16日の深夜に「レベル4」という話がTwitterで英文で流れてきて(誰かのRTによる)、以後しばらく様子を見ていたのだが、INESの「レベル4」(福島第一やチェルノブイリについて「レベル7」としている国際基準)ならばあるであろう反応が、何時間も経過しても、まるで確認できない。つまり、ロイター、CNN、BBCなどでのその報道がない。あれ?と思ってたら同じことを疑問に思っていた人がTwitterの日本語圏に何人もいらして、そのみなさんのツイートをTogetterでまとめさせていただいた。
結論だけいえば、「レベル4」というのはネブラスカから遠く離れたハワイのオンライン・メディア(「自称」といってよいレベル)が勝手にそう書いて、後にこっそり削除した記述で、無根拠なもの、もしくは書き手の勘違いに基づいたものだった。その経緯は、このブログでも既に書いてある。
2011年06月18日 「ネブラスカの原発がレベル4」というのは誤報です。(付:「レベル4」と書いたハワイのサイトについて調べてみた)
http://nofrills.seesaa.net/article/210461307.html
その後も、手が空いたときにGoogle Newsでfort calhoun nuclear plantをチェックするなどしているのだが、昨日あたりからまた新たな「噂」が出ていたようだ。23日付のネブラスカの地域のメディア, Nebraska State Paperの記事。(ここはあまりかっちりしたメディアではなく、住民による住民のためのメディアという感じだ。日本で言うと「地域のミニコミ、タウン誌」だろう。)
Rumors Fly As Floodwaters Rise Around Nuclear Plants
June 23, 2011
http://nebraska.statepaper.com/vnews/display.v/ART/2011/06/23/4e0317ffcd968
いわく、ミズーリ川の洪水は収まる感じではなく、2箇所の原発はかなりやばい状況にある。一方で不正確な噂がネットに流れている(すなわち、「あなた、原発ちゃんが息をしてないの」的な噂)。
23日(木)、クーパー原子力発電所はフルパワーで稼動している。フォート・カルフーン原発は4月7日に燃料補給でシャットダウンされ、そのまま停止中。洪水が収まるまではそのまま停止しておくと、NRC(米原子力規制委員会)は述べている。またNRCは、双方の原発について「非通常事態 Unusual Event」との宣言を出しているが、これはNRCの4段階の緊急事態のうち、最も低いレベル(ランク)である。
記事はこのあと、「人々が心配している」ということについてこのメディアをはじめ、いくつかのメディアが取材したり述べたりしている内容を説明している(特に敷地が水没している写真。フォート・カルフーンのは16日に既に出回っていたが、敷地の外側の部分は冠水しているが、重要な施設のある高台は土嚢や可動式防波堤的なチューブで囲まれ、浸水しないようどうにか凌いでいる状態。写真とかはCryptomeにあるのを見るのがいいかも)。記事に出てくるOPPDはフォート・カルフーン原発の、NPPDはクーパー原発の事業者だ。(福島第一=東京電力、女川=東北電力、みたいなこと。)
OPPDは先週と同じく「重要なところは浸水していない」と述べており、NPPDは「この地域は1952年以降少なくとも5度の洪水を経験しているし、クーパー原発は1974年操業開始して以来何度か洪水、トルネード、地震など自然災害を経験している。施設は高台にあり、水位がかくかくしかじかになると……」と説明している、というこのメディアとは別のメディアの取材を紹介し、「全文を読むといい」と推薦している(ので、記事全部を見てください)。
そして記事の末尾で、OPPDとNPPDのサイトにリンクしている。OPPDは「フォート・カルフーンに関する噂についてページを設けている」。NPPDは「それほど詳しくはない」とのこと。
で、これを読んでひとまず、どちらの施設についても浸水はしていないのだということで、祈るような気持ちでほっと一安心する。
一方、紹介されていたリンクから知ったのだが、パキスタンのThe Nation掲載の記事:
http://nation.com.pk/pakistan-news-newspaper-daily-english-online/International/18-Jun-2011/US-orders-news-blackout-over-crippled-Nebraska-Nuclear-Plant-report/
パキスタンとかインドとかの英語メディアには、自分では取材をしない日本語圏のオンラインメディア(というかブログ)と同様の信頼度しかないところもあるのだが、The Nationはかなり信頼できると位置づけられている(Dawnの方が上だが)。個人的にはパキスタンのメディアはめったにチェックしないが、ベナジール・ブットの暗殺に関連したニュースなどでThe Nation PKは何度か参照はしている。
で、上の記事を見てびっくりしたのだが、これ、よそのコピペなんだよね。しかも陰謀論のガセねた。解説はPakistan Media Watchというサイトに詳しく出てるのを見つけたんでそれを参照していただくのがよいと思うが、最初に「レベル4」云々という根拠のない誤報が出回ってTogetterでまとめたものをアップデートしたときに読んだのとまったく同じ文章(→Togetterまとめの、"tsot 2011/06/18 06:05:20" を参照)。
これは、@gohsuketさんがご報告くださっている通り、広く知られた「陰謀論」のサイトに掲載された文章。このサイトは「リンクバックしてくれれば転載可能」ということでやってきたサイトで、この文章があっちこっちにコピペされて無数に増殖している。
それがブログとか掲示板とか個人レベルで運営されているようなニュースサイト的なものにコピペされている程度なら驚きはないのだが、パキスタンのThe Nationまでもこれをコピペして掲載しているという……しかも最後に The EU Times という謎の媒体名を書いてるだけで、リンクバックしてない(笑)。
なお、この「陰謀論」、内容は、"IAEAが、ロシアの連邦原子力エネルギー局 (Russia's Federal Atomic Energy Agency: FAAE) に提供した情報に基づいて、FAAEが準備した報告書によると、オバマ政権は、ネブラスカに位置するフォート・カルフーン原発での炉心溶融について一切の情報を報道すべからずという「完全で全面的な」緘口令を云々……" で、Obama administrationじゃなくてObama regimeと書いてる時点で信頼度-90%【当社比】という感じだが、この記事、肝心の「FAAEの報告書」なるものへのリンクが見当たらないし、どうやってそんなものをこのサイトが入手したのかも不明。つまりまったくのガセと見て構わない。
ただ、ものすごい回数コピペされているので、ネット上ではあたかもこれが信憑性が高いかのような状態になっている。
検索結果の画面。記事の一節をそのまま検索したところ……

追記@日曜日
パキスタンの新聞に掲載された「情報統制」という陰謀説(ただしよそからのコピペ)をソースに、米国で「噂」がさらに拡大。The Asheville Citizen Times: http://www.citizen-times.com/article/D2/20110625/NEWS/106250326/Floods-spur-wild-rumors-nuclear-plant-perils-Nebraska
上記ニュース記事はGoogle News経由で見つけた。Ashevilleは、ノース・キャロライナ州(東海岸)の内陸部の都市で、ネブラスカ州とは離れているが、このThe Asheville Citizen Timesという媒体は http://www.gannett.com/ という全米規模の企業が運営している。以上、覚え書き。
※この記事は
2011年06月24日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【i dont think im a pacifist/words at warの最新記事】
- 「私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない」展(東京・六..
- アメリカのジャーナリストたちと一緒に、Twitterアカウントを凍結された件につ..
- パンデミック下の東京都、「コロナ疑い例」ではないかと疑った私の記録(検査はすぐに..
- 都教委のサイトと外務省のサイトで、イスラエルの首都がなぜか「エルサレム」というこ..
- ファルージャ戦の娯楽素材化に反対の意思を示す請願文・署名のご案内 #イラク戦争 ..
- アベノマスクが届いたので、糸をほどいて解体してみた。 #abenomask #a..
- 「漂白剤は飲んで効く奇跡の薬」と主張するアメリカのカルトまがいと、ドナルド・トラ..
- 「オーバーシュート overshoot」なる用語について(この用語で「爆発的な感..
- 学術的に確認はされていないことでも、報道はされていたということについてのメモ(新..
- 「難しいことはわからない私」でも、「言葉」を見る目があれば、誤情報から自分も家族..