
「国際ニュースになるときは基本的に暗いニュースばかり」のアイルランドで、5月の英女王のアイルランド訪問と米大統領のアイルランド訪問の話題がかなりの期間、人によってはうんざりするほど長続きした(女王のほうは滞在の日程が4日間と長かったのだが)のはそれが「良いニュース」として政治的な意味を持たされていたためだが、マキロイの優勝は「誰がどう見ようと、それ単独で絶対的に《良いニュース》」だ。それが政治的で「演出たっぷり」(女王はともかく、バラク・オバマのは単なるクサい芝居で、見苦しかった)の「よいニュース」より賞味期限が短いとは思っていなかったし、ゴルフはかねてから北アイルランドにとっては重要な観光資源で、その点のアピールもこの勢いに乗じて、NI自治議会やFMDFMからどんどんなされるだろうと思っていた。
でも私は間違っていた。毎年恒例オレンジ側のセクタリアン祭りである7月12日までまだ間があるというのに、こんなことになるとは正直思ってなかった。
21日のガーディアンのトップページに戻ってきた「ベルファスト」(右キャプチャ赤枠の位置)は、ゴルファーの話でも、「ゴルフで町おこし」の話でもなく、暴動だ。
東ベルファスト、ユニオニスト/ロイヤリストの区域のなかに、ショート・ストランドという「カトリック」の区域がある。北アイルランド紛争について少しでも真剣に研究したり調べたりすれば必ず目にする地名のひとつだ。この5月の選挙でベルファスト・シティ・カウンシル(市議会)にシン・フェインから立候補し当選して政界デビューし、いきなりベルファストのロード・メイヤーに選ばれ、DUP選出のデピュティ・メイヤーにシカトされ(しかとした当人は「気づかなかった」と説明しているが)、執務室の英女王の肖像を「1916年の共和国宣言」(イースター蜂起のときの)にかけかえた……などでベルファスト・テレグラフでよくニュースになってる25歳のNiall O'Donnghaileさんは、このショート・ストランドの出身。多分70年代のが中心だと思うけど写真家のフランキー・クインさんのオンラインギャラリーには、ロイヤリストによる焼き討ちにあった家の中の写真などもある。
今回荒れているのはその地域。暴れているのはロイヤリスト武装組織のUVFだと警察が述べていることをBBCは伝えている。
一方で、BBCのマーク・デヴェンポートの「マキロイ優勝のお祭り騒ぎは、ベルファストの暴動で水を差された」というブログ記事には、「どちらが先に手を出したか(ものを投げたか)」でまたぞろ悶着があるということも書かれている。
BBC NIのキャプチャ。暴動の他、キングズミルズとかスミスウィックといった「紛争」の時代の事件についての調査報告や、非常に「通常運転」的な暴力のニュースがあって、ゴルフの話題は押し流されてしまっている。これから夏のパレード・シーズンが始まるのかと思いつつこのキャプチャを見ると、心底、何だかなあという気分になる:
なんかもういろいろ、すべてが吸い取られる感覚だ。
各種報道で「フラッシュポイント」として伝えられているLower Newtownards Roadからは、東ベルファストの(プロテスタント/ユニオニストの)コミュニティのシンボルであるハーランド&ウルフの黄色いクレーンが見える。Google Street Viewで見てみたら、通りには無数のユニオンフラッグがはためいている。
大きな地図で見る
ガーディアンの記事の写真でも、火炎瓶(だと思う)を投げつけられた警察車両の上にはずらっと、ユニオンフラッグがはためいている。
http://www.guardian.co.uk/uk/2011/jun/21/police-attacked-belfast-sectarian-clashes
BBCの各種記事では「UVFか」と言いつつ、「まだ誰がやったのかわからない」としきりに強調されているが、同じ時間帯に出ていたベルファスト・テレグラフの記事ではこうなっている。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/northern-ireland/loyalists-open-fire-on-police-as-500-riot-in-belfast-16014353.html
Police said shots were fired from the republican Short Strand area, while loyalists also opened fire, but masked Ulster Volunteer Force (UVF) members were blamed for starting the violence by attacking homes in the Catholic enclave.
ベルテレのトップページ:

Belfast, Northern Ireland, UK, World, News, Business, Entertainment | BelfastTelegraph.co.uk via kwout
前回、この規模の(警官に対する発砲までもあるような)「ロイヤリストの暴動」が報じられたのは、たぶん、2005年9月だ。
http://nofrills-o.seesaa.net/archives/200509-3.html
で、今回はいわゆる「ディシデント・リパブリカン」の活動継続宣言やら実際の活動やらのあとで、ロイヤリスト側も黙っていられない状況なのではないか、ということが大々的に報じられている中でのことであり、しかも7月のパレードシーズンの前で、非常によくない感じがする。
「ロイヤリスト側も黙っていられない」云々は、UDAのジャッキー・マクドナルド親分のコメントとして報道されているのを読んでいるが、一方でロイヤリストのアンブレラ団体が動いているという報道は見た記憶はない。
うむー……
※この記事は
2011年06月22日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【todays news from uk/northern irelandの最新記事】
- 【訃報】ボビー・ストーリー
- 【訃報】シェイマス・マロン
- 北アイルランド自治議会・政府(ストーモント)、3年ぶりに再起動
- 北アイルランド紛争の死者が1人、増えた。(デリーの暴動でジャーナリスト死亡)
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (2): ブラディ..
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (1): ディシデ..
- 「国家テロ」の真相に光は当てられるのか――パット・フィヌケン殺害事件に関し、英最..
- 北アイルランド、デリーで自動車爆弾が爆発した。The New IRAと見られる。..
- 「そしてわたしは何も言わなかった。この人にどう反応したらよいのかわからなかったか..
- 「新しくなったアイルランドへようこそ」(教皇のアイルランド訪問)