北アイルランドという区域のだいたい真ん中へん、でかい湖(ネイ湖)の真っ直ぐ西にあるティローン州のクックスタウンという町だ。人口は1万人強、2001年のセンサスによると、カトリックとプロテスタントの割合は大体半々だが、カトリックの方が多い(52.8%)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Cookstown
そんな町で標的となったのは、警察(RUCの時代の)を退職し、現在は民間の警備会社に籍を置いて警察署(PSNI)の警備の仕事をしている男性。(北アイルランドでは治安当局がカトリックの民間人に対しひどい暴力を行使したという「紛争」の時代の事実があるため、「国家権力」の武装についてはやや変則的な決まりごとがある。)出勤途中に車から何かが落ちたと思ったら、爆発物だったという、まさにガクブルの経験をした。爆発物は部分的に爆発したが、男性に怪我はなく、自分の足で歩いて車を離れ、警察に連絡を入れたという。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-northern-ireland-10924709
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/northern-ireland/boobytrap-bomb-falls-off-psni-workers-car-14903648.html
男性の車から爆発物が剥がれ落ちたのはSweep Roadという通りだ。Google Mapで見るとこれはこの町を東西に走る大きな通りで、住宅街というよりは郊外型大型店舗があったりするような環境。ただし、もちろん人の家もあるし、BBCのレポートでも言っているが、幼稚園のような子供の教育施設もある。
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※この位置で左側がマクドナルド(ファストフード)、その向こう、黄緑色の看板がちらっと見えているのがASDA(スーパーマーケット)。道路わきのポールに翻っているのは、くしゃっとなっているので確認しづらいけれど、ほぼ間違いなくアルスター旗(ユニオニストの掲げる旗)。マクドナルドの向かい側には車の販売店があり、その向こうのほうにはタイヤの店がある。
というわけで、男性の車に仕掛けられていた爆発物を処理する間、近隣の施設や住宅からは人々が退避させられ、道路は通行止めになり……というのがまたもや発生したのだが、これが北アイルランドのどこかで発生している状態がこんなに何日も続くと、「いつまで続くのだろう」という気持ちになり、悲観論が出てくる。ベルファスト・テレグラフの記事のコメント欄などを見ると、ここしばらくは、「あの連中はいつまでやってんだ」という怒りの声ではなく、「死人が出ないと止まらないんじゃないか」という悲観論が目立つ。
そんな中、PSNIのトップもこんなだ。
http://www.guardian.co.uk/uk/2010/aug/09/northern-ireland-police-chief-warning
"These are the same people or the same mindset that ultimately led to the Omagh tragedy all those years ago," the head of the Police Service of Northern Ireland said during a visit to Derry, in which he met traders and residents caught up in last week's bomb attack on Strand Road PSNI station. "They offer no solution to the future except going back to the past. They are absolutely reckless."
この人、しばらく前に「北アイルランドで暴れている連中は、ロンドンのブリクストンで暴れている連中と基本的には同じ」とか発言して、(^^;) という反応を爆釣していたのだが(ギャングの抗争と政治的主義主張があるとされている北アイルランド紛争を一緒にすな、という意味で)、北アイルランドにはオマー爆弾事件のようなことが起こされる可能性がまだあるということをようやく認識したらしい。でもこういう言い方は、人々の不安と悲観論を煽るだけだと思うけど。
(NIで暴れている連中は、若いのの一部は「他にすることねーし、けーさつ嫌いだし」型の「レクリエーショナル・ライオット」かもしれないが、その背景は「差別されている俺たち」という「NI紛争」のマインドセットだ。カトリックのエリアはもはや「ゲットー」ではないのに、まだそうだと思いたがるマインドセットがあって、「ゲットー」でなくする活動をしようという方向の力がなかなか作用しない。)
そんなときに、政治系ジャーナリストがこんなことを書いてて、ますます悲観的に……。
「現実にどういうことが起きているかを思えば、ディシデント・リパブリカンについて『(少数の)残党』と片付けるなどということは、愚行だと思われるようになりつつある」。
「残党 rump」という表現に含意されているのが、規模(人数)なのか、能力(どの程度のことができるか)なのか、あるいは思想面のことなのか(いつまでも古いことを、的な)は前後のtweetを読んでもわからないのだけれど、ひとつ言えることは、確かに今月のこの立て続けのボムのあとは、警察やマスコミ、ジャーナリストの発言も含めて、全体的なムードが変わってきているということだ。繰り返しになるが、前は「いつまでやってるんだ」という怒りの声が多かった。今は多いのは「いつまで続くのかなあ」、「誰か死ぬまで続くんじゃないのかなあ」という不安の声である。
彼らの「テロリズム」は、一般の人々の日常生活の中で、いつどこで誰がボムられるかわからないというリアルな恐怖を固定化させる。それをどうすればいいのか、誰もはっきりとは知らない。ただ「軍事的手段で連中を殲滅すればよい」という考えはまったくの間違いであるということは広く共有されている。
「ディシデント・リパブリカン(非主流派リパブリカン)」は――彼らが本当にdissidentsなのかどうかは別途検討が必要な段階なのかもしれないが――、現在3つの集団・組織の活動が確認されている。Real IRA, Continuity IRA, Oghlaigh na hEireannだ。RIRAは1998年のグッドフライデー合意でProvisional IRAから分派し、CIRAは80年代にアイルランド共和国での議会欠席主義の放棄をめぐってSinn FeinからRepublican Sinn Feinが分離したときに一緒に分派した。ONHは、歴代IRAの正式名称としての自称でもあるのだが(あと、アイルランド共和国の正規軍のアイルランド語名でもある)、これは(たしか)RIRAからまた分派した人々が集まって新たに結成された別組織。
彼らとは別系統(分裂の根が1970年に遡る)で、最近まで(一応)武装組織として活動していたINLAは、この2月に武器放棄が確認された。
※この記事は
2010年08月11日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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