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【追記】
下の方にも書いてありますが、このスキャンダルの本丸は色恋沙汰では全然なくて政治的なことです。(直接的にはピーター・ロビンソンの政治生命が終わることになるだろうし、NI自治というレベルでみたときにその帰結がどうなるかは本当にわかりません。紛争に戻るという可能性が現実的にはないのが救い。)このスキャンダルを艶笑譚として扱って茶飲み話にするには下記の共同の記事だけでもいいかもしれませんが(それも実はよくないんだけど……ロビンソン夫妻はエヴァンジェリカル・クリスチャンという文脈があるので)、北アイルランドについて何か考えたい場合は必ず、英語の記事を読んでください。記事のクリップはしてあるのでよろしければご参照ください。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/20100109
お茶ふいて笑いすぎて頭がくらくらします。共同通信にこんな記事が……。
「北アイルランド」のニュースとして、誰がこんなの予期してるかっていうと、多分誰もいないと思います。
なお、共同では北アイルランドについては、UDAの武装解除のことはごく短いながら一応記事になっているのだけれど、非主流派リパブリカンが警官を標的として車に爆発物を仕掛けた事件のことは記事にしてないみたい。つまり、「首相夫人火遊び」(ミセス・ロビンソンの誘惑)>>>>>「爆弾テロ」。
ただ、確かに英メディアでもそういう傾向だったのだけど、英メディアではアイリス・ロビンソンについての報道が少し時間をかけつつリアルタイムで展開していて(BBCの夜の時事番組でいろいろと明らかにされたのだが、その前に情報が小出しにされていた)、ドラマさながらの伏線が張られていたので(政界引退宣言、鬱病と自殺未遂の告白など)、何日間か、まさに「今日のミセス・ロビンソン」としか言いようのない状態が続いていた。そのドラマのクライマックスで突然「警官爆殺未遂」という事件が起きても、少なくとも今の時点では死者が出たわけではないので「ミセス・ロビンソン」>>>>>「警官爆殺未遂」という重み付けになったのだろうと思います。でも日本で警官爆殺未遂を完全にスルーして、「首相夫人火遊び」だけ取り上げられているのを見ると、ふくお茶がなくなるくらいにお茶ふき。かんべんしてよ、もう。(笑)
なお、何があったのか、最もわかりやすいのが、BBCの執念で淡々とまとめられた年表。BBCじゃなくてどこかの新聞の記事で「私のようなseasoned Iris-watcher(年季の入ったアイリス・ウォッチャー)にとっては」という記述を見たのだけど、この年表もそういう、年季の入った人の仕事だと思う。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/8448839.stm
これを多少読み物っぽくしたのがガーディアンの下記記事。ハーレクインとワイドショーもしくは80年代アメリカの連ドラが合わさったようなものがたっぷり塗られた普通の政治ニュースという感じで、変な読後感。
http://www.guardian.co.uk/politics/2010/jan/08/iris-robinson-kirk-mccambley-belfast
地元のベルファスト・テレグラフも記事がいろいろあるのだけど、それぞれの記事が詳しすぎて長すぎる。興味のある方ははてブのほうからたどってください。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/
で、この醜聞がこれだけ重大事として扱われているのは、59歳のミセス・ロビンソンが19歳の子供を誘惑したという色恋沙汰ゆえではない、ということを、ミック・フィールティ(Slugger O'Tooleの中の人)が一生懸命に説明している記事が下記。
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/northernireland/6952700/The-Robinsons-are-Northern-Irelands-first-home-grown-political-scandal.html
共同通信の記事も、「首相夫人の火遊びを掘っていったら資金疑惑が出てきた」という流れでまとめられているけれども、実際には逆で、BBCの調査報道が資金のことを追っていったら19歳(当時)の愛人が出てきてしまった、という流れ。
で、BBCの年表にも他の記事にも書かれているけれど、アイリス・ロビンソンはガチの保守、福音主義のクリスチャン(キリスト教原理主義)の支持で成り立っているDUPという政党の党首の妻であり、その政党に所属する議員(英国下院、北アイルランド自治政府、地方議会)で、自身も人間社会は神のためによき社会であらねばならないというような考え方で、「同性愛は唾棄すべきもの」とラジオでさらっと語っていた。その彼女が「婚外交渉」というだけでもアウト、DUPとしては立つ瀬がなくなってしまうような事態。(もちろん、聖書には婚外交渉を戒める文言もある。)
DUPは既に2007年の自治政府再起動でシン・フェイン(長年の「敵」)とのパワーシェアリングに応じたということでコアな層の支持を落とし、さらに2008年に「カリスマ」(<宗教家なので本当にカリスマ)のイアン・ペイズリーが引退(彼の引退の理由も不動産業者との癒着・資金疑惑で、同じく政治家をしている息子ともどもまとめて没落した)したことで求心力も薄れつつある。それで今年は選挙があるのだけれども、これが昨年のMEP選挙のときのように「ユニオニストの票が割れた結果、シン・フェインが議席を獲得」みたいなことになりかねない、ということで、DUPという政党としては本当に危険な状態。ユニオニストの政党には、DUP、UUP(現在はUUPと英保守党が連合している)のほかTUVもある(TUVはまだ議席はゼロの泡沫政党だが、次はどうなるかわからない)。アライアンス党(北アイルランドで唯一、紛争での対立の枠組の外で組織している普通の政党)もあるし。
それと、ロビンソン・アフェアが表ざたになる直前に、ブリテンのほうでは労働党の党内クーデターが失敗し(ブレア政権で閣僚だった人物2人がゴードン・ブラウンを引きずりおろそうと画策したが、どうやら途中で風見鶏が手を引いたらしく、不発で惨めな失敗となった)、人々の意識という点でいろいろとある。
そういうコンテクストがあるので「火遊び」が大きく取り上げられているのであって、「火遊び」そのものが注目されているわけではない――と思う。ただし、ミック・フィールティも書いているとおり、入り口が「厚化粧だが美形ではある59歳の女性と、かわいい顔をした19歳の愛人」というワイドショー的な「火遊び」の話なので広まるのも早いしその範囲も広い。(入り口から「越後屋、おぬしもなかなかワルよのう……」的な汚職疑惑だったら、「またか」ってなると思う。)
それから、キリスト教ファンダメンタリストのコンテクストでは、この騒動は「女はやはりこのように弱い存在であるので、正しく導いてくれる誰かが必要である」ということを意味するのだそうだ。はいはい、って感じだけど、そういう解釈(というか合理化)があるということで。
※この記事は
2010年01月09日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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