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アメリカのある大学寮で、18歳のタイラー・クレメンティはある日、ルームメイトに頼みごとをした。「悪いけど今日9時半から12時まで、この部屋僕だけで使わせてもらえないかな」。ルームメイトはいいよと言って、別の寮生の部屋で過ごすことにした。
よく聞くような話だ。映画の一場面にはなるかもしれないがニュースにはならない。
タイラー・クレメンティがニュースになっているのは、この頼みごとのあとに起きたことによって、彼が自らの命を絶つという選択をしたからだ。
その日、別の寮生の部屋に移動したルームメイトがウェブカムのスイッチを入れると、そこには、タイラーが恋人と過ごす様子が映し出されていた。ルームメイトはそれを面白がり、Twitterで「俺のルームメイトが今ヤってんだけどさ……」と書き込んだ。それに反響があったのだろう、2日後にタイラーが「部屋を使わせてくれ」といったとき、ルームメイトはいいよといい、そしてタイラーと恋人の様子を、本人たちには無断で、ウェブで中継した。ご丁寧に、「何時からダダ漏れ実況します」的なことをTwitterに書いて客寄せまでしていた。
誰だって、自分がタイラーの立場にあったら、とにかく恥ずかしくてならないし、部屋に呼んだ恋人にも申し訳ないし、「死にたい気分」になるだろう。だからといって本当に自殺するだろうか。でもタイラーは実際にハドソン川に飛び込んで、死体となって引き上げられた。
実は、タイラーは男で部屋に呼んだ恋人も男だった。そしてルームメイトが面白がったのは、「あいつ、男とヤってる」からだった。
Student kills himself after gay sex footage put online
30 September 2010 Last updated at 20:27 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-11446034
ルームメイトのDharun RaviはTwitterで次のように書いていたそうだ。(すでに削除されており、BBCはGoogleキャッシュなどで確認している。私もキャッシュで確認はした。)
"Room-mate asked for the room till midnight. I went into molly's room and turned on my webcam. I saw him making out with a dude. Yay," Mr Ravi wrote on Twitter on 19 September.
Two days later Mr Ravi wrote: "Anyone with iChat, I dare you to video chat me between the hours of 9:30 and 12. Yes it's happening again."
明らかに、"with a dude" だから面白がっている。タイラーの相手が女性だったら、ウェブカムで中継する(見世物にする)ほど面白がったりしただろうか。
この悲劇について書かれた英語の文章をいくつか見たが、それらは、彼が「ノーマル」なヘテロセクシュアルだったらネットにさらされることなどなかったであろうプライバシーを、ホモセクシュアルであるがゆえにさらされ、18歳のタイラーは「男と寝ている」ことが好奇の目という外部の力でアウトさせられた(ゲイであることが世間一般に知らされた)ことを背負いきれず、橋から川に身を投げた、というような背景を語っている。
もちろん、ルームメイトがウェブカムを仕掛けるという陰湿なことをしたのは本当に、タイラーが「男とデキてる」からだったのか、それをウェブ中継したのは同性間のことだったからなのか、など、今後法廷で確定されねばならないことはいろいろとある。
(ルームメイトとその友人は「プライバシー侵害」で起訴されている。有罪の場合、最高で懲役5年。ルームメイトは盗撮カメラを仕掛けているのだから起訴されるのは当然だが、別の友人が起訴された理由は、私が読んだ範囲ではよくわからない。関与の範囲が主体的なものだったのか、あるいは「盗撮をけしかけた」とか「止めなかった」とかいうものなのかも現段階では不明。)
さて、この痛ましい事件がさらにもやもやした後味を私の中に残すのは、「他人のプライバシーを侵害する」という行為を行なった側(加害者側)が、米国の基準でいう「人種的マイノリティ」であるせいだ。写真など見なくても、ルームメイトのDharun Raviはインド系の名前だし、タイラーが恋人と過ごす間彼が行った部屋の主(高校時代の同級生で恋愛関係ではなかったとか)のMolly Weiはチャイニーズの名前だ。米国での報道記事には2人の加害者の顔写真(イヤーブックだろう)が出ているが、外見からも「人種的マイノリティ」であることは確認できる。
今どき「人種」云々は気にしないのが米国の都会だということはわかっているのだが、こういうの(下記画像参照)を見てしまうと、「あーあ、また例の『ゲイ』に『寛容』かどうかを基準にして us and them の線を引く連中に材料が与えられちゃったなあ」とか、「ゲイは差別しないけど人種と文化の“区別”はするよ、当然でしょ!的な意見が居場所を作ろうとするだろうなあ」と思う。たった一件のポストではあるのだが、たった一件であれ……。こういう考えがあからさまに可視化されているのはけっこう珍しいことだし……。

※なお、このキャプチャ画像の人はアバターは白人の中年女性。有名なゲイのタレントについて好意的に書いているので、ゲイをヘイトして毒を撒き散らしている側ではないことは明らかである。
人は何故、こんなふうに「境界線」をひいて「連中と我々」を分けたがるのだろう。
さて、BBCの記事には囲みコラムで、ワシントンのイアン・マッケンジー記者の解説が添えられている。
【要旨】
タイラー・クレメンティさんの死という悲劇は、ゲイの権利という問題とサイバーいじめという問題の交点にある。このティーンエイジャーを死に駆り立てる役割を果たしたもののひとつがテクノロジーであることは明らかだ。一方で、真の問題は年齢の若い同性愛者が迫害されマージナライズされていると感じる文化そのものだ、と活動家は指摘する。
最近なされたゲイの学生の調査によると、4人に1人が性的指向を原因とするいやがらせをレギュラーベースで受けている。何人かにとっては、クレメンティさんの自殺はこの統計数値に人間の顔を与えるものになっただろう。
で、BBCの淡々として非常に抑え目な記事を読んだだけでもまったくひどい話だと思ったのだが(同性愛とか関係なく、自分のコントロールの及ばないところで自分のプライバシーがダダ漏れされているなどということは耐え難い苦痛であるし、ましてや18歳なんていう年齢では「世の中に自分の居場所がない」状態に陥ってしまってもしょうがない。しかも下手人はルームメイトとか、逃げ場なさすぎ)、アメリカって最近どうよというのを調べると、もう本当にひどすぎる。11歳とか13歳の子供が「ゲイ」っていじめられて自殺してるような状態。それも、本人が本当にゲイであるかどうかに関わらず。(例えば、"That's so gay" は罵倒語の機能を有している。)ひどいケースでは、ヴァージン諸島出身だからといって「ヴァージン(童貞)」と呼ばれ、「ゲイ」云々と呼ばれた11歳の(!)男子が自殺している。この子を「童貞」呼ばわりしたクソガキどもの何人が「童貞」を「卒業」していたことか!
そんなことも含め、Togetterにまとめてあります。
Tyler Clementiはハドソン川に身を投げた。彼は18歳で、ネットでさらし者にされていた。
http://togetter.com/li/55504
追記:
http://b.hatena.ne.jp/entry/nofrills.seesaa.net/article/164364308.html
当初次のようなブコメをいただきましたが:
ゲイのルームメートの秘め事をweb camで曝した学生と共犯者の犯罪が顔入りでニュースで叩かれているのが人種マイノリティだからでは?という話。
私は「人種的マイノリティだから顔写真入りで叩かれている」と言いたいのではありません。そもそも「叩く」とかいう粗雑な言葉は使っていません。(本文にも「今どき『人種』云々は気にしないのが米国の都会だ」と書いています。「都会」じゃないところでのわかりやすいレイシズムは現在もよく聞くので「都会」と書きましたが、意図としては「米国社会」です。)
言いたいのは、いじめた側が「人種的マイノリティ」だということを、ことさらに言い立てる(それも「ガイジン」という用語で)人がいる、ということです。
私は彼らをことさらに「ガイジン」であると言い立てる立場にはありません。本文中では、被告をforeignersと呼んでいる言説をキャプチャ画像で引いていますが、それは、極めてはっきりと批判的に引用しているつもりです。
こういう人たちが「同性愛者を差別するのは未開の人間」という、「人種」に基づかないレイシズム的な主張をしている事例は非常に多くあります(bigotとuncivilisedの同一視)。最も目に付きやすいのはイスラモフォビアですが、イスラムだけでなく「非西洋」全体が「(西洋と違って)ホモフォビック」と見られていることもあります。
なお、2人の被告は法定年齢に達していますし(米国の多くの州は18歳のはず)、起訴された人物の顔写真が出ることは別に普通です。いちいち「イヤーブック」云々と書いたのは、二人とも最高の笑顔の写真だから(マグショットではないから)です。これは「マジョリティがマイノリティをさらす」云々の話ではありません(そう解釈しているのかもしれないと思われる反応があったので書きますが)。このケースでは被告がarrestされたという記述は見ないので、単に、マグショットが存在しないのではないかと思います。
※この記事は
2010年10月01日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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