「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


2010年10月18日

ドイツ、アンゲラ・メルケルによる「多文化主義の失敗」発言について。

この日曜日、「5800人で戦後最大のデモ」とかいう戯言についての「まとめ」の作業がひとしきり終わったあとで、少しチルアウトするためにBBCでも見てまともな英文を読むかと思ったときにトップニュースになっていた記事が、ドイツのアンゲラ・メルケルの発言を報じる記事だった。

Merkel says German multicultural society has failed
17 October 2010 Last updated at 07:51 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-11559451

チルアウトしながら読んでたのであまり真剣には見ていないのだが、はてブのほうにメモしたことを見ると(なお、このメモを取ったときと現在の記事は、アップデートのため内容が変わっているかもしれない)、私は記事中に引用されている世論調査の結果の数値に注目し、さらに「移民=ソーシャル・ベネフィットを食い散らす存在」という「小さな政府」派の情宣だなあ、と思っていたらしい。ドイツはEUの主要国としてギリシアの危機に助け(=金)を出している。ああいうのがギリシアだけで終わるのかどうかわからない、という不安感も根強くある。ドイツ人にしてみれば、自分たちが経済危機でやられて弱っているときに、なんでよその国の面倒を見なきゃならんのだ、という怒りは当然あるだろう。その怒りに対し、政権与党が「私たちはあなたがたの声に耳を傾けます」というメッセージを発することは当然のなりゆきだ。

しかしそれが「多文化主義の失敗」だの「移民が多いことが問題」だの、どこの極右だよ、という内容。

この夏以降、フランスでも政権基盤がやばくなってきてて、サルコジがグルノーブルでまたぶちあげたとか、足元を固めておくために極右側に媚を売る必要がまた出てきたのでロマ送還とかいうめちゃくちゃなことをやり出したとかいう指摘がいくつかのメディアでされていたが(例えばニューズウィークの日本版にたっぷりと分量のある記事が出てたはず)、ドイツもそういうことなのだろうか、と思った。そしてそれは、非常に重苦しいニュースだ。結局は欧州が「価値観」を守ろうとしなくなったということだから。

しかしこのメルケルの発言、「ドイツの意思」として解釈してよいものなのだろうか?

http://en.wikipedia.org/wiki/Bundestagメルケルは、言うまでもなく、ドイツの首相であるが、彼女の発言を即「ドイツの民意を代表しての発言」と扱うことはできない。彼女は「所属政党が選挙で過半数を取ったので首相になった」わけではない。現代の欧州の政治はそんな単純な「二大政党」の図式で語れるものではなくなってきている。メルケルが首相になったのは2005年の総選挙の結果だが、この総選挙での各党の獲得議席を示しているのが左の図(ウィキペディアのキャプチャ、via kwout)だ。メルケルはCDU(クリスチャン・デモクラティック・ユニオン)の党首で、CDUの議席数は全622議席中194議席である。6政党の中で最多の議席数だが、半数にはまったく遠く及ばない。現在のドイツの連邦政府の政権はこのCDUと、ほか2政党の連立で担っている。

さて、この場合、CDUという政党の集まりの場での党首の発言を、ドイツの首相の発言、つまり「ドイツを代表する声」として扱えるかどうか。

どの国のどの政権のトップでも、党内向けの発言が国のトップとしての発言とは若干トーンが異なる、ということがありうる。首相としては「その可能性も視野に入れて」とか「全力で取り組んでいきたい」といった押さえたトーンの発言をしている事柄について、同じ人物が、党のトップとしては党大会で「目標達成のために邁進していこう!えいえいおー」的な演説をする、といったことだ。その場合、党大会での発言は「○○首相」の発言という扱いはされず、「○○党首(総裁、代表など)」の発言として扱われる。

ただしそれを情報の受け手(テレビを見ている一般人など)が「首相の発言」ととらえることは当然だし、その発言が「党首の発言」ではなく「首相の発言」として伝播されることは、発言主の側で想定されているはずだ。

メルケルの「多文化主義は失敗した」という発言は、そういう文脈でなされた。党内や連立のパートナーの党からも圧力があったということは、BBCの記事にも明示されている。だからといってアンゲラ・メルケルという人の頭の中にこういう考えがないというわけではないのだろうが、「ドイツ政府の方針」と解釈することは、少し行き過ぎのようにも思う。

……と思って終わりにしていたのだが、月曜日、Twitterでこの発言についての小林恭子さんの記事の存在を知らされて、ブログのエントリにすることにした。



ここで知らされた記事が下記:

独メルケル首相「多文化主義社会は失敗した」の衝撃
2010年10月18日06時51分
http://news.livedoor.com/article/detail/5078977/

ドイツのメルケル首相が、「多文化主義社会は失敗した」と言ったそうである。

 http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-11559451

 すごいことになったなあ、と思った。一国の首相が思い切ってよく言ったものである。

 BBCの記事によれば、メルケル首相はいわゆる「多文化主義」の概念―互いに隣同士に幸せに生きるーは機能してないし、移民たちはドイツ社会に融合するために、もっと努力をするべき(例えばドイツ語を学ぶなど)、と言ったそうである。……

このように書き始められたこの記事は、しかしながら、メルケルの発言のコンテクスト(所属政党の青年部の会合でのスピーチ)には一切触れていない。だからといって発言主が「メルケル首相」であることにかわりはないし、彼女は全ての公式の発言が「ドイツの首相」の発言であるとして報じられる立場にあると私は固く信じているが、それでも、メルケルが「ドイツの首相」としての立場で「多文化主義は終わった」と述べたと思わせるこの記事の書き方は、かなりミスリーディングである。

ってところまで何とか書いた時点でもうめんどくさくなってしまったのだけど、もう少しがんばろう>自分。

小林さんは次のように書いておられる。
 ドイツは1960年代に労働者を外国から呼び、「今その人たちはドイツに住んでいる」とメルケル氏。「私たちは自分たちをしばらくの間、だましてきた。移民たちは長くは滞在しないだろう、いつかはいなくなると」(しかし、そうはならなかった、と言いたいのであろう)。「もちろん、多文化(社会)は失敗したのだ。完全に失敗した」と続けている。

 メルケル首相は移民がドイツに来ることをとめようとしているわけではない。「歓迎する」と述べている。しかし、彼女が問題にしているのは、融合がうまく行っていない、ということなのだろう。

 先週には、別のドイツの政治家が、「トルコやアラブ諸国など別の文化からやってきた移民」は、ドイツ社会への融合に関して、(他の文化を持つ人に比べて)「より困難であるのは明瞭だ」と述べていた。「多文化主義は死んだ」と。

 トルコには今、1600万人の移民がいて、250万人はトルコ出身者である。トルコの国民はほぼ全員がイスラム教徒である。

 8月には、ドイツ中央銀行の幹部が、イスラム諸国からの移民が最も強く社会福祉の申請や犯罪に結びついていると発言して、辞職する羽目になった。言ってはいけないことを言ってしまったのである。

 キリスト教をベースにした欧州諸国は、イスラム系移民の取り扱いに苦労しているように見える。


「欧州諸国」に話を拡大する前に、メルケルの発言の場であるCDUという政党は、「クリスチャン」・デモクラッツというキリスト教政党である、ということを重視してはいかがか。(党のタテマエとは別に、党員や青年部の部員にアピールするためには「われわれクリスチャン」の立場の強調ということはやるだろう。)

それ以前に、メルケル発言のコアにあるらしい「ドイツにいるんならドイツ語を話せ」論(BBCもそれを強調して書いているのに)がスルーされているのはなせだろう。

小林さんの記事で参照されているBBC記事から:
Mrs Merkel said: "We should not be a country either which gives the impression to the outside world that those who don't speak German immediately or who were not raised speaking German are not welcome here."

http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-11559451


「ドイツではドイツ語をしゃべるべきだ」ということをメルケルは述べているのだそうだ。

が、ドイツ在住のkmiuraさんのツイートにもあるように、ドイツ在住のトルコ系移民はドイツ語を喋っている。第二次大戦後労働力として移住した人たちの子供の世代ともなればドイツ語が第一言語だ。(イングランドだって、パキスタン系移民の第二世代は英語が第一言語だ。)そういうツッコミどころがある発言を、まともに「多文化主義の終わり」と受け取り、論じる意味がわからない。「移民は難しいね」っていう日本国内の感情論への裏づけを与えることが目的なら成功だろうけど。

で、上記引用部分にある「先週には、別のドイツの政治家が」の「別の政治家」だが、この人についてどういう人なのか、小林さんはスルーしている。「政治家」っつったって、閣僚なのか国会議員なのか、地方議員なのか地方の首長なのか、などで発言をどう受け取るべきかが違ってくるのだが、そこスルーっすか……字数の問題とかあるだろうけど。

BBC記事によると、その発言をしたのは下記のような人。
Earlier this week, Horst Seehofer, the leader of the CDU's Bavarian sister party, the CSU, said it was "obvious that immigrants from different cultures like Turkey and Arab countries, all in all, find it harder" to integrate.

「CDUのバヴァリア姉妹政党であるCSUの党首」だそうだ。それだけじゃわからんのでウィキペディアを見ると日本語記事もあって、そこには「2008年10月よりバイエルン州首相。その他1992年から1998年までヘルムート・コール内閣で保健相を、2005年から2008年までアンゲラ・メルケル内閣で農業・消費者保護相を務めた」。

つまり、CDU/CSUの中では大物で要職も経験しているが、現在は連邦政府ではなくバイエルン州の首相という職にある。

(東京都の知事に似てるな。)



書きかけ

※この記事は

2010年10月18日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:42 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

……全文を読む
▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼