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イランでは、予告されていたとおり、#25Bahman(イランの暦の日付で2月14日のこと)に、人々が街に出た。名目は「チュニジアやエジプトの人々を応援する市民大行進」みたいな感じだったのだが、当局が「大行進」の許可を出さず、モグリで、いわばフラッシュモブ的な手法も取りつつ、実行された。行動はテヘランだけでなく多くの都市で(イスファハン、シラズ、ケルマンシャーなど。またマシャドのような宗教的な意味合いの強い都市でも)確認された。
一方イラン当局は、例によってバシジを出してきていて、平和的デモ隊が「催涙ガスでやられた」とか「棍棒で殴打された」とかいった話が多数、TweetDeckの画面を横切ってゆき、日没後は人々が占拠している広場の街灯の電源が切られ、暗がりの中でデモ隊に暴行を加えているといった情報が、昼間撮影されたビデオのURLなどと一緒に流れてきた。
今回は、米国のメディアによって「Twitter革命」と呼ばれた最初の事例である09年のときとは違って暴力の現場からの悲鳴のようなツイートはないし、とにかく小粒で数の多い情報戦が激しくて(イランのサイバー撹乱工作員はモニタのこっち側をいきなり対象にしてくるから、「みそですよ」と言われて渡されるものがくそではないことをいちいち確認しなければならない)、つい先日までの(でももう遠い昔のように感じられる)エジプトの「革命」のときほどのスピード感はないのだが、それでも、#25bahmanのハッシュタグでは、物理的に目で追えないくらいの速度でツイートが流れていく。
で、この件ではもうわかっていることだから断定的に書くが、BBCは明確に「こっちの側」である。(英国がイランとどれほど熾烈な戦いを繰り広げているかは、転任が発表されたばかりの英国大使について、イランの偉い政治家がどう言っているかを見ればよい。)
【脱線】大使、引き続きパネェっすなあ。。。
今回もまた、BBCペルシャ語放送(2009年の大統領選挙の数ヶ月前に開局)の電波が妨害されていてイランの人々が受信できなくなっている、など、対決姿勢は鮮明で、BBC英語の記事は、「ミル・ホセイン・ムサヴィ氏が自宅軟禁」を、トップページに表示されるサマリーでMousavi has been arrestedと端的に表現するなど。ははは。
一方イランのPress TVでは、テヘランやイスファハンなどはスルーして、イエメンのサナアのデモを称揚するという倒錯っぷりで、当然のように「テヘランのデモをなぜ報じないのか」というコメントがつけられている。そしてそれに対するレスが……(通りすがりの人がつけたのか、中の人がつけたのかはわからないが、私がこのページを確認したのはこの投稿のあとなので、少なくとも、コメントのモデレーションはパスしているということになる):
http://www.presstv.ir/detail/165191.html
oskieilb
2/14/2011 8:40:00 PM
How come there is no coverage of the unrest today in Tehran on Press TV? It's all over the news in Europe and America.
Zionist in reply to oskieilb
2/15/2011 12:09:17 AM
Press Tv doesnt report the handful of people in Tehran. BBC does. But on BBC there is little or no talk of Yemen, Algeria and Bahrain where protestors have turned out in thousands. I support Press TV who backs an Iran that ruled by God fearing persons, not unlike the rest of the M.E where Zionist puppets are supported by BBC and isn't reporedt. Praise be to the ones who revolt in correct fashion. Moreover US state department is writing in Persian on Twitter to stoke up fire!!! REAL TALK!!!

閑話休題。
2011年2月14日(25 Bahman: 学生の日)の「デモ」の前、イラン政府はチュニジアやエジプトの「革命」を、諸手を上げて支持していた。つまり「シオニストの陰謀」からの人民の解放、というストーリーだ。アルジャジーラが取材許可を取り消された上に事務所襲撃されてカイロのタハリール広場からの生中継が難しいという局面で、広場からの生中継をしていたPress TVを少し見てみたが、とにかく基本が剥き出しの反ユダヤ主義で、中継映像が入らないときに流していたインタビューなどもあまりにひどくて、すぐに画面を閉じてしまった。Press TVのその語り口は、「ドイツ人観光客に人気の海浜リゾートにサメが出没しているのは、シオ(以下略」というエジプト政府系メディアの陰謀論とそっくりだった。
しかしイラン政府自身の描き出す図式は、「シオニスト&シオニストに煽動され、または雇われる愚か者」対「わが国政府&アラブ諸国の民」(今回、「アラブと我々は違う!」という意識がほとんど見えないそうです)。もちろん前者がベンアリやムバラクやイラン国内の緑集団という構図。
で、チュニジアやエジプトやイエメンやアルジェリアやバーレーンでの民衆蜂起・抗議行動は「シオニストからの解放」のための行動であるのでテレビで積極的に伝えるが、テヘランなどでデモをしているのはシオニストに魂を売った連中なので取り上げない。むしろ、「ほんの一握りの」不満分子なのでシカトすべき――そういう主張。
実際に彼らが「ほんの一握り」なのかどうかは、今回のデモのやり方ではまったくわからないが、デモの許可が出ないために「大人数で車道を歩く」という形式にならない以上、そこの歩道をあるいているのが普通の通行人なのかデモを目的に歩いているのかはわからないし、何人が「デモ参加者」なのかもわからない。
2009年のときは「緑色」の服やリボンを身につけることで人々は「私たちを見える化する」ことを徹底してはかった。一方今回は、まあ冬だから防寒が必要で、あのあざやかな緑色の防寒着はあまりないということは差し引いてよいと思うが、牛津事情通の姐御が指摘しているように、現地の映像に緑色があまりない。(なお、姐御は1979年の革命のあとのいずれかの時点で国外に出たイラニアンで、FTで仕事してたジャーナリスト。アバターはペルシャの偉人。)
そんな感じで、おそらく今テヘランの街にいても、どれが「デモ隊」なのかはわかりづらいのではないかと思う。
ただし何十人かの規模で集まって同じ方向に歩き、スローガンを唱えれば、それはデモ隊だということは、その場の人たちには即座にわかるだろう。(そして彼らが集まるであろう地点には、ライオット・ギアの警官と「バシジ」が、考えられないほど大量に配置されている。今回は特に、物理的に「場所を作らない」方策がとられたようで……。)
そのスローガン。
イランの緑のデモ隊といえば、"Marg bar dictator!" だ。意味は、英語にすると "Down with dictator," "Death to dictator" となる。これを日本語にすると「独裁者はくたばれ」。
2009年11月に投稿されたクリップ(15秒)。このリズムだ。
ここで、「くたばれ」といわれているdictator(独裁者)とは誰であるのかについて、2009年に英語話者の間で話題になったのを私が記憶している限りでは、特定の個人ではなく「79年革命の精神を失った体制」という感じだった。
人々は「79年革命の精神を取り戻そう」と訴え、1979年にシャーを打倒したときと同様に(と聞いている)、夜毎、監視の目のない闇の中、自宅の屋上で「アッラー・アクバル」と声を上げた。2009年夏、毎晩その様子を撮影したビデオが、何本もまとめ役のところに届けられて、まとめ役のアカウントなどでYouTubeにアップされた。
すべては、必ずしも直接的にではなかったが、「最高指導者アリ・ハメネイ師は1979年の革命の精神を持たない」という主張。私が一方的にであれ双方向的にであれつながっていた人々の間では、「アフマディネジャドはトカゲの尻尾、いくらでも替えがある。真のターゲットは最高指導者(SL: Supreme Leader)である」という論調も高かった。そういう方向性での風刺漫画や画像、映像コラージュなどは、それこそ何を見て何を見ていないのかわからないほどにたくさん見た。
しかし、直接的に、「マーグ・バール」のフレーズで最高指導者が批判された、という記憶は私にはなかった。
だから今回、2011年2月に、「マーグ・バール・ハメネイ」とか、「ムバラク、ベンアリ、次はお前だサイード・アリ」(サイード・アリはハメネイ師の名前)といったスローガンが出ている、とTwitterで知ったときは、「え?」と思った。これまでになかったんじゃないか、と。(詳細後述)
実際、イラン国外から状況を見ている在外の方々もそのことに注目していた。下記はその一例(姐御のほか、テヘラン・ビューローなどニュース系も注目していた)。
しかし、ちょっと検索してみればわかるのだが、結論から言うと、「マーグ・バール・ハメネイ」がこれまで「まったくなかった」わけではない。例えば2009年6月20日という非常に早い段階でのビデオ。数十人規模だろうが、「マーグ・バール・ハメネイ」と唱えながらデモ隊が住宅街の中を進んでいくのが記録されている:
ただしこういった、最高指導者ハメネイ師を直接的にターゲットとするスローガンが前景化したことは、英語で見ている限りは、09年はなかったと思う。(ペルシャ語ではどうなのか、わからない。ペルシャ語が使える人に確認しないと事実確定は無理。ただし09年の運動は多分に「英語圏」のものだったので、英語だけで見た結果にも一定の意味はある。)
そして今回のスローガン。そこでは「ハメネイ師」を極めて直接的にターゲットとする言語が用いられていて、それが目だっている。下で確認されたものを見ておこう。添えてあるURLはそのスローガンが今回使われたことの証拠となる映像資料である。
まず定番の「マーグ・バール・ディクタトー」。当初、「チュニジアとエジプトの支援」の名目で集まった人がこれを唱え出したときが「開始のお知らせ」ということになる、というふうに私は解釈していたが、「〜の名目で集まる」の段階で頓挫したので(当局が許可を出さなかったので人が集まらなかった)、あまり確実な目安にはならなくなってしまった。それでも、人々が街頭に出て、しばらく経過したあとに、現地筋から次々と「人々は口々にマーグ・バール・ディクタトーと言っている」との報告があったことはメモっておいてもいい。
http://www.youtube.com/watch?v=lURP3nPXaxI
それから「マーグ・バール・ザレマン」……正確にいうと、Che Ghahere Che Tehran Marg Bar Zaleman! (In Cairo, in Tehran, Down with despots), 「カイロでもテヘランでも、圧制を敷く元首にはオサラバしたい」。Zalemanは「専制的な君主」の意味だそうだ。「独裁者」の類義語。
http://www.youtube.com/watch?v=2Q_5oJQMR6U
そして、「マーグ・バール・ハメネイ」。
http://www.youtube.com/watch?v=JIJ4VUc9Uus
それから、「ムバラク、ベンアリ、次はお前だサイード・アリ」(ペルシャ語)。日が落ちてからの映像。
http://www.youtube.com/watch?v=hxFGFEAhbkE
特に最後の「ムバラク、ベンアリ、次はお前だ」は、イランという国家が「下の下」と位置付けているホスニ・ムバラク(「イスラムの敵を助けた者」とされているようだ)と、最高指導者とを同格に扱っているという点だけでも、非常に、いわば思い切った表現である、とイランに詳しい人(英語話者)が述べていた。
少し振り返っておいたほうがいいのかなと思うので。日本語でしか情報に接していない人もいるだろうし、09年イランは私が「日本語での報道」なるものに心底ウンザリした最後の機会だ(日本語情報を見てる時間があるなら英語メディアの巡回先を1つ増やしたほうがよほど有益。どうせWaPoの要約か国営メディアの受け売りなんだから)。
そもそも2009年は、大統領選挙の不正に抗議し、選挙の開票・集計のやり直しを求める、極めて平和的な抗議行動だった(不正の有無は国家の機関が判断することだが、不正があったと主張する人たちの団体行動を国家が弾圧することは、普遍的人権の観点から許されない。そういう視点は、当時の日本にはなくて、「内政介入」か「アメリカの小細工」と言われていたし、私のリアルの友人もそう冷笑していた。うんざりである)。抗議行動初期において、アザディ・タワーをバックに、ばっちりメイクをした「おんなのこ」たちが緑のリボンを手首などに巻いてピースサインを掲げている写真などが多く見られたことをご記憶の方も多いだろう。
人々の粘り強い調査と指摘の結果、当局(選挙管理委員会)は「選挙にはおかしなところもあった」(投票率が100%を上回った選挙区があったり、開封されずに放置された投票箱が出てきたり……)と認めた。そこまではよかったのだが、当局は「大勢には影響しない」としてそのまま流してしまった。そこらへんから怒りに火がついた。それだけではなく、「選挙はいかさまだ」という陣営に対し警察とバシジ(革命防衛隊系または最高指導者直属の民兵組織)が「通常の群集コントロール」を超えた暴力を行使、路上の人々にはバシジのオートバイが突っ込んだ。テヘラン大学の寮は踏み込まれ、破壊され(破壊された入口やロビーの写真はオンラインで出回った)、学生が暴行され、殺された。デモ参加者ではなくたまたまそこにいただけ女性が、心臓を撃ち抜かれて死んだ。
「デモに参加した」こと、「改革派」の政治組織のスタッフをしていることなどで逮捕・投獄・起訴されるということが拡大し、人々の Marg bar dictator! の声はますます大きくなり、それに対応する国家の暴力も大きくなった。映画監督のジャファール・パナヒはそういう文脈で逮捕された。そんな中でも、携帯電話のカメラなどで果敢に(としか表現できない)暴力の現場を撮影した人たちが、その映像を外部に出し、それがYTなどにアップされた。(07年ビルマのときを連想せよ。)
政権側は「改革派」として人望のあついアブタヒ元副大統領(イスラム教の宗教指導者として尊敬される立場にもある)を捕えて裁判にかけた。国営テレビはアブタヒさんが「すべてを告白する」ビデオを放映した。ぽっちゃりした可愛らしい雰囲気だったアブタヒさんは、法廷に出た時もその「告白」のビデオでも、まったく別人のようにやつれて空虚な表情をしていた。それが「みせしめ」であることは明らかだった。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/25024.html
http://frllnoprt2.seesaa.net/article/125024810.html
ほかにも改革派の政治活動家、ジャーナリストや弁護士、学生などが次々と逮捕・投獄された。英国の大使館員(現地採用の人)も裁判にかけられた。基本的にやり方として無茶苦茶な裁判であるにも関わらず(警察にパクられてブタ箱に入れられていた日にデモに参加したことにされた人など)死刑を宣告されるケースも出た。「MKOのメンバー」として有罪判決を受けた何人かはすでに死刑を執行されている。
※この記事は
2011年02月15日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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