
いきなりすぎて意味がわからなかった。
ベルファスト・テレグラフのこの記事から、アイルランド共和国に拠点のあるthe Sunday Tribuneの12日(日曜)付けで出ている関連記事を何本か読んだ。
Exclusive - Real IRA: We will take campaign to Britainという記事は、12日のRIRAについてのサンデー・トリビューン報道のまとめ的な記事。それから、この新聞のこの記者が書いた分析記事。また、How Real IRA Killed Denis Donaldsonという記事は、RIRA幹部が語ったデニス・ドナルドソン殺害の詳細で、これは私は途中で読むのを断念した。あまりにもむごすぎる。それから、月曜日のデリーでのイースター蜂起記念行事で読み上げられるRIRA/32CSMの声明。これも、途中で読むのをやめた。ドナルドソン殺害声明だけでなく、いろいろと勇ましいことが語られているが、基本的に打ち上げ花火だろう。
会ったこともなく、言葉を交わしたこともない人たちに対しては極めて失礼な言い方だが、「こいつら狂ってる」としか思えなかった。なぜそこまでフィジカル・フォースに固執するのか、別の道が見えているというのに(人口増加率を見れば、ユナイテッド・アイルランドが、遅くとも何十年かのスパンで現実的な可能性だということは見えているのに)。軍事的な解決策などないというのが、この30年の紛争の結果、やっとわかったことであるはずなのに。
Real IRAとサシで取材できる仲のThe Sunday Tribuneのスザンヌ・ブリーン記者は、次のように書いている。
Its language is uncompromisingly militant. There are none of the nuances we came to hear from Sinn Féin and Provisional IRA figures from the mid-1980s onwards. If the Real IRA had a slogan it would be, 'An armalite in one hand and we don't do ballot boxes'.
その言葉遣いは解釈の余地なくミリタントである。1980年代半ば以降のシン・フェインとProvisional IRAの人々に見られた微妙なニュアンスというものは一切ない。もしもReal IRAにスローガンがあるとすれば、(80年代シン・フェインおよびIRAの「片手にアーマライト、片手に投票箱」ではなく)、「片手にアーマライト、だがわれわれには投票箱は無用」というものであるだろう。
http://www.tribune.ie/news/article/2009/apr/12/northern-editors-analysis/
こいつらの脳みそは何だ、筋肉か。
RIRA/32CSMのイースター声明と、それに伴うサンデイ・トリビューンのインタビューのポイントはいくつかある。箇条書きにすると:
・俺らのことをtraitor呼ばわりしたマーティン・マクギネス、許さねぇ
・でもシン・フェイン上層部とかは二の次で、俺らの本当のターゲットはBritsだからな。連中が出てくまで闘うし、戦線はブリテン島に拡大する
・戦略は昔の、毎日ちょこまか爆弾でやるってのとは違うぜ。大物を狙って一発、だ
・裏切り者は放っちゃおかねぇ、カトリックのくせに警察に志願する奴とかブっころす
・英軍基地に出入りして仕事をしてる連中も正当な標的なんで、そこんとこよろしく
・で、英軍基地襲撃が成功した今だから言うけど、デニス・ドナルドソンやったの、俺らな。あの裏切り者は、Óglaigh na hÉireann (the Irish Volunteers/the Irish Republican Army) が正当に有罪判決を下し、処刑した
・裏切り者は許さねぇ。たとえそれが昔の話であったとしてもだ。リパブリカンは記憶力はすげぇからな
"The republican movement has a long memory." っていうのには苦笑せざるをえなかったが、もううんざりだしもうげんなりだ。ロックオールにでも行けばいいのに、とつぶやきたくもなる。
はぁ。
デニス・ドナルドソンとは誰か、またその殺害とはどのようなものだったのかについて、過去記事から。
2005年12月、シン・フェインのひとりの幹部が、英国に情報を流していたことを告白し、党から追放された。Google Street Viewで「プライバシー保護」されちゃってるボビー・サンズの壁画の元となった写真で、サンズと肩を組んで写真におさまっていたデニス・ドナルドソンという人物だ。
http://ch00917.kitaguni.tv/e214894.html
この写真が撮影されてからどのくらい後のことなのか具体的には私は知らないが、ボビー・サンズはハンガーストライキを行い、絶食して66日で息絶えた。そのサンズの妹のバーナデットと、彼女の夫のマイケル・マッケヴィットは、1997年10月に和平路線に反対してProvisional IRA指導部から外され、あくまでも「武装闘争」を貫くべきとするトラディショナリスト(守旧派: こういう人たちが現在dissidentsと呼ばれている)の人々とともにProvisionalsを離脱、自分たちの組織を立ち上げた。これが後にReal IRAと呼ばれるようになったIRA分派組織の始まりである。
2005年12月に党から追放されたドナルドソンは、家族と一緒に暮らしていた西ベルファストから出て身を隠していた。彼がドニゴールの古い小屋に暮らしていることがわかったのは翌2006年3月、アイルランドの新聞Sunday Worldの記者が、彼の居所がわかったという記事を出したときだった。
そして2006年4月、今からほぼ3年前に、ドナルドソンはその小屋で射殺体となって発見された。
http://nofrills.seesaa.net/article/30498463.html
彼が死体で発見された直後、「ドナルドソンはProvisional IRAに処刑された」という言説があふれた。私が見た中で最も断定的だったのはインディペンデントのDavid McKittrickだったが、「Provisionalsだろう」という説はほかでもいくつか見た。
文脈的には、「Provisionalsは依然として活動を続けている」という疑念があった。2004年12月にノーザン・バンクの現金強奪事件があり、「おそらくProvisional IRAだろう」といわれていた。2005年1月にロバート・マッカートニーさんという男性がパブでの喧嘩の末にベルファストで殺されたのだが、その犯人はProvisionalsに間違いないということで政治的圧力が高まったのが2005年3月(マッカートニーさんのご家族が、聖パトリックの日に訪米してブッシュと会ったりしていた)。しかし2006年になると、ノーザン・バンク事件もマッカートニー事件も、マーガリンの商品名をパロった "I can't believe it's not the IRA" 的な何かになりつつあり(両事件とも、その後容疑者起訴まではいったが検察側証拠がひどかったし、起訴もたぶんかなりでたらめ)、そこにきて、「裏切り者」だったことを告白してシン・フェインを追放された古参のリパブリカンが殺されたのだから、Provisionalsが疑われるのにも理はあったのかもしれない。(ただし私自身は、ブレア政権下でジェリー・アダムズやマーティン・マクギネスがman of peace的な位置づけを得ようとしているときに、「toutの処刑」などという視野の狭い話ですべてを台無しにするとは思っていなかった。犯人がProvisional IRAだったとしても、個人的にドナルドソンをどうしても許せない何かがあった個人の犯行だろうと思っていた。あと、至近距離でショットガンで腕を吹き飛ばしていたっていうのもProvisional IRAっぽくはないと思った。イメージ的なものだけれど。)
さらにまた、このとき、Real IRAは、「ドナルドソンが生きている限り、Provisionalsは恥ずかしい思いをする。だからわれわれがドナルドソンを殺すなどありえない」というようなことを言っていた。3年前のことでURLを探すのも面倒だからサボるが、そういうコメントを読んだことははっきり覚えている。で、私はそのときは「それはそうだよなあ」と思った。
事件当時、各種の説がささやかれていたのはこのブログにメモしてある。
http://nofrills.seesaa.net/article/30498459.html
特にこれかな。
http://commentisfree.guardian.co.uk/niall_stanage/2006/04/murder_in_irelands_hall_of_mir.htmlTheories are flying thick and fast, each with its own distinctive twist. The IRA killed Donaldson for his treachery, some say. Or they killed him because senior people in the Republican Movement are also quislings and feared he knew too much.
Others argue that the dead man's former spymasters killed him because they too were worried about their activities being exposed. Or the so-called securocrats killed him, calculating that Sinn Fein would get the blame and suffer the political consequences.
Not so, say others. Dissident republicans killed him to show their muscle. Or to throw a spanner in the works of political progress.
当時有力視されていたのは、IRA(つまりPIRA)がやったという説と、英国政府の情報機関が手を回したのだという説(これは「陰謀論」なのだが、NIで面倒なのは、実際にこの「陰謀」で証拠隠滅が行なわれたケースは山のようにある、ということである。ビリー・ライト殺害事件とか)。
そして、「ディシデント・リパブリカンが、健在ぶりをアピールするために、あるいは政治的進展に水を差すために、ドナルドソンを殺した」という説は、「まあ、なくはないかもしれないけどねえ」的に扱われていた。
実際には、ドナルドソンが殺された翌年、2007年の3月から5月にかけて政治プロセスは劇的に進展し、イアン・ペイズリーとマーティン・マクギネスというあっちとこっちの「過激派」両巨頭が、肩を並べてにこにこと微笑んでいるというシュールなことになった。そして、「これこそが諸君が望んできた平和ではないか、諸君!」的なキャンペーンが特にDUPの側から繰り広げられ、そっちはそっちでまた過激派というか守旧派が分派した(ジム・マカリスター)。武装勢力じゃないけど。
で、とにもかくにもその後選挙らしい選挙がないままだから実際に「民意」がどうとかいうのとは別かもしれないけれども、このプロセスは保たれている。その中で起きたのが、2009年3月の英軍基地襲撃と警官射殺だ。(この2つの大きな事件の前にも、警官が襲われたりはしているのだが。)
そういうときに、「ドナルドソンをやったのはわれわれだ」とReal IRAが声明を出した。
正直、なぜ今になって言うのか、意味がわからない。
2006年にドナルドソンが殺された直後に、SluggerのMick Fealtyがガーディアンに書いた記事を読み返してみた。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2006/apr/05/post19
The IRA were uncommonly quick to get out a flat denial, saying it "had no involvement whatsoever in the death of Denis Donaldson." Gerry Adams too, "It has to be condemned. We are living in a different era, and in the future in which everyone could share. This killing seems to have been carried out by those who have not accepted that."
結局、IRAによる迅速な全否定は真実だったということだし、ジェリー・アダムズの「すでに時代は変わったということを受け入れられない人々によってドナルドソンは殺されたように思われる」というコメントも、正しかったということだ。
RIRAが今になって犯行を認めたのは、「実はProvisionalsがやたんじゃないか」という疑念を社会に漂わせておいてもProvoにダメージがないので、ならば自分たちがやったと告白したほうがよい、という判断だろうか。
しかしもうほんと……はぁ。
※この記事は
2009年04月14日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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