「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2009年05月06日

「インターネット」と「音楽産業」――元サポとして、「Last.fmのばかーっ」と改めて言いたい。

ウェブログ「P2Pとかその辺のお話」さんの5月2日のエントリ、「『音楽好き』は最悪の違法ダウンローダーでもあり得るし、最良の音楽購入者でもあり得る」(4月28日のTorrentFreak記事の翻訳紹介)のコメント欄の6日投稿文(エントリの下の方に引用させていただきます)を拝読し、脳内で何かがスパークした後、元サポとして「Last.fmのばかーっ」と改めて言いたくなった。

■過去記事:
2009年03月26日 Do You Remember Rock 'N' Roll Radio? --- Last.fm が実質有料化
http://nofrills.seesaa.net/article/116231255.html

2009年03月31日 last.fmの迷走――有料化延期と「値上げ」
http://nofrills.seesaa.net/article/116511853.html

私のパソコンからはlast.fmの痕跡はほぼ完全に消えている。ソフトウェアはとっくにアンインストールしてあるし、ブラウザの履歴も消去した。検索結果でLast.fmのページがヒットしても、他に代替ページがあればLast.fmのページにはアクセスしないし、もちろん、自分でアドレスバーにURLを打ち込んで自分のページを見に行くこともない。ただ、時おり「private messageが来ています」というお知らせメールが来るので、そのメッセージを見る必要があればログインはするが、ネットレーベルの新作通知などなら、そのレーベルのサイトに直接アクセスすればいい。

だが何となく気になってはいて、3月30日にRJが「有料化延期」を宣言したあとどうなったのかなと4月末にblog.last.fmをのぞいてみた。

そしてほんとに、もう完全に見切った。

3月24日に、必要とされる説明を行なわずに「英米独以外でのラジオ機能の課金制導入」をblog.last.fmでアナウンスしたRJは、誰かのコメント欄 (shoutbox) で、そのアナウンスの「やり方のまずさ」についての批判に対し、「もっとはっきり書くべきだったと大後悔してる」と書いていたにもかかわらず、3月30日にまた曖昧な告知を行なっていた――「下記の条件が整うまでは延期する」というだけで、それがいつなのか、あるいは単なる目途としてもいつごろなのかは書いていなかった。

【課金制移行実施の条件】
・自分以外のユーザーに対する「ギフト・サブスクリプション」ができるようにする(誰か友達の分を買ってあげることができるようにする)
・Last.fm RadioのAPIを利用したサードパーティのアプリケーションへの対応を行なう
・クレジットカードがなくても支払いができるようにする
http://nofrills.seesaa.net/article/116511853.html


この投稿には、「せめて次は、十分な猶予期間をもって告知してください」という反応は何件も寄せられていたと思う。私もRJにはそう伝えた(彼がそれを読んだかどうかは知らないけれど)。

しかしながら、4月22日付のblog.last.fmは、いきなり「以前告知していた通り、今日から有料化します」という投稿だった。

Radio Subscriptions
Wednesday, 22 April 2009
http://blog.last.fm/2009/04/22/radio-subscriptions

ウェブページでの事前告知があったのかどうか、私は見ていないから知らないし、ユーザーにお知らせメールが届いたのかどうかも知らないけれど(私は受け取っていない)、おそらく事前告知はしていないだろう。コメント欄に「いきなりかよ」という反応が何件もあるから。

さらにひどいのは、3月30日に「これらの条件が整ったら」とRJが投稿していた3つの条件のひとつ、「クレジットカードがなくても支払いができるようにする」が、4月22日の段階で整っていないのに課金制に移行した(つまり「約束をたがえた」)ことだ。4月22日のRJのブログから。

Currently you need a credit card (or debit card in many countries) or a Paypal account to subscribe. Due to popular demand the subscribe page now lets you buy subscriptions for a friend, so if you don't have a suitable credit/debit card maybe a friend will buy you a subscription.


何ですか、これは。「現状、クレジットカード(あるいは多くの国々でデビットカード)またはPayPalのアカウントが必要です。ご要望が多く寄せられたので、支払いページで友達の分も払えるようにしましたから、自分には手続ではねられないカードがないという場合でも、誰か友達が払ってくれるかもしれません」って。

自分がした約束(「クレカがなくても払えるように条件が整ったら課金制に移行する」)をこんなに軽々しく破って、「友達にprivate messageか何かでお願いすればいいんじゃね」と言うとは、何と軽々しく、何と失礼で、何と軽率で、何とパトロナイジングな。

それ以上に、ものすごく不誠実だ。

Last.fmがこういう「経営判断」をした背景には、この数ヶ月の「インターネット上の音楽配信」をめぐる情勢の変化というものがある。レコードレーベルは「CDを売る」ことを諦め、「インターネット上の音楽配信」を収益源と位置付けるようになった(端的にいえば「ライセンス料の値上げをする」ということ)、という記事はRegister.co.ukやCNETなどの英語のオンラインメディアにもいくつも出ているし、そのことの影響について、「ネット上の音楽配信サービス」の運営者の立場から語られている文章もいくつか出ていた。Fabchannel.comのサービス終了の告知文もそのひとつだ。

Fabchannel.comは、「マスメディアに注目されるほどには大きくないアーティストたちを紹介したい」ということで2000年に立ち上げられた、ライブ配信のサイト。拠点はオランダにあり、アムステルダムやロサンジェルスなどのホールで行なわれるライヴを、オンデマンドで配信していた。アーカイヴはBBCをもしのぐ規模となり、ウェブサービスとしての評価もすこぶる高く、2007年4月にはアムステルダム市も出資。2008年2月には、複数の地域での配信について、4大レーベルのひとつ、Universalとの提携も成立し、まさに順風満帆に見えていたが、それから1年少し後の2009年3月6日、「2009年3月13日をもってサイトを閉鎖する」との告知が出され、その通りに終了した。
http://en.wikipedia.org/wiki/Fabchannel

私はベルギーのバンドについて名前を知ったときにネットで検索してこのサービスの存在を知ったのだと記憶しているのだが、「ライヴなんかストリームされても見てる時間ないよ」と嬉しい悲鳴を上げるばかりで実際には使わないうちに、閉鎖ということになってしまった。

YouTubeのFabchannelチャンネルのほうに、1曲だけのクリップがまだあった。

Absynthe Minded - Pretty Horny Flow (live)
http://www.youtube.com/watch?v=Or3J36BAbNM


おや、Duke Specialもある(彼は北アイルランドでずっと活動している):
Duke Special - 'Freewheel (live @ Paradiso)'
http://www.youtube.com/watch?v=fbCzFF5mdOs

※ドレッドでGothメイクですが、曲はそういう感じでもありません。

うは、こんなのあったのか。2007年5月。
Girls Against Boys - 'Bullet Proof (live @ Paradiso)'
http://www.youtube.com/watch?v=d5KJokjxoJ8


……この調子だと話が進まないぞ。>自分。

えー、Absynthe MindedはeMusicにあります(私もここで買いました。ちなみにこのバンドを知ったのは、明らかにlast.fmのBelgium tag radioです)。Duke Specialもあります(私はこのバンドはNIのラジオなどでかかるのを時々聞くだけで満足してしまっているので、まだ買ってません)。GvsBもあります(盤で持ってます)。

閑話休題。

Fabchannelというサービスを立ち上げて9年間続けてきたJustin Kniestさんのサービス終了の挨拶文に、まさに「インターネット時代の音楽配信」の有望株と見なされていたこのサービスが、突然の終了に至った背景がかなり詳しく説明されている。2008年9月のMuxtapeの中の人のサービス停止のメッセージ(リンク先は匿名さんによる日本語訳)と、筆致は違うけれども、同じような「気持ち」が感じられる文章だ。
http://www.fabchannel.com/

少し抜粋。余計な一言をまじえながら、対訳しておく。
Fabchannel and the record Labels
Fabchannelとレコード・レーベル

No money means no content. That is the way the labels (major and independent) look at potential partnerships with internet companies. Even when it is obvious a service provides added value in promotion and sales, the mantra stays the same: no money, no content. Even when a service invests substantial amounts of money in creating high quality concert footage and an award winning platform to show it to the world, the mantra stays the same: no money, no content.
金を払わないのならコンテンツは渡さない。これが、大手であれインディであれレコードレーベルというものが、ネット企業とのパートナーシップの可能性があるときに前提とすることです。そのネットサービスが、プロモーションや売り上げという点で付加価値を与えるということが明白である場合にも、これは変わりません。「金を払わないのなら、コンテンツは渡さない」。そのネットサービスが、かなりの額を投資して(レコードのプロモーションとして作用する可能性の高い何かを行なうために)高品質のライヴ映像を制作し、世界中にそれを見せるためのプラットフォームを作り、それが賞を受賞するほどの出来であっても、それは変わらないのです。「金を払わないのなら、コンテンツは渡さない」。

When you look at it from a label point of view it might even look logical. Their businessmodels have been hammered the last ten years by decreasing CD sales. Their radio, TV and newspaper partners are not doing their promotional job as they used to. And last but not least: the majority of consumers are now downloading tracks for free. All bad things for companies that invest in recordings of artists.
レーベルの立場から見れば、筋が通った話であるようにさえ思われるかもしれません。レコードレーベルのビジネスモデルは、この10年間で、CDの売り上げ減少によって、ぼろぼろにされてきました。ラジオ局、テレビ局、新聞といったパートナーは、かつてのようにはプロモーション活動をやってくれなくなりました。そして非常に重要なことですが、消費者の大半は、今は楽曲は無料でダウンロードするようになっています。これらすべて、アーティストが作品を録音するのに投資している会社にとっては悪いことです。

So the most important feature that new partners have to have is: MONEY. Money to counter the decrease in CD sales. Promotion has turned into a dirty word. MTV for example got big and wealthy by showing videoclips paid for by the labels. So now these labels think: We will not let that happen again. From now on everybody who wants to become a mediapartner online is going to have to pay upfront to even start!
というところで、(レコード会社の)新たなパートナーが備えていなければならない重要な要素が、お金、ということになるのです。CDの売り上げ減少を相殺できるお金。「プロモーション」という言葉は、ダーティワード(言ってはいけない言葉)になりました。例えばMTVは、レーベルがお金を支払ってビデオを放送してもらう、という形で大きくなり富を得ました。だから、今はこれらのレーベルがこう考えるようになったのです。「二度とああいうことが起こるのを許さない」と。これからは、オンラインのメディア・パートナーになりたいと思う者は誰であれ、先に支払いを済ませなければ、スタートすることすらできなくなる、と!

Take note of the word online after mediapartner. It is very curious to see that for radio and TV stations, the rules are a bit different. Labels pay so called ‘pluggers' to persuade DJ's to play their new artists. And the radiostations do not pay for the recordings, just like MTV. Some radiostations even insist of getting a percentage of the record sales before they decide to plug a new artist.
「メディア・パートナー」には「オンライン」という限定語がついていることに注目してください。ラジオ局やテレビ局にとっては、このルールはちょっと違うようです。興味深いですね。レコードレーベルは、新人の曲をDJにプレイしてもらうために、「プラガー(売り込み担当)」と呼ばれる人たちにお金を払っています。さらに、ラジオ局は、MTVと同じように、録音物についてお金を払いません。一部のラジオ局は、新人の曲を流すことを決定する前に、レコードの売り上げから1パーセントを払うよう主張してさえいます。

You see the difference in perception? Internet = source of income, Radio/Television = partner in generating income.
受け取り方の違いがおわかりでしょう? 「インターネット」イコール「収入源」であり、「ラジオ局やテレビ局」イコール「収入を生み出すためのパートナー」なのです。

Fabchannelの中の人がどういう気持ちからあのサービスを作ったのかは、この後の部分に詳しく書かれている。「違法ダウンロード」などというものが今ほど問題ではなかった2000年ごろに、既にマスメディアの関心が低下していて(というより「音楽メディア」そのものがかなり衰退していたと思うけど)新人にはプロモーションの機会が与えられず、どんなに素晴らしい曲を作って素晴らしい演奏をしていても限られたファンの間でしか知られず、それはレーベルにもバンドにもリスナーにもよくないことだ、ということから、アムステルダムのライヴハウスと提携して配信を始めた、ということとか。

あと、最初はオランダ政府の補助金(文化活動とかスタートアップに対するものだと思う)を受けていたけれど、2007年には自力でやっていこうとして、録画したライヴの映像を(デジタル・ダウンロードであれDVDであれ)販売するという方向を考えたが、レーベル側はうんと言わなかった……というくだりは、Nine Inch Nailsが昨年のLights in the Sky Tourを映画化すべく昔のレーベル(Universal)と話をするのに苦労した、というトレント・レズナーの説明を思い出させる。

ちなみに、LITSツアーの映画化は、資金の目途がついたときにはツアー終盤で撮影日数的に無理という事情で頓挫し、兄貴は「じゃーファンにカメラ持ってこさせればよくね?」と思いついて、LITSツアーの終盤は「撮影自由」となり、ファンがNIN公認で勝手に作ったライヴ映像がまとめられ、またごにょごにょでプロのカメラマンが撮影した映像もネット上に出回り、さらには今年のJane's Addictionと組んでの北米ツアー(俗にNIN/JAツアーと呼ばれるもの)も「本格的なテレビカメラみたいなのを持ち込むとかじゃなければ録画・録音OK、ただし機材は自己責任で管理すること」という撮影機材持ち込みポリシーを出すという、やけに「オープンソース」なことになっているのだが、一方でツアーロゴに「1989-2009」と明記され、また関係ない文脈で「昔はプライベートな生活だったもの」についてのニュースにNINternetが大騒ぎになったりと、おもしろすぎる展開に泣いたりお茶ふいたりで私は忙しい。(ちなみにフェスティヴァルでは撮影機材の持ち込みはNINでは何ともできないので、フェス参加でのライヴは撮影不可。)

さて、Fabchannelの上記の文章は、「インターネットと音楽」についての事情を最もはっきりと説明したものなので参照した。Last.fmが「ラジオの有料化」という判断をした背景にこういう事情があったことは、Last.fm(およびFabchannel)以外の複数のソースからわかるのだが、Last.fmは――スタート時はロンドンのインディペンデントなウェブサービスだったが、2007年以降はアメリカの巨大テレビ局、CBSの子会社である――決してそれを説明しようとしなかった。

そればかりか、「英米独では広告収入でまかなえるから」などという見え透いた言い訳をして、英米独では無料サービスを継続し、それ以外の世界各国では有料化する。(その上に、英米独の有料サービスを受けたいユーザーも含め、欧州では3ユーロ、英国では3ポンド、米国では3ドルという、わけのわからないレートで課金する。)

「見え透いた」というのは、Last.fmの登録ユーザーの中で大きな割合を占める英米は、Last.fmのラジオが有料化されれば、競合している無料の他社サービス(英ではSpotify, 米ではPandora)に乗り換えるということが簡単にできる環境があるということは誰でも知っているから。Last.fmはユーザー数を(「ユーザーを」というより「数を」)失いたくないのだ、などということは小学生でもわかる。ただ、ドイツはちょっとどうなのかわからないけれど(ドイツにそんなにユーザーが多いという印象は私にはないのだが、聞く音楽がかぶってなかったとかで実感がないだけかも。むしろスイス、イタリア、フランス、スペイン、オランダ、ポーランド、ロシアが多かったと思うんだけどな……)。

そういう事情を、あんまりにもぶっちゃけるわけにはいかなかったにしても、ある程度率直に伝えてくれていれば(自分の中で単なるファイル販売サイトに過ぎないはずのeMusicは値上げをしたときに事情を率直に伝えてくれて、私はそれに完全に納得してサブスクリプションを継続しているのだが、それと同じくらいのことを最小限の何かとして、「ピープルパワー」的なアピールを猛烈にかましていたLast.fmにも望んでいた)、そして何か大きな変更を加えるときには事前にある程度の期間をとってユーザーに確実に告知を行なうという当たり前のことをしていてくれれば(ガソリンスタンドとか「時価おいくら」の寿司屋じゃないんだから)、私はLast.fmにここまで愛想を尽かしていなかったと思う。地域で区別してラジオに課金するということは、Last.fmの理念としてaboutのページに書かれていることにも、これまで築いてきたものにも反することだから、英米独にも課金しない限りはこちらもボイコット、というスタンスは取っていただろうけれど。

というわけで、元サポとして、「Last.fmのばかーっ」と改めて言いたい。

これではいつまでも引きずっている未練タラタラのバカみたいに見えるかもしれないが、未練ではなく、2004年、2005年当時の「可能性」を懐かしがっているのだと自分では思う。

なお、音楽については今は主にJamendo.comを使っていて、私はかなり幸せです。
http://www.jamendo.com/en/user/nofrills

Jamendo.comについてはちょくちょく書いていきますが、世界各地のインディペンデントのアーティストが自身の楽曲をCreative Commonsのライセンスでアップロードしていて、一般のユーザー(リスナー)はそれがいくらでも聞けて、プレイリストを作ったりできて、レビューとかも投稿できて、気が向いたらそのアーティストに投げ銭することもできる(Paypalで)というサイト。遠隔地のアーティスト同士がコラボしたり、アーティストとリスナーがコラボしたりといったことも活発で(ただし「バンド形態」じゃないと実現できない音楽はそういうのは無理だけど)、目立ちはしないけどおもしろいことがいろいろ起きている。

というところで、最後になってしまいましたが、「P2Pとかその辺のお話」さんの5月2日のエントリ、「『音楽好き』は最悪の違法ダウンローダーでもあり得るし、最良の音楽購入者でもあり得る」のコメント欄から:
金を払いたくない、だから海賊行為、という人にはつける薬は限られていますが、金は払うけど、海賊行為もしちゃう、という人は取り込める余地があるんじゃないかと思っています。金は払いつつもそれ以上のデマンドを持っている、そこをうまく利用する手はないか、と。

たとえば、Spotifyのような仕組みはそういったユーザにとって現時点での理想的なツールといえるかもしれません。……(中略)……一概にそれで解決とは思っていませんが、何とかうまいことやってくれないかなぁ、と期待したいのです。音楽大好き!というリスナーの要求を全て満たせとは思わないですが、満足しうるエクスペリエンスを提供することで、音楽産業もリスナーも互いに利益を生み出しあう関係になれれば良いなぁと思っています。

すごく共感するし同感するんです。しかし「音楽産業もリスナーも互いに利益を生み出しあう関係」というものは、少なくとも「インターネット」にはありえない、というのが「音楽産業」側のスタンスで、それが変わってくれるまでは、リスナーがネット上のサービスを利用して「いいな」と思ってCDを買おうがDVDを買おうが何をしようが、それは「互いに利益を生み出しあう関係」として認識されない、ということになってしまっている(というかずっとそうだった)のではないか、と。Fabchannelの中の人はそれについて「メジャーレーベルであろうがインディレーベルであろうが」と強調していますが、インディなら声が届きやすい分、リスナーがネットサービスで得たエクスペリエンスを言葉にして伝えることで、「ネット配信」についての考え方が変わっていくかもしれないとは思ってます。

最近、And So I Watch You From Afarに関連してレーベルの人とTwitterで雑談したりできてしまうことに、今さらながらびっくりしている次第。自分がバンドやってるわけでもなくプロモーターでもなく、単なるリスナーなのに。

それから、レーベルとの契約が切れてインディになったあとのNine Inch Nailsがnin.comをリニューアルしてやろうとしていたのもそういう「関係性の構築」です(ソースはトレント・レズナーのインタビューと、どっかの研究者さんかマーケティングの専門家が真面目にNINの事例を考察していたレクチャー)。



Fabchannelの中の人の文章は、次のように結ばれています。
We still believe in the concept we created. It worked as a promotional platform in the days CD's were sold and it works today as a powerful promotion/sales platform. All of your warm replies made that even more obvious. But we also believe the next few years will be getting even more difficult as companies are forced to decrease their spendings on advertising and sponsoring. When on top of that the most important players in the music industry still don't see what we bring to the table, nothing we can think up will help. We are fully dependent of them for recording artists.
私たちは今もまだ、このサービスを立ち上げたときのコンセプトを信じています。CDが売れていた時代にはプロモーションのプラットフォームとして機能したこと、こんにちではプロモーションと販売のプラットフォームとして機能していることです。皆さんからのあたたかい反応によって、それがよりはっきりと見えました。しかし私たちは、この先数年間はもっと状況が難しくなるだろうとも考えています。企業は広告費やスポンサー費用を削減することを余儀なくされるのですから。そして、音楽産業で最も重要なプレイヤーが、私たちがどんなものをテーブルに乗せられるのかを見極めていない以上、こちらが何を考えようとどうにもなりません。私たちはアーティストを録画することについて、完全に彼ら次第という立場にあります。

I hope this clarifies things a little.
これで状況が少しはクリアになっているとよいのですが。


タグ:音楽 last.fm

※この記事は

2009年05月06日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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