その数十分後にはそのBBC記事が更新され、「空港は制圧されているが、軍のトップは大統領支持を明言し、軍の大半は大統領支持だとの見解を示した」という内容の最新情報が加えられた。そのさらに後には「大統領が襲われ、病院に逃げ込んだ」、「抗議デモの警官隊が病院を包囲した」、「非常事態宣言が発令された」など、情勢はさらに動いていた。一方で「デモ隊側は
そして日本時間1日正午ごろの最新の状況が、BBC NewsのトップでBreaking News扱いで報じられている。
BBC News - Home via kwout
警察病院にいた大統領の救出作戦実行の瞬間、CNNのカメラが現場前にいたようで、クリップがアップされている。兵士たちが動いた後、ものすごい銃撃音がするので注意されたい。言語はスペイン語なので私には語られている内容はわからないが、英語の報道を見ると、こうやってこちら側で銃撃戦が開始されたときに、建物の向こう側で大統領が救出されたとのことだ。
http://www.youtube.com/watch?v=tPIsiL4JGcc
その直後、大統領は大統領宮殿のバルコニーで演説を行なった。
【追記】八木啓代さんのブログの記事、「大統領を殺したければ、私はここにいる:エクアドル・クーデター」より:
日本時間11時30分頃(現地時間午後9時半頃)、軍が病院に突入して、銃撃戦の末、コレア大統領を救出。
この間すべて、TV Ecuadorが Ustreamで中継していました。
救出された大統領は、民衆が国歌を合唱しながら待っていた大統領宮に戻ってすぐ演説。……
Twitterでも大統領の名前がTrending Topicsに入っていて、スペイン語のtweetsがものすごい勢いで増えている。
http://twitter.com/search/Rafael%20Correa
※http://search.twitter.com/search?q=Rafael+Correa で見ると、translate to English で見ることができる。
私はスペイン語はほぼまったく読めず単語を拾うしか能がないので、サイトで英語に翻訳してもらって読んでいるが、大統領が無事であることを喜ぶツイートが多かった。「大統領万歳、民主主義万歳」とか、「民主的に選挙で選ばれた大統領」とか。一方、突入から1時間ほど経過してその熱狂がおさまった今は、米国人が英語で「ミスター民主主義などではない、独裁者である」などと書いていたりするのもお約束だ。
このコレア大統領、つい最近日本に来ていらしたということを検索で知る。2010年9月7日付の音楽家・作家の八木啓代さんのブログより、少し長くなるが引用させていただく:
http://nobuyoyagi.blog16.fc2.com/blog-entry-519.html
国連大学で開催された、エクアドルから来日中のラファエル・コレア大統領の講演会に行ってきた。
……
隣に座っていたのが、兵庫県から来られたエクアドル人の男性。
三島由紀夫のファンで、政治には本来興味はなく、まして社会主義にはかなり疑問があると言っておられたが、では、なぜ、はるばる来たのか。
「しかし、彼の3年間のもと、現実にエクアドルは良くなったからだ」
以前のエクアドルは、ハーバード大学を卒業した経済通という触れ込みの(新自由主義を掲げた)大統領が頻繁に交代するような状態だった。(ちょうど、いまの日本みたいに、と、彼は言った)
政治は混迷し、国民は疲弊し、挙げ句に1994年から99年にかけて経済崩壊を起こし、国民のうち200万人が国を出て、出稼ぎをせざるをえないという状況にまでなった。
「それを、コレアは立て直したのですよ。明らかに、エクアドル人は彼のもとで幸せになった」
なるほど。
……
確かに、「生きていくための最低限の暮らし」に購買力もへったくれもない。
かつての60年代の米国や70年代の日本がそうだったのように、多数派としての中間層があることで、経済はまわる。逆に、だからこそ、一見、もっともらしい「経済活性化」を唱える新自由主義が生む格差が、結果的に経済を崩壊させるゆえんだ。
この方針に則って始めた政策が、ゆえに、非政治的な人をして
「彼のおかげで、明らかにエクアドル人は幸せになった」
と言わせる結果を生んだわけだ。
「貧困の問題は、(社会)制度によるもの」と彼は断定する。
……
しかし、当然ながら、彼の政策は富裕層の利権とは対立するから、メディアからは常に激しいバッシングを受ける立場にある。
……
このように、人が出て行くばかりの経済崩壊した国家を建て直し、「富裕層の方を向かない政策」で支持を受ける大統領だが、普通の民主主義国にあるような「大統領批判」や「政権への不満」はエクアドルにもあるわけで、その点は(私は英語でしか記事などが探せないのでその時点で偏りは生じているが)、病院包囲が続いていたときにBBCが取材した現地の人たちの声に少し詳しい。
Ecuador unrest: Your stories
http://www.bbc.co.uk/news/world-latin-america-11449614
この記事では3人の談話(か何か)を中心に紹介している。
1人目は、首都キトの女性でトレイシーさん。彼女は「街からは警官の姿が消え、犯罪者には良い条件になっているので人々は家から出ないようにしている」と現況を伝え、「今、何が起きているのかがわからないということが誰にとっても問題だ」と述べる。その具体的な中身は、「政府が全てのメディアネットワークを掌握し、国民にプロパガンダやコレア大統領支持者のインタビューばかりを見せ続けている。大統領に反対する側の見方は示されず、反大統領抗議をしている人たちは悪者、筋が通っていないというように見えてしまう」。そして「誰も政府転覆を望んでいるわけではない。警官は成立した法案に不満で、単に自分たちの言い分も聞いてほしかっただけだ。誰も民主主義を終わりにしたがってなどいない。この国はワンマン・ショーで、国民は代表されていないと感じている」。
これはつまり、トレイシーさんは大統領側が「我々はデモクラシー、我々に反対する側はデモクラシーではない」という単純なロジックを乱暴に使っていると考えている、ということだろう。実際、たとえ大統領が思慮深く、軽々しい単純化をしない人でも、民主主義で「有権者の支持」を集めるにはある程度、「えらく乱暴な単純化」がなされる必要があるし、そこで「難しいことはわからないけど、賛成」と言ってくれる人たちを味方につけ続けておくためにその「単純化」を延々と繰り返すということは行なわれがちで、そうなると心底うんざりする人たちも出てくる。「実力行使で空港制圧」が議会で法案が通ったことに対する民主的な抗議方法であるかのように見えてくるのは、よほどうんざりしているということじゃないかと思う。
2人目はクエンカ(3番目の規模の都市)のクリスさん(名字もすべて英米系の名前なので、外国人だろうと思う)。クエンカでも市街地でデモが行なわれていて、クリスさんはそこから1ブロックしか離れていないところにいる。「テレビ (national television:エクアドルは国営メディアはないので全国放送ということか) でのキトやグアヤキルの状況の説明とは違い、クエンカは概ね平穏。中央広場では大統領支持の1000人規模のデモが行なわれた。地元の人が、商店主たちが襲われて1人死者が出ていると言っていたが、それ以外はかなり安定している。地方自治体の役人の演説が続き、ゲバラの革命に捧げられた歌が歌われた。街からは人影は消えている。それと3時間ほど前にネットがまったくアクセスできなくなったがこれは奇妙なことだ」という感じ。そして彼は「個人的にはクーデターの計画だとは思わない。大袈裟に誇張されていると感じる」と。
「クーデターなのかどうか」は初期報道の段階でも錯綜していて、昨晩Twitterでしばらく追っていたところ、結局、誰かが言及していたので見たスペイン語がわかる人のtweetいわく「軍と大統領とで見解が異なっている。一方はクーデターだといい、他方はそうではないという」という感じだった。ただ、最初期の「空港制圧」の段階では(誰が制圧していたのかという点の情報混乱もあって)、英語圏では「クーデター発生か」という感じの報道(テレビのテロップ、ニュース速報のようなもので)だったらしい。
さて、3人目はキトのグスタボさん。「一日中市街地にいましたが、みな家に閉じこもってテレビにくぎづけなので、街は静かです。人々は警察は抗議行動に失敗し、政府が完全に状況をコントロールしているという見方です」。街の様子としては、「銀行で数件の犯罪があったとのことです」が、それ以外は平穏とのこと。
そして、「エクアドルは歴史的に政治的に不安定だったことは事実ですが、現在は、大統領の同盟者も政敵も、各種機関も、そして最も重要なことに軍も、すべて政府の側についています」。この点については、西側メディアは特に初期報道の段階では「またエクアドルか」的な条件反射があるだろうと思う。
興味深いのは、グスタボさんが「法的な危機ではなく、政治的な劇場になりつつあります」と報告していること。情報は最大限注意を払って集めるけれども、結論を急いではならない、と。
この「急がない」というのが難しいので、煽られたり踊らされたりする。
BBCのこのページには、メインのこの3人の報告の下に、投稿フォーム経由やメールなどで寄せられたと思われる現地の様子の報告がいくつか続いている。そこでも「警察と軍が」一緒に行動していると書かれていたりして、短時間内での事態の進展と情報錯綜の様子がよくわかる。
実際には最初期に空港制圧したのは主に警官だったが軍人もいたらしい。議会も制圧されたとのことでは(<BBC記事 -- The National Assembly building was also occupied. --、および八木さんのエントリ参照)、常識的に考えて「政権転覆」の意図がなかったと考えることは難しい。
ただ軍のトップが大統領支持を比較的早期に明言したことで、「政権転覆」を考えて行動を起こした人たちも「ハシゴを外された」状態ではないか(誰が外したのかはわからないけれど)。
昨年のイランで一時「反アフマディネジャド派が国営メディアを制圧」が伝えられるほどに緊迫した日があったのだけれど、確かそのときに「軍(アーミー)」が反アフマディネジャド側につくという判断をしたという情報が流された。(イランの場合、「アーミー」とはまったく別の「革命防衛隊」という組織がある。彼らが「バシジ」と呼ばれる民兵を配下に置いて、宗教保守で核武装した国家を作ろうとしている側。)そのときに改革派の大物政治家や、議会の大物の名前も語られ、また「バザールの商人の動き」も伝えられたのだが(1979年革命のときにバザールの商人は大きな役割を果たした。2009年は、「1979年革命の精神を取り戻せ、人間を尊重するイスラムの精神を取り戻せ」という主張がなされ、1979年をなぞるようにさまざまな行動がオーガナイズされた。『屋上に上がってアッラーアクバル』など)、結局そのような動きが現実にはならなかった。具体的に何がどう動いたのか、動かなかったのかはわからない。
ともあれ、今回のエクアドルで「警官が抗議デモをしたが、ちょっとやりすぎて暴走した」のか(一般論でいうと、「国内の亀裂」を勘案した政治的判断がなされたらそういうストーリーになるのではないかという気がするが)、「大統領を倒そうと計画して実行したが、最後にハシゴを外された」のか、といった「事態の説明」は、向こう1日の間にいろいろとなされるのだろう。
ちなみにBBCの「現場にいる人たちの証言や意見を集めました」コーナーをどのくらい信頼するかはまあいろいろと。ロンドンの地下鉄駅で北アフリカ出身のテロ計画容疑者と誤認されたブラジル人電気技師が射殺されたときの最初期報道で「射殺された男性は、こんなに気温が高い日に、もこもことした冬用のコートを着ていたので不思議に思った」とテレビカメラに語った「目撃者」がいたしね。(実際には、射殺された男性は「もこもこしたコート」など着ていなかった。駅の防犯監視カメラに映った彼の服装は、デニム素材のシャツにジーンズだった。)
※この記事は
2010年10月01日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【雑多にの最新記事】
- Twitterを「鍵アカ」にすると、「《検索したい語句》from:アカウント名」..
- "整理" されてしまった「翻訳・通訳のトビラ」の中身を、Web Archiveで..
- 美しかった。ひたすらに。
- はてなブックマークでわけのわからないスターがつけられている場合、相手はスパマーか..
- 虚構新聞さんの "バンクシー?の「『バンクシー?のネズミの絵』見物客の絵」に見物..
- 当ブログがはてなブックマークでどうブクマされているかを追跡しなくなった理由(正確..
- 東京では、まだ桜が咲いている。
- あれから1年(骨折記)
- Google+終了の件: 問題は「サービス終了」だけではなく「不都合な事実の隠蔽..
- 当ブログに入れている広告を少し整理しました。