2010 - the year in review
http://www.guardian.co.uk/world/interactive/2010/dec/22/2010-year-review
上記URLをクリックすると、Flashで読み込まれ、画面上にインストラクションが出てくる。そのインストラクションを見終えるか、スキップするかすると、写真の列が表示される。これがカレンダーになっている。そのカレンダー部分の上に、それぞれの日のニュースの写真が大きく表示され、関連記事へのリンクがある。

※画像、クリックで原寸。
URLをクリックすると最初にデフォルトで大きく表示される1月1日の写真は……既に記憶の彼方で「なんか見たことはあるけど誰だったかなあ」というしかないのだが、キャプションを読んで思い出した。イラクで拉致されていた英国人男性が2年半ぶりに解放された、というニュースだ。背後にイランの革命防衛隊の工作担当部門、という報道がされていた。そのあと報道あったっけな、あれって結局どうなったんだろうね、という話題のひとつだ。
カレンダー式で取り上げられているニュースの話題は、政治や経済から事件・事故・災害、芸能・テレビ、スポーツ、文化など多岐にわたる。全体的には「その日の大きなニュース」が多いのだが、「ニュース」としては特に大きな意味を持たないような小ネタも含まれている。個人的に「ああ、そんなことあったなあ」と思う話題のナンバーワンは、6月25日の「6-4, 3-6, 6-7, 7-6, 70-68」だ。ほか、まだキラキラしていたころのLibDemsのニック・クレッグ("I agree with Nick" というキャッツフレーズ)なども感慨深い。11月末から今もがっつり続いているあの「騒動」(あの組織の名前をhousehold nameにした騒動)の発端は、実は今年の4月6日。
それにしても、あの「騒動」で「問題」となった「ガーディアンにリーク」なんてことは、これまでにもこれからも全然普通だったことで(今回は規模がすごいけど)、またガーディアンに限らず、タイムズであれテレグラフであれインディであれ(インディはあんまりないかもしれないが)、あるいはBBCの報道番組であれ、「リーク」+「調査報道」のあわせ技は、英メディアではごく普通のことだ。
そういえばこれは「報告書が事前リーク」されていたのだった――上のキャプチャ画面で示してある6月16日。
やはり、今年の一番のニュースはこれしかない。たとえ今起きたことでなくても、「誰もがずっと知っていたこと」であっても。(そういうトピックがマスを対象とした媒体で大きな「ニュース」になるとき、そのニュースは深い背景を有する。)
6月16日の「サヴィル報告書」の公表について、当時同時進行でTogetterでまとめていたものの「パート1」を改めて見返して、そうだ、サヴィルも、事前リークされていたんだった、ということを思い出した。ガーディアンのヘンリー・マクドナルドが11日に記事を書いている。
http://twitter.com/henry_mcdonald/status/15877881890
そしてそのときリークされていた「殺されたカトリックの市民は非武装だった」とか、「英軍の行動は不法なものだった unlawful killings」とかいった「最も重要な部分」を見て、こんな、本当に誰もが知っていることを、国家に公的に認めさせるまでに要した途方もない時間(40年近く)と巨額の費用(英メディアが念仏のごとくとなえ、「じゃあIRAのテロの被害者についても同じように調査しろ」とかいう“平等”主義者が「カトリック勢力」をdisるときに利用する数値)を考えてくらくらしていたのだが、これがリークされたということは、公表当日に悪い知らせがあるのだろう、という覚悟はしていた。
そしてそれは現実になった。「サヴィル報告書」では殺された人々が(英軍が主張していたような)「テロリスト」ではなかったということを認め、兵士の発砲は不法なものだと断言したけれども、その後、英軍の調査で「あの連中はテロリストだった」と結論付けられた背景に国家による指示はなかった、国家による真相隠蔽の計略はなかった、と結論付けられた。
「国家による隠蔽」を問題視してきたデリーの真相究明運動の中心だった人たちも、6月16日でその点については沈黙してしまった。
それらについては、Twitterでのこの話題についての人々の発言をTogetterでまとめてあるものを見ていただくのが一番だろう。(いかにその点がスルーされているか、ということについて。)
38年目の真実〜Bloody Sunday事件真相究明委員会報告書 1) 事前リーク&公表直前まで
http://togetter.com/li/29346
※6月11日のガーディアンへのリークから
38年目の真実〜Bloody Sunday事件真相究明委員会報告書 2) 公表
http://togetter.com/li/29537
※6月16日、英国会での首相のスピーチからあと、公表のそのときをリアルタイムで
「ジム・レイはなんら脅威ではなかったのに狙い撃ちされた。倒れたところを、さらにもう一度撃たれた。今日やっと世界に言うことができる、ジムは殺害されたのだと、ジムはイノセントなのだと。」
http://twitter.com/nofrills/status/16230810096
銃火を逃れようと背中を向けて這って逃げ出そうとしているところに、英軍は発砲した。それがようやく、公式に認められた。
http://twitter.com/nofrills/status/16230916893
38年目の真実〜Bloody Sunday事件真相究明委員会報告書 3) 公表のあと
http://togetter.com/li/29817
さて、ガーディアンが「今年のニュースを振り返る」ために選んだブラッディ・サンデー事件についての記事(カレンダーからリンクされている記事)は、下記だ。
Amid the tears and cheers, a full stop to Britain's colonial experience in Northern Ireland
Simon Winchester
guardian.co.uk, Tuesday 15 June 2010 22.29 BST
http://www.guardian.co.uk/uk/2010/jun/15/derry-bloody-sunday-northern-ireland
1972年1月30日、英軍による銃撃のあった現場にいたジャーナリストのひとり、サイモン・ウィンチェスターが、「サヴィル報告書」を受けて書いている記事。ウィンチェスターがあの日現場で「銃撃戦」を経験した(と思った)こと、そして英軍から聞かされた説明(中身は虚偽)を、「事実として確定したもの」として扱ったことで、実は武装なんかしてなかったし、英軍に「反抗」はしていたけど英軍を「攻撃」などしていなかったデリーのカトリックの人々(多くは10代の若者)は、英国(除:北アイルランドのナショナリストのコミュニティなど一部)では、「英軍兵士を殺そうとしているテロリスト」と認識された。むろんウィンチェスターに世論をミスリードするなどという意図はなかったし、悪意はなかった。けれども彼の報道は「北アイルランドでテロリストが暴れている」という英国政府の語る物語(セミフィクション)を、政府の外から補強するという大きな役割を果たした。
英国の報道は、40年ほど前に、こういう「地獄」を経験している。政府の言うままを垂れ流すことで、「虚偽」を「事実」として確定させる役目を負わされる。善意で。
そして、「ギルフォード4」のような冤罪(映画『父の祈りを』を参照)が生じる基礎を作らされ、それらすべてが「政府による欺瞞」だったことが明らかになってもなお、「イラク戦争」というトラウマを――「サダムの大量破壊兵器は欧州にも届く」とか「サダムの大量破壊兵器は45分で使用可能」との説(でっちあげ)などを垂れ流したのは、タイムズやテレグラフのような「右の」メディアだけではない。BBCやガーディアンもそれを垂れ流し、特にガーディアンは「人道的武力介入」論でトニー・ブレアの開戦論を支持していた。2003年2月、国連安保理でフランスの外務大臣が銀髪をなびかせながら雄弁に語っていたとき、「戦争はダメだ」という姿勢を明確にし、貫いていたのは、英国のメジャーなメディアではデイリー・ミラーだけだった(Stop the War Coalitionと組んでいた)。ガーディアン(中身はフェビアン協会と言ってもよかった)は「戦争はダメだ、でも……」と言っていた。そのあたりのことは、1月22日、1月29日に出ている。
取り上げられていてしかるべきなのにないニュースも多いけど(一例としてはハンガリーの工場廃液流出事故)、月16日のように多分見逃しているニュースもあり(パキスタンでのベナジール・ブット暗殺についての国連報告書が、ブットが生前、ムシャラフに対し、制度上十分な警備をつけられないと抗議していたということを明らかにしたのだそうだ。あの華やかで腐敗した政治家のあの衝撃的な暗殺も記憶の彼方だ……)、年末にゆるりとワインでも飲みながら見るには、とてもよいと思う。
なお、ガーディアンのサイトでは「私が選んだこの12ヶ月」(1ヶ月につき1つの写真を選べる)が作れるようになっている。ガーディアンにアカウント登録していなくても、またアカウント持ってる人でもログインしていなくても作れて、個別リンクがもらえるようになっている。私のは下記。
http://www.guardian.co.uk/world/interactive/2010/dec/22/2010-year-review#/Gn9mfWD5yN/U29tZW9uZQ==
キャプチャ画像:

※画像、クリックで原寸。
ここで選んだニュースについては、多かれ少なかれ、このブログで取り上げていると思う。
1月はイラク戦争インクワイアリ(チルコット・インクワイアリ)で最大のキーパーソン、ジャック・ストロー(当時外相、元々法律の専門家、開戦理由について法的な正当化に主体的に関わった。でも本人は開戦にはどちらかというと反対していた)。
2月はBAEの武器取引での不正をやっとBAEが認めたというガーディアンの調査報道の成果。
なお、1月は実は「アイリス・ロビンソン・アフェア」とジャック・ストローで迷ったし、2月は「エクストリーム交渉」が自分の中では当時は大きなニュースだったのだが、政界引退したアイリスは今や基本的には「普通のおばさん」だし(それでも不正の責任は問われるべきだが)、「エクストリーム交渉」は、あそこまでやって両者納得したことになった「夏の
3月はロシアの富豪で、アンナ・ポリトコフスカヤが生前在籍していた調査報道専門の独立系新聞『ノヴァヤ・ガゼータ』の社主でもあるアレクサンドル・レベジェフが、英インディペンデントをアイルランドの富豪から£1で買い取ったという話題。
4月はウィキリークスによる「コラテラル・マーダー」の公開。イラク戦争で、ごっついズームレンズをつけたカメラを持ったロイターの記者が「武器を持った武装勢力」と誤認されて米軍のヘリから銃撃され、記者らと一緒にいた一般市民も銃撃され、負傷者を搬送しようと運び込んだ車も銃撃され、大勢が殺された、という米軍の戦争犯罪行為を記録した、米軍のビデオ。
5月は英総選挙。6日の投票からもめにもめて、労働党が諦めて保守党&LDの連立内閣が発足したのが11日。その後、「ハネムーン」状態での保守党&LD党首(内閣では首相と副首相)のダウニング・ストリート10番地の庭での会見。このときはまだ、ニック・クレッグには「希望」が託されていた。(LDは選挙前、「国民に無理な負担を強いる歳出削減に反対、学費値上げ法案にはノー」などと主張していた。12月、それは見る影もなく……)
6月はデリーのギルドホール。(上述)
7月は、いろいろ迷ったのだけど(最初はウィキリークスによる「アフガン戦争ログ」を入れていた)、全体を眺めてみて、写真で選んだ。今の朝鮮半島の異様な緊張を見ていると、真剣に泣ける、ワールドカップ南ア大会での観客席。「政治のことは、90分間、忘れよう」。その90分がずっと続いてくれればいいのに。
8月も、迷ったけれどパキスタンの洪水。
9月は労働党党首選挙。ここでデイヴィッド・ミリバンド元外相ではなく、弟のエドが選出されたことは、労働党という存在には大きい、ということが今はっきりしてきている(保守党の歳出削減への対抗の戦略上)。9月末の労働党党大会でのエドの初演説についてはこちら。
10月はウィキリークスによる「イラク戦争ログ」。これはTogetter2つまとめてある(大量だったので)。
http://togetter.com/li/62064
http://togetter.com/li/62177
11月は、月末のCablegateを入れるべきなのだろうけれども、それはいちいち言う必要がないので別なニュース。イラクでの米軍による拷問(虐待)の発覚(アブグレイブ刑務所)のときは「わが英軍はあのようなふるまいはしない」的な態度すら見せていた英国が、米軍と同様の拷問を行なっていたことが、法廷で明らかになった、という報道。これもガーディアンががんばった事案。(Reprieveの弁護士さんたちと組んで、長期にわたる報道をしてきた。)
12月は、ガーディアンでの「今年のニュースまとめ」。写真は例の「英語圏では多くの人が名前を発音できないあの火山」。
当時のアルジャジーラの放送から:
今年は欧州方面の航空・旅行業界の方には大変な1年だったと思います……今もまだ(もう随分回復したとはいえ)、悪天候の余波が。
※この記事は
2010年12月25日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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