「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2009年10月13日

「仁義なき戦い」か――ライアンエア対BBC



彼にとって、機内トイレ有料化構想は冗談ではない(←2009年3月)らしいのだが、BBCは別の意味で「冗談」ではないらしい――ライアンエアの社長、Michael "Oh, Really?" O'Leary が爆発している。BBCの番組『パノラマ』の取材がお気に召さなかったようで、「あれは悪口を言ってるだけのくだらん番組」だというようなことを言っている。

放送当日のThe Irish Independentの記事(私が参照しているのは系列のベルファスト・テレグラフ)。

Ryanair chief O'Leary furious over BBC 'hatchet job' in Panorama
Monday, 12 October 2009
http://www.belfasttelegraph.co.uk/business/business-news/ryanair-chief-oleary-furious-over-bbc-hatchet-job-in-panorama-14528457.html

オリアリー社長は、ライアンエアへの批判に反論できる・できないをめぐって『パノラマ』の制作陣と衝突したことで、番組への出演を拒否した、とあるのだが、BBCのサイトにアップされている現場映像(詳細後述)を見る限り、上品で理性的なものではない。

記事から:
The Dublin-based airline is so angry with the 30-minute episode - even before it has been aired -- that it has published 25 pages of e-mail correspondence with programme makers on its website.


「番組が放送される前だというのに、ライアンエアは非常に立腹しており、25ページ分ものメールのやりとりを自社サイトにアップしている」って、まさかそんな……うわー、ほんとにアップされてる。こんなものまで番組放送前に自社サイトにアップするなんて、プロレス的な予定調和での演出としか考えられないんですけど、とすら思えてくる。そして、記事を読み進めると次のパラグラフで:

The breakdown in relations between Ryanair and 'Panorama' has generated huge interest on the internet, and is set to give the BBC One documentary a huge ratings boost both in Ireland and the UK.

ほら、やっぱり。「この件がネット上で大きな注目を集めているので、英国でもアイルランドでも高視聴率を記録するだろう」って。だからプロレスなんでしょ、どうせ。違うの?

オリアリー社長が具体的に何について怒っているのかについては:
Ryanair is particularly angry at claims in the programme that Michael O'Leary referred to his staff as "lemons".

He denied 'Panorama' allegations that he once said of his staff: "We cut them in half, we squeeze the juice and then we throw them away."

自分のところの社員を「半分に切って果汁を搾り取ったら、ぽいっと捨てる」から「レモン」と呼んだ、という説に反論したいのだそうだ。(オリアリーのことだから、「レモンだなんて呼んでいない、ライムだ」って言い出しても、私は驚かない。)

それから:
The airline is also angry over BBC claims that it imposed "hidden charges" on customers and accused the programme of trying to create a row between it and aircraft maker Airbus.

ライアンエアの「明示されていない料金」は何度も問題になってきた。例えば「ロンドン・ダブリン間が15ポンド」とあっても、実際にチケットを買うと金額が膨れ上がる――空港利用料はしょうがないとしても、クレジットカード利用料とかわけのわかんないものがかかるし、荷物は別料金ですとか言われても、じゃあ荷物は持ち込まなくていいやというわけにはいかないからだ。これについてはっきりわかるようにしていないのは誇大広告だということで、今年の7月にUKの公正取引委員会みたいなところから改善を指導されている。

さて、この「パノラマ」の放送日にBBCのMagazineがアップした記事が下記。結論としては、「ライアンエアはマーマイトと同じく、人によって好き・嫌いがはっきり分かれる」ということだそうだ。(学生に多いタイプ、「安ければなんでもいい」という人たちや、離島などで他の便がなくてライアンエアしか選択肢がない人たちもいるのだけど。)

A love/hate affair with Ryanair
Page last updated at 10:11 GMT, Monday, 12 October 2009 11:11 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/magazine/8297211.stm

ページの上部に取材時の映像がエンベッドされている。撮影したまま、無編集・ノーカットだそうだ(途中で一度、テープ交換で途切れるが)。9分28秒もある。

ビルから出てきたオリアリーは、取材陣の姿を見るといきなり「あんたんとこの番組はかくかくしかじかだから」と決め付け、取材者の言ってることに耳を貸そうともせず、一方的に「断る」と言い、歩き去ろうとする。その後その場で立ち話でインタビューになり、でかでかと書かれている航空券の値段は激安だが、購入検討時には目に付かないところに潜んでいる予約料やらクレジットカード利用料やらがあり……といったことから「明朗会計ではない」という批判がありますが、という、ライアンエアに関しては定番の質問を投げかけられると、定番の「うちで予約するお客さんはみなそれらの費用のことは知ってますから、明朗会計ですよ There's no hidden cost.」と言う。

さらに記者が話を続けると、「うちは燃料サーチャージもとらない、欧州で一番安い」などの文句を繰り返し、「あんたんとこの番組は国民の税金を使ってBBCのアジェンダでなんちゃら」という一種の陰謀論をよどみなく展開し(tax payers' moneyていうか、TVライセンス料なんだけど)、手に持っているブックレットをカメラに示しながら「リスボン条約はYesで投票を」と呼びかけ、記者さんが「放送はレファレンダムの後です」と言うと、次には「ライアンエアの株主になりませんか」の演説……あなたこそ、英国人のTVライセンスのお金で回されているカメラに何を記録させてんですか、と呆れるしかないところに、「ライアンエアは今年ブリティッシュ・エアウェイズの3倍の利用者がいます。これはBBCのアジェンダに合わないので放送されません」云々、微妙に伝統的アイリッシュ・ナショナリズム風味の陰謀論をまた展開し("We, not the British Airways, are Britain's favourite airline!" っていうことらしい)、「生放送のインタビューなら応じるが、あんたんとこのアジェンダに沿わないからってほとんどがカットされるような録画インタビューには応じない」云々、聞いてる私もそろそろ「BBCのアジェンダ」があるような気になってきた……嘘も100回繰り返せば…… (^^;) というか、明らかにプロレスだ……。

そんなこんなで、全部で9分28秒もある映像(取材テープをノーカットで公開)の5分すぎまで見たらもういいやという気になった(ライアンエアには、「BBCは英国の放送局であり、それゆえにBAが大好きで、アイルランド企業を蔑視している」というアジェンダがあることは明白)。上に引いた「レモン」についてのやり取りが、この立ち話の記録フィルムの中にあるのかどうかは、わからないまま放置しとく。(すみませんが、このまま聞いてるとアイルランド訛りが嫌いになりそうになるので。)

で、Magazineの記事のほうは、この守銭奴の格安航空会社についてよく言われていることがすっきりまとめられている一本。最初に頻繁に利用する人たちの声、続いてこの会社を嫌っている人たちの声、チェックイン・デスクの廃止という英断なんだか切り捨てなんだかよくわからんことをしたときの現場の混乱についての記述、それから学者の研究と分析、従業員(といってもライアンエアに雇用されているのではなく派遣)の声……。

学者の分析のところがおもしろい:
Gary Davies, professor of corporate reputation at Manchester Business School, says Ryanair has a strong brand - there is a high level of awareness and it has significant associations like low cost and Irishness.

His research three years ago suggested that Ryanair, like Microsoft and News International, was a company that people in Ireland viewed as "ruthless" but not to the extent that they would stop using it.

But since then, Mr Davies detects a slight erosion of that position, as more people perceive the airline to be "cheating" with some of its charges.

"More recently, the complaints we hear about are to do with the psychological contract between customer and company. It's not something on paper but it's there in your mind, an expectation of fair dealing.

"Quite often, Ryanair seems to be doing things that people think are unfair, then the media picks it up and it becomes a story."

人々から "ruthless" と思われているうちは「特に好かれてはいない」くらいで、嫌われるといっても「俺はああはなりたくないが、ビジネスマンとしては有能だ」とかいった漢字だろう。それが "cheating" となると「不正」、レベルが違う。

そういった批判に対し、オリアリーとライアンエアの側は「だって売買契約の書類(サイト)にはそう書いてあるでしょ、よく見てくださいよ」的な対応をしているのだが、消費者としては「信頼感」というものが問題になる。ライアンエアのあのやり口では「だまされた」という感覚を抱く人がいても、その人のことを「モンスターなんとか」とは言えないだろう。選択の余地なく払わなければならない費用が、あたかも選択次第で外せるかのようにうたわれていたり、「通常は利用料はかかりません」の「通常」が、客観的にはどう見ても「例外」じゃないのかということがあったりするのだから。

で、メディアというものは、別にBBCに限らずどこでも、利用者が「だまされた!」と怒っているような事例についてのみ取り上げる。(犬が人に噛み付いてもニュースにはならないが、人が犬に噛み付いたらニュースになるし、犬が人を噛み殺したらニュースになる。)

しかしながら、何か報道されると「BBCのバイアスだ、BAの商売の邪魔をするうちが許せないのだろう! BBCはうちをつぶそうとしているのだろう!」という陰謀論で受けて立ってみせるオリアリー。そうやって話題づくりをして、taxpayers' moneyで自分の会社の宣伝を代行させているんだろう。(陰謀論には陰謀論で返す。)

というわけで、話題としては基本的にどうでもいい話題なのだけど、「BBCとBAとアイルランドの会社」というロジックに潜んでいるナショナリズムがちょっと面白かったので書きとめておくことにした。

※この記事は

2009年10月13日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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