米国では3月17日の前の週末に行事をおこなうが、「本場」のアイルランド島ではこれは「(国の基礎を築いた)建国記念日」みたいなものだから、何曜日であろうが、絶対に3月17日にお祝いをする。「冬が終わった」という風物詩でもある。
ただ今年は、アイルランドの冬がむちゃくちゃ厳しく、ドカ雪が降ったりした影響で、3月17日に重要な例のアレが足らないらしい。ハフィントン・ポストでは次のように面白可笑しな見出しを立ててそのことを報じている。
Ireland Shamrock Shortage SEVERE, Causes St. Patrick's Day 2010 Celebration Concerns
http://www.huffingtonpost.com/2010/03/16/ireland-shamrock-shortage_n_501045.html
Botanist Dr. Declan Doogue of the Royal Irish Academy told IrishCentral that the shamrock was "hit hard" by severe winter weather and it "won't be easily found" in Ireland. That means less green for this year's St. Patrick's Day.
それから、Huff Po記事からリンクされているNewsdayの記事(非登録だと冒頭だけ閲覧できる)にもあるのだが、北米で「シャムロック」と呼ばれている草と、アイルランド島(およびブリテン島)で「シャムロック」と呼ばれている草とは別のもの。植生が違うだろうから当然といえば当然だ。基本的に、3枚の葉がああいう形(クローバーの形)でくっついていれば「シャムロック」らしい。元々のいわれが、聖パトリックがキリスト教を広めたときに、「三位一体」を説明するためにそのへんの草の葉を使った、ということだから、別に種を特定するところまでこだわらなくてもよいのだろう。
(という事情だから、Huff Poの記事に添付されている写真が「四葉のクローバー」なのはおかしい。)
なお、アイルランドで「シャムロック」として最も広く認識されている草がTrifolium dubiumだそうで、Trifoliumは(たぶん)「3枚の (tri-) 葉 (folium)」の意味だ。
さて、このお祭り騒ぎ、元々はアイルランドからの移民が多かった北米のほうが派手だったそうだが(アイリッシュの人たちが遠く離れた「故国」を懐かしみ、ナショナリズムを昂揚させる祭り)、アイルランドでは1903年にパブリック・ホリデーとなった(当時、アイルランドは島丸ごと連合王国の一部で、アイルランド人の国会議員が英国会に法案を提出して通した、というのだが、この時代ってHome Ruleで英国会がすごいことになってた時代よね)。
しかしここで酔っ払い続出でいかんともしがたいという事態が発生し(20世紀はじめだと、人々がざぶざぶと飲んでいたのは「ギネス」などのビールではなく、ウイスキーだろう。過去記事参照→ギネスの200周年にあわせて、1956年に行なわれた調査では、19世紀末になってもかなり珍しい飲み物として扱われていた地域が多かったことを示している。……略……「私が話をした年嵩の男性は全員……わしらの若いころにはポーターなどというしゃれたもんはなかったといい、彼らのお父さんの世代はひたすらウイスキーを飲んでいたそうです」)、3月17日をホリデーにする法案を出した議員は、今度は「3月17日はパブ営業禁止」という法案を出すはめに。結果これが法律となり、1970年代に廃止されるまでは、3月17日はパブなしだったらしい。
……なんてことが書かれているウィキペディア英語版をつらつらと眺めていると、アイルランド共和国政府が3月17日のお祭り騒ぎの先頭に立つようになったのはつい最近のこと(1990年代)だとかいった、「イメージ」とか「思い込み」を修正してくれるような知識も得られる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Saint_Patrick%27s_Day
で、この時期、アイルランド系の人に "Happy St. Patrick's Day!" なんてメッセージを送ったりするかもしれないけど、それっぽい音楽をYouTubeで探してURLをつける……という場合には、「IRAのレベル・ソング rebel song」を外すように気を使ってください(ただし相手がレベル・ソングでも問題ない場合もあるかもしれないけど)。レベル・ソングも音ではいわゆる「アイリッシュ・トラッド」にしか聞こえないことが多いので、歌詞を確認することが必須です。例えばThe Dublinersが演奏している "Off to Dublin in the Green" (緑の服を着てダブリンに行こう) は、「3月17日はダブリンでお祭り騒ぎをしよう」などという歌ではなく、「おいらは農民、畑仕事しか能がねぇ」という男がダブリンに行ってIRAで戦うぞという歌。(この曲は、Irish Republican Songsの一覧にも入っていないが、レベル・ソングのCD複数に収録されていることは確認済み。)
そういえば先日、デリーだったかな、オレンジマン(プロテスタント強硬派)が集まってる横を車で通り過ぎながらリパブリカンのお歌をがんがん流していた男に罰金刑、というニュースがあった。(お茶ふいた。)
※この記事は
2010年03月17日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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