「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2009年02月02日

映画『Hunger』に、また授賞。

Hungerあの、ガチ保守アンチIRA新聞の名前を冠する映画賞に、1981年のIRA(とINLA)のハンストを題材とし、British ruleの暴力性とarmed struggleの暴力性をざくざくと描いたスティーヴ・マクイーンの映画、Hungerが!

……と思わせたい見出しだとしか考えられない。

Standard success for Sands movie
Page last updated at 22:24 GMT, Sunday, 1 February 2009
http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/7864035.stm
Hunger, the dramatisation of the last days of IRA hunger striker Bobby Sands, has taken the top prize at the London Evening Standard Film Awards.


つまり、ロンドン・イブニング・スタンダード映画賞で、Hungerが最優秀映画賞をとった。うははは。1981年ハンストのリーダーでIRAメンバーの最後の日々を描いた映画が、スタンダードで。

と、私がお茶ふいているのは、「イヴニング・スタンダード」といえばこの映画評論家だからだ。

Obituary: Alexander Walker
Last Updated: Tuesday, 15 July, 2003, 12:24 GMT 13:24 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/3068065.stm

アレクサンダー・ウォーカー(1930年生まれ、2003年没)は、ピーター・セラーズやスタンリー・キューブリック、オードリー・ヘップバーン、ヴィヴィアン・リーといった映画界の人々の伝記を書き、非常に評価の高い、英国では一流の映画評論家だ。イヴニング・スタンダードでは43年間も映画欄を担当していた。

彼は北アイルランドのプロテスタントだった(ポータダウンの出身で、大学はベルファストのクイーンズ大学)。そして、ものすごく激しく反IRA、反ユナイテッド・アイルランドで、IRAを普通に描いた映画(つまり、IRAが「悪役」ではない映画)にさえ「IRAのプロパガンダ」だと噛み付いた。まあこの人は、『ファイトクラブ』についても「SAやSSのむごい行為に許可証を与えたプロパガンダの響きがする」などと書いているし、「クール・ブリテン」の観光促進対米宣伝映画だった『ノッティングヒルの恋人』のノッティングヒルが現実とはかけ離れた「真っ白」なノッティングヒルであることについて「制度的人種差別」との批判があったときに(あの映画の最大の違和感はそこ)「ですがね、『カサブランカ』にはアラブ人は1人も出ていませんよ」と言う(時代が違うし映画の目的が違うし、比較にならない)など、ただの保守的な人だということもできるのだが、映画に北アイルランドのアイリッシュ・ナショナリズムが出てくるときのけなし方は尋常ではない。

例えば、1981年のIRA(とINLA)のハンストを題材としたフィクション映画、テリー・ジョージのSome Mother's Son (1996) については:
http://www.iol.ie/~galfilm/filmwest/25terry.htm
The opening skirmish in the Some Mother's Son chapter of the celluloid debate on Northern Ireland took place in Cannes on May 12th. At the Q & A session following the first public screening of the film the Evening Standard journalist, Alexander Walker, let off both barrels in rapid succession.

He first denounced the last twenty minutes of the Terry George film as being a total fiction and then accused the Irish Film Board of being the financier of nationalist propaganda. ...

「最後の20分はまったくの作り話だ」っていっても、この映画はフィクションなのだから映画の批評になっていないのだけれども、最後の20分は、実際にあったことを題材としている。ネタバレになるけど→【ハンガーストライカーの中には、絶食して死にそうになる前に、家族が要請してハンストを強制的に中止させたケースもある。主人公のお母さん(ヘレン・ミレン)はそうやって介入して、息子を死なせない選択をした。でも主人公の親友はお母さんもガチのリパブリカンで、最後には死んでしまう。このコントラストが重い。映画は全体がフィクションで、あのややこしい話を「わかりやすくドラマ仕立て」にしたもので、感触はテリー・ジョージが後に制作した『ホテル・ルワンダ』にとてもよく似ている。】←ここまで、文字を背景と同じ色にしてあります。

そしてウォーカーは、この映画の資金を出したアイリッシュ・フィルム・ボードについて「ナショナリストのプロパガンダに資金を出している」と批判……になってない。(^^;) まあ、当時の政治背景(ジョージ・ミッチェル特使が「和平」に向けてあれこれやってた時期)を見れば、そういう批判をすることはユニオニストとしてはただの定石だったのかもしれないが、映画そのものの話ではなくその背景で批判されてもねえ。

ちなみに、テリー・ジョージはリパブリカン組織のメンバーだったことがあり(IRA/Sinn FeinではなくINLA/IRSP)、逮捕・投獄されて釈放された後はアメリカを拠点としている。

さて、2009年のLONDON EVENING STANDARD British Film Awardsは、下記の通り。
http://www.altfg.com/blog/awards/london-evening-standard-awards-2009/

ティルダ・スウィントンがJuliaで最優秀女優賞。Hungerのマイケル・ファスベンダーは最優秀男優賞ノミネート。アイルランド成分でいうと、In Brugesでマーティン・マクドナが最優秀監督賞。

コメディ部門(ピーター・セラーズ賞)はマイク・リーのHappy-Go-Luckyのキャストサリー・ホーキンスとエディ・マーサン(ああ、東京国際映画祭で見ておけばよかった)。

そして、「アレクサンダー・ウォーカー(記念)特別賞」が、マイク・リー。

ちなみに、これまでのロンドン映画賞の作品賞は:
http://www.imdb.com/Sections/Awards/Evening_Standard_British_Film_Awards/

北アイルランド関連では、1993年に『父の祈りを』。

昨年は『コントロール』(ジョイ・ディヴィジョンの)で、ということは2年連続でアート系の監督の長編映画デビュー作が授賞しいることに。(アントン・コービンは写真家、スティーヴ・マクイーンは芸術家。)



余談。アレクサンダー・ウォーカーは、ケン・ローチのことが、「国辱 shame on the country」呼ばわりするほど嫌いで(この発言は11'09"01について……このオムニバス作品でのケン・ローチはいつも以上に政治的に斬り込んでましたね)、カンヌで『麦の穂をゆらす風』がパルムドールをとったときは、ウォーカーはとっくに他界していたのだけど――当時はまだイラク戦争がリアルだったこともあって、ウォーカー節というか、映画を見もしないで「反英映画」と叫んで回る映画評論家が保守系メディアではいたのだけど(イヴニング・スタンダード/デイリー・メイル、デイリー・テレグラフ)――、ローチの「北アイルランド紛争」の描き方に対してウォーカー節が火をふいたのは1990年のHidden Agendaのときだ。この作品はカンヌで審査員特別賞を受賞している。

http://archive.sensesofcinema.com/contents/cteq/03/28/hidden_agenda.html
Hidden Agenda had its first, loudest and most vehement critic in [Alexander] Walker. His outburst during the film's Cannes press conference at Loach and screenwriter Jim Allen sparked off the controversy that surrounds the film in the UK to this day. Walker, a Belfast born critic, used his widely read column to attack many releases ... provoking many a censorious campaign. But Hidden Agenda was the only time he unleashed his vitriol for political, as opposed to moral, reasons. To look at the problems Loach and Allen caused their detractors is probably the best way to assess the effectiveness and power of Hidden Agenda.


なお、この映画は日本ではCSで放送されたことがあるけど(邦題は『ブラック・アジェンダ 隠された真相』)、ソフトは国内発売はない。今ならamazon.co.ukで£3を切る価格。£1=130円として、送料込みで700円とかで買えるんじゃないかな。日本語字幕なしでPALでよければ。
Hidden Agenda [1990]
Hidden Agenda [1990]Frances McDormand Brian Cox Clive Tickner

MGM Entertainment 2003-04-28
Sales Rank : 5351

Average Review star
starForces beyond our control..........
starA lesson for today from recent history
starAs Wet as Northern Ireland Itself

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私はこれは買って持っているけれど、見るとたぶんひどいダメージを食らうと思うのでまだ見ていない。(<ヘタレ)

ちなみに、『麦の穂』については、カンヌでパルムドールをとったあとは的外れな批判は聞かれなくなった。映画の中心は「英軍はひどいですね、こんなことをやったんですよ」ではなく、ともに独立戦争を戦った兄弟が、中途半端な「自由国」の成立後にどういうことになったか、というドラマだ。「反英」もクソもない。このときポール・ラヴァティ(脚本)は、「アレクサンダー・ウォーカーが生きていればおもしろかったのに」とか言ってる。
http://www.guardian.co.uk/film/2006/may/14/cannes2006.cannesfilmfestival1

※この記事は

2009年02月02日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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