に2箇所にわたって爆弾を仕掛けたとある組織が声明を出した。同じ組織は同じ週の水曜日にあった爆弾事件の実行も認めている。水曜日の爆弾では大型店舗4軒が燃え、けっこう大きな物的被害が出ている。
Bomb alerts close railway line
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4786369.stm

13日の日曜日になっても、爆発物が仕掛けられているらしいため、鉄道は不通の状態だ。
Bomb alerts hit transport system
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/4788045.stm

さて、これはどこでしょう・・・・・・って既にネタバレしている。北アイルランドだ。

では誰の爆弾か。

軍の爆発物処理班が出動し処理した爆弾については、記事にほとんど情報がないので、誰の爆弾かは不明だ。北アイルランド警察(PSNI)のプレスリリースにも当該の件への言及はないし、となると軍のサイトを探さないとならないかもしれないのだが、そこまで手が回らない。まあ、誰の爆弾であれ、それが爆弾であることに変わりはない。そして爆弾ってものは、そのへんの木から落ちてきたり、誰かがうっかり置き忘れたりするようなものじゃない。(よほどマヌケな爆弾犯なら置き忘れるかもしれないが。)つまり、それがあるということは、破壊の意図や殺意がそこに向けられたということだ。

鉄道および商店に仕掛けられた爆弾については、「私たちがやった」との声明を出したのは、リアルIRA(Real IRA; RIRA)である。

「リアルIRA」は、いわゆる「IRA」(Provisional IRA; PIRA)の分派。1998年、英国政府およびユニオニスト/ロイヤリストとの「和平」の道を選んだPIRAおよびシン・フェイン(正確にはProvisional Sinn Fein)に反対し、従来どおり武装闘争という手段で統一アイルランドを実現すべしとの主義主張の人々がPIRAから分派したのがRIRAだ。組織の規模はあまり大きくはないらしい。彼らの最初の行動は、1998年8月のOmagh bombingだた。週末で買い物客が多くいたOmaghという地方都市の繁華街に仕掛けられた爆弾は、スペインからの修学旅行生を含め、29人を殺した。(犠牲者には双子を妊娠した女性もいたから31人と考えてもいいのかもしれない。)

PIRAは、2005年6月から7月にかけて、「武装闘争の終結」「活動の停止」を宣言し、所有する武器をすべて使えない形にしたことがオブザーヴァーによって確認され、もはや「テロを行なう」現実的可能性はなくなった。しかしRIRAは依然としてアクティヴである。

最近も、肥料爆弾を満載したヴァンが警察によって摘発されるという事件があったばかりだ。つまりRIRAはいまも爆弾を作っていて、その爆弾をどこかに仕掛けるという活動を行なっている、ということだ。

なお、軍の爆発物処理班が出動し処理した爆弾は複数、Co AntrimのBallymenaの市街のパブやレストランなどに仕掛けられていた。(記事ではa number ofと伝えられているが、具体的な件数は報告されていない。)

バリミナからは最近、セクタリアンな暴力の事件が頻繁に伝えられている。最も悲惨だったのは、友人たちとピザを買いに出た15歳の少年が10代〜20歳くらいの若者たちに襲撃され、逃げ切ることができなくてぼこぼこにされて亡くなった事件だ(2006年5月)。殺された少年はカトリック、襲撃した連中はプロテスタント、というのが「宗派」的な説明で、襲撃した連中はloyalist mobなどと呼ばれる者たちだった。(彼らに「思想」や「主義主張」があるのかないのかは不明である。)少年は宗派別ではない学校(integrated school)に通っており、少年の葬儀では、カトリックもプロテスタントもなく、同世代の子たちが順番に棺をかついで街を歩いた。しかし、教会を出る参列者の車に石が投げつけられたといった報告があったほか、7月のロイヤリストの焚き火祭り(ボンファイア)の際には、殺された少年を侮辱する言葉が書かれた旗が、ボンファイアのてっぺんに載せられて燃やされたという。つまり、15歳の子が1人殺されても、その死に対しその世代の子たちが悲しみを表明しても、その死をもたらした環境は変わらないでいる。それそのものが陰惨で悲惨なのだけれども、これがもっと痛々しいのは、まさに「隣人が隣人を攻撃や襲撃の対象とみなし、その攻撃や襲撃を実行する」ことが常態化した、というか常態化させられたさまとして、この1つの事件を見るときのことだ。

北アイルランドの場合、こういうものと「テロ」とは密接なつながりを持っている。いまの話ではなく(hopefully)、1970年代、80年代のことだが。

鉄道に爆弾を仕掛けるなどということをした人たちがなぜそのような行為をするようになったのか。ファナティックな何かに洗脳されているのか? そこに暴力という手段が用意されていたからか? それだけじゃない。「そうせねばならない」と彼らに思わせた何かがあったからだ。そう思わされた彼らを待っていたのが、暴力という手段だった。そういうことじゃないか?

「あったと考えられる」ものに過ぎない「航空機爆破テロ計画」がこれだけ多く報道されている一方で、「計画」の段階を通り過ぎ「実行」の段階にまで来た「爆弾テロ」は、まるで報じられない。

なぜ報じられないのかは簡単な話だ。「その“テロ”は地域限定の“テロ”だから」だ。

それでも、規模や手法といったものを取り去って見たときに、その「テロ」とあの「テロ」との間に、本質的な違いは、それほどない。

なお、「航空機爆破テロ計画」は、あまりの報道の多さと「空港のセキュリティチェック」の身近さゆえに、まるでそれが実際にヒースロー空港などで起こったかのような錯覚に陥りそうなところであるが(ペットボトルを持った爆弾犯がヒースローで取り押さえられた、など)、すべての「事実」が警察発表のままであったとしても、実際にはそれらはまるっきり実行されていない段階で(これは幸いなことだ)警察が容疑者を逮捕している。つまり、「それ」は起きていない。

起きているのは、バリミナやニューリーの爆弾のほうだ。

【北アイルランド、今週の「爆弾テロ」】←連載なんかしたくない。
※「爆弾テロ」という用語は日本流のやり方にならうものであり、英語ではそう書かれていません。

* 9日(水)、ニューリーのスポーツ用品店とカーペット店など4軒の大規模商店で爆発・火災。Real IRAが犯行声明。
Shops damaged in suspected arson
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/5258728.stm
※BBCの記事の見出しが「放火 arson」なのはなぜなのか、よくわかりません。

* 11日(金)、ダブリンとベルファストを結ぶ鉄道(<日本で言えば東海道本線みたいなもの)のNewryとDundalkの間の線路、2箇所に爆弾を仕掛けたとReal IRAが声明。土曜、日曜にわたって当該区間が不通に。
Bomb alerts close railway line
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4786369.stm

Bomb alerts hit transport system
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/4788045.stm

* 12日(土)、アントリムのバリミナの市中の飲食店(複数)に爆弾(複数)。軍の爆発物処理班が処理。
Controlled explosions carried out
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4787309.stm

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なお、RIRAは、PIRAから分派する前から英国諜報機関によって浸透されまくっていて、Omagh bombingもそれら諜報の人間が推し進めたと主張している。英国の諜報機関が北アイルランドのリパブリカンの組織に入り込んで何をしていたかは、ほんの少し知っただけでもゲンナリする性質のものだが、Omaghについては「北アイルランド紛争で最大のテロ事件」という虚偽の説明が頻繁にされていることを考えると(<1974年のロイヤリストの爆弾テロ@ダブリン&モナハンの方が犠牲者数が多い)、本当にゲンナリする。

※この記事は

2006年08月13日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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