スウェーデンのThe Pirate Partyが歴史を作りましたが、それではなく。(投票日前、Twitterで「自分にスウェーデンでの選挙権があったら」というつぶやきをいくつか見ました。)
BNPの、いきなりの2議席獲得でもなく。
結果だけ見ればno changeなんですが、中身がhistoricな北アイルランドの欧州議会議員選挙結果のことです。しかもそのhistoryは漁夫の利だった、という。
European election 2009 - Northern Ireland
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/8077438.stm
Sinn Fein tops poll in Euro count
Page last updated at 12:17 GMT, Monday, 8 June 2009 13:17 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/8089501.stm
この記事↑に埋め込まれている映像は、DUPのダイアン・ドッズの当選のスピーチですが、声がひどく耳障りな上に、内容がひどい。 "To thwart the Republican agenda" とか何なのだろう、DUPとSFは北アイルランドでは連立(とは言わないんだけどね)しているというのに。
でも実はそんなことはどうでもよくて、フロアからの野次はリパブリカンからではなく(リパブリカンはこういうときは静か)、ユニオニストからのものです。(^^;)
北アイルランドの政治は(「政治」は、ね)、何をやるにしても「ユニオニスト」側と「ナショナリスト」側とで大きく分かれて、両者の中での競争になります(両者が直接対決するのは、議場の中です)。
70年代以降の北アイルランドの政治は、「ユニオニスト」側にDUPとUUPという二大政党があり、「ナショナリスト」側にシン・フェイン(SF)とSDLPという二大政党がある、という構図で動いてきました。(「ユニオニスト」でも「ナショナリスト」でもない唯一の政党が、Allianceという政党です。非常に重要な政党ですが、大きな勢力ではありません。)
そして、2000年ごろまではUUPとSDLPが全体の二大政党だったのですが、「武力紛争」の最終章にちょっといろいろあって、2003年の自治議会選挙で明確にDUPとSFが二大政党となりました。SDLPはまだ非常に元気ですが、1921年の南北分断以降ずっと北アイルランドの政治を支配してきたUUPはすっかり凋落して、ついには英保守党との連合という状況になっています(それがUlster Conservative and Unionist - New Force, 略してUCUNF)。
それだけなら「ユニオニスト側は何はともあれDUP」というようなことになっていたはずですが、数年前にDUPが分裂した(正確には、方針転換したDUP指導部にはついていけないとして、守旧派というか超強硬派が離脱して「ひとり政党」を立ち上げた)ことで、今回の選挙は波乱の展開になりました。
DUPを離脱して「ひとり政党」を立ち上げたのは、ジム・アリスターという人です。1953年生まれ、宗教的にはフリー・プレスビテリアン(つまりDUP創設者のイアン・ペイズリーが、宗教家として、米国のボブ・ジョーンズ大学の怪しげな学位を持って立ち上げた新たな宗派)で、「ガチのDUP」だったのですが、2007年3月、イアン・ペイズリーとDUPが「仇敵」であるはずのシン・フェインと権限を分担して自治政府の政権を担当するということを決定した直後に、それに反対してDUPを離脱しました。そしてしばらく経ってから、彼はTraditional Unionist Voice (TUV: 伝統的なユニオニストの声) という政党を立ち上げています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Jim_Allister
DUPから離脱した時点でジム・アリスターはMEP(欧州議会議員)だったのですが(そしてDUPを離れたあとは無所属として欧州議会にいた)、今回の選挙ではその彼が、DUPを離れてもなお議席を維持できるかどうか、あるいはどの程度得票するかというのがひとつのポイントでした。
結果的には彼は議席は失いましたが、first preferenceで66,197票を獲得していました。(北アイルランドのMEP選挙ではthe system of Single Transferrable Voteで議席が決められます。二度目の集計では70,481票を獲得。)
事実上、「組織」の後ろ盾なく単独で獲得したこの「66,197票」は、ほとんどすべて、DUPからTUVに流れた票です。
一方、DUPのダイアン・ドッズはfirst preferenceで88,346票を獲得していました。DUPからTUVに流れた票を単純に合算すると、150,000票あまりを獲得していてよかったはずです。
しかし実際にはそうならず、126,184票を獲得したシン・フェインのバーバラ・デ・ブルーン (Bairbre de Brún) が、first preferenceだけで当選の要件を満たしてトップ当選。(前回より0.3%ダウンだったのですが。)
1921年の南北分断以降、シン・フェインが選挙でトップになったのは、初めてのことです。
……となれば、たぶん、シン・フェインでなくてもこういうふうに書きたくなります。
History made - Sinn Féin is now the largest party in the Six Counties
http://www.sinnfein.ie/contents/16580
Sinn Féin's Bairbre de Brún has just been re-elected to the European Parliament topping the poll in the Six Counties. This is a historic development as Sinn Féin is now the largest party in the north of Ireland.
…… (^^;) 「嘘」じゃないけどね。漁夫の利というか棚ボタというかごっつぁんゴールというか、DUPが割れてくれたおかげで歴史作っちゃったというのが、何ていうのかな……。
ちなみに、1979年以降ずっと、北アイルランドのMEP選挙でトップをとってきたのは、DUPです(DUP's worst ever Euro poll result - "The party had previously topped the poll in every European election since 1979.")。
北アイルランドは「紛争」というコンテクストから切り離すのは非常に難しいのですが、それを切り離すと、DUPは「進化論に反対し中絶に反対するプロテスタントのファンダメンタリスト政党」です。地球温暖化についても「リベラルの陰謀」というような見かたです(でもNI自治政府の環境大臣はDUPの人で、ひどいカオス)。そういう政党がこんなにも長く第一党だった場所は、欧州内には他にはないんじゃないかと思います。そしてその記録更新を阻止したのが、ちょっと前まで「武装闘争」を正当化していた政党だという地域は、今のEU内にはないと断言できます。
ははは。
BBC NIの映像レポート(3分ちょっと):
Sinn Fein tops poll in Euro count
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/8090305.stm
このニュースレポート、とてもおもしろいです。
DUPのダイアン・ドッズは選挙戦終盤にまさに必死で投票を呼びかけていて、「みなさんが投票所に足を運んでくださらないと、シン・フェインがトップになって、ユニオニズムは終わりです!」という発言をし、「その三段論法はない、なぜならユニオニズムはDUPだけではないから」というツッコミをくらっていたのですが、実際に結果が思わしくないということは出口調査などでわかっていて(投票が行なわれたのが木曜、欧州全域の投票終了が日曜、NIでの開票が月曜……日曜日は安息日ですから)、会場入りも遅かった、と。
開始30秒くらいでシン・フェインのインタビュー(アダムズ)。漁夫の利なのであっさりしたものです。What's the craic? という感じ。
50秒くらいでジム・アリスター。会場入りするときのボディチェックの様子とか……BBC NIは何を考えているのかよくわかりません。1:10くらいでアリスターがBBC記者のインタビューを受けていますが(この記者さんがこんなに長身だとは思ってなかったのでびっくりした)、「トラディショナル・ユニオニスト」とは「mandatory coalitionには応じないユニオニスト」のことだそうで、この先、TUVがもっと多くの票を集めるようになったらと考えると、相当げんなりします。武力を伴う紛争が終わっても、結局は2つのコミュニティの「やるか、やられるか」であるという紛争のメンタリティが終わらない。それをこそ過去のものにしなければならないときに。
1:25くらいからちょっと下世話。かつては盟友どうしだったジム・アリスターとDUPのピーター・ロビンソンは、今は互いに近くにも寄らない、ということを映像で説明してくれます。これ、リアルタイムで中継されていたときには(テレビでもウェブでも中継されてました。UK外は視聴不可だったので私は見られませんでしたが)、かなり多くの人たちがにやにやした部分だと思います。当事者の少なくとも一方は劇場政治を意図してはいないはずなのに、こんなふうに劇場型になってしまう。
1:38でスタジオのジェフリー・ドナルドソン(DUP)のコメント。彼は元々はUUPにいた人で、その彼が「ユニオニズムが分裂したことによる悪影響」とかいうことを真顔で語っているのもにやにやポイントだったと思います。(Sluggerの人たちのテキスト実況中継ではけっこう盛り上がっていた。)
BBCの映像はそのつながりで、UUP……じゃなかった、UC……なんだっけ、覚えられないよ、えとUCUNF(←今、字面を見て非常に下品な覚え方を思いついた)で議席を獲得したジム・ニコルソンのインタビュー。かたわらでにこにこしているのがUUP党首のSir Reg Empeyです。
2:05でSDLP、最後の最後まで競ったのですが、残念なことに議席獲得はなりませんでした。スタジオでコメントしているのは候補者ではありません。
2:25で3議席すべてが埋まったところの様子。最終的には、UUP, DUP, SDLPの3候補で2議席を争ったのですが、TUVのジム・アリスターの票のtransferでユニオニスト政党の2候補が当選しました。
会場では当選した候補者それぞれがスピーチをしたのですが、この「ドラマ」が「ユニオニスト政党のドラマ」と位置付けられているので、シン・フェインのデ・ブルーンのスピーチはこのクリップでは完全スルー。UUPの人のスピーチは、「これからスピーチをします」程度の映像があり、DUPのドッズのスピーチは一部が流れます(野次も)。
このあとが、この日のドラマの締めくくり。
2:48くらいで、壇上の候補者・当選者が互いに挨拶する光景。トップ当選のデ・ブルーンと、二位のUUPの人(<名前覚えてない)はふつうに握手をし、次にデ・ブルーンが三位のドッズと握手をしようとしたその瞬間、シカト! 次は靴に画鋲入れるに違いない。
その後、フロア。BBCの記者さんがTUVのアリスターの前で「議席は取れなかったけど、アリスターはDUPに痛手を負わせたという意味で勝利」みたいなレポート。
そしてクライマックス。これは欧州議会選挙だというのに、ベートーヴェンではなくGod Save the Queenが歌われ、シン・フェインとSDLPが退席するシーン。
ははは。
あと何年くらいですかね。50年くらい?
何十年かかろうと、あのような「対立」が――「区別」を前提とした対立がなくなってくれればよいと思います。
でも、TUVが勢いを得たらその見込みは薄れます。
Slugger O'Tooleの人たちのテクスト実況で、ジム・アリスターの次のようなコメントが伝えられていました。
TUV: "This victory was for every traditional unionist who was decieved in this province when the DUP rolled over to Sinn Fein/IRA..."
こんなの、ただの言葉です。でも、社名変更した会社をいつまでも旧称で呼んでしまう、みたいなこととは違います。
冷静に考えてみると、こっちのほうがBNPよりよほどやばいんだよね。現に暴力が起きていて、緊張はとても高まっていて、しかもそれが、ユニオニスト側の都合で、ほとんど無視されているのだから。「連中はおかしい」という、「一部のはみ出し者」の理論が適用されつつあるのだから。どう見ても「構造的」な問題だというのに―― RIRAやCIRAの暴力と同質の、けれども立ち現れ方としては異なる、というような。
そして、無視されていることも「はみ出し者」の理論も、特段「変」なこととは感じられず、「ああ、またか」と感じられる、という状態。
Sluggerのマークさんによる、ちょっと肩の力の抜けた選挙まとめ:
http://sluggerotoole.com/index.php/weblog/election-round-up-marks-out-of-ten/
Greensの候補者さんが評価高いですね。主義主張ではなく、「伝える」「聞く」という技術を見ているのだということがコメント欄からわかります。
※この記事は
2009年06月09日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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