「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2009年04月07日

ウォルマートのひどさを暴く映画に、ロンドンの下町のマーケットが出てきていた。

町山智浩さんのブログで告知されていた、東京MXTV「松嶋×町山未公開映画を観るTV」(日曜日の午後11時から、1時間番組)の第一回(4月5日放送)を見てみたら、ロンドンが出てきたので少し。

同番組は日本未公開の世界のドキュメンタリー映画を(もちろん日本語字幕つきで)紹介するという内容で、これからしばらくの間は米国のドキュメンタリーが続くとのこと。キリスト教根本主義 (fundamentalism) を扱った『ジーザスキャンプ』もやるとのこと。

第一回で放映されたのは、流通最大手ウォルマート(激安量販店)の「徹底した低コスト」の実態を取材してまとめた(というか「暴いた」)映画、"Walmart: The High Cost of the Low Price"で、第一回(5日)に放映されたのは前半だけ、後半は来週に続く。

IMDBを参照すると、この作品はリリースデートがUSAで2005年11月4日なので、映画の内容は今からおおよそ4〜5年前のものだと思われる。
http://www.imdb.com/title/tt0473107/

このドキュメンタリーを製作したRobert Greenwaldは自身の映画制作会社を持つ映画作家で、この作品のほか、ルパート・マードックのニューズ・コーポレーションを題材とした "Outfoxed" や、イラク戦争の「民営化」の側面を集中的に取り上げた "Iraq for Sale" (←Blackwaterに興味がある人は見てみてください) などを制作している。
http://www.robertgreenwald.org/

ウォルマートは1962年にアーカンソー州で創業され、30年ほどで全米一の小売業となった企業で、米国外でも地元のチェーン店を買収するなどして展開している。英国ではASDAが1999年にウォルマート傘下に入っている。(ちなみに日本では2000年代に西友がウォルマートに子会社化された。西友は元々は西武のセゾングループ。)

このドキュメンタリーに出てきた「ロンドン」はQueens Marketだ (Queen's Marketと書くのが正しいのかもしれないが、綴りが二通りあってわからない)。ここはロンドン東部のNewhamというboroughにある野菜だの台所洗剤だの何だのの生活密着マーケットだが、この場所の再開発でASDA (=Wal-mart) の出店計画がある、という文脈だ。この文脈についてはPhase9 Entertainmentのサイトに詳しく出ていた。引用すると:
The film also lambastes Newham Council's forthcoming planned sale of London's East End 105-year old Queens Road Market to Wal-Mart. An Asda superstore will be the centrepiece of the redevelopment and it is believed that this will force many market traders out of business and as a result the multi-cultural local community will cease be able to purchase much needed low cost fresh food and household products. Newham Council will confirm their plans in the New Year and the local community, led by the Friends of Queens Market, continues to protest against the sale.


映画で取材を受けていたのは、白人、スキンヘッド、腕にタトゥというルックスに、口を開けば濃いぃコックニーで、いかにも「下町の屋台のおっちゃん」っぽい青果のストールの店主だった。彼は「自分にはASDAに悪意はないが、このままいけばロンドンで最も民族的に多様なマーケットが消えることになる。それに俺の店は跡継ぎの息子もいるんだ」といったことを語っていた。

この「ロンドンで最も民族的に多様なマーケット」には、アフロ・カリビアンの店も、南アジアの店(インドであれパキスタンであれ)の店もある。Time Outには2006年にこのマーケットがいかに多様であるかについてのおもしろい読み物(レポート)がある(見ただけでは何なのかわからない野菜が山のようにあるらしい。楽しそうだ)。Flickrを見てみたらRobin Bharajさんという写真家さんのセットがある。個人的にはかなりニヤニヤできるセットだ(特にこの写真とか)。マーケットの入り口のところはこういう雰囲気。

UK - London - Upton Park: Queens Market, by wallyg
*a CC photo by user "wallyg" on flickr.

ネットで地図を見てみると、場所的には下記のあたり。大通りの商店街が非常にethnic diversityな感じになっているのがすぐに確認できるよう、Street Viewで貼り付けておく。


大きな地図で見る

ウォルマートの映画の中では、自治体主導のその再開発&ASDA出店計画に反対するFriends of Queen's Marketの人々の活動が、ほんの少しだけだったけど、紹介されていた。(前半しか見ていない段階なので、後半でまた出てくるかどうかはわからない。)

で、結局はここへのASDAの出店計画はなくなった。ASDAが計画を断念することになったのは、映画完成後の2006年のことだ。検索ですぐに見つかったインディペンデントの記事。

Locals win battle against Asda over superstore plan for market
Saturday, 17 June 2006
By Susie Mesure, Retail Correspondent
http://www.independent.co.uk/news/business/news/locals-win-battle-against-asda-over-superstore-plan-for-market-404395.html

しかし、同じ場所に、今度は不動産開発の計画が持ち上がっている。St Modwenというディベロパーが、高層マンションとショッピングセンターを作るという計画が出てきている。これは現在進行形(2009年4月時点)。100年以上の歴史のあるQueen's Marketのサポーターたちは、今度はこれに対して反対運動を展開している、というのが現状。
http://www.newqueensmarket.co.uk/new_scheme.htm

再開発後の集合住宅兼ショッピングセンターには大規模小売店が誘致され、現在のマーケットのストールにも場所は与えられるが、どうせ賃料がものすごく高くなって商売を維持できなくなる可能性が高い。そして結局は、大資本の全国(あるいは世界各地)均一の商品ばかりの、何という特徴もない商業施設になって、地域の人たちが大事にしてきた多様性と、「共同体」の感覚が失われる。それが彼らの主張だ。マーケット支援グループ (Friends of Queen's Market) のページを見ると、Newhamの区長 (Labour) もかなり滅茶苦茶だし、単に「昔からのものを守りたい」とかいうことでの反対運動ではないのだ(もっと「政治」的なものなのだ)ということがよく伝わってくる。

閑話休題。Wal-Martの映画について。

映画の主題である「ウォルマートは、従業員の待遇はものすごく劣悪で、経営側は労組と見たら叩き潰そうと動く」ということについては、文章では読んだことがあった話題なのだけど、映画は映像ならではの訴求力があった。実際のウォルマートのCMが味わい深く、山椒は小粒でもピリリと辛い的にジョン・スチュワートが楽しめたのもよかった(←ただのファン)。ほんとのことを言うと、映画冒頭のウォルマートの株主総会か何かのアーカイヴ映像のあまりの「アメリカ臭さ」に、30秒もしないうちにすっかりうんざりして、「アメリカ国内向けに作られたものなど見るのをやめて、本でも読んで寝よう」と思ったんだけど、トイレ行って戻ってきたら画面にいたおじさんの名字がHunter(狩人)というのが変にツボって(ご丁寧なことに、その後のシーンで猟銃を撃ってくれる)、そのまま見てた。見ててよかったと思う。ウォルマートに潰された側の商店の人が「個人的にはコミュニズムもソーシャリズムも断固反対だが、規制は必要」みたいなことを言っていたのも、その発言者の風貌もあってあまりに「典型」的で逆におもしろかったし。

町山さんの着ていたTシャツも気になるし(デッケネ?)来週もこの番組見ようっと。

しかしこういう番組が全国ネットではなく、地方のUHFの番組というのは残念な状況だとつくづく。

なお、英国での大型チェーン出店への抵抗運動については下記で一覧できます。ASDA/Wal-Martだけじゃないし、Newhamだけじゃない。
http://www.corporatewatch.org.uk/?lid=2368



どうでもいいけど、IMDBのGoofsのところを見てお茶を無駄にしました。「間違い」と言うほどのことなのか、これが……。
http://www.imdb.com/title/tt0473107/goofs
* Errors in geography: At the start of the section where a market trader in London, England is leading a campaign against a new ASDA store, the map has has both Wales and England labelled as 'England' -- the 'Eng' is written over Wales. Wales and England (and Scotland) are part of Great Britain; Great Britain, Wales (and Scotland) are not part of England.


それと、映画ではドイツでのウォルマートの展開について、USでの労組弾圧の文脈で少し触れられていたけれど、この映画の完成後にドイツからはウォルマートは撤退しています(2006年)。なので欧州でウォルマートが残っているのは英国のASDAだけ。

※この記事は

2009年04月07日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 22:30 | Comment(0) | TrackBack(1) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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安定志向、日本の成長性、スパイラル(4)
Excerpt: 隣の家にあるが うちにはないもの。 冷蔵庫、洗濯機、掃除機、 そしてオーディオ..
Weblog: ろーりんぐそばっとの「ため口」
Tracked: 2009-05-10 12:03

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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