「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2010年09月26日

労働党党首にエド・ミリバンド



労働党党首選挙の結果がマンチェスターで行なわれている党大会で発表されました。発表の様子はBBCのサイトで中継されていて、わたしはそれを見ていたのですが、ずっと硬い表情のエド・ミリバンド(兄弟の弟)と、にこやかなデイヴィッド・ミリバンド(兄、元外相、「人道的軍事介入」論を支持)の対比には、どきどきさせられました。結果は、かなり筋金の入った「リベラル」(トニー・ベン系統)であるエド・ミリバンド。





私はBBCの中継でゴードン・ブラウン前党首による開幕のスピーチ(これがすばらしかった)から、ハリエット・ハーマンの退屈極まりないスピーチ(話が長い学校の先生みたいな退屈さ)を何とか乗り越えて、選挙結果アナウンスを聞いていました。採集的な結果がアナウンスされた瞬間、がしっと抱き合う兄弟の姿とか、不必要なまでにドラマチックでした。下記記事にその瞬間の写真があるけど、それまで、ずっと一貫して硬い表情をしていた弟と、いつもの「俺様」顔の兄との対比がなんともいえず……。
http://www.guardian.co.uk/politics/2010/sep/25/labourleadership-edmiliband

数字的なことは、さくさくと要領よくまとめてくれるSluggerに(元はガーディアン):
http://sluggerotoole.com/2010/09/25/miliband-the-younger/

最初に脱落したのは、反戦・反核方面で活発な黒人女性議員ダイアン・アボット。彼女は2003年にイラクに対する攻撃をするかどうかの国会での採決でNOの投票を行なった数少ない英国会議員のひとり。次に脱落したのは、これも若くして閣僚を経験しているアンディ・バーナムとエド・ボールズ。最後まで残ったのが、今回本命視されたミリバンド兄弟だった。

ミリバンド兄弟の「一騎打ち」となることはけっこう早くから伝えられていた。告示直後は「デイヴィッド・ミリバンドが本命、対抗はエド・ボールズだが、結果はほぼ決まっている」という雰囲気だったが、ほどなく「エド・ミリバンドがけっこうやるじゃん」的なムードになっていった。しかし結果がどうなるかについては「だれそれの優勢が伝えられています」的な確定的報道はなかった。

エド・ミリバンド (Ed Miliband) は1969年12月24日生まれで現在40歳。保守党のキャメロン党首(66年生まれ)、LibDemのクレッグ党首(67年生まれ)よりさらに若い。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ed_Miliband

お父さんはNew Left Reviewを立ち上げるなど戦後の労働党にとって極めて大きな役割を果たしたマルクス主義の理論家、ラルフ・ミリバンド(ラルフはベルギーに生まれたポーランド系ユダヤ人で、第二次大戦で英国に亡命し、LSEでハロルド・ラスキに師事した)。お兄さんは、今回の労働党党首選挙で対抗候補となったデイヴィッド・ミリバンド元外相(というか英国政界トップクラスの風見鶏で、個人的には「政治的チャラ男」と認識している)。デイヴィッド・ミリバンドはブレアが退陣する前から「次期労働党党首が確実」と目されており、一時期……えと、ウェブ検索すると今回の党首選のことかオーストラリアの労働党のことしか出てこないので自分でログを遡るので、具体的な時期などはあとで書き足すけど【→たぶん今年1月、あるいは、こういうのは2,3度発生していたので、その前の「党内クーデター」のときかもしれない】、2010年総選挙(5月投票)を前に党の勢いを回復するため、不人気のゴードン・ブラウンを下ろそうという動きが一部のベテラン議員(ブレアライト、つまりブレア派)に見られたときに密かに担がれていたのがデイヴィッド・ミリバンドだった(とガーディアンが報道していた。労働党の内幕のことはガーディアン報道は鉄板)。

エド・ミリバンド本人は、普通の公立学校からオクスフォード大に進んでPPE (哲学・政治学・経済学) で学士、その後LSEの院で経済学で修士を取り、労働党で裏方の仕事(労働党では10代のときトニー・ベンのインターンを経験している)。2003年から04年はサバティカルで米国に渡り、ハーヴァード大で研究活動&レクチャー活動。

このときのことを今回の選挙戦で、エドは最大限有効に利用したと私は思う。誰かが「候補者5人のうち、イラク戦争に反対したのはダイアン・アボットだけだ」と、つまり「どんぐりの背くらべ」だということを述べたときに、「私はそのときは議員ですらなく、英国にいもしなかった。米国のハーヴァード大にいた」と反論した。

今の労働党は、「ベテラン」であることが売りになるかどうかが微妙である。その多くはトニー・ブレアによる「イラク戦争」という誤った信念に基づいた誤った判断のせいだが、イラク戦争だけではなく「テロとの戦い」全体において英国がいかに愚かな方策をとっているかが次々と明るみに出てるし、軍上層部からも政府批判が為される有様だ。党大会数日前には、デイヴィッド・ミリバンドが外務大臣として、情報当局による被疑者拷問を知っていたとの報道もあった(そのずっと前から、外務省は拷問を「黙認」していたと報道されているが)。

これで、デイヴィッド・ミリバンドを選ぶということは「ブレアの労働党」(これは既に「古い労働党」になっている。しかも、良かれ悪しかれ「労働党らしからぬ」ものとして見られている)を選ぶということだ、という方向に意識が行って、「手に血がついていない」ミリバンド弟に党員の支持が集まっ……なんていう単純な話だったら楽なんだけどね。

実際にはそんなに単純な話ではない。

かといって複雑怪奇でもない。

労働党党首選挙は、基本的には「複数の候補者から1人を選ぶ」のではなく、「複数の候補者に順番をつける」方式だ。ロンドン市長選挙などと同じである。Instant runoff voting, もしくはAlternative Votingと呼ばれる。(一方日本のほぼ全ての選挙のように「単に一番得票が多かった人が当選」という原始的な投票方式はFirst-past-the-postと呼ばれる。)

つまり、候補者Aさん、Bさん、Cさん、Dさんの3人がいたとして、有権者Wさんは「最も相応しいのはA候補、次はB候補」と投票し、有権者Xさんは「最も相応しいのはB候補、次はC候補」、有権者Yさんが「最も相応しいのはA候補、次はC候補」、有権者Zさんが「最も相応しいのはD候補、次はB候補」……とした場合、最も得票の少ないD候補が脱落し、次のラウンドでA候補、B候補、C候補の得票を集計し……という方式で、かなり複雑だ。

で、労働党の党首選では、1ラウンドでダイアン・アボットが脱落したときも、2ラウンドでアンディ・バーナムが脱落したときも、3ラウンドでエド・ボールズが脱落したときも、デイヴィッド・ミリバンド(兄)がエド・ミリバンド(弟)に数ポイントの差をつけてリードしていた。BBCがウェブサイトで中継する映像(今回はかなり頻繁なバッファリングで寸断した)でも、兄はまさにポーカーフェイス的「余裕」の表情をしていて、弟は緊張した面持ちをしていた。(といっても弟はいつもああいう深刻そうな顔をしているかもしれない。)

この選挙は接戦過ぎて、誰もが「結果は予測できない」という感じだった。兄と弟のどちらが選ばれるにせよ、僅差になるだろうということは誰もが一致していた。

BBCの中継で労働党党大会の様子を見ながら、私の目に映るTwitterのタイムラインでは、ラウンドが進むにつれ(いずれも兄がリードしていた)、英国のジャーナリストたちが異口同音に「これはひょっとして兄で決まったか……」的なことを書いていた。(そのときには候補者たちには既に結果は知らされていたとのこと。)

しかし最終結果は:



David - 49.35%
Ed - 50.65%

この数字が読み上げられた瞬間、労働党党大会会場は一瞬、「歓声」や「拍手」ではなく、驚きの声に包まれた。「おお」というどよめき。(わたしは「うわー」とtweetしている。笑)

そして一瞬の間をおいて歓声と拍手が起こり、カメラのフラッシュが炊かれ、画面の中でミリバンド兄弟ががしっと抱擁している。こういうときにありがちな「フェアプレイの爽やかな握手」ではなく、ものすごくエモーショナルな光景。

そして登壇したエド・ミリバンドは敗れた候補者それぞれを讃える言葉を述べ(「ダイアン、イラク戦争に反対してあなたの上げた声は、今後も聞かれ続けなければならない」、など)、エド・ボールズは完全に涙目になっていた。アンディ・バーナムも感極まった感じだった。そして兄ミリバンドも。

何年も前から、ゴードン・ブラウンが党首になる前から「次のリーダー」と言われていたミリバンド兄の敗北。

ガーディアンなど大手メディア(ガーディアンもNSも、かなり明確にミリバンド兄寄りのスタンス)では「支持のあつかった兄のまさかの敗北」とか「あまりに僅差なので党内のしこりが」的なことを書いているが、要は党の幹部(特にブレアライト)が(自分たちも加担した「イラク戦争という誤り」の重大性を無視して)ミリバンド兄を推していたというだけの話である。

それが如実に現れているのが、Slugger O'Tooleの「複数候補を選べる投票なのに第一候補しか選ばなかった45人」(マーク・マクレガーさん投稿)。さすが政治ニュース・アディクト(というか専門家なんだけど)は仕事が早いということもあるが、目の付け所が可笑しい。



そうそう、今回の労働党首選挙は、兄弟のどっちが勝っても「英労働党初のジューイッシュの党首」(信仰がどうなのか、というか信仰そのものを持っているのかは私は知らないけど、お母さんがジューイッシュ)だったのだけど、私がかなり広く浅くアンテナを張っていてひっかかる範囲では、そのことを取り立てて書き立てている記述はまったく目にしていない。というか、いまやそんなことを気にしていちいち書いているのはユダヤ人の民族主義者(「われわれはすごい」と言いたい人たち)か、アンティ・セミティズムの人たちくらいだ。



BBCのLive見ながら書いてたもの:

nofrills 英労働党党首選挙結果アナウンス、BBC live始まりました。 http://bbc.in/90slab at 09/26 00:01

nofrills エド・ミリバンドは「手が血で汚れて」*いない*。政界入りは2005年で、イラク戦争開戦時はUSのハーヴァード大にいた。今回、労働党の党首選に立候補した5人のなかでエド・ミリバンド以外の4人は2003年当時議員だったが、イラク戦争に反対したのは党内左派のダイアン・アボットだけ。 at 09/26 00:05

nofrills デイヴィッド・ブランケットってほんとにやな奴だな。 http://bbc.in/90slab at 09/26 00:07

nofrills 2010年09月25日のtweets | http://nofrills.seesaa.net/article/163753869.html at 09/26 00:08

nofrills BBCのキャスターもDavidでごっちゃになって、ゲストのデイヴィッド・ブランケットに対して「デイヴィッド・ミリバンド」と呼びかけるハプニング発生。 http://bbc.in/90slab at 09/26 00:10

nofrills 英労働党党大会会場から大きな拍手が起こるなどしているが、BBCのliveが、音声はゲストのコメント、映像はゲストの顔のアップとかで何が起こっているのかはわからない。 at 09/26 00:12

nofrills 労働党党大会会場、万雷の拍手。BBC映像がゲストの顔のアップから壇上に切り替わる。ゴードン・ブラウン登壇。 http://bbc.in/90slab at 09/26 00:19

nofrills 久しぶりにゴードン・ブラウンのスピーチ。言葉を「自分のもの」として口にするという常識とスキルは、日本の政治家には望めないくらいの洗練具合。選挙に「負けた」党首でも。 at 09/26 00:22

nofrills ゴードン・ブラウン、労働党の先人たち(ジョン・スミス、ニール・キノック…)を讃えるくだりでトニー・ブレアを讃えるために「北アイルランド和平を打ち立てた」と。master of sarcasmだと私は解釈する。 at 09/26 00:25

nofrills 今日のゴードン・ブラウンのスピーチは素晴らしい。 at 09/26 00:30

nofrills トニー・ブレアに回想録で「あいつじゃだめだと思ってた」とか言われても、ブレアを立て、党の一体感を盛り上げるブラウン。今後、党の「重鎮」としてふるまうための説得力は満載だ。 at 09/26 00:32

nofrills 英国の労働党党大会、そろそろ、次の党首がアナウンスされます。 http://bbc.in/90slab at 09/26 00:34

nofrills 労働党党大会、ハリエット・ハーマンが演壇に立っている。 http://bbc.in/90slab 内容は基本的に保守党へのdisで、特に面白くない。 at 09/26 00:37

nofrills ハリエット曰く、「レイバーズ・レガシー、トニーズ・レガシー、ゴードンズ・レガシー、あんどユア・レガシー・トゥー」ってなんでアルファベットで打ってないんだ、俺www at 09/26 00:38

nofrills Yawn... 日本でのこの時間帯にこの内容のスピーチはつらい。 at 09/26 00:39

nofrills やっとハリエットの眠いスピーチが終わって、労働党党首候補者紹介。アンディ・バーナム、エド・ミリバンド、ダイアン・アボット、エド・ボールズ、デイヴィッド・ミリバンドの5人。 at 09/26 00:43

nofrills うー、表情が。。。 at 09/26 00:43

nofrills 英労働党、新党首選挙結果アナウンス始まっています。 http://bbc.in/90slab BBCが党大会会場から中継。 at 09/26 00:46

nofrills 英労働党党首選挙、1st roundで過半数を取った候補がおらず、ダイアン・アボットが脱落。 at 09/26 00:47

nofrills アンディ・バーナムって50年代の歌手みたいな顔だな、と毎度毎度思う。 at 09/26 00:49

nofrills 何でここでバッファリング! at 09/26 00:49

nofrills うわー at 09/26 00:51

nofrills Ed Milliband! at 09/26 00:51

nofrills Bloody hell, ignore my silly spelling mistake. It's Ed Miliband. at 09/26 00:52

nofrills 敗れた候補たちを讃える言葉。エド・ボールズは涙目。 at 09/26 00:55

nofrills ダイアン・アボットに対するエド・ミリバンドの言葉がすばらしい。「あなたが上げた声は今後も聞かれ続けなければならない」。 at 09/26 00:56

nofrills The moment that Ed Miliband stepped up as Labour party leader. 結果がアナウンスされ登壇したエド・ミリバンド。http://bbc.in/90slab http://twitpic.com/2rvehy at 09/26 00:59

nofrills トニー・ブレアの労働党を「過去のもの」とするエド・ミリバンドの言葉。イラク戦争で労働党が信頼を失ったことに言及。"I know we have to change." at 09/26 01:00

nofrills トニー・ブレアの亡霊を振り払って、ラスキの精神をよみがえらせてほしい。 at 09/26 01:04

nofrills BBCの実況がニック・ロビンソンのうるさいコメントだけになったので切断。中身がないわりに言葉数が多くて、本当にうるさい。 at 09/26 01:07

nofrills 1969年12月生まれのエド・ミリバンドは、「若い首相」であるデイヴィッド・キャメロン(保守党、1966年10月生まれ)より若いし、ニック・クレッグ(LibDems, 1967年1月生まれ)より若い。 at 09/26 01:08

nofrills 今日のtwitpicの重さは何なの… at 09/26 01:29

nofrills 労働党党首選挙、ミリバンド兄弟はエド(弟)が50.65%, デイヴィッド(兄)が49.35%。テロップが出ているBBCの中継画面 (via http://bbc.in/90slab ) http://twitpic.com/2rvq29 at 09/26 01:31

nofrills 労働党党首選挙、僅差で選出された弟エドワードのスピーチを聞く兄デイヴィッド(元外相)。 (via http://bbc.in/90slab ) http://twitpic.com/2rvrnr at 09/26 01:36

nofrills 選挙となるとものすごく要領の良いスラオさんに得票詳細がアップされています。 http://bit.ly/bvJTXY 1st roundではDavid, 2nd roundでもDavidだったので、私もドキドキしながら実況中継見てました。 at 09/26 01:38

nofrills 2人合わせてDedward!! RT @yunod: いかん、いまだにどっちがEdでどっちがDavidだったか覚えられない(汗)。 #LabourLeader at 09/26 01:45

nofrills 労働党党首にエド・ミリバンド | http://nofrills.seesaa.net/article/163760590.html at 09/26 01:56

nofrills バナナ食ってるのがDavid RT @yunod: 年が若い方がEd、外相だった方がDavid、Gordonにかわいがられてた方がEd、Blairの懐刀だった方がDavid、某サル友に顔が似てる方がEd、早くから頭角を現してた方がDavidでOK? at 09/26 01:58

nofrills あ、途中で送信しちゃいました。Edが若くて、Davidはブレアライトだったというのはその通りです。「某サル友」はわかりませんが、Edはサルサ踊ったらはまりそうな顔です。Davidはワルツ。 @yunod at 09/26 02:00

nofrills David Miliband(兄のほう)バナナ伝説: http://bbc.in/bfVxIt ある日報道陣のカメラの前に唐突にバナナを持って現れたので、保守系メディア(メイル、タイムズなど)でさんざんネタにされた。 at 09/26 02:03

※この記事は

2010年09月26日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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