牛も同じしぐさをするんだなあ、と、この年になって初めて思った。これまで「見学対象」として接することはあっても、「関係の築けている間柄」になることはなく、生身の生き物として、牛の「しぐさ」を考えることもなかった。
……そういうことは別の機会に、別の形で知りたかったです。日曜日の夜、まったりDASH村見ながらとかね。
The dairy farmers who returned to Fukushima's fallout path
Jonathan Watts in Namie
guardian.co.uk, Wednesday 11 May 2011 13.22 BST
http://www.guardian.co.uk/world/2011/may/11/fukushima-fallout-cattle-farmers-radiation
先日、風邪で調子が悪かったとき、5月11日にアップされていたガーディアンのジョナサン・ワッツ記者の記事と取材ビデオを、今日見た。
ここで取材されているのは福島県浪江町、海から離れた山の方の地域の酪農家、三瓶さんご夫妻とその牛たち。場所は日テレのTOKIOの番組の「DASH村」の近くだ(この企画で10年以上農業指導をしてきた知恵袋のおじさんも「三瓶さん」だし、収穫とかのときに手伝いとして出てきてくれた近所の人たちにも何人も「三瓶さん」がいたような記憶がある)。
ビデオは4分半。冒頭の説明のナレーションなどを除いては、日本語音声に英語字幕なので、「英語はちょっと…」という方にも見ていただきたい。というか、全ての人が見るべき。
ビデオ冒頭、「長閑な田園風景の広がる浪江町……でも実はここは放射線量の高いホットスポットです。事故を起こした福島第一原発からわずか27キロ、ガイガーカウンターで計測すると10〜15マイクロシーベルト毎時ですが、これは東京の100倍以上、4,5時間おきにレントゲン撮影をしているような状態です。このため、村からはほとんどの人が立ち退きました」との説明に続き、「しかし、何人か、残っている人もいます」として、本題のレポートに入る。(ここまで40秒くらいは英語。)
「元々2000人ほどの住民のうち、残っているのはわずか30人。その多くが酪農家で、牛の面倒を見るため、避難せずにいます」との説明で、干し草を牛の前に置いて歩くジーンズにネルシャツの女性と、牛(乳牛)の映像。
そして55秒からはこの女性――もう少し後のほうで名前が紹介されるが、三瓶けいこさんという――のインタビューが中心で、日本語音声・英語字幕になる。
「近所の人たちももう誰もいない。とっても悲しいことです」と言う三瓶さんは、小柄で、かわいらしい感じの人だ。そして映像で1分のところ、「ここは3月15日に3号機建屋が爆発したときに……」と説明する三瓶さんの腕を、牛が鼻でつつく。三瓶さんが、顔は記者の方に向けたまま、手で軽く鼻面を撫でてやると、牛は何か納得した様子に見える。
三瓶さんは、3月15日に行政から避難を指示されたので、夫婦で泣きながら牛たちに「最後の餌やり」をしていったん避難したことを語る。映像は牧場の風景を紙芝居のように見せる。
何もなかったら、「日常の光景」であったそれらを。「社会科見学」に出向いた小学生がスケッチしたり、カメラにおさめていたりしていたであろうそれらを。
いったん避難した三瓶さん夫妻は、1週間後に戻ってきた。餓死しているかもしれないと思っていたが、牛たちは生きていた。「ここは放射能があって怖いところだけれど、私とお父さんにしてみれば、牛たちの顔を見てるほうがよっぽど安心できた」と、三瓶さんは笑う。
その右横で、また牛が――そろそろ「牛ちゃん」と呼びたくなってきたのだが――三瓶さんを鼻面でつついている。
こういう「関係」が、悲しくも暴力的に断ち切られている。浪江で、飯舘で、そのほか各地で。牛たちは何も関係ない (innocent) のに。
映像は室内に切り替わる。家族写真の飾ってあるような、「懐かしい」感じのする「お茶の間」だ。ナレーションが入る。「三瓶さん夫妻は何十年もの間、品評会で優勝するような牛を育ててきた。酪農は夫妻の人生だった。今直面しているようなリスクがあるとは、想像したこともなかった。三瓶さん夫妻の家は原発から20キロの避難指示区域のすぐ外側にあるが、20キロ圏内のいくつかの地点より高い放射線量が観測されている。それは年間最大20ミリシーベルトという最大値よりもずっと高い。」
このあとで「被曝」に関して、三瓶さんとワッツ記者のやり取り。知らない方が安心できるかもね(笑)、という会話の流れのなかで、三瓶さんは「でも知らないことは怖いことだよね。知るべきだよね。たとえ危険でも、やっぱり事実は知らないといけないことだと思う」と語る。
日本の報道では、今週に入って、あれやこれや「1ヶ月前の話」が出てきた。昨日はついに「メルトダウン」という言葉が「解禁」されたかのように報道記事のヘッドラインに出てきた――と言うと「前から出てましたよ?」とまぜっかえす連中が出るのだが、そしてそれは「間違い」ではないのだが、「事実」として、それは大っぴらに語れることではなかった、「お上」がそれを公然とは認めていなかった、という状態が続いてきたわけだし、「その可能性」が新聞の一面で取り沙汰されていたはずの3月12日に「炉心溶融」のカタカナ語訳である「メルトダウン」という語をTwitterなどで使おうものなら、「不安を煽っている」云々とどこからともなくお叱りを受けるという状況があったことは私はファーストハンドで知っている。(まあ、確かに「イメージ先行」になるきらいのある語ではあるので、定義の説明をせずに使うのはためらわれる感じではあったが――私が普段扱っている分野に近いところでは、例えば「ジェノサイド」に似た感じの用語。)その数日あとだよね、「浜岡」って書いたらどこからともなく「おい、やめろ!簡単にその名前を出すな!」とかってメンションが飛んできたのは。
(遠い目)
閑話休題。
ビデオは2:50くらいで、福島の畜産農家の方々の集会(ゲスト:TEPCOの社員@「大変に申し訳なく……」と述べて深々と頭を下げる役の人)の様子を伝える。60がらみの「ベテラン」風の人もいれば、20代っぽい若々しい人もいる。この先どうなるのか、この先どうすればいいのか、それを考えるための材料がない。ただ「対処すべき現実」があるだけという状況で、しかも「それまでの蓄積」をまったく使うことができない。
何でだろう、と問うてみても始まらない。この理不尽さ、それ自体が「原発災害」なのだということ。私にはまだ飲み込めてない。言葉でしかつかめてない。
でもね、牛ちゃんの鼻でつつかれて、撫で返すような「関係」が、その理不尽さで壊されていくってのは――、その一方で、私は震災後ほぼまったくテレビを見ていないのでよく知らないんだけど、公共広告みたいなので「絆」とか「ひとりじゃない」とかやってるんでしょ。
残酷すぎないか。
ビデオの最後のセクションは、再度、三瓶さんの牛舎。「ここに帰ることができると思いますか」との記者の問いに、三瓶さんは「んー」としばし考え込む。そしてまた牛ちゃんが…… (;_;)
三瓶さんの説明では、4月の上旬に土壌検査をしたところ、3万ベクレル近い数字が出た。本当にそれが正確ならば、ここでまた牧草を作ったりコーンを作ったりして牛にやることはできない。「汚染されたものを除去するには、膨大な時間と経費がかかるものだろうと想像できるから、帰ってきたいけど、そんなに早くは帰ってこれないんじゃないかというあきらめの気持ちも確かにあります」と、三瓶さんは、このビデオの前半と比べて、言葉を探し当てるのにほんの少し苦労している。
このビデオとセットの記事では、三瓶さんのほか「もんま」さんという農家の方のお話も聞いていて、「情報」の出され方についての詳しい記述もある。
まず三瓶さんのお話。3月にいったん避難して、1週間後に戻ったころのことだ。
Back then they were unsure of the risks. At the peak, in the worst affected areas of Namie, residents say radiation levels surged past 150 microsieverts per hour when it rained. But the government did not release data about radioactivity in the area until April.
"The government draws a boundary with a compass from the site of the reactor. But the reality is completely different. The most irradiated areas are in a line heading north-west from the plant. That includes here. But we only realised that in April," says Sanpei.
そのころは、どのくらいの危険があるかはよくわからなかった。ピーク時には浪江で最もひどく影響を受けたところでは、雨天では150マイクロシーベルト毎時を超えていたと住民は語る。しかし政府は、4月になるまで、同地区の放射線量のデータを公表しなかった。
「政府は原発の場所を中心に同心円で境界を引いています。でも実際にはそんなふうにはいかない。一番強く被曝したのは原発から北西にまっすぐ向かうライン上です。ここもそのライン上にあります。でも私たちがそのことを知ったのは、4月になってからでした」と三瓶さんは語る。
現在、三瓶さんはなるべく屋内にいるようにしている。屋内なら3マイクロシーベルト毎時だ。しかし牛の世話をするために外に出なければならず、それも搾乳したものはただ捨てている(出荷も何もできないので)、という記述を挟んで、もう1人の農家、「もんま」さんの話になる。もんまさんは毎日1000リットルの牛乳を捨てていて、銀行から借金をしなければならない状態だ。
もんまさんが危険な地域に留まっている理由は、動物への思いだけではない。彼は人生の30年間をかけて牛を育ててきたのだ。「みな、避難したいと思ってますよ。しかし、牛たちを置いていったら、私たちに残るのは借金だけですから。東電は補償を約束してはいますが、十分な額になるかどうかわかりません。何しろ補償相手が大勢いますでしょう」。
政府は東電に対し、避難をやむなくされるおよそ5万世帯のそれぞれに、まずは100万円の賠償金を支払うよう命令した。メリルリンチ(銀行)は、最終的には補償は11兆円になると見ている。
もんまさんは、放射線の影響についてははっきりわからないとしつつ、あまり気にしてもいない。検査をしたら喉がやられていた。人体のなかで最も放射線にやられやすいところだ。夫人は「1から10の尺度で、1なんですよ。だから大丈夫だと思います」と言う。「この程度なら、発ガンの可能性もごくわずか上昇するだけです。そのくらいなら、まあなんとか」
しかし政府はもう、そう考えてはいない。以前は、退避勧告のエリアをもっと広く取るようにとの要求を無視していたが、先月(4月)、政府は浪江のようなホットスポットにいる人々に、5月末までの退避を勧告した。
週末に行われた、畜産農家と、東京電力と福島県の担当者との間の会合では、フラストレーションは目に見えて明らかだった。避難指示の出されているエリアに家畜を置いてこざるをえなかった農家の「三本松たかし」さんは、むごい状況を次のように述べた。「うちの牛はね、全滅しとったんですよ。餓死してました。死体はひどい臭いがしてましたよ。あんまりじゃないですか。私にとっては、家族を失ったようなものです」。
現状、浪江から移送できているのは肉牛だけで、乳牛はどうなるか、まだ決定されていない。
もんまさんは「政府は牛が死ぬのを待ってるんじゃないですかね」と言う。「何も楽しくってここに留まってるわけじゃない。これまで一緒に暮らしてきた牛のことを考えればこそ、残ってるんですよ。最後まで、面倒を見てやりたい」
昨年の宮崎の口蹄疫のときも(もっと遡れば2001年のイングランドの口蹄疫のときも――この病気についてはごく最近になって「あの規模の殺処分は必要ではないかも」という研究結果が出ているが……)、「こんなことのために育てたわけではない」という農家の悲痛な声は多く聞いている。宮崎では特に「ブランド牛」の種牛という、長年にわたる努力がようやく結実した「宝」を殺さねばならないという事態になり、「命を受け継ぐ、次へつなぐ」ことが中心にある「農業」にとってこんな悲痛なことがあるだろうかという事態になった。
今、飯舘や浪江などで起きていることも、同じだ。
ガーディアンのワッツ記事の記事はこのあと、福島のナンバープレートの車が駐車場でお断りされているとか、結婚話が破談になっている事例があるといった「放射線災害」の、人体の健康には直接影響しないが、それゆえにより一層深刻な面に触れ、先ほどの畜産業者の集会の標語(三瓶さんのインタビューのビデオにも出てくる)を引用している。
集会で、壁に貼られたポスターには、「震災に負けねえぞ、原発に負けねえぞ、風評に負けねえぞ」とあった。
東京電力の社員は既に何度も謝罪している。清水正孝社長は先週、浪江の住民に向かって土下座した。しかしそのように謝ったところで、自宅が被曝してしまっている人々の心には響かない。
「東京電力のせいですよ、私が怒っているのは。人生、ひっくり返ってしまいましたから」と三瓶さんは語る。「原発は、非常に近くにあったんですが、私たちは原発についてほとんど知らなかった。でも東電は原発は安全ですからと言っていたんです。何度も、何度も、安全です、安全です、と。危険性を隠すために、そう言い続けたんですよ」
このあと、記事は日本は原子力発電を廃止しないという方針であること、しかし地震が来たら大変なことになりそうな浜岡原発は停止となったことに触れ、最後に浪江の人々が、戻ってくることができるのかどうかわからない状態で、避難の準備を進めていることを説明している。
ジョナサン・ワッツ記者(→記事一覧/Journalisted)はガーディアンの元東京特派員で、現在は北京が拠点。今回、震災から2ヶ月となる日本を取材した記事が、5月12日の紙面に掲載されている。
浪江での取材のほか、釜石での取材のビデオもある。こちらもいい仕事。避難所の音楽について。お母さんの三味線から学生のブラスバンドまで。
http://www.guardian.co.uk/world/video/2011/may/11/after-tsunami-japanese-survivors-video
今回の浪江でのビデオは、14日の昼間にちょいとはてブ&ツイートしたらお茶ふくほどの反響で:
はてブからTwitterに流したhtn.toのURL(ビデオへのリンク)がクリックされた回数は、はてブの画面でカウンター表示されるようにしてあるのだけど、これも……私、はてブユーザー歴、ちょう長いし、Twitterとの連携は機能リリースされたときから使ってますが、自分のところでも、自分の見てる範囲にある他のユーザーさんのところでも、こんな数字、ここで見たことないです。今(午後11時)の段階で、4000超えてる。。。
さて、浪江町については、今週は「クローズアップ現代」で取り上げられ、DASH村のTOKIOが武道館のコンサートに浪江町をはじめ福島の人々を招待するなど、けっこうニュースが多かった。
それらのニュースと、報道写真家の冨田きよむさんおよび郡山総一郎さんによる現地からの報告を初め、町の方々やボランティアの方々、ニュースのヘッドラインなどをTogetterでまとめた。
5月10日の分:
http://togetter.com/li/133959
Togetter重いので、冨田さんの言葉から:
酪農家の一人は枝野さんが先月半ばに「牛も人も1ヶ月をめどに移転させる」といった言葉を信じて待っている。その思いを踏みにじろうとしているのを、棄民と呼ばずなんと呼ぶ。
酪農家と乳牛。国や東電は今目の前にいる牛でしか評価しない。けれど、その牛は、過去から未来へ続く通過点の1頭なのだということを理解していない。1頭の牛を作り出すために何年も試行錯誤を重ね、その牛が誕生したのだということを知らない。
乳を搾るためには毎年毎年種付けをする。子牛を産まない母牛は乳を出さないということに気がつかない人が多いという。乳量を確保しつつ、健康で長生きできる優秀な乳牛を目指して働いてきた酪農家。その思いが断ち切られていいのか?
酪農家は「牛に稼がせてもらってきた。牛のおかげで子供を育て大学にまでやれた」という。「牛は相棒だね」と聞くと、「おお!そうだ相棒だ!牛は相棒だ」といった。過去から未来へ続く生命のつながりが簡単に切られようとしている。
計画的避難区域内の肉牛は移動していいし、即とさつして肉してもよろしい。しかし、乳牛は放射能を含んだ乳を出す可能性があるから移動さえもよろしくないというのがお国と県の考え方。肉も農水の基準はクリアしているのに、厚労省がストップ。放射能があったら一切ダメ!農家はどうすりゃいいの_?
そろそろ解放した方が風通しがいい季節になっているのに、窓も、扉も閉め切っています。でかいファンを回して風を送り、牛に少しでもストレスがかからないようにしています
こんなこと俺しかいわないけどな、と前置きしてある酪農家は「これまで30年も40年も東電にいい思いさせてもらってきた。出稼ぎが当たり前の浜通が潤ったのは東電のおかげ。原発なんて何かあったら原爆と同じだってことはわかっていたはずだ。それを今更何を騒いでいる」原発は基幹産業だ。
原発は地域の基幹産業だとする酪農家も、一刻も早く今の事故を納めて欲しいと願っている。「俺は自分で作ってきたこの牛舎もトラクターも何もかも捨てることはできない」「ここで生きていく権利はある。早く納めて原発が安全だと証明してもらいたい」とも語ってくれた。
http://twitter.com/KiyomuTomita/
5月11日(クロ現放送日)の分:
http://togetter.com/li/134369
で、ガーディアンの記事でワッツ記者が言及している「集会」は下記(Ustreamの中継の録画)。
Video streaming by Ustream
※この記事は
2011年05月14日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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