報道でのTwitterの利用というと、例えば昨年のインドのムンバイでの武装グループの襲撃事件のときに、現場にいた人たちのTwitterでの発言を「現場の声」的に報じた例があるが、結果から見れば、「断片的な情報がたくさん集まっても全体像は見えない」という感じだったようだ。
一方で、今回のG20などでのガーディアンのTwitter利用は、複数の記者を現場に送ってそれぞれの記者のTweetをそのまま「放送」するという形で、エイプリル・フールの記事にあったようなふざけた調子ではなく、「記者のメモ」が並んでいる、という感じになっている。こういうのをリアルタイムで読んでいると「スポーツの実況」のような感じがしてきてとても居心地が悪く感じられるのだが、後からログとしてまとめて読むとまた違う。
当初は例によってお祭りっぽくしていた抗議行動だったが――人が集まって音楽をかけたり太鼓を叩いたりして自分たちの存在を示すというもので、太鼓パレードの様子などは、背広姿のシティのビジネスマンも「やかましいのは困るけど」と言いつつ、リラックスして眺めていた(ガーディアンとロイターの映像や、Londonistなども参照)――、それが徐々に緊張したものになっていく様子が、「個人の目」から描写されている。記者がインタビュー取材した人のコメントもTwitterに流されているので、現場がどういうものだったのかはある程度は立体的につかめ、新聞記事では感じることのできない「時間の流れ」が非常に力強い。
というわけで、ガーディアンの「エイプリル・フールのジョーク」は、4分の1くらいは現実に即したものだったからこそ面白かったのだが、最近、英国メディアでは「バブル」と言いたくなるほどにTwitterが話題になっている。本当に、「わしゃネットやらんもんで知らんのだわ」というおっちゃんでも、Twitterという単語くらいは知っているのではないかという気がするほどに話題になっている。3月末には、「ある大学がTwitter学位」みたいなことが(ややセンセーショナルに)話題になったばかりだ(バーミンガム・シティ大学の社会メディアのMA過程では、Twitter, Facebook, Beboなどを使うことを教える、という記事。それで学費£4,400だって。1年の過程)。(なお、Beboというのはアイルランド島とブリテン島で若い世代がよく使っているSNSで、芸能人とかテレビドラマとかいった話題で3行以内の投稿できゃあきゃあやっている感じ。ただ、北アイルランドではまた違ったものになってることがクローズアップされるんだけど、それは別のお話。)
……とかいうことだけを書いておくのも「最近の若い者は」みたいで落ち着かないので、もうひとつ具体例。
英国では、首相官邸がTwitterの利用にとても積極的だ。
自分がこのtweetを読み始めたときは、プレスリリースの要約のような感じだから首相官邸のサイトが機械的に反映されているんだろうなあ、と思っていたのだが、あるときDowningStreetが「@username」で返信していたので、担当者がいるのだと知った。(このときは返信をもらった人もびっくりしたみたいで、「中の人いるんだwww ごめん、知らなかった」、「はいはいー。ちなみに私の名前はトニーです」みたいな短いやり取りが続いた。)今日4月2日の担当者はIanさんだ。
DowningStreetのtweetは、たいがいはプレスリリースっぽくて退屈なのだが、ときどきどうでもいい小話が飛んでくるのがおもしろい。3月27日には、ブラウン首相がブラジル訪問時にサッカー博物館に立ち寄ってソクラテス(あのソクラテスではないほう)と一緒に、ペレのユニフォームを見ている写真がアップされてますよ、とかいう、実にどうでもいい投稿がある。(ていうか握手してシャツもらったりしてるし。)あと、官邸Twitterから別のユーザーさんへの返信で、「10番地の『0』の向きが変なんですけど」という世間話をしていたり。(官邸のTwitter番、いい仕事だよなー。こうやって「コミュニケーション」するのが仕事なんだもん。)
この首相官邸Twitterは、フォローされるとフォローしかえしてくれる。つまり首相官邸Twitterを読んでいる人の発言は、官邸の担当者さんに伝わる、ということになっている。担当者さんはけっこうマメにレスを返しているようだ。ちなみに、私は日本人だし東京在住だし、投稿の多くは日本語だし、官邸からフォローしかえしていただいても意味ないんですが、ダウニング・ストリートにウォッチング・ユーされています。
さて、1日はG20での抗議行動がかなり大変なことになってしまっていたのだが(かなりheavy-handedな警官多数と少数の過激な人たちがガチガチやりあい、やがて流血事態となっていたときに、抗議行動参加者の男性がひとり倒れて、病院に運ばれたが亡くなった。外的要因によるものではなく自然死だとのことだが)、一方であの「セレブリティ・シェフ」がG20首脳にスコットランド産オーガニック・サーモン、地産の野菜やラム肉などのディナーを、という予定になっていて(ベルテレに言わすと「Oliver's armyが料理担当」)、首相官邸Twitter番のIanさんはジェイミー・オリヴァー宛てのメッセージを投げて国民の心をくぎづけにしたりして、そして一日の締めくくりに「さて、ディナーが終了し今日はこれでお開きです」といったことを投稿している。
それに対し、あるユーザーさんが、「@downingstreet」つきで、「はいはいそうですか、指導者の愚行のせいで食うに食えない人がいるというときに、セレブリティ・シェフをお迎えしてお食事ですか、エリートさんたちはいいですねぇ」的なことをつぶやいた。
首相官邸のIanさんは翌朝、そのユーザーさんに返事をしている――「ジェイミーによると、食事は1人当たり£12.50です」と。しかも「おはようございます」の挨拶の前に。たぶん、出勤してコンピュータを立ち上げてすぐに書いたんだ。よほど「これだけは言っておかねば」と思ったのだろう。
£12.50か……Fifteen(レストラン)でジェイミーに作ってもらって、VATが加算されるといくらになるのかな。ていうか、セレブリティ・シェフが作ろうが、私が作ろうが、材料費は同じ。(^^;)
なお、ジェイミー・オリバーは夫人が今にも出産しそうだという状態にもかかわらず、この仕事は弟子に任せずに自分でやるということで出てきたのだとか。インタビューで「英国の食べ物のよさを知ってもらいたい」と言っていた彼は、英国メシマズ伝説をデコンストラクトするためにほんとに力を尽くしているのだと思う。
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※この記事は
2009年04月02日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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