ガーディアンのトップページのキャプチャ(記事見出しクリックで記事に飛べます):
リリース直後は、この文書についてのツイートの数々を横目で見ながら、「なんだ、既知のことばかりか。いつものことだが。だが今回『確実に本当です。米軍情報』と言えるようになったことは新しい」と思っていたのだが(実際、ドキュメンタリー映画Taxi to the Darksideなどを見ている人には既知のことが多いし、英国での「拷問」反対の法的取り組みを追っていた人には特に新しいことではない)、それは「特に関心を持っていない人、詳しくない人」にも記事を読ませるための最もキャッチーな部分であり、しばらくして少し様子が変わってきた。特に、アフガニスタン&パキスタンの調査報道をずっと続けているジェイソン・バークのツイートにはかなりお茶ふいた。「米軍は、パキスタンのISIをテロ組織扱いしている」など。(^^;)
さて、今回のファイルは米軍の文書である。オバマ政権へのdisなどはちょっと脇においておいて、そういったファイル自体をめぐる事実関係を最初に確認しなければならない。その点は:
What are the Guantánamo Bay files? Understanding the prisoner dossiers
David Leigh
guardian.co.uk, Monday 25 April 2011
http://www.guardian.co.uk/world/2011/apr/25/what-are-guantanamo-files-explained
この記事でのデイヴィッド・リーの説明を元にすると、今回暴露された文書は全部で759点。
主要な内容は、2002年から2009年にかけて書かれた「被収容者の評価」で、マイアミの米軍南部司令部の上層部にまで送られていたもの(つまり、被収容者の扱いについて、非常に重要な役割を果たした書類)。20名分は今回リークされた中には含まれていないが、それ以外、つまりグアンタナモ湾の収容所に送られた人々のほとんど全員の分の文書がある。
このほか、尋問と被収容者の扱いの決定のガイドラインもあるという。こんな感じの。
One, the "JTF-GTMO matrix of threat indicators" details the "indicators" which should be used to "determine a detainee's capabilities and intentions to pose a terrorist threat if the detainee were given the opportunity." Another provides a matrix for deciding whether a prisoner should be held or released.
文書は全て「機密 secret」扱いで(→文書の「秘密・機密」の指定の基本はこちらで踏まえてください)、中には別のところにあるもっと扱いに配慮の必要な文書に言及している(そういう文書とペアになっている)ものもある。
これらの文書からわかるのは、米当局がグアンタナモの被収容者それぞれが、どの程度、アルカイダ、タリバンなどのテロ組織と関係していると考えていたか、被収容者それぞれについてインテリジェンス上の価値はどのくらいあると考えていたか、身柄を解放した場合どのくらいの脅威となりうると考えていたか、といったことである。
一方でこれらの文書での結論の「根拠」となっている情報については、信頼性は実は低い。拷問で引き出された自白に基づいて作成された文書がそういう「根拠」とされているケースが確認されている。(これは既知中の既知。これを知らずにグアンタナモという問題は検討できないくらいの基本。)
米国の資料では、昨年11月末のCablegate(米外交公電大量リーク)で「文書は本物だが、そのことは、その文書に書かれている内容が『正しい』とか『妥当である』といったことは必ずしも意味しない」という点について多少混乱が見られたが(私の観測範囲で)、今回もそれと同じだ。
別な言い方をすれば、Cablegateの前に公表された米軍資料(アフガニスタンのAfgan War LogsやイラクのIraq War Logs……これらは起きた事実の記録、日報)とは、同じ「米軍文書」でも少し違う、ということだ。まあ、戦場の記録か、インテリジェンスの文書か、という違いがあるのだから当たり前だが。
ガーディアンのこの記事は、今回のリークについて次のように説明して、結んでいる。
The files were shared with the Guardian and US National Public Radio by the New York Times, which says it did not obtain them from WikiLeaks.
この文書は、ニューヨーク・タイムズによって、ガーディアンとNPRに渡された。NYTは文書の元はウィキリークスではないとしている。
「人権」という問題意識から事態に接している私にとって重要なのは文書そのものであって、それがいかに公表されるに至ったかではないのだが(それは米軍が調べればよろしい)、この点について少し。
ウォッチャーのみなさんならお気づきの通り、この記事を書いているガーディアンのDavid Leighは、あの「デヴィッド・リー」である。そう、この本の。
![]() | WikiLeaks: Inside Julian Assange's War on Secrecy The "Guardian" David Leigh Luke Harding Guardian Books 2011-02-01 by G-Tools |
![]() | ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争 『ガーディアン』特命取材チーム デヴィッド・リー ルーク・ハーディング 月沢 李歌子 講談社 2011-02-15 |
詳細は下記過去記事:
2011年02月23日 Wikileaksに関するガーディアン本は、とてもおもしろい読み物である。
http://nofrills.seesaa.net/article/187443692.html
一言で言えば、デイヴィッド・リー(ガーディアン)はジュリアン・アサンジ(ウィキリークス)と激しいビーフ(disり合い)をする間柄である。
「真実を世に知らしめる」ためにビジネスライクな関係にあったはずの彼らがそうなってしまったのは、リーがアサンジの性犯罪容疑について、アサンジの望まないことをあれこれ書いたことがきっかけだ。それをアサンジは「他人のプライバシーを売って金儲けする小汚い既存メディアめ!」的に言っているのだが、こちとらそんなことはほんとにどうでもいい。重要なのはジュリアン・アサンジというくだらない個人の肥大したエゴを充足させることではない。むろん、犯罪の事実があったのかどうかを決めるのは法廷だが、その法廷に行く前の手続き論的なところで「身柄をスウェーデンに引き渡されたら、米国にそのまま直送される」と主張して、自身の犯罪(性暴力)の容疑をチャラにしようとしているくだらない陰謀論者などどうでもいい。
で、そういう背景的な部分というか「泥仕合」の部分に興味のある人は、デイヴィッド・リーのTwitterや、The Nationのグレッグ・ミッチェルの日報(ミッチェルが調査したことのまとめ)を見てみるといいと思う。
リーのTwitterのキャプチャ:

ミッチェルの日報:
月曜日 http://www.thenation.com/blog/160135/wikileaks-blog-guant%C3%A1namo-files
火曜日 http://www.thenation.com/blog/160167/wikileaks-news-views-blog-tuesday-day-150
そんな細かいことはどうでもいいという人は、今回のリークの全容についてはHuffington Postの下記記事がとてもわかりやすかった(しかも読みやすい)。※これは米国での記事なので、文中のTimesは「タイムズ」(英)ではなく、「ニューヨーク・タイムズ」であることに注意。
http://www.huffingtonpost.com/2011/04/25/wikileaks-gitmo-documents-backstory_n_853126.html
要約すると、ウィキリークス(ジュリアン・アサンジ)はずっと、米国ではNYT、英国ではガーディアン、ドイツではシュピーゲルと組んできた(ほか、フランスのル・モンド、スペインのエル・ペイス、およびアルジャジーラ英語版などとも組んできた事実がある)。
しかし昨年、ジュリアン・アサンジはNYTに人格攻撃をされて(私も、アサンジ個人とウィキリークスとは別である以上は、NYTのこの態度は心底軽蔑に値すると思っているが)、外交公電(Cablegate)の前にNYTとは手を切った。
ついで、昨年から今年、スウェーデンでの性犯罪容疑についてガーディアンがあれこれ書いたことからアサンジとガーディアンの間で「戦闘状態」になり、ウィキリークスはガーディアンと手を切った。
そして、NYTの代わりにワシントン・ポスト(WaPo)、ガーディアンの代わりにデイリー・テレグラフ (DT) と組んで、さらにドイツのシュピーゲル、フランスのル・モンド、スペインのエル・ペイスという5つの媒体と一緒に、今回の「グアンタナモ・ファイル」をリリースした。(これらの5媒体には、3月末にファイルが渡されたらしい。)
今回は、これらの媒体だけでなく、ウィキリークスのサイトでも同時に公開を開始した。
しかし、リークされたファイル(グアンタナモ・ファイル)はジュリアン・アサンジの筋とは別の方面から、アサンジが手を切った媒体、つまりNYTとガーディアンに流れていた。(正確には、NYTとガーディアンと、米NPRの3媒体。)
WaPo, DTなどウィキリークスのいわば「公式」チャンネルは、ウィキリークスと報道協定的なものを結んでいて、ウィキリークスがリリースするまでは報道しないことになっていた。
しかしそれ以外のところ(つまりNYTとガーディアン)はそういう縛りがない。でも同じ文書を手に入れていた。そして――ここが私もよく把握できてないし、把握する労力を割く価値も見出せないので流しているのだが――どっかが「フライング」して報じ、ウィキリークスも焦った、と。
上のほうにリンクしてある「ガーディアン本」でも、昨年11月のCablegateのときにシュピーゲルがうっかり「フライング」したこととその影響が書かれているし、その前、イラク戦争ログのときはアルジャジーラが申し合わせより早くリリースするというハプニングがあって(その後、WLはAJとカタールに対しかなり意図的に政治バイアスをかけた書き方で見出しをたてるなど、態度を変えた)、ウィキリークス(ジュリアン・アサンジ)が「タイミング」を非常に気にしているということは周知の事実なのだが、今回、放逐されたNYTとガーディアンは、そこをつっつこうと事前に情報戦を展開していたような気配がある。気配しかわからんけどね。
最終的には、「報道協定」側の英DTが一歩先んじて記事を出したようで、Twitterの@wikileaksではガーディアンのデイヴィッド・リーがいちいちうるさい(実際おとなげないと思う……)のに応じて、「テレグラフのほうが先ですよー」と意味のわからない勝利宣言をしている。(それのソースを見るとHuff Poで、Huff Poのソースはウィキリークスだったりするのだが、もうどうでもいい。)
http://twitter.com/wikileaks/status/62584937680863233
というか、その前に「じゃあ、イースター休暇なのでしばらくお休みです」的なことをツイートしているんだが、ウィキリークスは。明らかにNYTとガーディアンに出し抜かれたんでしょ。んで、「"公式" 筋ではないリーク」を批判してるんでしょ(しかも名指しでDD-Bのせいだとか言ってるw)。かっこわる。仮にDD-Bが流したんだとしても、文書自体はそもそもWLの所有物でもなんでもない。
しかしDTってさ……いや、英国でマードック陣営ではなく(タイムズがここで消える)、タブロイドでもなく(デイリー・メイルが消える)、ガーディアンでもなく、部数のある新聞といったらDTなのかもしれないが、どうしてインディペンデントを選択できないのかね。あるいはインディの側の事情で無理だったのかもしれないけど。DTはガーディアン以上に党派色が強く(保守党とMoD)、調査報道で定評があるわけでもない(軍からのリーク情報は早いし、機動力は高いけど)。いわゆるAfPakの事情にも特に明るいとはいえないし(DTだったらインディのほうが上)。
ほんで、文書の内容の分析は、やれ国家機密漏洩だのブッシュ政権の失政だのなんだのということを考えなければならない米国のメディアより、英国とかオーストラリアのメディアのほうがストレートで、私はこのテーマでは英国ではガーディアンで書いてるジェイソン・バーク記者(アルカイダについての調査報道で知られる)と、拷問という問題に取り組んできた弁護士のクライヴ・スタフォード・スミスが最も確実だと思う(インディペンデントのアレクサンダー・コバーンも、もし書いていれば)。
以下、記事の列挙。
ファイルの内容の概略(「概略」というには長いけど、新聞でいうと1面の記事。これの詳細が2面から後にあるという感じ):
http://www.guardian.co.uk/world/2011/apr/25/guantanamo-files-lift-lid-prison
→高齢で認知症の症状のある人やティーンエイジャーもグアンタナモ送りになっているとか、アルジャジーラのジャーナリストが(拘束者、つまり米軍が彼がジャーナリストであることを十分に承知したうえで)6年にわたってグアンタナモに入れられていたとかいった具体的な事例たっぷり&最後の方に米軍の反応(この文書がリークされメディアに掲載されることは、米軍は事前に把握している)
2002年にパキスタンでキリスト教の教会やシェラトン・ホテルに爆弾テロを行った人物が、同じ時期に英諜報機関(MI6)のために働いていた:
http://www.guardian.co.uk/world/2011/apr/25/guantanamo-files-al-qaida-assassin-worked-for-mi6
→北アイルランド知ってれば、そういう工作員がいることにも、そういう工作員の存在がアメリカにバレていることにも、別に驚きません。でもちょっと時期とかがね……:
According to the files, Hamlili told his American interrogators at Bagram that he had been running a carpet business from Peshawar, exporting as far afield as Dubai following the 9/11 attacks.
But his CIA captors knew the Algerian had been an informant for MI6 and Canada's Secret Intelligence Service for over three years – and suspected he had been double-crossing handlers. According to US intelligence the two spy agencies recruited Hamlili as a "humint" – human intelligence – source in December 2000 "because of his connections to members of various al-Qaida linked terrorist groups that operated in Afghanistan and Pakistan".
The files do not specify what information Hamlili withheld. But they do contain intelligence reports, albeit flawed ones, that link the Algerian to three major terrorist attacks in Pakistan during this time.
この件、BBC記事にもなってる。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-13191959
779人の被収容者それぞれのファイルがすぐに見られるよう、整理されたページ(ガーディアンはこれ得意):
http://www.guardian.co.uk/world/interactive/2011/apr/25/guantanamo-files-guantanamo-bay
→メインの枠内の下、NationalityのところでUnited Kingdomを選ぶと、マイケル・ウィンターボトムの映画The Road to GuantanamoのTipton Threeとか、ドキュメンタリー映画Taxi to the Darksideで証言していたベッグさんなど9人が出てくる。
……こんな感じで、どれだけ時間をかけても全部は読めなさそうな分量&質の記事が、大量に出ている。Twitterに投稿された、@wikileaksとワシントン・ポスト、デイリー・テレグラフの「公式」組と、NYTとガーディアンのニュース系フィードは下記にまとめてある。
なお、文書そのものは下記。
ウィキリークス(小出しにしてる段階):
http://wikileaks.ch/gitmo/
ガーディアン(全部は掲載されないかも):
http://www.guardian.co.uk/world/series/guantanamo-files-documents
で、文書に含まれる「センシティヴな情報」(米当局のコラボレイターの個人情報など)は、ガーディアンやNYTは外交公電のときのように削ってから発表しているが、ウィキリークスではアフガン戦争ログのときのようにそのまま出しているそうだ。(ウィキリークスが元文書にあるセンシティヴな情報を消さないのはジュリアン・アサンジの方針。この勘違い野郎は「コラボレイターが "処刑" されても自業自得」と言い放って恥じていない。)
※この記事は
2011年04月26日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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