22日付のそのコーナーで、ACTA (the Anti-Counterfeiting Trade Agreement) が話題になっている。
http://www.guardian.co.uk/world/blog/2010/dec/22/you-ask-we-search-december-22
The Anti-Counterfeiting Trade Agreement (Acta) is very much a WikiLeaks story. The site published a leaked discussion paper from the closed-door negotiations in July 2008 when the secrecy surrounding the proposals on piracy and other intellectual property issues from the US, Japan, EU, Canada and some others (but not China) meant very little was known of it.
ACTAとWikileaksには因縁がある。2008年7月、WikileaksはリークされたACTA非公開交渉でのディスカッション・ペーパーをサイトで公表した。米、日、EU、カナダなど(中国は含まれない)から出された海賊行為などの知的財産に関する問題についての提案は秘密の壁で取り囲まれており、ほとんど何も知られていなかった。
So what do the cables say? Well, that the lack of transparency was a problem for some of the participants, too. A November 2008 cable from the Rome embassy reports that Fabrizio Mazza, head of the intellectual property office in the Italian foreign ministry, told US diplomats that the level of confidentiality attached to the negotiations made it "impossible for member states to conduct necessary consultations with IPR [intellectual property rights] stakeholders and legislatures". The cable stated that the "level of confidentiality in these Acta negotiations has been set at a higher level than is customary for non-security agreements".
【大意】というわけで今回の米外交公電だが、あの透明性の欠如は、参加国の一部にとってもまた問題になっていた。2008年11月にローマの米国大使館から送られた文書では、イタリア外務省の知的財産部門の長であるファブリツィオ・マッツァが米外交官らに対し、交渉については極秘とするとの制限がきついので、「加盟国はそれぞれ知財権のステークホルダーや立法と交渉をしなければならないが、それが不可能となっている」と述べている。公電には、「ACTAに関する交渉は、安全保障関連ではない事柄について慣習で決まっているよりも高いレベルで機密とされている」ということが書かれている。
上記のイタリアの公電:
http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/176810
それから1年後(つまり2009年11月)、今度はストックホルムから、ACTAに関する機密指定の影響は政治家にも、ということを書いた公電が出されている、とのこと。その公電:
http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/236363
Swedish media and the usual blogger-circles have expressed similar concerns about the on-going Acta (Anti-Counterfeiting Trade Agreement) negotiations as we have seen in many other countries, mostly focusing on the secrecy and the internet chapter with its reported demands for graduated response systems. As the Swedish justice ministry has negotiating for the EU during the second half of this year, this has led to domestic criticism of the government. Media reporting has forced the Swedish government to go public saying that Sweden will not agree to Acta provisions requiring revised Swedish laws.
スウェーデンのメディアおよび通常のブロガーの間では、現在進められているACTAに関する交渉について、他の国でみたのと同様の懸念が示されている。そのほとんどが、内容についての機密の件と、graduated response systems(注:いわゆる「スリーストライク法」のこと)が要求されるというインタネットに関する条項に関するものだ。スウェーデン司法省が今年後半、EU代表として(注:2009年後半、EU議長国はスウェーデン)交渉に当たった際にみられたように、このことは国内で政府批判を引き起こす。メディアの報道により、スウェーデン政府は、スウェーデンは国内法改定が必要となるようなACTAの条項には賛成しないと、公に述べることを余儀なくされた。
また、スウェーデンの人は米国側に対し、「ACTAの書類を公表することを拒否していることは、周囲を憶測の壁で囲んでくださいといわんばかりだ」というようなことを述べている、と。
その言葉、そっくりそのまま、ジュリアン・アサンジの性暴力容疑についてのスウェーデンの態度にあてはまるね。EAWで動いておきながら、起訴したのかどうかすら曖昧なまましばらく経過という、刑事手続としては最悪のグダグダっぷりの上に、「わが国では(っていうかどの国でもだけど)性暴力の場合は被害者のプライバシー保護を前提に」という主旨で開示されない資料が多く、代わりに憶測と、断片のリークで「たぶんこういうこと」という絵が描かれる。
とまあ、ACTAについてはスウェーデンは「内容を開示しろ」と米国側に強く圧力をかけていたのだそうですが、それって2009年のことだから前政権。
一方、欧州委員会は、米国政府は米国の知財産業界と相談はしているけれども、欧州は欧州の産業界と話をすることができませんよ、ということで懸念、だそうです。
ACTAの草案は今年4月、ようやく開示。その後11月に最終稿が出ているそうです。
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/10/1504&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
ほんでこのACTA(今さらですが日本語では「模倣品・海賊版拡散防止条約」といいます)をめぐっては、アメリカがハリウッド映画などを掲げて「俺の言うことを聞け」状態であるということはずっと伝えられていて、その問題点を書いているブロガーさんは英語圏でも日本語圏でもけっこうおられる。
私は情報が流れてくると何となくチェックだけはしておく、という程度にしか関わることができていないが、要は日本に対する「改革要望書」のようなもので、米国の「国益」を確保することは“みんな”の利益になる、という「善意」が背後にある腐った制度の押し付けであり、こんなのは9-11前なら「文化帝国主義 cultural imperialism」としてガーディアンやテレグラフなどで嘲笑されていたに違いない。
そういう「米国の圧力」に関連して、@heatwave_p2p さんのブログ:
スペイン議会、ファイル共有サイト閉鎖法案を退ける
2010.12.23 Thu
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-1738.html
TorrentFreakの記事の訳出部分から、少し引用(※太字は引用者による):
スペイン下院は、現在合法的に運営されている数多くのファイル共有サイトを閉鎖に追い込むための法案を否定した。これは……エンターテイメント産業やアメリカ政府など、この法案の支持者には失望をもたらした。
これまでのところ、スペインは裁判所によりP2Pサイトが合法的であると判断された数少ない国である。こうした状況を変えようと、スペイン政府は、著作物へのリンクを提供するサイトを裁判所の命令なしに閉鎖に追い込むことのできる規定を含む新たな法案を提出した。
この規定は、サステナブル・エコノミー法(Sustainable Economy Law: LES)という一括法案の一部として、米国政府の後押しをうけたアンヘレス・ゴンザレス-シンデ文化大臣によって起草された。……
……
長い議論の末、スペイン下院経済金融委員会はサステナブル・エコノミー法案を採択する一方で、問題の部分については除外することを決定した。つまり、P2Pサイトの強制閉鎖を含まない法案が上院に渡ることになる。
……
スペインのインターネットユーザ協会は「人々の意志が、我々の立法府に対するロビイストや大使館、外国政府からの圧力を打破したのです。」と、このニュースについて述べている。
「そして、この勝利は別のことを意味してもいます。我々の民主主義や法の原則は、誰かが守ってくれるものではないということです。いついかなるときでも、私たちがそれを確実なものとしていかなければなりません。私たちが関心を失ったとして、誰がそれを守ってくれるというのでしょうか。」
……
で、ここで語られているような「我々(スペイン)の民主主義や法の原則」と対立する「大使館、外国政府からの圧力」、つまり米国の圧力については、今回(もまた)、Wikileaksの流した米政府文書で、容赦なく明らかにされている、ということだ。
「自動車摩擦」とか「牛肉・オレンジ」とかいったフレーズに記憶がある立場としては、キャプテン・アメリカはお変わりないのですね、という感想。
※この記事は
2010年12月25日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。