かつてのDUPのイアン・ペイズリーの "Never, never, never" の演説を知っていて、今のDUPのピーター・ロビンソンの記者会見(彼は何度も、「過去のような状態に戻ることはない」と語る)を見れば、その「感慨」を感じていただけるものと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=acnIyzNFDdg
※ピーター・ロビンソンの英語は北アイルランド訛りというよりスコットランド訛りで、それもかなり聞き取りやすいアクセントです。
ロビンソンは基本的に「原稿を読んでいる」のだけれど(宗教家のイアン・ペイズリーのすごみはこの人にはない)、アイリス騒動で痩せてしまったところにものすごい議論の日々でやつれて、元々のポーカーフェイスぶりが薄れて表情が出るようになったのかもしれないが、非常に「人間」っぽさが感じられる。特に3:30くらいから「今回の議論においては、結論を急がなかった」と述べるところで、一瞬目がキラリと輝くあたりが。
3:40〜3:50で "I'm grateful for the role that the (British) prime minister and SoS have played in recent weeks, and I'm also grateful for the Taoiseach and the Irish foreign minister have played." と述べたロビンソンは、3:51で画面の左に顔を向け、ゴードン・ブラウン英首相に語りかける。
Gordon, I know that you are looking forward to the London Olympics in 2012.
ゴードン、2012年のロンドン五輪を楽しみにしておられることかと思いますが。
ここで画面の左の方からブラウン首相の相槌が聞こえる。
スピーチの最中でいきなりこういうふうに方向を変えてくるときは「来る」と思っていたほうがいいのだが、案の定……
If we can agree that 'negotiating' would be included as one of the sports, ...
もしもですね、「交渉」を五輪のスポーツ種目として入れるということで話がまとまれば……
ここでロビンソンは相当ニヤニヤしているのだが、カメラが引いて、ブラウン首相が「来る」と思ってにやにやしている表情が画面に。記者会見の記者席からも笑いが漏れる。
we will enter a team, we will lift the gold medal ...
我々が出場しますよね、それで金メダルを獲得する。……
部屋の中のくすくす笑いがどんどん盛り上がる。ブラウンもなんかくねくねして笑ってるし、ロビンソンのニヤニヤが止まらない。私もここでお茶ふいて、「エクストリーム交渉」とかって言って膝を叩く。そして、ロビンソンの身体言語が「まだ先がある」と言うことを物語り、わくわくしながら先を見ると:
... and then we'll enter into negotiations about what flag and national anthem we use.
椅子から落ちた。
「……それから、ではわがチームはどのような旗とどのような国歌を使うかという点についての交渉に取り掛かるわけです」。
カメラが引いて、ロビンソンの右側にいるマクギネスが破顔一笑しているところが映る。右端のアイルランドのカウエン首相もにやにやしている。
記者も爆笑。
ロビンソンは前の晩にこのジョークを思いついたとき、どんな顔をしていたのだろう。
こういう「自虐」の笑いがあのDUPから出てくるということは、北アイルランドは変わった、ということを何よりも雄弁に物語る。
私はシン・フェインはウソばっかりと思っているけれども、それでもジェリー・アダムズらの「強気」と「粘り」がなければ、DUPのこの変化を可能にする状況の変化というのはなかっただろう、と思っている。
ところでロビンソンのいう「我々」は「英国」だよね。サッカーなら「北アイルランド」だけど。その点でこのジョークもまた、「政治的」というか「セクタリアン」なものではある。
でもあの10日間の「ゴド待ち」は、単にそれだけでもすごいものだったと思う。まったくメドが立たずに10日とかいうのはザラにあるかもしれないが(クルディスタンとかパレスチナとか)、一度近づいてまた膠着、というのが繰り返されるのは……。
なお、この日のジョークはマーティン・マクギネスのも面白かった。前の日にピーター・ロビンソンに、「明日はあなたが緑、私がオレンジのネクタイにしましょう」と提案したのだそうだ。さすがにそれはやりすぎだっていうことで「ハハハ」で終わるのが当然なのだけど、当日案の定中立的な色(えんじとか紺とか)でやんの、あのチキン野郎、と言ってる自分も中立的な色……というひねりの利いた自虐。
やっぱり笑いは自分のことをネタに笑う、それが基本。
で、実は私は10日間もあの退屈な「ゴド待ち」をフォローしていたのに、肝心の最終日のその瞬間はモニタの前にいなかったので、上記のおもしろい場面をリアルタイムでは見逃した。くやしいです。
そしてこの「お祝いムード」もおさまった8日、9日あたりは、「エクストリーム交渉」の第二段階、つまり「どのような旗を使い、どのような国歌を使うか」みたいな話をする段階が始まりつつ、同時にINLA, OIRA, UDA East Antrimの武装解除が確認された。UDAでは(ただの犯罪ギャングなのではないかという気がしてならない)シュクリ兄弟の派閥も武器を差し出しているそうだ。(1年以上前、シュクリ兄がオーバードーズで急死したときにすでに一部武器を提出しているらしい。)
そのへんの話ははてブに。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/20100209
※この記事は
2010年02月09日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【todays news from uk/northern irelandの最新記事】
- 【訃報】ボビー・ストーリー
- 【訃報】シェイマス・マロン
- 北アイルランド自治議会・政府(ストーモント)、3年ぶりに再起動
- 北アイルランド紛争の死者が1人、増えた。(デリーの暴動でジャーナリスト死亡)
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (2): ブラディ..
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (1): ディシデ..
- 「国家テロ」の真相に光は当てられるのか――パット・フィヌケン殺害事件に関し、英最..
- 北アイルランド、デリーで自動車爆弾が爆発した。The New IRAと見られる。..
- 「そしてわたしは何も言わなかった。この人にどう反応したらよいのかわからなかったか..
- 「新しくなったアイルランドへようこそ」(教皇のアイルランド訪問)