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この半年間、北アイルランドで「非主流派リパブリカン dissident republicans」の活動が「活発化している」としか判断しようのない感じになっていますが、日本の外務省の「海外安全ホームページ」に注意喚起が出ています。

海外安全ホームページ via kwout
このページでは、昨年9月のForkhillのカーボム(爆発せず)、10月の東ベルファストでの仕掛け爆弾(警官を狙ったもので、車を運転していた標的のパートナーが軽傷)、同じく10月のベルファストのTA兵舎への爆発物攻撃、11月のPolice Boardへのカーボム(完全には爆発せず)、今年1月のアントリムでの仕掛け爆弾(警官を狙ったもので、標的の警官が片脚切断の大怪我。最近やっと集中治療室から出られたそうですが……)、2月のベルファストの警察署へのパイプボム攻撃、同じく2月のKeadyでのMortar bomb発見、そして2月22日のNewryでのカーボムと、8件の事件が列挙されている。(デリーでの射殺事件は、この注意喚起が書かれたあとに発生していると思われる。)
それぞれ、このブログで詳しく書いているので、確認の必要がおありの方は過去ログをあさってください。
で、こんなことが書いてあるんですが:
1.北アイルランドでは、ベルファストを中心に各地でIRA(アイルランド共和国軍【原文ママ:1922年以降のIRAについては、本来、「共和軍」とすべき】)分派によるとみられる爆弾テロ事件やテロ未遂事件が発生しています。
……
2. つきましては、北アイルランドに渡航・滞在を予定されている方は、テロ事件や不測の事態に巻き込まれることのないよう、最新の関連情報の入手に努め、テロの標的となる可能性のある警察署、裁判所、軍の施設や官公庁には必要がない限り近づかず、訪問する際は、できる限り短時間に止めてください。……
ええと、まず、注意が必要なのはベルファストよりむしろアーマー州とデリー市。(ベルファストは、上記のような派手な事件の件数で見れば多いかもしれないけれども、実際に不穏な話が多いのはデリーとサウスアーマー。)
それと、「テロ事件や不測の事態に巻き込まれることのないよう、最新の関連情報の入手に努め」っていってもそれがけっこう難しい。英語が読めることが前提ですが、とりあえずベルファスト・テレグラフとデリー・ジャーナル(またはロンドンデリー・センティネル)とBBC Northern Irelandくらいはチェックしておくこと、それからTwitterでEamonn Mallieら北アイルランドのジャーナリストをフォローしておくことが、現状「鉄板」と言えるのではと思います。
テレビ、ラジオなど音声での情報収集は、北アイルランドについてはかなりハードルが高いのではないかと思いますが、BBC NIのラジオ、UTVなど日本からアクセス可能な地域のニュースソースはあります。
http://www.bbc.co.uk/northernireland/radio/
http://www.u.tv/
デリー(ロンドンデリー)方面については、BBCではFoyleとしてベルファストなどとは別に扱っています。
で、「非主流派リパブリカン」というのは、INLAが武装解除した現在ではReal IRAとContinuity IRA、およびその分派(ONHなど)や別名組織、およびそれぞれの政治部門(RIRAについては32 CSM, CIRAについてはRSF、など)がありますが、それぞれの区別を厳密につけることにはあまり意味がないようです(まったく意味がないわけではないにせよ)。ただし重要なのは、彼らは「北アイルランド紛争」(1968年から1998年まで)で「IRA」として知られていたProvisional IRAとは別の組織である、ということ。PIRAは既に武装解除していて武装組織としての実体を失っています。PIRAは政治的にはシン・フェイン(党首ジェリー・アダムズ)ですが、「非主流派リパブリカン」は彼らシン・フェインの方針・方向性に反対して離脱した勢力で、シン・フェインのコントロール下にない。逆に、シン・フェインの幹部に対し「殺す」という脅迫をしている常態。
これをしっかり把握していないと、「最新の関連情報の入手に努め」ても読み誤るかもしれないので、注意してください。
で、「非主流派リパブリカン」が目に見えて活動を活発化させた昨年3月(RIRAが英軍基地を襲い、英兵2人を射殺、ピザ配達人2人を負傷させ、CIRAが騒ぎの現場に駆けつけた警官を射殺した)、「主流派」のリパブリカンであるシン・フェインは「非主流派への支持はほとんどない。無視できるほど小さな勢力である。そのような極少勢力に事態を左右させてはならない、脅しに屈してはならない」というようなことを言っていたのだけど、それはプロパガンダと思っておいたほうがいい。人数的には小規模でも、無視できるほど小さいとは限らない。
そういうことは、シン・フェインとは別の流れで非武装で活動してきたナショナリストの活動家であるエイモン・マッカン(個人的にはすごいレスペクトしてるけど、メインストリームではないわね……)が、既に昨年3月の段階で指摘していたのだけれども、現在、ついにアイルランド共和国の司法大臣が次のようなことを述べている状態だ。
Last Updated: Sunday, February 28, 2010, 16:22
Ahern warns of dissident threat
http://www.irishtimes.com/newspaper/breaking/2010/0228/breaking22.html
Minister for Justice Dermot Ahern today said the threat from dissident republicans is as great as it was during the Troubles.
Speaking on RTÉ Radio this afternoon, Mr Ahern said the groups were trying to escalate events in the North.
"I don't think it's so much that their support is growing. The information we have is that while it used to be that these groups, particularly the Real IRA and Continuity IRA, were separate groups there seems to be an effort in recent months to bring them closer together; there seems to be cross-fertlisation," he said.
"It is a more worrying trend, because clearly their capability is growing."
Mr Ahern said there had been 13 major events since last September.
タグ:北アイルランド
※この記事は
2010年03月01日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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