「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2009年03月31日

last.fmの迷走――有料化延期と「値上げ」

freelast.png←画像クリックでLast.fm内のBring back the free last.fmグループに飛びます。議論の共通語は英語です。なお、当ブログ関連記事はタグ「last.fm」で一覧できます。

3月24日付のblog.last.fmへの投稿(→当ブログでのエントリ)で、「英国と米国とドイツ以外では、『ラジオ』を月3ユーロの課金制とする」ことを告知したlast.fmのCTO(技術部門責任者)であるRichard Jonesさん(以下「RJ」:Last.fmというサービスの設立メンバーのひとり)が、30日付のブログで「課金制先送り」を表明した。(「ナントカ議員が離党」とか「ナントカ大臣が辞意」とかいったニュースと同じように、「……を表明した」という日本語を使いたくなる。)

Radio Announcement Revisited
Monday, 30 March 2009
http://blog.last.fm/2009/03/30/radio-announcement-revisited

24日付のブログで、「英米独以外」という選択の理由を説明せず、「いつから課金制にするのか」の日付すら明示しない(ブログの本文には "soon" とあるだけで、本文末尾からリンクされている説明ページに行ってようやく「30日から」ということがわかる、という状態)という失態を演じたRJは、後に誰かユーザーのページの「一言コメント」欄で「もっとはっきり書くべきだったと大後悔してる」と心情を吐露していたのだが(私はたまたまそのユーザーさんのページを見たのでRJのコメントを読んだのだが)、30日付のブログでもまだ「明瞭」とは言いがたい。課金は当面延期されるということははっきりわかるのだけれども、それがいつまでなのか、目途とか目安といったものすら全然わからない。来週なのか、来月なのかといったことも見当がつかない。(不確定なことをアナウンスするのが難しいのはわかるけれども、延期の期間がdays単位なのかweeks単位なのかくらいはアナウンスできるだろうに。)

ともあれ、30日付のRJの告知の要点は、以下の3点が実現できた段階で予定通りに、英米独は除いては「ラジオ」機能の月3ユーロの課金制移行を実施する、ということだ。

【課金制移行実施の条件】
・自分以外のユーザーに対する「ギフト・サブスクリプション」ができるようにする(誰か友達の分を買ってあげることができるようにする)
・Last.fm RadioのAPIを利用したサードパーティのアプリケーションへの対応を行なう
・クレジットカードがなくても支払いができるようにする(現状はPaypal利用のみで、例えばロシアのVisaカードはPaypalではねられるといった事態があって、払う意思がある人が払えない状態)


これら3点は、24日付ブログのコメント欄やlast.fmのサポートフォーラムなどで特にユーザーからの意見が多かったものであるかのように見えるが(実際に多かったのだろうと思う。APIの件は、APIを利用したアプリを作っている人たちのフォーラムで技術部門スタッフが対応しているはずで、ほかの2点……といっても実質は「支払い方法」の1点だが、これは一般ユーザーのフォーラムで頻出)、実際に「反対」の意見が最も多いのはそういう実務的な話についてではなく、理念的な部分についてである。この点については30日付のRJの投稿は十分に答えてはいない(24日付の投稿よりはましだが)。つまり、「全員に課金するか、全員に無料で提供するか」、「地域で分けていいのか」というインターネットの基本に関わる理念の問題だ。

30日付の投稿で「なぜ英米独は無料のままなのか」という点について、RJは次のように説明している。(これが「説明」になっているのかどうかは別途検討する必要があるだろうけど。)

Last.fm Radio has always been ad supported ... However, we simply can't be in every country where our radio service is available selling the ads we need to support the service. The Internet is global, and geographic restrictions seem unfair, but it's a reality we are faced with every day when managing our music licensing partnerships.

Last.fmのラジオは常に広告に支えられてきました。……(話が冗長なので中略:Last.fmのユーザーは全世界にいるという話)……しかしながら、ラジオ・サービスが利用できる国すべてで広告営業を行なうのは不可能です。インターネットはグローバルなものであり、地域によって制限を課すのは不公正に見えますが、これが、音楽ライセンスの件を扱う場合に日々直面している現実なのです。


「last.fmのラジオは広告に支えられてきた」という段階ですでにちょっとツッコミが入る余地がある。ブラウザからプレイヤーを使ってラジオを聞くときは別にしても、Last.fmの専用クライアントでは「広告」は出ないし(「CDを買う」とか「曲をDLする」とかいったもののリンクはあったかもしれないが、クライアントをコンピュータから削除してしまったので確認はできない)、そもそも専用クライアントで聞くときは最小化しておくかバックグラウンドに置いておくかで、クライアントの画面は、「この曲いいな」とか「これ誰だっけ」とか「この曲はbanする」とか「タグをつけよう」とかいった時でなければ、見ない。見たとしても、その画面内に広告がない。ユーザーが「無視する」とか「スキップする」とかいうのではなく、そもそもそこに広告が表示されていない場合、「広告収益が足りない」としてユーザー側に転嫁されてもねぇ、と思う。

では、広告の有効性を高めるためのアンケートの類がなされたとかいったことがあるかというと、その記憶は私にはない。(私の利用歴は5年近くになるが。)つまり、どうすれば広告収益を上げられるかという点についての真剣な取り組みがあった感じがしないのだ。

現状、私が見たページでは、Last.fmとしての新作リリースのキャンペーン広告(たぶんレーベルと組んだもので、そのレーベルはメジャーではなくインディだと思うけど、フランスのレーベルなのでよくわかんない)を除いては、Ads by Googleで表示される(かなりランダムな)広告が、画面の下の方にあるだけ(右サイドバーに出ることもときどきある)。一方で、何の情報もなければ意味もない余白はあちらこちらにある。これはウェブサイトのデザインが昨年夏に変更されてからずっと同じ。

これで「広告収益が少ない」と言われても、課金制の話を持ち出す前に、やるべきことをやったのだろうかという疑問が……。というか、何のためのサイトのデザインの変更だったのだろう。(システムのリデザインをしても、サイトのレイアウトをあれほどに変更する必要性はなかったはずだ。そのレイアウト変更の費用は何なのか、という疑問が生じる。ベータテスト含めてすごいコストかけてたみたいだけど。)

もちろんユーザーは「広告で運営されている」ということは前提にしているが、普段使っている範囲で「広告」が見えないのなら何もできないし何もしない。クライアントにはウェブサイトへの誘導の仕組みも一応あるのだけど、それはあまりに弱いもので、単に「音楽を流しておきたい」というニーズが満たされればよしとするユーザーが、さらにその先に何かしようと思えるようなものではなかった。クライアントはクライアントで完結していた、と言ってもいいかも(それが使いやすかったのだけれど)。

ましてや、非英語圏のユーザーにとっては、結局は英語が使えなければ十分には楽しめない英語ベースのプラットフォームで、積極的に何かしようという気になるかどうかという点で大きな壁があった。数年前のグローバル展開(多言語化。現状12言語)でユーザー数がどのくらい増えたのか、私は具体的には知らないが、すごく増えているはずだ。(しかし今、一時はexciteと提携して本格参入、みたいにやっていた日本語サイトは、ちらっと覗いてみてもとても静かだが。)

この多言語化は、例えばポーランドやロシア、スペイン語圏(スペインに限定されてはいないと思う)ではかなりうまくいっていたようなのだけど、せっかく成立していたそういったコミュニティの多くが、今回、「単に地理的な条件」によって、「そのほかのエリア」にくくられてしまった。課金の有無やその金額の多寡以前に、こういう扱いをしてしまっては「アングロサクソンがそれ以外をバカにしている」的な感情的な反発を食らうのも無理はない(個人的にはそういう背景があるとは思っていないけれども、そういう反発はあちこちで目にする)。

さらには、「インターネット」というものを信じる英米ドイツの人たちが、自身は影響を受けないにせよ、この「境界の設定」に疑問を感じることもまた当然だ。(「境界」が問題とされていることを無視し、「反対」するグループのフォーラムなどに「音楽はタダって思ってるほうがおかしい」とか「3ユーロも払えないの?」と書き込んでいる在米の無料ユーザーとかもいるが、基本的には荒らしだろう。)

さて、24日の投稿のあとで、RJだったかほかのスタッフだったかがフォーラムに投稿していたのだが、結局は大手レーベルや権利団体が「音楽の再生」について求めている金銭的対価が増大している、ということが、「広告だけではサービス維持が無理になった」原因だ。

これをはっきり書けばいいのに、30日付のRJの投稿ではその点についての説明は、上記引用部分の "a reality we are faced with every day when managing our music licensing partnerships" にうかがえるだけ。まったく直接的ではない。ここでぶっちゃけると後々が大変になる、ということはわかるが、サイトの中身(ユーザー個人のジャーナルや、アーティスト・ウィキなどを含む)にせよ、「ラジオ」の選曲にせよ、外部アプリにせよ、結局は彼らの技術をツールとして、あとは「ユーザーの善意」に頼って拡大してきた面がかなり大きいのだからこそ、もうちょっと誠実に語ってほしいと思う。

もちろんその「善意」前提の拡大(というか充実)はこれまでもずっとgive and takeの関係に成り立っていて(基本的には「ユーザーがデータを提供する→会社がサービスを提供する→提供されたサービスによってまたデータが提供される→……」。これに加えて、会社と大手レーベルの間でのユーザーデータの提供という関係性もあった)、そのgiveとtakeのバランスが音楽ライセンスの金額面での引き上げという事態で壊れているのだという点について、ある程度はっきりとした説明がなされなければ人は納得しない。ユーザーは「お金では買えない価値」をLast.fmという企業に提供するという前提で登録しているはずだ――有料メンバーでも無料メンバーでも。

それに、英米ドイツだけが「有料化」エリアから除外された点について言えば、英米ドイツでの広告のクリック率/数が、例えば同じ言語を使っているカナダ、オーストラリア、オーストリアでのそれと比較して高い、といった数値でもあるのだろうか。ありそうな気はしない。ふつうに考えて、単に、英米ドイツは広告の出稿率がよい、ということだろう。ならそれをそうだと説明すればいいのに、「ユーザーがクリックしないから」とでも言わんばかりの態度で、しかもPowered by Googleの広告では、まったく頭にくる。

「悪いことはなるべく言いたくない」のは理解できるけれども、(おそらく基本的に口下手な)RJの書いていることは「音楽産業がパートナー、あなたたちはパートナーではなく顧客で、私たちは顧客に対しては説明をして理解を求める」という宣言に等しいと読まれてもしょうがない。どっち向いて話をしてんの、という。

この事態の背景の事情はいろいろあるのだろうが、結局のところは、英米とドイツという「好待遇」圏を設定してしまったことは、Last.fmの最悪で最大の失策(経営判断)だ。ユーザーたちは(私も含めて)その点に怒っているし、それが原因で信頼できないと感じている。

国境という(多くの場合)見えない境界でその圏に入れないアイルランド共和国、カナダ、メキシコ、スイスなど隣接国よりも、それ以外の国々でのほうが反発の声がでかいように見えるのだが、それは、ひとつにはLast.fmの発祥の地で本社所在地である英国がEU加盟国で、「英国とドイツだけは無料」というのはEU域内では法的に問題含みであると思われるため(英国での価格を高く設定していたiTunesが独占禁止法で問題になった前例がある)、EU域内のユーザーの発言が活発であること。そして、EU法がどうのこうの以前に、「英米ドイツ」と「それ以外」の線引きが、基本的に意味不明であり、説明もないため。

その点について、Last.fmが「これが問題だ」と認識しているのかどうかが問題で……うーむ。まあ、個々のスタッフさんは認識しているかもしれないけれども、社としては認識しようとしていないのではないかという印象を受ける。RJの30日の投稿では、"The Internet is global, and geographic restrictions seem unfair, but ..." という、「確かにAではあるけれども、Bだ」構文(筆者が言いたいのは「A」ではなく「B」であるときの構文)でこの点が流されている。ダメだこれは。orz

で、RJは "a reality we are faced with every day" と書くときに「音楽ライセンスの交渉」のことしか念頭においていないのだけど(そりゃそうだろう、技術的には余裕で可能なことが、権利問題で実行できないというフラストレーションが、技術のある若い理想家たちの「こんなのあったらいいよね」として始まったAudioscrobble/last.fmにとってどのくらい大きいことか)、last.fmにとってのrealityってのは結局それなのかよ、という点で、ガックリくる。

そして、realityのこちら側では、同じ音楽を聴いて、同じように広告をクリックしていたとしても、「より有益な」ユーザーと「さほど有益でない」ユーザーが地理的な条件で区分けされるというナンセンスが、よりによってlast.fmで発生し、しかもそれは解消されそうにない、ということで、ますます冷める。

Last.fm is dead. Long live social music revolution!

それと、Last.fmが今回、誰にでも必ず目に入るように告知しなかったことがまだある。それも、よりによって「値上げ」だ。既存の有料サービス(subscribe)が値上げされた。

これを私が知ったのは、どこかのフォーラムのコメント欄からだ。そのコメント欄で紹介されていたのが、24日付のblog.last.fmのRJの投稿について「どう思う?」という主旨でユーザーが立てたユーザーサポート・フォーラムのスレッド。

スレッドが立ってまださほど時間が経っていないうちに、Russというスタッフさんがこう投稿している。
http://www.last.fm/forum/21717/_/517178/1#f8966460
24 Mar 2009, 18:37
This wasn't very clear in the blog post, but we're also raising the subscription prices slightly on Monday - they'll be going up to Euro 3/$3/£3 in all territories (this is the first time we've raised prices in over 4 years).

ブログの投稿(24日付の)では明示されていませんでしたが、月曜日から、有料ユーザーの利用料についても引き上げます。どの地域でも3ユーロもしくは3ドルもしくは3ポンドになります(4年で初めての値上げです)。


「4年間値上げなしでやってきた」ことの自慢はどうでもいい。なんでスタッフがフォーラムで「そういえば」的にこんな話をしてるのか。ウェブサイトではっきり告知しろよという……あるいはblog.last.fmに書いてあればまだしも、それすらもない。「ブログの投稿では明示されていませんでした」どころか、まったく述べられていないし。

つまり、「価格改定のお知らせ」をウェブに掲示しないのだ、この企業は。この値上げで影響される人には個別に連絡が行っていたのだと思いたいが(せめてそのくらいは信じたいんだよ。でも、フォーラムを見ているとどうもそうではないのかも……投稿から判断するに、次にユーザー料金を払おうとしたときに気付く、ということになっているらしい。3月始めに期限切れになる1年契約の場合は、来年の3月まで気付かない、ってことか? いくらなんでもそれはないと思うけど)。

フォーラムの投稿によると、値上げ前は2.5ユーロ、3ドル、1.5ポンドだったものが、3ユーロ、3ドル、3ポンドになるということで、UKでは「さらに倍」メソッド発令、一方でUSは据え置き。これについての説明も、普通に見てて目に入る範囲にはないし、そんなの時間かけて探すのは、あまりに自分に関係ないからばかばかしい。UKだけでの「さらに倍」(iTunesの独占禁止法抵触の二の舞じゃないの?)に人々が気づいたときにまたユーザーの反発が起こるのだろうけれども、それはUK外ではほとんど気付かれないだろうし、その場合でも例えば「Spotifyの有料コースより全然安い」という言い訳や弁護が並ぶのだろう。これまでのパターンからすると。そしてユーザーは「ついに安売り戦略ですか」という冷笑を浴びせながら、「安いからいいんじゃないの」的に流れていくだろう。

さらにまだ「不明瞭」ということについての問題がある。これはLast.fmの責任というより、彼らも巻き込まれている側だから同情の余地はあるが、UKやUSなどではフルトラックのオンデマンド再生が可能な楽曲でも、レーベル側の条件によって、その他の地域ではフルトラック再生ができない曲が多い(この「フルトラック再生」については、2008年1月に、Free the musicという華々しいタイトルのブログ記事で、RJが書いているのを参照。例によって「全世界で可能なわけではありません」ということが、質問されるまでは明示されない)。例えばUMGはグローバル・ライセンスだから日本でもフルトラック再生されるが、EMIはそうではない、など。(レーベル名に記憶違いあるかも。あったらごめんなさい。)

この制限自体はLast.fmのコントロール外にあることでしょうがないのだが、問題は、「オンデマンドでフルトラック再生できるかできないか」はLast.fmでは有料ユーザーであろうが無料ユーザーであろうが同じ、ということを、スタッフは意図的に書き忘れているか、あるいはうっかり書き漏らして、うっかり書き漏らしたことに気付いたあとも特に注意している様子はない、ということだ。

つまり、仮に日本の私が有料登録をしたとして、ラジオを聞きながら突然「あのバンドのあの曲が聞きたい」と思ったときに再生できるのは30秒のクリップでしかないのだが、そのとき英国では無料ユーザーがそのバンドのその曲をフルトラックで再生している、ということになる。

この点について、ユーザーから、「つまり私が、わざわざお金を払って受けられるサービス(ラジオ機能の利用)は、英米独の無料ユーザーが受けられるサービス(ラジオ機能とフルトラック再生)より少ない、ということですね」と質問されて、ようやく、スタッフは「はい、そういうことです」と答えている。それも階層の深いフォーラムの何ページ目かで。

それでいて、「有料ユーザーは世界のどこでも同じサービス」という文言はいっぱい見かけるのだ。

2004年とか2005年とか、あのころのLast.fmスタッフはこんな態度は取ってなかった。もっとユーザーに近かった。むろん、今はユーザー数もものすごく増えて、サイトも複雑になっていて2004年とは違うのだけれども、それにしても、この「機動力のなさ」(何か問題が生じたときの告知の遅さと告知場所のわかりづらさ)は、どういうことだろう。

ユーザーの地理的な区分けの告知に始まり、それに対するLast.fmの判断と対応については、「Pandoraのように接続元IPを判断して遮断することを、Last.fmは選択しなかった。この点は高く評価すべきだ」といった議論もあり、個人的にはそれはそれで一理あると思う。

けれども、判断基準は、こんな企業にお金を払う気になれるかどうか、特定の楽曲の再生の日時(時刻まで)といった個人的なデータを提供する気になれるかどうかだ。私はなれない。月に3ユーロ、年に36ユーロ(4000円台)が問題なのではなく、私がユーザー登録したあのLast.fmは死んだ、ということが問題なのだ。

もちろん、単に「ラジオ」の音質という問題もあるし、コピー防止のために意図的に混入されているスキップや微小なノイズ(あれはアナログ盤から音を取り入れたものかもしれないが)という問題、やたらとバッファリングが入る問題など、単に質として対価を支払えるかという問題もある。それでも、donation ware的に寄付したいと思わせることのできるようなものだったのだけれども、今回の一連の事態でそれが全部崩れた感じだ。

Last.fmの理念という点については、とりわけ、ライセンス料の提供を受けずに楽曲をLast.fmに提供しているアーティストの人たちの議論を見ると、本当に根深い問題だと思う。(フォーラムですごいディスカッションがあったのだけど、URL控えてないし、また探すのが面倒で……すみません。)

経営の必要上、どうしても課金するかしないかを分けるのなら、取れるものは何でも取ってやる的なメジャー・レーベルの所有する音楽を聞きたい人たちと、妥当な範囲でライセンス料を要求するインディペンデント・レーベルの音楽を聞きたい人たちと、ライセンス料を一切要求しない音楽を聞きたい人たちに分けるべきで、地域で分けるべきではない。それを実現するには技術的に大変なコストがかかるかもしれないけれども、「タグ」でラジオができるのだから、不可能ではないだろう。

「全世界どこにいても無料ユーザーはインディの曲しか聞けませんよ。メタリカやコールドプレイやピンク・フロイドが聞きたければ有料登録してください」でいいじゃん。サイトにあるフルトラック再生ができる地域はそのままで。

……という提案をしても、無理っぽいけれども。

なお、ユーザーのフォーラムでは「串通せば回避できるでしょ」とかいった話も出ている。そういうのに興味がある人はフォーラムへどうぞ。個人的に課金そのものに反対しているのではなく(Last.fm Radioの音質に金を出せるかどうかという問題はあるにしても)、回避策には興味はないので。

あと、誰かがジャーナルからリンクしていたので知ったのだけれど、24日のRJのブログの投稿についてのRead Write Webの記事:
http://www.readwriteweb.com/archives/lastfm_to_charge_subscription_fee_for_internationa.php
It's a dramatic move that could pave the way for other media companies to do the same and effectively open up international markets. People complain, but do you think that viewers would pay a similar monthly fee for international access to Hulu, for example? We do.


つまり、CBS傘下のLast.fmが今回「地域ごとに無料と課金を分ける」ということをしたことが、ほかのメディア企業にも波及するかもしれない、という観測。さほど根拠のあることとは思えないのだが、Huluのようにあらかじめ地域で閉じられているサービスが、お金さえ払えば開放される、という方向に波及することはありうるかもしれない。(ということになれば、バカメリカンがいちいち「Huluがあるじゃん?」とかいうのがますますエスカレートするだけのような気がするけれども。)

RWWは「ネット上のものは何でも無料とかいった誤った方向が是正されることを祈る」的なスタンスで書かれているのだが、Last.fmの今回の動きが受ける反発の内容を全く読み誤っているのが笑える。その話は、UKやUSでもほかと同様に課金ということが告知された場合に持ち出すべき話であって、Last.fmから「二級市民」や「外国人」として扱われる人たちだけが課金されるという事態に際してこのようなことを無神経に言えるということ自体が、「アングロサクソンがそのほかを見下している」という言説を可能にしているのだということに気付け。

で、RWWのこの記事に添えられているLast.fmのページのキャプチャ画像が、Crust punkのRadioの画面なのは、何かの悪い冗談ですかね。
タグ:last.fm 音楽

※この記事は

2009年03月31日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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