その中にPrelinger Archivesというコレクションがあります。NYCのRick Prelingerさんという方が、1983年に設立したコレクションで、教育・啓発ビデオや、建築現場の記録ビデオ(WTCのもあります)や、軍の新兵向けの教育ビデオ、生活家電普及期にGEが一枚噛んで製作されたドラマなどなど、興味深いものがたくさんあります(カテゴリ一覧)。
そのコレクションの中に、"World War II: Japan"にカテゴライズされた4本のフィルムがあります。
その1本に、「My Japan(わたしの日本)」というフィルムがあります。1945年、第7次戦時国債を出すときに米財務省が製作したもので、戦時国債を買おうというキャンペーンのビデオです。
ちょっと調べてみたところ、この第7次戦時国債は、1945年5月8日にヨーロッパでの戦争が終結(ドイツ降伏)してから1週間もたたない5月14日に売り出されたものであるとのこと。
ということは、この戦時国債が出たときには、アメリカの敵は日本だけでした。というわけで、この戦時国債は日本に対する戦争を遂行するための資金源でした。そのため、日本に対する敵意を盛り上げなければならず、その際に作られたのがこのフィルムです。当時のポスターも、ネットで閲覧できます(硫黄島の戦闘の図柄を用いたもの@オハイオの歴史資料館、列を成す労働者たちの図柄を用いたもの@イリノイの大学図書館)。(ちなみに、硫黄島の戦闘は1945年2〜3月です。)
つまり、「My Japan(わたしの日本)」は、対独勝利でほっとしていた米国の一般社会に向けて「戦争はまだ終わっていない、まだ恐ろしい敵がいる、だから戦時国債を買おう」と呼びかけるために、財務省が製作したプロパガンダ・フィルムです。
Internet Archiveのページにスクリプトが置かれているので、以下、それを日本語化します。最初に少し説明しておくと、このフィルムは「日本を知る者が日本を代弁する」という形式で作られており、語り手は米国人俳優ですが、日本人の特徴(とされていた/されているもの)を模しています。
1945年5月に日本の何がどのように語られていたのか、また、日本について何が語られていないのかなど、いろいろと考え、知ることができる貴重な映像資料です。
映像のDL方法などはInternet Archiveのページを見ればわかると思いますが、ページの左側の欄のStreamはストリームですので回線の状態によってぶつぶつ切れますので、Downloadのところでファイルを選んで手元にDLしてから見るほうが快適です。
なお、オリジナルはCreative CommonsのNo Rights Reservedで公開されていますが、以下は、へっぽこな日本語化ではありますが、Some Rights Reservedで公開します(非商用利用は自由、ということで。学校・大学・塾など、教育方面での利用はご自由にどうぞ。非商用であれば、これをたたき台とした改訳なども含め、何をしていただいてもかまいません。なお、「原著者のクレジット不要」が選択できないのですが、原著者=米財務省は別として、翻訳者=わたしの名前のクレジットは、教育現場などでは不要です)。
(字幕)[アメリカ合衆国財務省、戦時財政金融課製作]
(字幕)[入手した日本の映像からみる、日本の観点、日本の主義主張。敵はこのようにこの戦争を見、この戦争を考え、この戦争を戦っているのである。敵にとってこれは・・・]
(字幕)[わたしの日本]
「なるほど、あなたがたが敵のみなさんですね。ははは・・・いや失敬。つい笑ってしまいました。みなさん、日本人は感情を表に出さないとお聞きでいらしたことでしょう。意外かもしれませんがわたしは出っ歯ではないし、瓶底メガネもかけていませんよ。あなたがたの幻想を打ち砕くのは、まことに残念です。が、こんなにたやすいことはない。ええ、たやすいことです。あなたがたは日本人を知らないのですから。ご自身ではそんなことは知っていると思っておられる。しかしそれは間違っています。これからあなたがたがいかに間違っているか、お見せしましょう。」
「これが日本です。わたしの日本です。美しいです。」
「やわらかくかぐわしいそよ風が、細い葉を生やした細い松の木々に、月の女神の物語をささやきかけています。繊細な造りの橋が小川のせせらぎの上にかかるさまは、まるで花々の上を飛ぶハチドリのようです。」
「冬の陽射しのごとく冷たく澄んだ水を泳ぐ神様の魚が立てる小さな波。」
「そしてこれは霊峰富士――下は沸き立つ地球の中心部にまで達し、そびえ立つその先は、我らが宿命成就を見守る星々に届かんばかり。疑う余地のなき我らが宿命、それは統治。」
(フィルムの中の兵士たちの声)万歳、万歳、万歳
「どうです? わたしの日本は美しい。そしてこれもまた私の日本です。絵を囲む額縁、しなやかな竹の固い背骨とも言うべき部分です。」
「紙と木でできた脆い建物。焼夷弾が投下されればたちまちめらめらと燃え上がる巨大な松明ですって? よくご覧なさい。火災も地震も、わたしたちの都市を壊滅させることはできません。みなさんにもそれがわかりつつあるのではないですか?」
「それにあなたがたの空襲も大したことないですね。ロンドンは空襲されました。それでイングランドが死にましたか? 東京、大阪、横浜――爆撃するならしなさい。都市を黒く焼け焦げた瓦礫に変えようとも、いくばくかの安い命を奪おうとも、日本を破壊することはできません。そのことも、みなさんにはわかりつつあるのではないですか?」
「あなたがたには日本を破滅させることなどできません。日本の心を、つまり日本人を破壊することなどあなたがたにはできないからです。」
「いや、できるとあなたがたはおっしゃる。しかしあなたがたの使おうとする方法を見ていると笑えますよ。食料を奪えば破壊できるとおっしゃいますが、ははは、お忘れのようですね、わたしたちはあなたがたとは違うのです。わたしたちは、牛肉を食わせろだのバターはないのかだのお菓子が欲しいだのといった甘ったれた胃袋の持ち主ではない。わたしたちは粗食で十分。そういう食料なら手に入れるのにも苦労はしません。わたしたちを餓死させるですって? 大洋の魚を餓死させるほうが簡単ですよ。」
「窮乏生活を送ればわたしたちを破滅させることができるとあなたがたはおっしゃる。あなたがたがガソリンを満タンにしておけないときに、わたしたちがいかに苦しむか。あなたがたが観光列車にすし詰めで乗り込むのを見て、わたしたちがいかに打ちのめされるか。あなたがたが映画館やレストランやナイトクラブに入場するのにじっと待たなければならないことに、わたしたちがいかに戦慄を覚えるか。窮乏生活ですって? いやはや、まったくおもしろい方々です。幼稚なセンスです。」
「それとも本気でいらっしゃるのですか? やっておれませんな。わたしたちの目にはあなたがたはまるで幼稚です。敵としては、なんとまあありがたいことに。」
「わたしたち以上に働くことによって、わたしたちを破滅させることができるとあなたがたはおっしゃる。ははは。いやこれは失礼。笑ってしまいました。こんなにおもしろい考えはなかなかありませんのでね。」
「あなたがたはわが国の労働者をご存知ないでしょう? さあ、これがわが国の労働者です。わたしが失笑した理由もおわかりでしょう。」
「彼らはあなたがたより長時間労働します――2倍働くこともまったく珍しくありません。当然でしょう? 決められた時間だけ働いて終わり、というのではないのですから。わが国の労働者は、戦争に勝つために、働いているのですから。」
「稼ぎはあなたがたほどよくないですよ。しかしですね、金を稼ぐために働いているのではないのです。わが国の労働者は、戦争に勝つために、働いているのです。毎週月曜から日曜まで働くのです。これがそんなに珍しいですか? 休暇を取るために働いているのではありませんからね。戦争に勝つために、働いているのです。
「そしてわが国の労働者たちは何時間も長い行列を成してこれらを買うのです――日本の戦時国債を。あとで換金するのだろうとおっしゃいますか? また馬脚を現しましたね。わたしたちがあなたがたと同じだと考えられても困りますな。わたしたちは、戦争に勝つために、国債を保有するのです。」
「あなたがたは、わたしたち以上に戦うことによって、わたしたちを滅ぼすことができるとおっしゃる。何をおっしゃいますやら。わたしたち以上に戦うことなどできません。なぜならあなたがたの目の前の道の行く先は険しく岩だらけの日本の山々です。しかも血に濡れていて滑りやすい――あなたがたの血ですがね。」
「みなさんの国民性は少しでも得なものを必死で探してやろうというものです。つまり勝利の対価を値切らずに払おうという気持ちがない。苦痛、労働、金銭、そして生命による対価を。」
「ガタルカナル、タラワ、サイパン、硫黄島――あなたがたは大勝利を収めたと喧伝する。あなたがたにとってはそうでしょう。しかしわたしたちにとっては大したことのない敗北です――(本島から離れた)島の前哨基地を失ったに過ぎませんからね。」
「あなたがたアメリカ人は、『結果がすべてだ (look at the score)』という言い方を好みます。どうぞ好きなだけ結果をご確認ください。これらの前哨基地にあなたがたは最精鋭の部隊を送り込みました。そして彼らは数千という単位で死んだのです。彼らは、むごたらしく殺されたのです。」
「けれども、これらの島を取ったのはこっちだぞとあなたがたはおっしゃる。ええ、そうおっしゃるだろうと思ってましたよ。だからこそわたしたちは、あれらの島々には二流の部隊を駐屯させたのです。あなたがたの最精鋭の生命が、わたしたちの最底辺の生命と引き換えになったのです。まあわたしたちだって、どういうのが得なのか、少しは知っていますからね。」
「あなたがたはまだ、わたしたちの最精鋭の軍隊とは対峙していない。あなたがたが対峙したのは、わが軍の最底辺の1割に過ぎません。わが軍の第一線の戦士たち、数百万人という一流の戦士たちは、わたしたち自身が選んだ戦場であなたがたを待っています――あなたがたの補給線を弱らせ、わたしたちの場所にたどり着く前に戦闘力をそぐような、広大な海を渡ったところで待っています。」
「彼らはわたしの日本で、中国で、そしてビルマで待っています。あなたがたの側ではない世界の半分で――わたしたちの側で。そして彼らはあなたがたのことを嘲笑しています。まるで理解が至らないので。」
「全力を出し切ってしまっているじゃないかとおっしゃいますね。交代要員はもういない、と。よくお聞きなさい。毎日毎日、来る月も来る月も、戦場に斃れるよりもずっとずっと多くの男たちが、わが軍には入隊しているのです。」
「どうせ無知で野蛮なチビだろうとおっしゃいますね。無知ですって? わが軍兵士の9割が読み書きができるのですよ。おたくの軍で同じことが言えますか?」
「チビですって? わが軍の第一線の師団で戦う者、わが国の真の軍隊はみな長身です。あなたがたならば『身長6フィートの大男』と呼ぶような者ばかりですよ。野蛮ですって? いいえ、現実主義というだけです。事実をまともに見る者たちなのです。」
「強き者が弱き者を支配するということは、事実であります。したがって、わたしたちは弱き者を支配する。強き者は、その強さを行使した場合にのみ、強くいられるということも事実であります。したがって、わたしたちは強さを行使する。」
「弱き者の出生率が低ければ低いほど、将来的にわたしたちにとっての危険のたねは少なくなる、ということも事実であります。したがって、わたしたちは出生率を調整する。捕らえた捕虜は、有益な情報をすっかりしぼりとってしまえば、あとは荷物となる、ということも事実であります。したがって、わたしたちはそのやっかいな負債を資産に変える――すなわちわたしたちの田や工場の労働力とするのでありますが――、またはその負債を帳簿から完全に消す。」
「より詳しい話は、フィリピン諸島においてわたしたちの客人として長いこと過ごされているあなたがたの同胞にお聞きになればよろしいでしょう――いまもまだ生きている者に、ですがね。」
「人命など安いものである、ということは事実であります。あなたがたと異なり、わたしたちは人命の価値について女々しい幻想など抱いていない。したがって、わたしたちは人命を思いのままに費やすのです――あなたがたのものであろうと、わたしたちのものであろうと。いま、わたし、思いのままにと言いましたね。それではあまりに言葉が控えめというものでしょう――より正確には、惜しげなく、です。」
「戦争の初期に、わたしの日本があなたがたにお話ししたことですが、われわれは貴殿らを負かすためには、一千万の命を費やすつもりなのです。貴殿らが費やすことを辞さないのはどのくらいでしょうか?」
「じっくりお考えになってからお答えください。硫黄島でわが軍数千を洞穴から出させるために、あなたがたがどれだけを代償としたかもよく思い出してください――わずか数千のためにね。そして、あなたがたを待っているわれわれの数は7千万ですよ――貴殿らを滅ぼそうと数十年も計画してきた7千万人、貴殿らを押し留めるため命を投げ出すという英霊としての名誉のときを熱く昂ぶる気持ちで待つ7千万人、貴殿らを叩き潰すために一切の迷いなく突き進む7千万人。つまり、洞穴から出させねばならぬのは7千万人なのです。貴殿らにやる気があれば、ですがね。」
「日本の洞穴ですか? とっておきの隠し玉を持っておく能力は自分自身にしかかけられないでしょう? 中国にも洞穴はあるのですよ――わが国にこんなにも近い中国、われわれの支配する中国。」
「あなたがたがわが本島に、苦心しつつであっても、じりじりと迫ってきたとしましょう。その場合、日本海は幅が狭いのですから、それを渡るのが簡単ですよね? わずか100マイル強の移動です。」
「わが国はすでに現地に多くの産業を有しております。そして、もし勇気がおありなら想像していただきたい、貴殿らのお国と同じくらいに広大な国の建物や峡谷、洞穴や山々から、7千万のわれらを逐一探し出すとは、いかなることであるか、を。」
「あれほどに広大な蜘蛛の巣にわれわれを追い込もうとすることを想像していただいてもよいでしょう。蜘蛛の巣にかかり、蜘蛛に攻撃される蝿をご覧になったことがおありかと思いますが、われわれに近づけば貴殿らも同様に死ぬことになります――血を吸い尽くされて。」
「いえいえ、わたしたちはまだあなたがたを傷つけることも始めていない。あなたがたにしても同様、わたしたちはまだ傷ついてもいない。われわれの戦争はまだ始まってすらいないのです。われわれはそう断言できるのです。日本の心を知っていますから。しかるに、貴殿らはそれをご存知ではない。」
「われわれはドイツではありません。ひとたび殻にヒビが入ればやすやすと食われてしまう胡桃ではありません。われわれは日本であります。山、蜘蛛の巣、そして貴殿らへの憎悪でますます燃え盛る炎。さあ、ゲームが始まりますよ。わたしたちが賭けるのは1度だけ、それも、すべてを得るか、失うか、です。」
「これからどのようなことが待ち構えているかを率直に申し上げましたが、少し強烈に過ぎましたでしょうか。というわけで、お口直しに、わたしの日本の美しさをご堪能ください。」
「真実の世界より、虚構の世界のほうが、あなたがたのご趣味には合うでしょう。いえいえ、これ以上ご気分を害するわけには参りませんので。わたしはあなたがたを目覚めさせてはならないのです。あなたがたの夢は、わたしたちにとっては喜ばしく有益なものです。あなたがたは勝利のために尽力するのではなく、勝利を夢見るのですから。あなたがたは総力戦を口にしはするが、総力戦を戦いはしない。われわれの条件での平和ではなく、自己中心的にも、お買い得価格の平和を望んでいる。」
「やる気なら、何としてもわたしの日本へおいでなさい。歓迎しますよ。美しいところです。われわれの銃剣についたあなたがたの血は、それと同じくらい美しいことでしょう。」
(字幕)[いいですか――日本人は、いまみなさんがご覧になったものを信じているのです・・・]
(字幕)[戦時国債を買いましょう――第7次戦時国債、絶賛発売中]
(字幕)[アメリカ合衆国財務省、戦時財政金融課製作 完]
この作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
■参考:
このフィルムについて、「壊れる前に・・・」さんでの紹介(2005年2月)
http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2005/02/post_2.html
※この記事は
2006年08月09日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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勝つも負けるもプロパガンダですね.戦争っていうのは,自分が寄って立つものが何なのかを分からなくしてしまうものですね.
映像と音声(米語)があるともっとシュールかもしれません。
いや、逆にリアルかなあ。明らかに「プロパガンダ」だとわかる分。
でもここにある「プロパガンダ」の様式は、今も同じですね。
> 戦争っていうのは,自分が寄って立つものが何なのかを分からなくしてしまうものですね.
同意します。
『戦場における殺人の心理学』という本に
「人を殺すということが、兵士に可能になるのはなぜなのか」
という点について書かれているのですが、
結局は「自分を『自分』たらしめている何か」がわからない状態に
置かれる、ということだと思います。
このウェブログの別の記事で、
マイケル・ストーンという北アイルランドの
ロイヤリストのヒットマンの本を紹介しているのですが:
http://nofrills.seesaa.net/article/26613641.html
この本の中で、ストーンは
「自分は兵士である。兵士として敵の兵士を殺す」
という自己正当化を行なったことを綴っています。
彼は結婚していて子供もあり、
普段は建築関係の労働者として暮らしながら、
実は組織の暗殺屋という二重生活を送っていました。
で、「敵にも自分と同じように妻や子供がいると考えると殺せなくなる。
だから自分も相手も『兵士』なのだと考えた」
というようなことを書いています。
でなければ人を殺すことはできなかった、と。