今日、その葬儀がベルファストで行われている。大勢の人々が街頭に出て、「ハリケーン」の異名をとった「ベルファストのレジェンド」を見送った。
Slugger O'Tooleの写真コーナー担当としてもおなじみ、ベルファストのフォトグラファーの Moochin Photomanさん(ジョンさん)が教会のところで撮影した写真をアップしている。(クオリティが本当に高い。)
http://www.flickr.com/photos/23386031@N00/tags/alexhigginsfuneral/
Moochin Photomanさんの写真の1枚に写っている "The People's Champion" と書かれた献花(フラワー・トリビュート)は、ガーディアンの写真集の1枚目にもなっている。
http://www.guardian.co.uk/uk/gallery/2010/aug/02/alex-higgins-funeral-snooker
ベルファスト・テレグラフの特集ページ:
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/alex-higgins/
90年代初頭にロンドンにいたときに、それまで知らなくて驚いたことのひとつに、英国でのスヌーカー人気がある。こちらとしては、ビリヤードといえばバブル期の「デキる男」の自慢のひとつ(当時は自分のキューを持ってることが自慢のタネだった)、みたいな感じで、ふーん……という程度にしか受け取っていなかったのだが、ロンドンに行ってみたら深夜のテレビで試合が延々と放送されているし(日本ではプロレスが放送されていたような時間帯だったが)、同じフラットにいた大卒無職はスヌーカーを熱く語るし(「頭を使うスポーツ」は、少年時代に身体を使うスポーツが苦手でバカにされていた彼にとっては輝いて見えた、などの背景がある)、ビリヤード(プール)であれダーツであれ、「今これが流行ってるんでしょ?」的なものとして雑誌に特集され、ひたすら消費されるばかりの場所にいたら全然見えない文脈もあるんだ、ということに気づかされた。
そんなふうな、全然「バブリー」とか「トレンディ」とかいった要素がない、深夜に目が冴えて困っている人がテレビで見ているような「スポーツ」の、当時の絶対的なスターがスティーヴン・ヘンドリィで、その1世代前の名選手、「レジェンド」が、アレックス・「ハリケーン」・ヒギンズだった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Alex_Higgins
ヘンドリィが何か記録を打ち立てたときの新聞かテレビの特集を見ながらだったと思うが、同じフラットの大卒無職が「ヘンドリィは常識で理解できる偉大なプレイヤー(レジェンド)だが、ひとつ前の世代の『レジェンド』は狂ってる」とかいってた。それがヒギンズだ。
往年のスーパースターも近年は健康状態も悪くなり、経済的にもひどいありさまで、生活保護を受けて暮らしていたフラットで息を引き取っているのを発見されたらしい。癌で長く闘病していたが、死因はそれとは直接の関係はないようだ。長年の友人で同じくスヌーカー・プレイヤーのジミー・ホワイトは、癌の治療のあとで歯を失ってしまい、食べることを拒むようになっていたと語っている。
で、訃報で私は初めて知ったのだが、アレックス・ヒギンズはベルファストの人だった。
Slugger O'Tooleでも複数の書き手がヒギンズについて書いているし、ベルファスト・テレグラフは、もちろん、彼の死を大きく報じている。

その行動のすごさから「ハリケーン」と呼ばれたアレックス・ヒギンズは、ベルファストのサンディ・ロー (Sandy Row) のエリアの人だった。
サンディ・ローというのは、歩道の縁石がレッド・ホワイト&ブルーでペイントされ、壁には(プロテスタントの歴史的偉人とか、プロテスタントの武装組織のほかに)英国の女王の肖像画が描かれているような、非常に濃いロイヤリストの地域である。位置的にはシャンキル・ロード(ロイヤリスト)からフォールズ・ロード(リパブリカン)を経て次の地域という感じ。
大きな地図で見る
↑レッド・ホワイト&ブルーでしょ。ちなみにこれはフランスのトリコロールじゃないし、アメリカとも関係ない。ユニオンジャックの色です。
そんな地域の人であるヒギンズについて、デリーのナショナリストでソーシャリストのエイモン・マッカンがこんなことを言っていると、SWPのマーク・スティールのTweetが教えてくれた。
Eamonn McCann wrote of Alex Higgins that he was 1 of 3 people ever who could walk up the Falls Rd and down the Shankill Rd in perfect safety
http://twitter.com/mrmarksteel/status/19453230408
「エイモン・マッカンは、アレックス・ヒギンズについて、彼は(リパブリカンの)フォールズ・ロードを歩いて、(ロイヤリストの)シャンキル・ロードを歩いていっても、まったく安全である、という3人のうちの1人だ、と書いている」。(マッカンはこの文章とは別に「ダメなところのあったヒーロー」への追悼文を書いており、これが本当にすばらしい。)
ほかの2人は誰なのかという興味はおいておいて(1人はジョージ・ベストだろうし、あとはヴァン・モリソンか→この推測で合ってるらしい)、これはロイヤリストからもリパブリカンからもレスペクトされていた(誰も彼のことを襲おうとはしない)という意味だ。
セクタリアニズムとは関係なく、本当に「腕」の人だったのだろう。北アイルランドという狭い土地でのセクタリアニズムの関係ない場所で、北アイルランド人(1970年ごろの証言で、軍の作戦でNIに来た英国人がプロテスタントもカトリックも区別せず「パディ」と呼んでひどいふるまいをしていたことが描写されているものがあるが、当時は北アイルランドの人は本当に理不尽な「差別」の対象だった)に何ができるか、ということを示した「ヒーロー」だったのだろう。
エイモン・マッカンの文章から。(ちなみにマッカンはデリーの「カトリック」で、公民権運動の中心人物、ブラッディ・サンデージケン真相解明運動のヒーローで、反戦活動のスターである。)
http://www.socialistworker.co.uk/art.php?id=21974
I saw him in a late-night shop on Great Victoria Street in Belfast about a year ago. He was in the queue to buy cigarettes, pasty-faced, shambling, nobody taking him on.
I watched him lean forward across the counter, holding out his palm with the coins for the fellow serving him to count out the price.
Then he turned and walked past me to the door. There was sadness etched into a face composed into a determined semblance of stoicism.
Not knowing what to say, I called after him, "Good on you, Alex." He half-turned, and smiled like sunshine had just been splashed on his face.
1年ほど前、ベルファストのグレイト・ヴィクトリア・ストリートの深夜営業の店で彼を見かけた。列に並んで、タバコを買おうとしていた。顔色は悪く、足元はよろついていて、誰からも話しかけられていなかった。
彼がカウンターの向こうに身を乗り出し、硬貨を載せた手を突き出すのを私は見ていた。店員が計算して手のひらの上の硬貨を取っていた。
そして彼は向きを変え、私の横を通り過ぎ、ドアへと向かった。もはやストイックとさえ言えそうな具合に作られた顔には、悲しみが刻み込まれていた。
何といったらよいのかわからず、私は後ろから声をかけた。「いい感じだな、アレックス」。彼は半分こちらを向き、まるで太陽の光がその顔に降り注いだとでもいうような様子で、微笑んだ。
※本稿は7月26日に書いた下書きと、今(8月2日)に書いた部分を編集したものである。
※この記事は
2010年08月02日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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